ラプンツェルの子どもたち
あらすじ
二人はカウンター席で食事を楽しんでいた。佐藤が米粒を口元につけていたのを指摘され、桜庭はそれを取ってあげた。桜庭が佐藤を誘ってデートをしている最中、桜庭が佐藤を守れるか心配していたが、佐藤はユカさんが自分を守ってくれると信じていた。佐藤が酔ってしまい、桜庭がタクシーを呼ぼうとしたが、佐藤は抱っこして欲しいと頼んだ。桜庭は佐藤を背負い、二人は家に帰る。佐藤は自分が桜庭のことが好きだと告白すると、桜庭も同じ気持ちであると返答する。しかし、佐藤は自宅の住所を忘れてしまい、桜庭の家に泊めてもらうことになった。桜庭は佐藤に何もしないことを約束して、二人は家で過ごす。
カウンターで並んで座る二人。
佐藤「美味しいですね」
桜庭「夏樹さん、口元に米粒ついてます」
佐藤「えっ、どこ?」
桜庭「ここ」
佐藤「ありがとうございます」
桜庭「今日は僕のワガママで連れ出しちゃいましたが……その……大丈夫なんですか? 男に誘われたりしてるんじゃ……」
佐藤「心配性ですね。私は大丈夫ですよ。それに、ユカさんみたいな人が守ってくれるんでしょ?」
桜庭「えっ!?僕なんかにできるかな…」
佐藤「できますよ。今だってこうして、私の事を守ってくれたんだもん」
桜庭「いや……それはたまたまで」
佐藤「ユカさんは、優しいですね」
顔を真っ赤にする桜庭。
桜庭「そんな事ないです」
佐藤「ふふ……お酒弱いんですね。可愛い」
桜庭「うっ……夏樹さん、酔っぱらわないでくださいよ」
佐藤「私、酔ってないですよー」
桜庭「はいはい、そうですか」
佐藤「……ねえ、ユカさん」
桜庭「はい?」
佐藤「これから、よろしくお願いします」
桜庭「こちらこそ」
頭を下げる佐藤。
佐藤「えへへ……」
桜庭「夏樹さん、眠いんですか? 寝ちゃだめですよ。家まで送りますから」
佐藤「はあい」
会計を済ませて外に出る。桜庭がタクシーを呼ぶ。
桜庭「夏樹さん、乗れそうですか?」
佐藤「ん~……だいじょうぶれすぅ」
桜庭「ダメだこりゃ」
佐藤「ねむくないれすよぉ」
桜庭「はいはい。じゃあ帰りましょうか」
佐藤「……おんぶ」
桜庭「はい?」
佐藤「おんぶしてください」
桜庭「はい?」
佐藤「おんぶってばぁ」
桜庭「ああ、はいはい。わかりましたから」
佐藤を背負う桜庭。
桜庭「よいしょっと」
佐藤「あはは」
桜庭「なんで笑ってるんです?」
佐藤「だってぇ……ユカさんの背中あったかいんだもん……」
桜庭「ちょっと、暴れないで下さいよ」
佐藤「ユカさん……私ねぇ、ユカさんのこと好きだな」
桜庭「僕も夏樹さんの事が好きです」
佐藤「えへへ」
桜庭「さあ、帰りますよ」
佐藤「うん」
桜庭「おうちどこです?」
佐藤「えーっとね……あれ……わかんないや」
桜庭「ええ……?住所とかわからないです?」
佐藤「わかってたらもう帰ってる」
桜庭「そりゃそうだ」
佐藤「……ユカさんのおうちに泊めてくれないの?」
桜庭「…………」
佐藤「え、ちょ、待って。無言で歩き出さないで」
足を止める桜庭。
桜庭「分かりました、うちに連れていきます。…何もしませんから安心してください」
佐藤「やった」
桜庭のアパートに着く。
桜庭「着きましたよ。靴脱いで」
佐藤「ええ~、ユカさんがやってよぉ」
桜庭「…夏樹さん、お酒飲むとけっこう変わりますね」
佐藤「そお? いつもこんな感じだよ」
桜庭「そればっかり」
靴を脱がせる桜庭。
桜庭「あれ…なんだこの靴…。女性の靴はややこしいな。えーっと……これかな。ほら、立って」
佐藤「ええ~、まだ歩けないよ」
桜庭「はいはい。肩貸してあげるから。……夏樹さん、ちゃんと歩いて」
佐藤「うう……」
+++
ベッドに寝かせる桜庭。
桜庭「ふう……」
佐藤「ユカさん、ありがとう……」
佐藤の頭を撫でる桜庭。
桜庭「飲みすぎなんですよ。本当にあなたは昔から無防備ですよね…わざとなんですか?」
佐藤に覆いかぶさる桜庭。
桜庭「わざとなわけないですよね。ずっと昔からそうなんですもん、あなたは・・・」
佐藤「えへ……ユカさん、好き……」
桜庭「これ以上惑わせないでください。酔った女性につけ込むほど卑劣ではない。はず」
押し入れに入る桜庭。
桜庭「僕はここから出ませんから。おやすみなさい。夏樹さん」
佐藤「……やだぁ」
桜庭「何が嫌なんですか?トイレですか?お水のみますか?」
佐藤を覗き込む桜庭。
佐藤「……一緒にいてよ」
服がはだけている佐藤。
桜庭「…勘弁してくださいよ…。本当に、本当に一緒に寝るだけですからね」
おそるおそるベッドに入り込む桜庭。
桜庭(近い・・・温もりが伝わってくるじゃないか・・・)
佐藤「ユカさん、あったかいね」
桜庭を抱きしめる佐藤。
桜庭(ふ、太ももが当たる)
桜庭「夏樹さん……ちょっと離れて。お願いだから」
佐藤「やだ」
桜庭「………早く寝てくださいね」
佐藤「ん~」
桜庭「おやすみなさい、夏樹さん」
佐藤の頭を撫でる桜庭。
佐藤「ねえ、ユカさん」
桜庭「はい」
佐藤「チューしたい」
桜庭「はい?」
佐藤「チュー」
桜庭「…チューはダメです。一線越えます」
佐藤「ふえぇ……?」
桜庭「しらふの時に幾らでもしてあげますから…」
佐藤の額にキスする桜庭。
桜庭「…ほら、我慢できなくなってきた。ああもう、これどうすりゃいいんですか」
佐藤「ユカさん、私眠くなってきちゃった」
ため息をつく桜庭。
桜庭「そうですか、じゃあゆっくり休んで下さい」
佐藤「うん……」
桜庭「お休みなさい、夏樹さん・・・」
佐藤「おやすみぃ」
桜庭「はぁぁぁぁ…。」
+++
朝起きる桜庭。
桜庭「やばい、寝過ごした!遅刻する!」
慌てて支度をするまよこ。
桜庭「あれ?夏樹さんがいない……」
佐藤「りゃんさーん、おはよう」
桜庭「あ、いた」
佐藤「昨日はごめんね」
桜庭「いえ、こちらこそ汚いベッドに寝かせてすみません・・・あ!一緒に寝てたのは夏樹さんが『一緒にいて』って言ってきたからで決してやましい気持ちがあったわけではありませんから!」
佐藤「えへへ、わかっているよ。ユカさん優しいから、私のこと襲ったりしないよね」
桜庭「いや、もう次はないです。二度とあんなふうにならないでください。次は襲います。良いですか」
佐藤「ええ~、ユカさん、それ本気? 冗談?」
桜庭「…僕はけっこう性欲が強いんですよ」
佐藤「そうなんだ。意外~」
桜庭「あのですね。僕も男なんですよ。好きな人と一緒にいるとムラっとくることもあるんです。昨日だって…とにかく…だから…その…」
佐藤の頬に触れる桜庭。
桜庭「……またこんなことがあったら、今度こそは最後までしますからね」
佐藤「えへ……ユカさんならいいよ。大好き」
桜庭(笑顔が眩しい…)
桜庭「夏樹さんって…処女ですか…?いや、後々分かることですね…」
佐藤「どっちだと思う?」
桜庭「え?」
佐藤「正解したら、ご褒美あげるね。じゃあ……はい……目つむって」
目を瞑る桜庭。
桜庭「…処女です…よね?」
佐藤「ぶっぶぅ~」
桜庭「ええっ!?」
目を開ける桜庭。
佐藤「ユカさん、可愛い」
桜庭「……前の男と別れた理由とか聞いてもいいですか?」
佐藤「えっとねぇ……付き合って2年ぐらいたった時かなぁ……。私が浮気したの」
桜庭「えっ」
佐藤「彼氏がすっごく怒っちゃって……別れようって言われちゃった」
桜庭「………それ、本当の話なんですよね? 夢の中の話とか妄想とかじゃなく…」
佐藤「うーん、多分本当。それからは……ずっと1人で生きてるから」
桜庭(「推し」がいないという解釈でいいのだろうか。どうしても夏樹さんに彼氏がいるのが想像できない…)
桜庭「…まぁ、そのうち分かるから良いですよ」
佐藤「?」
+++
佐藤「ユカさん、お腹空いた~」
桜庭「はいはい。今日は何食べたいですか」
佐藤「オムライス!」
桜庭「了解しました」
桜庭(そういえば、夏樹さんは料理ができるのだろうか?)
