『聴けずのワカバ』(キャリコン資格取得編)-67
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あらすじと作者コメント
登場人物の相関図とキャラクター解説
機会費用とサンクコスト効果③
「昔、俺がまだ養成講座に通ってた頃、同期のひとりが突然受験するのを辞めると言い出したんだ」
ふいに自分の過去を語り始めたイチジョウに驚いたワカバはこう思った。
(今?それ今話すことなの?)
全体の流れに逆らうかのようにイチジョウは言葉を続けた。
「そいつはとても明るくてクラスでもムードメーカー的な存在だった。同期の誰もがそいつだけは絶対に一度で合格すると思っていたくらいだった。でも受験申請をした後に自分は受けないと突然言い出したんだ」
会場にいる受験生も資格保持者も皆、固唾を飲んで聞き入っていた。何故ならここにいる誰しもが同期や自らが当事者になる可能性がある話だからだ。
「もちろん理由を聞いた。でも今はどうしても答えられないという。家庭の事情で試験を受けるよりも、もっと大事なことがあるのだという。俺たちは何かできることはないか、受験と同時並行で進めることができないのか、話し合いもしたが、彼女の意思が変わることはなかった。その話し合いのあと、彼女が勉強会に訪れることはなかった。そして、俺たちが受験した試験でも彼女を見かけることもなかった」
皆が真剣な表情でイチジョウの話を聞いている中、代表が言葉を投げかけた。
「ここにいる皆さんの貴重な時間を使って、この場を独占し、一体何を言いたいというのかね。本当に迷惑千万とはまさにこのことですね」
代表がいうことも一理あるが、サオトメがぼそっとつぶやいた。
「私もイチジョウさんの気持ちが分かるよ」
その言葉を受けて、イチジョウが質問をぶつける。
「分かるっていうのは?」
サオトメが答える。
「同期のみんなはその彼女の気持を受け止めたんじゃないのかな。言い方を変えれば、最終的に彼女の意思決定を尊重した」
「そうです。今でもその判断に後悔はない」
イチジョウが自分の気持ちを伝えると今度はサオトメが自分の気持ちを語りだした。
「幸い私の養成講習の同期には受験を辞めようなんてものはいなかった。でも自分もロープレの練習がうまくいかずに、何度も受験を諦めかけたことがある。それでも同期に励まされ、これまで何度か受験したが、ようやく合格にこぎつけた。今はあの時、諦めなくて本当に良かったと思っている」
イチジョウが頷きながら、聞いていると代表がまた口をはさんできた。
「今日のサオトメくんは明らかにおかしいですね。今の話が我々の勉強会の方針と何か関係があるのですか?」
「はい、大いに関係があります。これまで私は受験を辞めようなんて考える受験生はいないという前提で勉強会を運営していました。だから、今どれだけ苦しい思いをしても、自分の経験から諦めずに最後まで取り組めば努力は叶うものだと伝えていました。しかし」
「しかし、何だというのです」
サオトメの言葉に含みを感じた代表がまた釘を刺すかのように言葉をはさんできた。
次回の更新は2023/4/26予定です。
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