佐藤「やったー!ユカさんのオムライス好き!」
桜庭「喜んで頂けて嬉しいです」
佐藤「ふふ、美味しく作ってね」
桜庭「はい」
佐藤「ユカさんって……お嫁さんにしたいタイプだよね」
桜庭「…え?」
佐藤「あ、もちろんユカさんを貰えるなんて思ってないけど、もし貰えたら毎日楽しいだろうなって」
桜庭「そ、そうですか……」
佐藤「あ、でも私なんかがユカさんのお嫁さんになる資格はないからダメか」
桜庭「そ、そんなことないですよ!夏樹さん以外考えられないです!むしろ僕の方が夏樹さんに釣り合わないっていうか……」
佐藤「もう、ユカさんたら。そういうところだよ」
桜庭「え?」
佐藤「ユカさんは自分に自信がないみたいだけど、私はユカさんの良いところをいっぱい知ってるよ。だから安心して」
桜庭「夏樹さん…」
佐藤「あ、あとね。ユカさんはもう少し自分のことを褒めてあげた方がいいと思うな。だって、ユカさんは優しいから、他人のために自分を犠牲にするでしょ?もっと自分を大事にしてあげて」
桜庭「…今僕が何考えてるか分かります?」
佐藤「え?えっと……そうだなぁ……『可愛い』とか?……あっ」
桜庭「『結婚したい』…」
佐藤の顔のエラに触れる。
桜庭「もう、貴女なしじゃ生きられないです」
桜庭の親指が佐藤の下唇をなぞる。
桜庭「キス……しても……いいですか?」
佐藤「えへ……どうぞ」
桜庭「夏樹さん……愛しています」
佐藤「うん。私も」
桜庭の唇が佐藤の上唇と一瞬重なり、すぐ離す。
そのまま指を佐藤の首筋に持っていく。桜庭の目が据わっている。
桜庭「夏樹さん、僕のものになってください」
佐藤「うん」
桜庭「それは…プロポーズの返事と思って良いんですか?」
佐藤「えへ……良いよ」
桜庭「…ありがとう、夏樹さん。俺、一生あなたを幸せにします」
ふたたび佐藤の上唇にキスする桜庭。
桜庭「…これ以上は抑えが利かなくなるのでやめます。さ、もうすぐ出来ますよ、夏樹さんの好きなオムライス」
佐藤「やったー!いただきまーす!」
桜庭「ねえ、夏樹さん」
佐藤「ん?」
桜庭「さっき言っていた僕の『いいところ』って、例えばどこですか?」
佐藤「えっとねぇ……やっぱり優しいところかな。あと、私のことを大切にしてくれてるし。他にもたくさんあるけど、全部言うとキリがないね」
桜庭「……他には?」
佐藤「うーん……あ、いつも笑顔で明るいところが好き。あとは……何事にも前向きな姿勢とか。それと……私にない部分を持っている所かな」
桜庭「夏樹さんにない?それってなんのことだろう」
佐藤「んー、内緒」
桜庭「えー、教えてください」
佐藤の手を握って顔を近づける桜庭。
頬に触れてクイと自分に向ける。
桜庭「教えないとキスの続きをしちゃいますから」
佐藤「えっ!?ちょっと待って、まだ心の準備が……!」
桜庭「それで、夏樹さんになくて僕にあるものって何ですか?教えてほしいな」
佐藤「……言わなくても分かってるんじゃないの?」
桜庭「夏樹さんから直接聞きたいですよ」
太ももをぴったりくっつけ、佐藤の顎からえらにかけてをなぞっていく桜庭。
佐藤「ひゃぅ……//」
桜庭「ほら、早く。言ってくれなきゃ分かりません」
佐藤の首にキスして、鎖骨の下にキスする桜庭。その間も太ももの外側を撫でる。
佐藤「ちょ、ちょっと……待って……」
桜庭「待ちませ~ん」
後ろから抱き着き、耳にキスしながら臍の横3cmほどのサイドを指で擦り、乳頭に指を近付ける。
佐藤「やぁ……耳と胸ばっかり……いじわるしないでぇ……」
桜庭「ほら、指がもうすぐココに辿り着いちゃいますよ?口のカタい人ですね。それとも興奮してます?」
佐藤「そんなことないもん……」
桜庭「嘘つき」
乳首を優しく抓る。
佐藤「ああっ!♡」
両手で乳首を激しくはじいたり、捏ねたりする。そのたびに桜庭の腕の中で佐藤が跳ねる。
佐藤が逃げようと背中を丸めるが桜庭の手は吸い付いたように離れない。
桜庭「僕のことを肯定してくれるのは貴女だけだ、夏樹」
首筋にキスしながら、ショーツの中に左手を伸ばす。右手は乳首を刺激し続けたまま。
佐藤「あ……だめ……そっちはまだ……あっ、あん……♡」
桜庭「わぁ、こんなに濡れて…いけない子ですね…おや、こんな所にも突起がありますね」
皮の剥けたクリトリスをつまむ桜庭。
佐藤「ああ……!そこ……弱いの……!」
そのままクリクリとこね回す。右手で乳首を、左手でクリトリスを。何十秒も執拗に刺激し続ける。
佐藤は桜庭にもたれかかり足をM字開脚し、のけ反りながら痙攣している。
佐藤「はあ……はあ……もう許して……おかしくなる……」
しかし手の動きは止まらず、むしろ激しさを増す。
佐藤「お願い……もう無理ぃ……んっ!♡」
身体を大きく震わせて達する佐藤。全身汗まみれだ。
桜庭「すみません、いじわるしすぎました。あなたがあまりにも可愛すぎて」
佐藤「ううん……いいよ……。私、あなたになら何をされてもいい」
佐藤の頭を撫でる。
桜庭「…ご飯、温め直しますね」
立ち上がってオムライスの皿を電子レンジに入れる桜庭。
桜庭「着替えましょうか。立てますか?」
佐藤「……ごめん、腰抜けちゃったみたい」
桜庭「運びますね」
膝下に手を差し込み、横向きに抱え上げる桜庭。
寝室に連れて行きベッドに寝かせる。クローゼットの中からパジャマを取り出して佐藤に渡す。
桜庭「…脱げますか?一人で着替えられますよね?」
佐藤「……手伝ってほしい」
桜庭「え?」
佐藤「今日は……ずっと一緒にいて」
上着の裾をつまみ、上目遣いでささやく佐藤。
桜庭「……分かりました」
佐藤「あと……その……もう一回シたい……」
桜庭「……………今日はもうイッたので、明日にしましょう。ご飯食べて、お風呂入ってゆっくりしましょう。もう遅いですし、明日は貴女の好きなタルトを買ってきてあげますよ」
佐藤「……」
桜庭「夏樹さん?」
佐藤が桜庭の手を握り自分の胸に持っていく。
佐藤「……私のここ、すごくドキドキしてる。分かる?」
桜庭が左胸を触る。
確かに心臓の音が大きい気がした。
佐藤「……まだ足りないの」
桜庭「……」
佐藤「もっと気持ち良くなりたい。あなたのことしか考えられないくらいめちゃくちゃにして。……ねぇ、ダメ?」
ゴクリと唾を飲み込む桜庭。
桜庭は佐藤の薬指にキスをする。
桜庭「……仰せのままに」
佐藤「嬉しい……」
佐藤は起き上がると桜庭に抱き着き、桜庭をベッドに引き込み押し倒した。
桜庭「えっあれ…夏樹さん?俺が下なの?」
佐藤「何言ってるんですか。当たり前じゃないですか」
佐藤は桜庭と手の平を合わせ、5本の指を擽る。
桜庭「んっ…ちょっ」
佐藤は桜庭の股間のすぐ脇に膝をつき、股を開かせる。
二人の太ももが擦れ合う。佐藤は桜庭の腰に手をついて体を支える。
桜庭の視線は乱れた佐藤の胸元に注がれる。佐藤の胸は汗でぬらぬらと光っていた。
佐藤「ふぅ……はぁ……♡」
佐藤は自分のスカートの中に手を入れ、ショーツを脱ぐ。
そして、桜庭のベルトに手をかけた。
桜庭「待ってください!僕が動きますから!」
佐藤「いいんですよ。私が動くんです」
佐藤はショーツを放り投げると、桜庭のズボンを下ろしにかかる。
桜庭「ちょっと夏樹さん……あっ」
勢いよく飛び出した固いペニスを見て、佐藤が舌なめずりする。
佐藤「いただきまーす♡」
佐藤が桜庭のモノを口に含む。
桜庭「ちょっ…汚いですよ!やめたほうが…」
佐藤は桜庭の忠告を無視してどんどん飲み込んでいく。
喉奥まで深く入れ、ゆっくりと引き抜く。
じゅぽっ……ちゅぷ……と淫靡な音が響く。
佐藤「んっ……んっ……んっ……」
口内の温度が上がっていき、熱湯のような錯覚に陥る。
佐藤は桜庭の先端、裏筋などを的確に攻めていく。
佐藤は陰嚢を掴み、両手で揉みほぐしながらフェラを続ける。
桜庭「っく…!はぁ…っ…気持ちいい…ちんちんが溶けそうだ」
佐藤「んっ……んっ……んっ……(嬉しそうに)よかった……」
佐藤の頭が上下するスピードが上がる。
桜庭「あ!だ、ダメぇ!出ちゃうから!!」
桜庭が佐藤の頭を掴む。
しかし、佐藤の動きを止めることはできなかった。
佐藤の口に大量の精液が流れ込み、溢れ出る。
桜庭「うわっ…ご、ごめん。大丈夫…?」
慌てて佐藤の口を拭く桜庭。佐藤は上を向くとゴクッと音を立てて、桜庭の出した白濁を飲み込んだ。
佐藤「美味しかったです。ありがとうございます」
佐藤は立ち上がり、スカートとパンツを拾い上げる。
佐藤「続きはまた明日にしましょうね」
桜庭「え?あ、う、うん」
桜庭(良かった…)
佐藤「ではお休みなさい」
桜庭「お、お休み」
佐藤「……」
佐藤は部屋を出て行った。
それを唖然と見つめる桜庭。
+++
ハロウィン当日。
コスプレの衣装に着替えて桜庭を待つ佐藤。しかし、なかなか来ないので電話をする。
佐藤「もしもし、ユカさん?まだなの?早く来てくれないと困るんだけど。私1人じゃ恥ずかしくて会場に入れないし」
桜庭「すみません、夏樹さん。ちょっと衣装のサイズが合わなかったので、直しているところでした。もう行きますね」
佐藤「えー、大丈夫?手伝おうか?」
桜庭「いえ、大丈夫ですよ。すぐ行きますから。ほら夏樹さん見えました」
佐藤が電話を切って顔を上げると、目の前には狼男の仮装をした桜庭がいた。
桜庭「トリックオアトリート」
佐藤「お菓子あげるんでいたずらしないでもらえます?」
桜庭「それは残念。また夏樹さんで遊べるかと思ったのに」
佐藤「ユカさん、本当に性格悪いよね」
桜庭「あんなに喜んでたくせに」
佐藤「うるさい」
桜庭「今日の夏樹さんはなんだかそっけないな。分かった、僕の衣装があまりに格好良くて緊張してるんだろ」
佐藤「違うよ、ばーか」
桜庭「まあそういう事にしておきましょう。前みたいに飲み過ぎないで下さいね?今日の僕は狼ですから」
佐藤「はいはい」
手を差し出す桜庭。手を取る佐藤。パーティ会場に入る。
ホテルのラウンジを借りたパーティー会場ではビュッフェ形式の立食会が行われていた。
参加者は2代〜4代の男女がほとんどだった。
桜庭「変な男に襲われないようにね」
佐藤「ユカさんこそ」
それぞれ飲食を楽しむ二人。突然おばけの仮装をした子供たちが乱入してくる。
子供1「おばけだぞー!」
子供2「おかしよこせー!」
会場内は騒然としつつ子供にお菓子を与えていく。
桜庭「大変ですよ夏樹さん、小さいお化けがあんなに…お菓子足りるかな?」
佐藤「私たちも何かあげようか」
桜庭「そうですね。せっかくだから僕の手作りスコーンをあげましょう」
佐藤「えっ!?それユカさんの趣味で作ったやつでしょ?絶対まずいでしょ」
桜庭「自分が食べたいからってそういう事言わないの。また幾らでも作ってあげますから」
桜庭が子供の方へ歩いて行くと、子供が一斉に逃げる。
桜庭「あーれぇ!?なんでぇ!?」
笑いを堪え切れない佐藤。
桜庭「顔が怖いのかな。こんなにおいしいのに」
佐藤「そんなことよりさ、あれ見て」
佐藤が指差す先を見ると、そこにはチョコレートファウンテンがあった。
桜庭「あ、いいですね。僕たちもやりましょう」
佐藤「うん」
二人はチョコを垂らすと、お互いの口に運ぶ。
佐藤「んっ……甘い」
桜庭「本当だ、甘くて美味しい」
二人で顔を赤くする。
その様子を見ていた女性陣は黄色い声を上げていた。
佐藤(なんか……いつもと雰囲気が違う)
佐藤は桜庭を見つめていると、ふと目が合う。
桜庭は自分の指についたチョコを舐めながらウィンクする。
すると佐藤の顔はみるみると真っ赤に染まっていった。
慌てて目を逸らし、周りの様子を伺う。
佐藤(……何この空気)
佐藤(みんな私たちを見てる)
佐藤(ユカさん、お願いだから……これ以上目立たないでよぉぉ)
+++
帰宅する二人。手には大量のおみやげ。
桜庭「ふー、楽しかったですね!おみやげもこんなに。もうしばらく甘いものはいいかな」
玄関に入るなり桜庭に抱き着いてくる佐藤。
桜庭「? 夏樹さん? 酔っぱらっちゃいました?」
桜庭の腋に顔をすりつける佐藤。
佐藤「ユカさん……」
桜庭「夏樹さん?」
佐藤「あのね、私、ずっと考えてたんだけど、やっぱり、私、ユカさんが好き。大好きだよ」
桜庭「僕も大好きですよ。…あの、着替えたいんですが…」
佐藤「だめ、このままでいて」
桜庭「あの、この体制は少々下半身に悪いのですが…胸とか当たってますし…」
身じろぎする桜庭。足を絡ませる佐藤。
佐藤の太ももが桜庭の股間に押し付けられる。
佐藤が桜庭の腹筋を押して壁に押さえつける。
佐藤「ねえ、ユカさん、キスしたい」
返事も待たず桜庭の口の中に舌を入れる佐藤。
桜庭は佐藤の顔を両手で挟むと、舌を動かされるたびにピクリと動く自分の体を必死に抑え込む。
佐藤は桜庭の首に腕を回すと、さらに強く抱きしめる。
桜庭「ぷはっ」
佐藤「ねぇ、ユカさん。今日は帰らないで」
桜庭「……明日仕事なんですよ」
佐藤「大丈夫。私が起こしてあげるから」
桜庭「本当ですかあ?」
佐藤のおっぱいと鎖骨の間を揉みしだく桜庭。
佐藤「ひゃぅ」
桜庭「今日は僕、狼なんで、ちょっと激しいですよ」
佐藤「いいよ、ユカさんになら食べられても」
桜庭「…ベッド行きましょう」
寝室に入ると、そのまま桜庭が佐藤を押し倒す。
深くキスをしながら右手で恥骨や鼠径部、太ももを撫で、左手でスペンス乳腺を揉みしだく。
佐藤「ぁっ」
放り出された佐藤の手の平をくすぐる。佐藤は脇腹を揉まれる。
桜庭「夏樹さん、脱いでください」
佐藤「うん」
桜庭の目の前でブラウスを脱ぐ佐藤。ブラジャーを外すと豊満な乳房があらわになる。
両手で乳房を揉みしだく。腋と乳首の間を執拗に攻める。キスはやめない。
佐藤「あっ、んっ」
佐藤の息が荒くなる。
桜庭は乳房にしゃぶりつき、乳首の外側を舐める。お互いの手を握り合い、肘の内側を擦り合う。
佐藤「あ、あ、ああ」
佐藤の腰が浮いてきたところで桜庭は佐藤の乳房の下の肋骨の脇付近を舐めながら手で佐藤の土踏まずを揉む。佐藤は大股を開いた状態。その状態で攻め続ける。
佐藤「あ、りゃんさ、ん、だめ、あ、あっ」
桜庭は佐藤の肋骨を舐めたまま、土踏まずにあった手を優しく上に滑らせていく。
佐藤「ああ、だめぇ!」
佐藤の鼠径部をくすぐる桜庭。
佐藤「あ、それだめ、だめ、ユカさん! おねがい、もう、もう許して」
佐藤の膣は噴水のように液体が噴出しており、ベッドに大きな染みを作っている。
桜庭が佐藤の大陰唇に触れる。
桜庭「聞こえます?あなたの水音ですよ」
桜庭が指を出し入れするたびにブチュッブチュッと音がする。
佐藤「いわないで……」
佐藤の子宮口は桜庭の人差し指を飲み込もうとする。
桜庭「すごい吸い付いてきますよ」
佐藤「うそ、うそだよぉ」
桜庭「夏樹さんの身体は正直ですね」
佐藤「いや、ちが、違うもん」
桜庭「ふふふ。僕の指、おいしいですか?」
佐藤「いやぁ、いやぁ」
桜庭「ダメだ、もう我慢できない。夏樹さん、受け取ってください!」
桜庭が佐藤の膣に挿入すると佐藤は歓喜の声を上げる。
佐藤「ユカさん、ユカさん」
佐藤の腰の動きに合わせてまよこも動く。
桜庭「お望み通り、めちゃくちゃにしてあげますよ」
Gスポットを抉るように突くと佐藤が絶叫。
佐藤「だめだめだめええ!!」
桜庭は佐藤の手を握る。そのまま覆い被さりぴったりと体を合わせながら腰を大きく動かす。
佐藤が痙攣しながら潮を吹く。
佐藤(ユカさんのおちんちんから何か出てるゥッ…ずっと出てる!?)
桜庭「気持ちいいですか?」
精液を少しずつ出しながらピストンを続ける。
佐藤「あぁ、まだ、だめぇ、だめなのにぃ、出されて、中だしされちゃってるぅぅぅ」
佐藤(ダメ…アタマが…真っ白になる…ああぁぁぁぁぁっ!!!!!)
佐藤「あ、また、またイク、イッちゃう、イグウウッ」
佐藤、何度も絶頂する。
桜庭「はぁっ・・・そろそろ終わりましょうか、明日に響きますしね」
桜庭は佐藤の乳首を触る。それと同時に射精し、佐藤は弾けたように仰け反った。
佐藤「あ、あ、あ、あ」
桜庭「愛してますよ」
そう言う桜庭は佐藤の耳元で囁き頬にキスをする。
クリトリスを摘み上げると同時に再び射精した。
佐藤「あ、あ、あ、あああああ!!!ああああああ!!!」
桜庭「これで最後です」
桜庭が佐藤の中に出した瞬間、佐藤は盛大にイキ、そして意識を失った。
桜庭「夏樹さん、夏樹さん」
桜庭は優しく声をかける。
桜庭「夏樹さん、大丈夫ですか」
佐藤「……」
佐藤は目覚めない。
桜庭は彼女の股を拭き、布団を掛けて頭を撫でる。
時計を見ると23時を回っていた。
桜庭はため息をつく。
桜庭「夏樹さん……」
桜庭は佐藤にキスをした。
+++
佐藤と桜庭はボーイズラブの舞台に来ている。
舞台上では美男子同士が絡み合っている。
佐藤「わーお。すごいねぇ」
佐藤は興味深げに見つめている。
佐藤「あれ、あの人知ってる!」
佐藤が目を輝かせている反面、桜庭は能面のような表情をしている。
観劇後、ホールから出てくる二人。桜庭は軽く勃起している。
佐藤「おもしろかったぁ。やっぱり舞台って良いよね」
佐藤が感想を言うも桜庭は無言だ。
佐藤(やっぱり男性にはつまらないよね…無理に付き合わせちゃったかな)
佐藤「ユカさん、今日はありがとうございました」
桜庭「いえ、僕も非常に勉強になりました。やはり男性の官能と言うものは女性のそれとは少々違い、それは生殖器の発達の関係で、むしろ男性のほうが性感帯は奥に隠れているわけで、どちらかといえば男性の方が奥ゆかしい性別と言う仮説を立てることができるでしょう」
佐藤(やばい、ユカさんの蘊蓄スイッチが入った)
桜庭「そもそも男性は女性より快楽ホルモンが多いと言われており、そのせいで快楽を感じやすいと言われています。ですから最も脆弱な性感帯は誰にも分からない場所に隠されているというのもうなずけると思う訳です」
佐藤(つまり、男の人の方がセックスは気持ちいいってことよね)
桜庭「BLは奥深いですね」
佐藤(ユカさんは私の好きなものをいつも全力で肯定してくれる。だから一緒にいて安心できるんだ)
桜庭「ところで夏樹さん、この後どうします?」
佐藤「え?あぁ、私ちょっと本屋さんに行きたいんだけど」
桜庭「分かりました。では行きましょう」
二人は並んで歩く。
佐藤(ユカさんの手、あったかいな……)
桜庭「夏樹さんの手、冷たいですね」
佐藤(あ……)
桜庭「どうしました?疲れました?」
佐藤「い、いいえ!元気ですよ」
桜庭「それなら良かった。でも、夏樹さんはもっと自分の身体を大切にしてくださいね」
佐藤「はい」
桜庭「……少し寄り道していきませんか?」
佐藤「はい、いいですよ」
桜庭が指さす先にはホテル街があった。
佐藤(……あれ?)
+++
ホテルから出る二人。
桜庭「いやあ、すっきりしました。まさか前立腺があんなに気持ちいいものだったとは」
佐藤「うん……そうだね……」
佐藤は顔を赤らめている。
桜庭「夏樹さん、顔赤いけど大丈夫ですか?」
佐藤「あ、はい。平気です」
桜庭「そういえば、先ほど本屋に行くと言っていましたが、何を買われるんですか?」
佐藤「え、えっと、料理のレシピ本とか、あとは小説の新刊が出ていたはずなのでそれも買います」
桜庭「なるほど、楽しみですね。夏樹さんは本当に小説が好きですね。僕なんて3行で眠くなってしまう」
佐藤「ふふっ、ユカさんのそういうところ、私は好きですよ」
桜庭「まぁ、夏樹さんが良いなら良いか…」
頭を掻く桜庭。
+++
リビングで婚姻届を見ている桜庭。
そこには桜庭の名前は記されているが、佐藤のものはまだない。
そこに佐藤がやってくる。
佐藤「ユカさん、それ……」
佐藤は桜庭の持っているものに気付く。
桜庭「ああ、これ…。夏樹さんは婚姻届けを出すことに興味はありますか?」
佐藤「はい、もちろんありますよ。ただ、なかなか勇気が出ないだけです」
桜庭「実は僕も婚姻届けを出すことによって得られるリターンについてまだよく分かっていないのですが。もし夏樹さんが婚姻届けを出さずにいたいのであれば僕はそれでも構いません」
桜庭は小箱を取り出し、開けて見せる。中には指輪が入っている。
桜庭「これ…えっと…婚姻届けとは関係なく…結婚指輪…いや、同棲指輪…?受け取ってくれますか…?」
佐藤「……はい!」
指輪を受け取る佐藤。
佐藤を抱きしめる桜庭。
桜庭「病める時も健やかなるときも、僕は貴女を愛しています、夏樹さん。僕はふつうの人と違うし、きっと怒らせたりイライラさせることがたくさんあると思うけど…少しでも長く一緒にいられたらうれしい…」
佐藤の手を握る桜庭。
佐藤「ユカさん、私も、あなたと一緒にいることができてとても幸せです」
桜庭「僕もあなたに出会えて幸せです、夏樹さん」
キスをする二人。
桜庭「愛してます」
佐藤「……はい」
+++
桜庭「夏樹さん、今度二人で旅行に行きませんか?」
佐藤「え!?いいですね!どこ行きましょうか?沖縄とか北海道もいいですねぇ」
桜庭「福島辺りの温泉はどうでしょう。たまには秘境でゆっくりするのも良いじゃないですか?」
佐藤「わぁー、楽しそうですね!」
桜庭「じゃあ、予定を立てましょう。おすすめの宿があるんですよ」
佐藤「はい、お願いします」
桜庭「では、日程が決まったらまた連絡しますね」
佐藤「わかりました」
+++
佐藤「ユカさん、今日は何の日かご存知ですか?」
桜庭(げっ、分からない。答えられなかったら破局するやつ?)
桜庭「すみません、分かりません……」
佐藤「正解は、ポッキー&プリッツの日です。というわけで、さあ食べましょう」
桜庭「あ、はい」
桜庭「美味しいですね」
佐藤「ええ、美味しいですね」
桜庭「でも夏樹さん、なんで急にこんなことを?」
佐藤「それは……その……私がユカさんのこと大好きだからですよ」
桜庭「そっかぁ~」
ただニコニコとプリッツを食べる桜庭。
佐藤(い、言えなかった…!ポッキーゲームがしたいって言えなかった…!)
+++
佐藤「ユカさん、最近寒くなってきましたね」
桜庭「そうですねぇ」
佐藤「寒い時はこたつに入ってみかんを食べたいです」
桜庭「良いですね。僕もみかんが食べたくなりました」
佐藤「ふっふっふ……私はみかんを用意しております」
桜庭「おお!夏樹さん、さすが!僕のお嫁さんは最高です!」
佐藤「えへへ、ありがとうございます」
桜庭「僕は食欲が凄いので食費がけっこう掛かると思うんです。親にも『食べるか筋トレするかしかしてない』って言われてましたし。だからもしかしたら今後食べることで言い争いになることがあるかもしれない。例えば僕はみかんが5個食べたい。夏樹さんは1個しか食べられない。そんな風に」
佐藤「た、確かに」
桜庭「その時は遠慮せずに言ってください。僕は夏樹さんのことが大好きなんですから」
佐藤「はい……」
+++
桜庭「夏樹さん、今日のご飯は何が食べたいですか?」
佐藤「うーん、ユカさんが作ってくれるものなら何でも嬉しいです」
桜庭「夏樹さん、最近痩せました?僕の食事はヘルシーなものが多いから、もしかして栄養不足なんじゃないですか?」
佐藤「え?いえ……別にそういうわけではないと思いますけど……」
佐藤の身体をじろじろと見る桜庭。
桜庭「…まぁ、これはこれで…」
佐藤「え?何が?」
桜庭「あ、いや、なんでもありません。ちょっと待っていて下さい。今晩はカレーにしましょう」
佐藤「え?あ、はい。楽しみにしておきますね」
桜庭「赤ちゃんができた時の為にも、体力をつけておかないとね」
佐藤「!?」
+++
佐藤「桜庭さん、今日は何の日かご存じですか?」
桜庭「もちろん知ってますよ。8月9日、夏樹さんのお誕生日です。手作りの品で申し訳ないのですが、髪飾りを作ってみました。受け取って頂けますか?」
佐藤「え、本当ですか!うれしいです。ありがとうございます」
桜庭「あと、これを……」
佐藤「え?」
桜庭「いつも頑張ってくれている夏樹さんにプレゼントです。はい、これ」
佐藤「え?あ、あの……私もユカさんのために何かしたいなと思っていて……。だから……その……えっと……はい!」
佐藤の手には桜庭の手にあるのと同じお酒。
桜庭「あはは、お揃いですね」
佐藤「はい!」
+++
佐藤はベッドの上で仰向けになっている。
佐藤「んぅ~、疲れた……」
桜庭が帰宅する音がして、寝室のドアが開く。
桜庭は明らかに泥酔しており、フラフラとした足取りで部屋へと入ってくる。
佐藤「ユカさん、大丈夫ですか?」
桜庭「だいじょぶですよぉ」
佐藤「水飲みます?」
桜庭「はいぃ」
コップに水を注ぎ、渡すと一気に飲む。そして倒れるように寝てしまう。
佐藤「ユカさん?……あ、だめだ。完全に潰れてる」
佐藤は桜庭に布団を掛けると、自分も隣で横になった。
佐藤(……ユカさん、お酒弱いんだよなぁ)
佐藤は桜庭の顔を見つめる。
佐藤(ユカさんって、綺麗な顔立ちだよなぁ)
佐藤はそっと桜庭の頬に触れる。
佐藤(この唇……柔らかそう……)
吸い込まれるようにして自分の唇を重ねる。
佐藤は欲望を抑えることが出来ず、再びキスをする。
佐藤「ユカさん……好き」
佐藤は再び桜庭と口づけを交わす。
佐藤「んっ……ちゅ……ふふ、かわいい」
佐藤は桜庭の胸に手を伸ばす。
佐藤「固い……」
佐藤は桜庭のワイシャツのボタンを外す。
佐藤「すごい……腹筋割れてますね」
佐藤は桜庭の肌に触れていく。
佐藤「胸板も大きい……」
佐藤は自分の服を脱ぐと、桜庭の上に覆いかぶさった。
佐藤「はぁ、はぁ……ユカさん、好きです」
佐藤は桜庭のお腹に顔を埋め、腹筋を舐める。
佐藤「美味しい」
佐藤は桜庭のズボンに手をかける。
佐藤「わ、すご……下着越しでも分かる……」
佐藤は桜庭のモノを取り出し、桜庭の股間に顔を埋め、亀頭に口づけする。
佐藤「んむ……ん……おいひぃ……」
佐藤は桜庭の腹筋を指でなぞりながら、裏筋を舌先で刺激していく。
舌でカリの部分を擦ったり、裏筋に沿って下から上へゆっくりと這わせたりする。
桜庭「んっ…♡」
佐藤は桜庭の陰嚢を揉みしだき、口に含んで転がしたり、吸ったりを繰り返す。
桜庭「んんっ……ぁ……あっ……♡」
桜庭が眠りながら枕を握りしめ、身をよじる。
佐藤「ユカさん……起きないんですか?」
佐藤は桜庭の耳元で囁く。
桜庭「んんっ……♡」
佐藤「仕方ないなぁ」
佐藤はエネマグラとローションを取り出す。
佐藤「今日はこれを使ってあげますね」
佐藤はエネマグラを桜庭の後孔に挿入する。
桜庭「ぁ・・・?はうっ♡」
佐藤「あはは、可愛い」
佐藤はエネマグラを動かし、前立腺を刺激する。
桜庭「あぁっ!そこぉ……!ダメぇ……♡」
桜庭の体がビクビク震える。
佐藤「気持ちいいですか?」
桜庭「やぁ……だめ……もう……」
佐藤「じゃあ、これはどうですか?」
佐藤はバイブを取りだし、スイッチを入れる。
ヴーッという音とともに振動を始める。
桜庭「あぁっ!?」
桜庭の体が大きく跳ねる。
桜庭「あぅ……あぅ……あぅぅ……♡」
佐藤「ユカさん、かわいいですよ」
佐藤は桜庭のお腹にキスをする。
桜庭「あぅ……あぅ……あふっ……♡」
バイブの強度を変えるたびに、桜庭の体は面白いほど反応する。
佐藤はパイズリを始める。
桜庭「ああぁっ!!」
佐藤「気持ち良いですか?」
桜庭「んぅ……ん……ん……♡」
パイズリを続ける佐藤。射精する桜庭。
桜庭「出るっ!」
桜庭は目を覚ます。
佐藤「いっぱい出ましたね」
桜庭「…夏樹さん!?な、何してるんですか!?」
佐藤「ユカさん、好きですよ」
桜庭「え、ちょっと待っ…んむっ」
キスする佐藤。亀頭を自分のクリトリスに押し付ける。
そのままペニスを倒し、桜庭の腹部に自分の股で押し付け、そのまま前後運動して擦り付ける。
桜庭「!?!?!?」
ローターの強度を上げる佐藤。
バイブの音が大きくなる。
桜庭「おちんちん壊れる!夏樹さんっ!!!ああぁぁっ!!!」
桜庭は絶頂を迎える。
佐藤は桜庭の乳首を甘噛みする。
桜庭「んんっ……♡」
佐藤は桜庭の胸に吸い付く。
桜庭「んぁっ……」
桜庭は身悶える。
佐藤「美味しいです、ユカさんのおっぱい」
桜庭「もうやめて…許して」
佐藤「まだ終わりませんよ?」
佐藤は桜庭の亀頭部分を佐藤の膣から出し入れする。
それだけでペニスから液体が漏れる。
佐藤「ユカさん、イキそうですね」
桜庭「全部…挿れて…お願い…っ」
佐藤(残念だけど、このままイッてもらう)
佐藤は桜庭の亀頭に指を乗せ、優しく撫で回す。
桜庭「ひっ……♡」
佐藤は指を止めず、少しずつスピードを上げていく。
桜庭「あっ……ダメ……イクっ!……ぁぁぁぁぁ!!!」
桜庭は果てた。
佐藤(あー楽しい…ユカさんの悶える顔ってどうしてこんなに興奮するんだろう?)
佐藤は桜庭の肛門からバイブを抜き取る。
桜庭「ぁぅっ…♡」
佐藤は飛び散った精液を舐め取っていく。
佐藤「ユカさん、気持ち良かったですか?」
桜庭「うん…」
佐藤は桜庭に布団を掛ける。
それに佐藤が潜り込むと、桜庭が佐藤のお尻を撫でる。
佐藤「ひゃっ!?」
桜庭「僕もしたい……夏樹さんの中に……入りたい」
佐藤「でも、今日は疲れてるんじゃないんですか?」
桜庭「じゃあ、キスだけ」
しゃぶりつくようにキスする桜庭。笑顔で応える佐藤。
やがて唇を離す。
桜庭「…おやすみなさい、夏樹さん。あなたと同棲できてよかった」
佐藤「私もユカさんと一緒にいられて嬉しいです」
二人は眠りにつく。
+++
桜庭「さぁ、着きましたよ」
二人の前には『高級旅館』と書かれた看板があった。
桜庭は佐藤の手を引いて中に入る。
フロントには仲居さんがいた。
仲居「ようこそおいでくださいました」
桜庭「予約していた桜庭です」
仲居「かしこまりました。お部屋へご案内いたします」
桜庭と佐藤は客室へと移動する。
仲居「こちらのお部屋にございます」
桜庭「ありがとうございます」
佐藤「わぁ、綺麗なお庭!」
桜庭「この庭園、有名なんですよ」
桜庭は佐藤にスマホを見せる。
佐藤「すごい!写真撮ろっか♪」
佐藤は桜庭と腕を組む。
桜庭「では撮りますね」
カシャッ
桜庭「どうですか?」
佐藤「いい感じだと思います」
桜庭「それなら良かったです」
桜庭は佐藤と手を繋いで庭園を見て回る。
佐藤「あ、お土産買わないと」
桜庭「もう買うんですか?早くないですか?」
佐藤「だって、明日帰るし」
桜庭「そうですね」
佐藤「何にしましょうかねぇ……」
桜庭「僕は温泉に来るとつい健康グッズを買っちゃいます」
佐藤「確かに、ユカさんそういうの好きそうだよね」
桜庭「結構面白いのがあったりしてつい買っちゃうんですよね」
佐藤「わかるかも」
お土産コーナーに入る二人。
桜庭「夏樹さんは何を買うんですか?」
佐藤「私はやっぱりお菓子かなぁ」
桜庭「お菓子って結構当たり外れありますよね」
佐藤「それはあるけど、ハズレてもそこまで損しないからね」
桜庭「お菓子、お好きなんですね」
佐藤「うん、大好き」
佐藤はお菓子の箱を手に取る。
佐藤「これ、美味しいんだよなぁ……」
箱には『とまとけーき味』と書かれている。
佐藤「ユカさんは?」
桜庭「僕は今日はいいです。夏樹さんが喜んだ顔がお土産かな」
佐藤「そっか……じゃあ、これは私が買いますね」
会計を済ませる佐藤と桜庭。
ロビーには卓球室やマッサージチェアなどがある。美しい生け花もある。
桜庭「せっかくなので、少し遊んでいきませんか?」
佐藤「賛成!」
二人は卓球台にラケットを置く。
佐藤「ユカさん!勝負しましょ」
桜庭「勝負にならなかったらすみません」
佐藤「いえ、全力でやりましょう」
佐藤はサーブを打つ。
桜庭はスマッシュを打ち返す。
佐藤(早い……)
佐藤の打ち返したボールは高く上がる。
佐藤「しまった」
佐藤の放った打球はネットを超える。
佐藤「ユカさん、ナイスショット」
佐藤はレシーブする構えを取るが、桜庭がそれを遮る。
佐藤「え?」
桜庭は佐藤を押し倒す。佐藤の上に覆い被さる桜庭はキスをする。舌を絡ませながら唾液を交換するようなキスだった。
佐藤(こ、こんな所で!誰か来たらどうするの!)
佐藤は必死に抵抗する。やがて口を離す桜庭は言う。
桜庭「すみませんでした。僕、我慢できなくて」
佐藤「もうっ!」
二人は立ち上がると卓球を再開する。
それから二人は夜まで卓球を楽しんだ。
+++
夜、客室。
桜庭「こ、このお部屋、コテージに家族風呂があるんですね・・・・。」
佐藤の顔色を窺うようにちらりと佐藤を見る。
桜庭「まぁこの部屋にしたのはわざとなんですが・・・」
佐藤「もしかして私とお風呂に入りたいんですか?」
桜庭は顔を赤くする。
桜庭「もしかしなくても…ほ、ほらうちのマンションのお風呂は狭いですし…?二人で入るのってなかなかタイミング的にも難しいじゃないですか?決して夏樹さんの裸を観察したいとかそういうことではなくてゆっくりお風呂に二人で入れたらきっといい思い出になるでしょう!?そうですよね」
佐藤「わかりましたよ。一緒に入りましょう」
そう言うとおもむろに着物を脱ぎ出す佐藤。それに目がくぎづけになる桜庭。視線に気付いた佐藤、恥じらいながら背を向ける。
佐藤「見ないでください……」
桜庭「ご、ごめん」
桜庭(浴衣を考えた奴天才か?)
桜庭は急いで服を脱ぐ。
桜庭「先に入っててください」
佐藤「はい」
先に浴室に入る佐藤。
桜庭が入ってくる。手にはお盆とその上に盃が2つ、徳利がひとつ。
佐藤「おぉ」
桜庭はタオルを巻いているものの、溢れ出すエロオーラを隠せていない。
桜庭「熱燗ですよ!最高じゃないですか?」
佐藤「いいですね!」
桜庭と佐藤は温泉につかる。
そして自分の盃に酒を注いでいく。
桜庭「それでは乾杯といきましょうか」
佐藤「はい、かんぱい!」
桜庭は一気に飲み干す。
桜庭「ぷはぁ!うまい!!」
佐藤も続けて飲む。
佐藤「くぅ~」
佐藤は酒が好きだがあまり強くはない。すぐに顔が赤くなる。
桜庭「いい呑みっぷり」
佐藤「美味しいおつまみもあって最高だなぁ……」
桜庭「こういうときに言うんですね、夏樹さん」
佐藤の方を向く桜庭。
佐藤「な、なんのことでしょうか?」
桜庭「夏樹さん、『月が綺麗ですね』」
月明かりに桜庭の顔が照らされて見える。
佐藤「・・・『死んでもいいわ』」
桜庭「本当ですかぁ?」
佐藤「えぇ……本当に……」
ニヤつきが隠せない桜庭。
すると急に涙を落とす桜庭。
それを見て驚く佐藤。
佐藤「ど、どうしたんですか?」
桜庭「すみません…僕の悪い癖ですね。幸せ過ぎると悲しくなってしまうんです…トラウマなのかな」
佐藤「大丈夫ですよ、私がいますから」
佐藤は桜庭を抱き寄せる。
桜庭「ありがとうございます」
佐藤「これからもっと楽しいことが待ってますよ」
桜庭(夢でも良い。本当に死んでもいい。僕は最高に幸せだ)
佐藤の肩にしばしもたれる桜庭。ちゃぷというお湯の音だけが聞こえる。
桜庭「ああ…酔ってきたなぁ……」
佐藤「そろそろ上がりましょうか」
桜庭「そうですね」
お湯から上がる二人。
桜庭「もうすぐご飯の時間ですね。楽しみだなぁ」
佐藤「ふふっ、今日はいっぱい食べてくださいね」
桜庭「僕が食べれるものだといいけど」
+++
客室で豪勢な夕食を食べている桜庭と佐藤。
佐藤「こんなにおいしい料理久しぶりです」
桜庭(夏樹さん、演技じゃなければ、喜んでくれてるみたいだ。良かった)
食事をしながら桜庭は考える。
桜庭(今日は夏樹さんに最高に楽しんでもらいたい。セックスとかそういうんじゃなくて、喜ばせたい。もっともっと彼女を喜ばせるにはどうしたら良いんだろう)
桜庭は箸を止める。
佐藤「どうかしましたか?」
桜庭「うん?どうもしないよ?夏樹さんが楽しそうで良かったなって」
佐藤「だって本当に美味しいですもん」
桜庭は笑顔を返す。
桜庭(夏樹さんの喜ぶことをしてあげたい。夏樹さんに笑って欲しい。夏樹さんの笑顔を見たい)
桜庭「夏樹さん」
佐藤「はい?」
桜庭「本当に僕で良かったですか?後悔していないですか?僕に会ってから、夏樹さんの人生は大きく変わりました。僕のせいなんです。ごめんなさい」
佐藤「ユカさんは悪くありませんよ」
桜庭「でも……」
佐藤「私は今がとても幸せなんですよ。毎日が充実しています。仕事も順調で、好きなこともできて、素敵な彼氏もいる。これ以上望むことなんてないくらいに」
桜庭「夏樹さん……」
佐藤「だから、そんな顔をしないでください。せっかくの旅行なのに、悲しい顔ばかり見せていたら勿体無いですよ?」
桜庭「本当ですよね。すみません。ネガティブが止まらなくて。あ~、かっこ悪い…これじゃダメだ」
佐藤「ユカさんらしくもない。ほら、このお刺身美味しいですよ」
桜庭「ありがとう。いただきます!」
佐藤「さっきのお酒、もう一杯飲みましょうか」
桜庭「はい!」
二人はまたお酒を酌み交わす。
桜庭「ふぅ…眠くなってきた……」
佐藤「そろそろ寝ましょうか」
布団に倒れ込む桜庭。
桜庭「夏樹さん…情けなくてごめんね…本当にごめん…あなたをどうしたらもっと幸せにできるか分からない…いつか僕の元からいなくなってしまうんじゃないかと」
佐藤「私もユカさんがいなくなるのは嫌ですよ?」
桜庭「僕は死ぬまであなた以外愛しません」
佐藤「えぇ、信じています」
桜庭「僕も信じたい。僕はクズだ…」
佐藤「ユカさん……」
桜庭「夏樹さん…どこにも行かないで…僕を置いていかないでね…」
佐藤「はい、いますよ」
桜庭の顔をのぞき込む佐藤。桜庭の視線は佐藤の胸元に注がれる。
桜庭「夏樹さん、谷間見えてる」
寝返りして目をそむける桜庭。
佐藤「あらっ!いけないわ」
佐藤は浴衣の襟を直す。
佐藤「ふぁー……なんだか疲れちゃいました。今日は早く寝ましょ」
桜庭「…」
寝てはいないが、返事がない桜庭。
佐藤「おやすみなさい」
桜庭「おやすみ…」
佐藤は部屋の電気を消して、自分の布団に入る。
桜庭(俺、最低じゃない?せっかくの旅行で泣き言言って最低の彼氏だ。これじゃ夏樹さんに見放されてもしかたない。ダメだ、このままじゃ眠れない。旅行で興奮してしまったのかな。夏樹さんの寝顔を見て落ち着こう)
寝返りを打って佐藤の寝顔を眺める桜庭。
桜庭(眠れないときはこれが一番効くんだ)
桜庭「…愛してる。死んだっていい」
小声でつぶやく桜庭。
桜庭「…夏樹」
桜庭の頬を涙がつたう。
+++
朝、目が覚める桜庭。隣には誰もいない。部屋を見回すと、荷物をまとめている佐藤の姿があった。
佐藤「おはようございます」
桜庭「夏樹さん、おはよう…今何時?」
佐藤「7時半です」
桜庭「もう少しだけ……」
佐藤「ユカさん、起きてください」
桜庭「ん~……あと5分」
佐藤「だめですよ。遅刻しちゃいますよ?」
桜庭は佐藤の腕を掴んで抱き寄せる。
桜庭「一緒にいて……」
佐藤「はいはい」
佐藤は桜庭を抱き寄せて頭を撫でる。
桜庭、時間差で覚醒して慌てて佐藤を引き離す。
桜庭「ごめん、寝ぼけてた」
桜庭は両手をバンザイして無罪アピールをする。
佐藤「大丈夫ですよ。可愛かったので」
桜庭「あぁ、恥ずかしい」
桜庭は枕に突っ伏する。
桜庭「夏樹さん、昨日は本当にごめんね」
佐藤「もう気にしていないので、謝らないでください」
桜庭「うん、ありがとう」
佐藤「さて、準備しましょうか」
桜庭「あ~あ、帰りたくないな~」
佐藤「ユカさん、子供みたいですよ?」
桜庭「だって、せっかく夏樹さんと二人きりになれたのに、すぐに帰らなくちゃならないなんて」
佐藤「仕方ありませんよ。また来ればいいんですから」
桜庭「そうだね」
佐藤「ほら、ユカさん、着替えないと」
桜庭「はーい」
桜庭はしぶしぶ浴衣を脱ぐ。
それをまじまじと見る佐藤。手をクロスさせて乳首を隠す桜庭。
桜庭「…あの、あんまり見ないでください…」
佐藤「あっ、ごめんなさい」
佐藤は桜庭に背を向ける。
佐藤(浴衣発明した人天才だわ)
+++
帰りの新幹線にて。
桜庭「仕事溜まってるなぁ」
佐藤「そんなに?」
桜庭「うん、今日中に終わらせたいけど」
佐藤「大変ですね」
桜庭「夏樹さんも声優の仕事あるよね?」
佐藤「そうですね」
桜庭「忙しい中、付き合ってくれてありがとね」
佐藤「いえ、好きでやってますので」
桜庭「そうだよね」
佐藤の手を握る桜庭。
佐藤の頬にキスする桜庭。
佐藤の耳元で囁く。
桜庭「愛してるよ、夏樹さん」
佐藤「ユカさん……」
佐藤は桜庭の唇に自分の唇を重ねる。
佐藤「えへっ、ちょっと大胆だったかな」
キスする桜庭。
舌を入れようとするが慌てて制止する佐藤。小声で桜庭に注意する。
佐藤「ユカさん、他の人もいるので……」
桜庭「じゃ、これならどう?」
桜庭は佐藤の膝にブランケットを乗せ、その下から手を入れる。
佐藤「こ、こんなところで何を……」
桜庭「ふふふ、夏樹さん、可愛い」
桜庭は佐藤の恥骨を撫でる。
佐藤「やめてよ、ユカさん」
桜庭「しーっ。夏樹さん、声大きいよ?バレちゃう」
佐藤「誰のせいだと……んぅ……ユカさん……だめぇ」
桜庭「夏樹さん、気持ちいいの?」
佐藤「……う、うるさい」
桜庭は佐藤のクリトリスを指先で刺激し続ける。
佐藤「ユカさん……ほんとにダメ……お願いだから……これ以上されたら……私……もう……我慢できない」
桜庭「夏樹さん、かわいい……もっと、してあげる」
佐藤「だめ……本当に……それ以上……されると……わたし……おかしくなる……」
佐藤の耳に息をふきかける桜庭。
佐藤「りゃ、んさんっ……許して……だめ……イク……!」
佐藤はアームレストを握りながら体をビクビクと震わせる。
佐藤「……はぁ……はぁ……ん……ユカさん……だめって言ったのに……」
桜庭「夏樹さんのイキ顔、可愛かったですよ」
佐藤「……ばか」
桜庭「次の旅行はどこに行きましょうかね」
佐藤「私はどこでも構いません」
桜庭「海外は衛生面が心配だしなぁ」
佐藤「そうですね」
桜庭「そうだ、ハワイで結婚式挙げようか」
佐藤「え、でも、それじゃあ、仕事に響くんじゃ」
桜庭「夏樹さんの為なら仕事なんていくらでも犠牲にするよ」
佐藤「それはダメです」
桜庭「そう?そうかなあ」
残念そうに手を合わせる桜庭。
桜庭「あ!現地でも仕事すれば…いや、やっぱり無理だなあ。英語話せないし」
佐藤「大丈夫ですよ、私が通訳しますから」
桜庭「うん、よろしくね」
佐藤「はい」
桜庭「ふふ、楽しみ」
佐藤「ええ」
桜庭「モルディブなんかも良いらしい」
佐藤「良いところですね」
桜庭「うん、海が綺麗でね。夏樹さん、そういうの好きでしょう?」
佐藤「はい、好きですね」
桜庭「ハネムーンベイビーとか」
佐藤「気が早いよ、ユカさん」
桜庭「早くないよ」
佐藤「そ、そうなんですか?」
桜庭「すぐだよ」
佐藤の手を握る桜庭。
今度こそ本気で制止する佐藤。
佐藤「ユカさん、周りの人が見てます」
桜庭「見ててもよくない?」
佐藤「良くないと思います」
桜庭「冗談だよ」
佐藤の顎からエラをなぞる桜庭。
桜庭「夏樹さん、好きだよ」
佐藤「……うん」
桜庭「愛してる」
佐藤「……私も」
小声で囁き合う二人。
新幹線が富士山を背景に去っていく。
+++
佐藤、苺、翔、佐藤の両親、桜庭の5人で食事をしている。
翔「姉ちゃん、この料理美味しいよ」
苺「おねえ、これ、すっごくおいしいよ」
佐藤母「がっつかないで。いつも食べさせてないみたいじゃない」
佐藤父「夏樹、どうだい、仕事の方は」
佐藤「ええ、順調です」
苺「おねえ、またアニメの仕事するんでしょ?」
佐藤「まだわからないけど……」
翔「いいじゃん、やりなよ。俺も観てるからさ」
佐藤「うん」
佐藤の母「夏樹、あんた、まだそんな遊びみたいな仕事してるの?みっともないわよ。しっかりした会社に入りなさい」
佐藤「わかってるよ。もう少ししたら辞めるつもりだから」
佐藤の父「夏樹、お前には才能があるんだ。それを活かすべきだよ。お母さんの言う通り、真面目に働いて、結婚相手を見つけろ。そうしないとお父さんは安心できない」
佐藤「……はい」
佐藤の弟「桜庭さんとはいつ結婚するのかな?」
佐藤「……そのうちに」
佐藤の弟「なんだ、その曖昧な返事」
佐藤「ごめん……」
苺「そうだよ。早くしないとあたしがもらっちゃうよぉ?」
桜庭に流し目を送る苺。
桜庭「んー、それは困るなあ」
佐藤「……」
佐藤の妹「こんなイケメン捕まえちゃったもんねぇ。おねえ、どんな手使ったのぉ?ね、あたしさぁ、結構上手いんだけど、試してみるぅ?」
佐藤「こら、ユカさんに失礼でしょう」
苺「でも、本当に凄いんだって。今度一緒に寝ようよ」
桜庭「ハハハ」
佐藤(もう、ユカさんもなんで笑って済ませるの)
苺の頭を撫でる桜庭。
桜庭「苺ちゃんは可愛いですね」
佐藤の妹「えへへぇ」
佐藤「もう、ユカさんまで」
翔のスマホが鳴る。
翔「あ、ごめん、電話だ。もしもし」
席を外す翔。
桜庭「ご存じの通り、僕は障害者です。収入も多くありません。夏樹さんの幸せを考えるなら、僕は身を引く方がいいのかもしれません。でも、俺は…諦めたくない」
佐藤「ユカさん、私もあなたと一緒にいたいと思っています。私はあなたのことが好きなんです。愛しています」
桜庭「ありがとうございます。嬉しいなあ」
佐藤母「うふふふ、やっぱり男と女はいいわね。ねえ、パパ、夏樹は良い人見つけたんじゃない?」
佐藤父「ああ、そうだな」
桜庭「夏樹さん、僕と結婚してください」
佐藤「はい」
桜庭「夏樹さん、一生大切にします」
佐藤の手を握る桜庭。
佐藤の顔が赤く染まる。
桜庭「あっそうだ。これ言っても良いですか?『お父さん、娘さんを僕に下さい!』」
佐藤父「おい、りゃんくん、ちょっと待ちなさい」
桜庭「あっ、すみません!べ、別に夏樹さんは誰のものでもなく夏樹さんのものですよね!調子乗りましたすみません」
佐藤「大丈夫です。私もユカさんのことが好きですから」
佐藤父「夏樹、お前はまだ若い。結婚なんて早すぎるぞ!」
佐藤母「パパ、そんなこと言わないの。夏樹が決めたんだから応援してあげないと」
苺「そうだよ。おねえ、良かったじゃん」
翔「父ちゃん、姉ちゃんが選んだ相手だよ。きっと間違いないって」
桜庭「あの、お父さん、夏樹さんは僕の大切なパートナーで、家族みたいなものなんです。結婚を許してもらえないでしょうか」
佐藤父「しかしなあ……」
桜庭「お願いします。夏樹さんは素晴らしい女性です。僕なんかじゃもったいないくらいです。夏樹さんが望むことはなんでも叶えてあげたいし、夏樹さんのためになることは全てしたいと思います。どうか、夏樹さんとの結婚を認めていただけないでしょうか」
佐藤父「……」
桜庭「夏樹さん、お父さんから許しが出たら結婚しましょう。それまで待ってます」
佐藤「……はい」
桜庭「あ、そういえば今日は夏樹さんのお誕生日じゃないですか?おめでとうございます。これプレゼントです」
鞄の中から綺麗にラッピングされた箱を取り出す桜庭。
桜庭「開けてみてください」
佐藤「これは?」
桜庭「ネックレスです。実は俺が作ったんですよ。ほら、こうやって指に針刺しちゃったりしながら」
左手の人差し指に絆創膏が貼ってある。
桜庭「夏樹さんはいつも黒系の服が多いから、青系にしてみたんですけどどうでしょう?」
佐藤「……素敵です。ありがとうございます」
桜庭「いえ、喜んでもらえたなら嬉しいなあ」
苺「ねーねー。おねえの彼氏、指輪作ってくれるんでしょ?あたしにもつくってほしいなぁ」
桜庭「ハハ、いいですよ。また作りましょうか?」
苺「やったぁ」
桜庭「じゃあ、今度一緒に選びに行きましょう」
苺「うんっ」
苺は桜庭に抱き着く。
桜庭「苺ちゃんは甘えん坊ですね」
苺「えへへぇ」
桜庭「あ、もうこんな時間だ。すみません、僕そろそろ帰りますね」
佐藤「え、もう帰るんですか?」
桜庭「はい。明日も早いので。では、失礼します」
佐藤「あ、あの、ユカさん」
桜庭「何ですか?」
佐藤「その、来週もまた会っていただけませんか?」
桜庭「もちろんいいですよ。楽しみにしていますね」
佐藤「ありがとうございます」
桜庭「それでは、おやすみなさい」
佐藤母「あら、帰っちゃうの?泊まっていけば良いのに」
桜庭「はは、それはさすがに無理です」
佐藤母「まあ、残念。夏樹、もっとりゃんくんとお話ししたかったんじゃないの?」
佐藤「べ、別にそういうわけじゃ……」
桜庭「僕はいつでも夏樹さんのそばにいたいと思っていますよ」
佐藤「ユカさん!」
佐藤父「…桜庭豊くん」
桜庭「はい」
佐藤父「夏樹をよろしく頼む」
桜庭「はいっ!任せてください」
佐藤母「夏樹、出口まで送って差し上げなさい」
佐藤「わかりました」
佐藤桜庭は並んで歩く。
店の外に出る二人。
桜庭「あ、そうだ。忘れないうちに渡しておきますね」
佐藤「え、何をですか?」
桜庭は佐藤に婚姻届の入った封筒を渡す。
桜庭「結婚するときに必要になりますからね。僕の欄はすでに記入済みです。あとは夏樹さんがサインして判子を押してくれれば完成です」
佐藤「ユカさん……」
頭を掻く桜庭。
桜庭「…子供の頃から、僕は一生一人ぼっちだろうってずっと思ってました。僕を認めてくれる人なんてこの世にいないだろうって。でも、夏樹さんは、どんな時も僕を見捨てなかった。つらくて当たり散らしてしまった時も、優しく受け止めてくれた。僕は、本当にあなたに感謝しているんです。結婚という形が、あなたにとって最善かどうかは僕にも分からない。けど…僕にはあなたが必要だから…だからどうか、おばあちゃんになっても、ずっと僕と一緒にいてもらえませんか?」
佐藤「はい。喜んで」
キスする二人。
桜庭「またすぐに会いましょうね」
佐藤「はい」
桜庭「それじゃあ、おやすみなさい」
佐藤「おやすみなさい」
桜庭はタクシーに乗る。
桜庭は手を振る。
タクシーが走り出す。
佐藤「ありがとう。私の王子様」
佐藤、ネックレスにキスをする。
+++これより台本の「佐藤」を「夏樹」に変更、「桜庭」を「豊」に変更します。
桜庭家。
明るい室内で、観葉植物などがあり、白い壁紙。
リビングで仕事をする豊。
そこへ夏樹がやって来る。
夏樹「あの、お仕事中にごめんなさい。少しお話があるんですけど……」
豊「ん?何でしょう?」
夏樹は桜庭の椅子に座る。
夏樹「私、ユカさんとの子供が欲しいなと思っているのですが……」
豊「はい。ええ、大丈夫ですよ。もちろん僕も子育ては手伝いますし、甘やかしたりしませんよ。子供のためなら何でもします。一緒に頑張りましょう」
夏樹「そうじゃなくて……その、私たちの子供は、女の子が良いなって思うんです。それで、できれば、私とユカさんの名前を混ぜた名前を付けたいなあって……」
豊「ああ、なるほど。つまり、僕たちの可愛い娘の名前は『夏花』ということですね」
夏樹「は、はい!」
豊「夏樹さん」
夏樹「はい!?」
豊「…もしかして、子供が出来たのですか?」
夏樹「えっと……」
豊「何か心配事でも?それとも、体調が悪いとか?」
夏樹「いえ、そういうわけではないのですが、その、ユカさんは、私が妊娠すると嫌なのかと思いまして……」
豊「まさか!どうしてそんなことを?僕たちは夫婦なんですよ?あなたのことを大切に思っているんですから」
夏樹「そうなのですか?」
豊「当たり前じゃないですか」
夏樹「良かった……。実は、まだ誰にも言ってないんです。どうしようかなと思っていたら、なかなか言い出せなくなって……」
豊「本当に子供が出来たんですね?女の子なんですか?」
夏樹「はい」
豊「やった!やりましたよ夏樹さん!僕らの娘が出来るんだ。すごい!本当に嬉しいです」
夏樹「ふぇっ?」
豊「だって、僕たち夫婦の間に赤ちゃんが生まれるんですよ。こんなに幸せなことはないですよ」
夏樹「あ、ありがとうございます」
豊「あっでも女の子だからってまだ娘とは限りませんよね。体の性別が女性でも脳の性別は男性と言うこともある。これは妊娠中の母体のホルモンバランスが影響していると言われています。カフェインは厳禁ですよ!それから葉酸が良いんですよね?大変だ、妊娠中の体調について勉強しなくては」
慌てて立ち上がる豊を夏樹が食い止める。
夏樹「落ち着いてください」
豊「ああ、すみません。興奮してしまいました。障害を持って生まれる可能性も想定して先天性の病気についても学んでおかないと」
夏樹(ダメだこりゃ)
豊「でも、本当に、あなたに会えて幸せです。僕は世界一の果報者ですよ」
夏樹「ユカさん……」
豊「これから生まれてくるこの子は、きっと天使のような子になると思います。僕の大切な宝物。愛しいあなたとの間に生まれたかけがえのない命。この子を一生守ってみせる。必ず、幸せにしてみせます。ああでも、男の子も欲しいなあ。そうだ、男の子が生まれたら僕が育てよう。うん、そうしよう。よし決めたぞ」
夏樹「あの……」
豊「どうしました?」
夏樹「私のお腹の中には二人いるんです」
豊「えっ?」
夏樹「双子かもしれないんです」
桜庭「そ、それは本当ですか!?」
夏樹「はい。一人は女の子で、もう一人は男の子かもしれません。だから名前は、両方使えるようにしたくて」
豊「ああ、なるほど。そういうことでしたら、僕も賛成です。名前についてはまたゆっくり決めていきましょう。それより、辛くはないですか?僕は末っ子なので、妊娠のことはさっぱり分からなくて」
夏樹「今のところはまだ平気です。悪阻もほとんどありませんし。ただ、つわりがひどい人もいるみたいですけど」
豊「絶対に、絶対に無理はしないで下さいね。お願いしますね。もし、少しでも体調がおかしいと感じたらすぐに教えてくださいね」
夏樹「分かりました」
豊「あと、くれぐれも一人で行動しないように。外に出る時は僕と一緒に。買い物などは僕が行きますから」
夏樹「はい。よろしくお願いします」
夏樹(ユカさんのほうが倒れてしまいそう。この人は力の抜き方を覚えないとダメかも)
夏樹「ところで、仕事の方は大丈夫なんですか?」
豊「ああ!すっかり忘れてた!締め切り近いのに!」
夏樹「わ、私のせいでごめんなさい!」
豊「いえ、夏樹さんは気になさらないでください。それにしても、まさか双子だったなんて……」
夏樹「えっと、その、産むのやめたほうがいいでしょうか?」
豊「何を言っているんですか!そんなわけないでしょう!せっかく授かったのに!うーん……、でも、仕事を休むとなると事務所にも迷惑がかかるしなぁ……」
夏樹「やっぱり難しいですよね」
豊「ああ、そんな顔しないで。なんとか考えますから。こんなもの、人工知能に任せてしまえばいいんですよ」
豊はPCのディスプレイを弾きながら笑顔で言う。
豊「ちゃっちゃと終わらせてしまいますから、少し待っていてくださいね」
夏樹「ありがとうございます」
夏樹(ユカさんが喜んでくれて本当に良かった。旦那さんの中には妻の妊娠中に浮気する人がいるみたいだけど、ユカさんに限ってそれは無いと思う。だって、こんなに優しいんだもん。私は本当に良い旦那様と結婚したのよ。感謝しないと。ありがとう、神様)
豊「あ、そうだ。夏樹さんにプレゼントがあるんですよ」
夏樹「え?何ですか?」
豊「実はずっと前から準備していたんですが、なかなか渡すタイミングが無くって」
夏樹は小さな包みを受け取る。
豊「開けてみて下さい」
夏樹はラッピングを解く。中には銀色の懐中時計が入っていた。
夏樹「これって」
豊「前に言ってたじゃないですか。腕時計が欲しいなって。そしたら苺ちゃんが、これが似合うんじゃないかって。苺ちゃんはセンスが良いですね」
夏樹(え?ユカさん、私の知らないところで苺と会ってるの?)
夏樹の顔が青くなる。
豊「どうですか?気に入りました?」
夏樹「はい、もちろん。でも、高かったんじゃありませんか?これ、ブランド物ですよね」
豊「ああ、それは全然問題無いです。お給料日前だったので、ちょっとだけ節約して、奮発した感じで」
夏樹「そうなんですね。大切に使わせてもらいます」
豊「よかった。じゃあ、早く仕事片付けないと。夏樹さん、何か飲みたいものとかありますか?」
夏樹「あ、コーヒーをいただきたいです」
豊「ディカフェですね。分かりました。今すぐ入れてきますから、大人しくしていてくださいね」
夏樹「はい。ありがとうございます」
豊を見送った途端、顔が曇る夏樹。
スマホを取り出して苺にメールを書く。
『苺はいつの間にユカさんと会ったの?』
返信はすぐに来た。
『向こうから連絡してきたんだよ。最近、仕事忙しい?とか』
夏樹はムッとする。
『ユカさんのこと好きになったの?』
苺からの返事はない。
夏樹はため息をつく。
夏樹(苺も私と同じ気持ちなのかしら)
夏樹はまた苺にメールを送る。
『苺は私が妊娠している間、ユカさんと仲良くしていたんでしょうね。ユカさんのどこが好きになったの?』
苺からは相変わらず返信が無い。
夏樹は苛々しながら待つ。
豊が戻ってくる足音が聞こえてきた。
夏樹は慌ててスマホをしまう。
豊「はい、コーヒー。砂糖とミルクはいらないんですよね」
夏樹「ありがとうございます」
豊「それで、さっきの話なんですけど」
夏樹「は、はい」
豊「夏樹さんのお休みについてですよね。一応、事務所には話を通しておきましょう。夏樹さんの仕事量を考えれば、少しくらい休ませても文句は言われないと思いますし」
夏樹「本当ですか!?」
豊「ええ。あと、もし産休に入るなら、代役として苺ちゃんが良いかと思います。声も近いですし夏樹さんの出演作にも詳しいですから」
夏樹「そうですね。苺にお願いします」
豊「わかりました。じゃ、早速苺ちゃんに連絡しておきますね」
スマホを触る桜庭の腕を夏樹が掴む。
豊「夏樹さん?」
夏樹「あの、ユカさん」
豊「はい」
夏樹「……何でもありません」
豊「何かあったら遠慮なく言ってくださいね。僕たち夫婦なんだから」
夏樹「ありがとうございます」
豊「では、僕は仕事に戻りますね」
夏樹は豊がいなくなった後もしばらく動けずにいた。
夏樹(ユカさんは苺に何て言うのかしら)
夏樹(私にするみたいに、綺麗な笑顔を見せるのかな)
夏樹はコーヒーを口に含む。
夏樹(苦い。ブラックなんて好きじゃないのに。一体誰と間違えてるの?)
+++
苺がスタジオに入る。
苺「こんにちはー」
豊「苺ちゃんおはよう、これからよろしくね」
苺「はいっ♪よろしくでーす」
監督「本番いきまーす。3、2、・・・」
声優「『アハハハッ、僕に魔法が通じるとでも?ルウェルトスの刻印がある限り、スライム如きが触れたところで僕の体は溶けたりしないよ』」
声優2「『クソっ!なんで効かないんだ!』」
苺「『勇者様、ここは一旦退却しましょう。このままでは…きゃあああっ!』」
+++
収録が終了し、マイクを倉庫にしまう豊。
倉庫の入り口に苺が立っていることに気付く豊。
豊「わっ!苺ちゃんか。お疲れ様、すごく上手かったですよ。このまま声優になるのも良いかもしれませんね」
苺「えへへへぇ」
苺(桜庭さんってホントにカッコイイなぁ…。あたしだって一回くらい抱かれてみたい)
苺「ねぇ、桜庭さん」
豊「どうしたんですか?」
苺「この前、友達と一緒に飲みに行ったんだけどぉ、飲み切れなくてキープしてもらったの。いっしょにやっつけてもらえないかなぁ」
桜庭「えっ、僕とですか?それはあんまり良くないですね。苺ちゃんは妹とはいえ…男と女ですし」
苺(桜庭さん、ただ喋ってるだけなのに卑猥だよぉ。おねえには勿体ないくらい)
苺「え~、ダメなのぉ。あたし、酔っぱらうとすぐ眠っちゃうから、安心できる人と飲みたいんだよねぇ。桜庭さんしかいないの。お願いぃ」
豊「そう言う事ならまぁ良いでしょう。面倒なので夏樹さんには内緒にしていてくださいね?」
苺「やったぁ!」
豊(面倒なことになったなぁ…何もなきゃ良いけど)
+++
バーで乾杯する豊と苺。
豊「では乾杯」
苺「かんぱ~い」
お酒を飲む豊。
豊(これは強いな…数杯しか無理だ。やっぱり知り合いにも声掛けるべきだったか?でもそれも苺ちゃんに失礼だし。新しい妹とは仲良くしておきたい)
苺(ふふっ、桜庭さん、驚いてる。実は私ザルなんだよねぇ。酔わせてお持ち帰りすればこっちのものよ。今日は楽しませてもらおっと♪)
苺「今日の事、おねえには何て言ってきたんですか?」
豊「同僚と飲みに行くって言ったよ。嘘ではないもんね」
苺「桜庭さん、悪~い」
豊「冗談はよしてください。ほら、早く飲んでしまいましょう」
+++
数十分後。
豊「…でね、夏樹さんってば、本当に可愛くて。この間なんか、僕のために手料理を作ってくれたんですよ。これがまた美味しくてね。食べ過ぎちゃったから体重が増えてしまって。でも痩せたくないんですよ、夏樹さんの作ったものでできたこの身体の体積を減らしたくない…みたいな♡」
苺(は~、ノロケうざっ…こりゃつけ入る隙ないわ)
豊「僕はね、苺が好きなんですよ」
苺「へっ!?」
豊「美味しいですよね。小さくて可愛いし」
苺(な、なんだ、果物の苺のことか)
豊「だから苺ちゃんのこともなんだか愛着が湧いてしまうんですよねえ。あなたは覚えてないかも知れないけど、小さい頃は僕に懐いてくれていたんですよ。苺ちゃんのことは、本当の妹みたいに大切にしたいんです」
苺「桜庭さん……」
豊「苺ちゃんも、僕にとっては大切な存在なんです。だからこれからもよろしくお願いしますね?」
苺「桜庭さぁんっ!!」
豊の胸に飛び込む苺。
豊「わあっ!ちょ、ちょっと抱きつかないで下さいよ」
苺「好きっ!妹なんてイヤ、本当は恋人になりたいんだから。ねぇ、桜庭さん、あたしを抱いてくれない?」
豊「え…えっ!?い、苺ちゃん、早まっちゃいけないよ。そういうことに興味があるのは分かるけど…君はまだ学生だし」
苺「そんなの関係ないじゃん!桜庭さんはおねえのことが好きだから、諦めようと思ってた。だけど、あたし、桜庭さんが好き。子供の頃からずっと。おねえより、あたしにしてよ」
豊(参ったな。この様子じゃ本気みたいだ。本気の子をすげなく振るほど薄情じゃないし)
苺の頬を撫でる豊。ぴくりと震える苺。
そのままついーと顎の骨を刺激する。
苺「あ……っ」
艶っぽい声を出す苺。
豊(…はっ、いかんいかん。つい手が勝手に。苺ちゃんってこんなにおっぱい大きかったんだ…夏樹さんよりデカいな…じゃなくて!違うだろ!俺には夏樹さんが…しっかりしろ!)
咄嗟にテーブルの水をかぶる豊。
豊「苺ちゃん…!僕は夏樹の夫で、永遠の愛で結ばれているから…キスだけで勘弁してくださいっ!」
豊(キスだけならセーフだよな?性行為じゃないし!)
バーの清算して店を出る二人。路地裏で向き合う。
苺「桜庭さん、ありがとうございます。あたし、もう満足です」
豊「そ、そっか。あの、期待に応えられなくてごめんね。苺ちゃんは夏樹さんに似て可愛いし、俺なんかよりいい男いっぱいいるでしょう?頑張ってね」
苺「はい……さよなら、桜庭さん」
豊「待って」
苺の腕を掴む豊。
豊「送っていくよ」
苺のアパートの前。
苺「ここよ」
豊「じゃ、僕はこれで。僕にとっては大事な妹には変わりないから、これからも大切にさせてね。悪い男には気を付けるんだよ?じゃ、また職場でね」
苺の頭を撫でる豊。
苺「うん……。ばいばい、桜庭さん」
豊「ばいばい」
苺の頬にキスして去る豊。
苺「おねえ……あたし、桜庭さんのこと諦められないかも……」
+++
豊(ああ、やばかった。姉妹だから夏樹さんに似てるし、色黒なのも実際好みだしおっぱい大きかった。危うく触ってしまうところだった。キスしなくて正解だった…)
豊と夏樹の部屋。
豊「ただいま~」
夏樹「おかえりなさい、ユカさん。早かったですね」
豊「う、うん」
目をそらす豊。不思議そうに首をかしげる夏樹。
夏樹「どうしたんですか?」
豊「何でもないよ?夏樹さんこそ変わりはない?」
夏樹「ええ、特には。それより、お風呂沸いてますけど、入りませんか?」
豊「入る入る!いつもありがとね」
服を脱ぐ豊。シャツにキスマークが付いていることに気付き、慌てて脱衣所に駆け込む豊。
夏樹「あれ、着替え忘れたんですか?」
豊「ちっ、違うよ!!今着てるの洗濯するだけだよ!!」
夏樹「ふぅん。ユカさんの匂い、好きですよ。早く入ってくださいね」
豊「あのさ、夏樹さん」
夏樹「何でしょうか?」
豊「キスって浮気に入る?」
返事がない。
豊「あ、いや、その、してないけどね!?例えばせがまれたら1回くらいはしてあげても」
夏樹「はぁ」
ため息をつく夏樹。
脱衣所に入ってくる夏樹。
夏樹「あなたたち、そんな関係なんですか?最低ですね」
豊「…苺ちゃんのことだって分かったの?」
夏樹「キスマーク付いてましたからね」
豊「………ごめん。でも、これは無理矢理…」
夏樹「言い訳は結構です。出て行ってください」
豊「えっ、そ、そんな!夏樹、それだけは許して、お願いだ。もう苺ちゃんとは会わない。約束するから!ね?僕を嫌いにならないでくれよ……!」
夏樹「はい、出てって」
豊「いつまで?」
夏樹「ずっと」
豊「………分かった」
豊(潮時か。どだい僕に夏樹さんを愛する資格なんてなかったんだ)
豊「養育費は払うから…たまに子供たちには会わせてくれる?」
声が震えている豊、夏樹のお腹に手を当てる。
夏樹「何を言ってるんです?堕ろすんですよ」
豊「嘘だろ…?な、名前まで考えたじゃないか。堕ろすのだけは勘弁してくれ。俺、生きていけない」
夏樹「自業自得でしょう?」
豊「お願いします……夏樹さん…誓うから。もう絶対に浮気しない。去勢する。何でもするから……頼む……」
夏樹「はいはい。分かりましたよ」
豊「ありがとう……夏樹さん」
夏樹「ただし、条件があります」
豊「え」
夏樹「私と別れて下さい」
豊「…分かった。夏樹さん、今までありがとう。忘れないで。俺の一番は、ずっと君だけだから」
夏樹の頭を撫でる豊。
夏樹「さようなら」
豊「ああ」
豊(さよなら、僕の愛しい人)
出て行く豊。
夏樹(…あなたは優しい人。私が縛り付けることはできない)
+++
1年後。
汚部屋で寝ている豊が目を覚ます。
豊「…朝か」
玄関に夏樹の写真が置いてある。
指輪をはめる豊。
豊「行ってきます、夏樹」
写真にキスする豊。
バイクで出勤する豊。
撮影所。
ヘルメットを外す豊。
豊「おはようございます」
スタッフ「ああ、おはよ」
豊「今日もよろしくお願いします」
スタジオの廊下を豊が歩いている。
豊(そろそろ夏樹さんの出産日だ)
豊(ちゃんと食べているんだろうか)
豊(世話してくれる人はいるのだろうか)
豊(…あわよくば、僕を焦がれてほしい)
豊(子供に影響はないだろうか…)
苺「桜庭さん、おはようございます♪」
豊「また君か。もう僕に話しかけないでくれと言ったろ」
苺「えー、いいじゃないですかぁ。桜庭さんがあたしのこと好きなこと知ってますもん」
豊「はっ!?自惚れんな!!」
苺「あははっ、照れてるぅ」
豊「うるさい!」
豊(くそっ、調子狂う)
豊「もう君は妹でもなんでもないんだ」
苺「つまり、ただの後輩ってことですよね?先輩なら後輩に優しくしないと」
豊「……」
苺に壁ドンされる豊。
豊「おい、やめなさい」
苺「また探してる。おねえならここにいますよ」
豊「……お前は違う」
苺「桜庭さん、疲れてるんじゃない?休んでいきましょうよ」
豊「……離せ」
苺「ふふ。桜庭さん、顔真っ赤」
豊「……」
豊(この子は本当に苦手だ)
豊「夏樹さんは元気なんですか?」
苺「お姉ぇ?超元気ですよ。最近、子供が産まれたんです」
豊「……名前は?」
苺「うーんと、『夏花』と『勇樹』です」
豊「……そうか」
豊(会いたいな)
苺「…会わせてあげましょうか」
苺がにやりと笑う。
豊「ほ、ほんとか!?」
苺「キスしてくれたらおねえに会わせてあげます」
豊「俺は妻としかキスしない」
苺「もう奥さんじゃないのに?」
豊「ああ。彼女は俺の全てだ」
苺「じゃあ、一生独身ですね」
豊「それが俺の罰だからな」
苺「……つまんないの」
+++
病院。
夏樹がベッドに座っている。
苺「桜庭さんを連れてきたよ」
夏樹「……どうぞ」
豊が入ってくる。指輪は外している。
豊「夏樹さん…!体調はどうですか?」
夏樹「大丈夫だよ」
豊「よかった……。あの、これ、つまらないものですが」
豊がりんごの入った紙袋を差し出す。
夏樹「わあ、ありがとう。嬉しい」
豊「いえ」
夏樹「……あのね、ユカさん」
豊「はい」
夏樹「私、結婚するの」
豊「え……?」
夏樹「相手は……私の職場の同僚で」
豊「そ、れはめでたい。おめでとうございます!」
声が震えている豊。
豊「夏樹さんは美人で聡明だから、きっと俺なんかよりもっといい男を捕まえられると思っていました」
夏樹「そんなこと言わないで。私はユカさんのことがずっと好きだったんだよ」
豊「夏樹さん……」
夏樹「私が結婚したら、ユカさんは幸せになれるかな」
豊「…え?どういう…意味ですか?」
夏樹「だって、ユカさん、他に好きな人いるでしょう」
豊「ま、まさか、俺を諦めさせるために結婚するんですか?そ、そんなのおかしいです!俺は…」
夏樹「ごめんなさい。でも、もう決めたの。ユカさんには悪いけど、他の人と付き合うことにしたの」
夏樹に無理矢理キスする豊。
夏樹「んっ……!」
豊「……結婚はやめてください」
夏樹「……どうして?」
豊「あなたのことを愛してるから」
夏樹「嘘つき」
豊「本当です」
夏樹「……もういい。帰って」
豊「待ってください。話を……」
夏樹「聞きたくない!」
苺が夏樹を叩く。
夏樹「痛いっ!」
苺「おねえ、いい加減素直になりなよ。桜庭さんの愛は本物だよ。あたしじゃ駄目なんだって。桜庭さんは、お姉ぇのこと、本当に大切に想ってる。今は外してるけど、職場ではいつもおねえと交換した指輪を嵌めてるんだ」
夏樹「……うぅ」
苺「おねえも本当はわかってるんでしょ?桜庭さんはお姉のこと裏切ったりしないよ。ちゃんと話し合おうよ。お互いに謝ろうよ。…まぁあたしが引っ掻き回したんだけど。…おねえ、ごめんね」
夏樹「苺……」
苺「うん?」
夏樹「ありがとう」
苺「なんでおねえが謝んの?ウケる。桜庭さん、お姉ぇを許してあげてくれませんか?」
豊「もちろん。妊娠で気が立っていたんでしょう?僕も悪かった。まさかこんなに拗れると思ってなかった。お互いに疲れていたんだと思う。夏樹さん、あなたが許そうと許すまいと、もう僕は誰も抱かないし、あなた以外とはキスもしないと誓う。夏樹さん、キスしても良いですか?」
夏樹「……はい」
豊が夏樹の薬指にキスし、指輪をはめる。
豊「僕は本当にわがままだ。あなたには釣り合わないと分かっているのに、あなたが欲しくてたまらない」
夏樹「……私も同じ。私は罪深い人間だから、あなたと一緒になれないの」
豊「なら、罪人同士地獄まで一緒に行きましょう。僕はあなたと一緒ならどんな罰でも受ける」
夏樹「ユカさん……」
夏樹、泣きだす。
夏樹(ユカさんのことが好きすぎて、私どうにかなりそう……。)
豊「ああ、泣かないでください。出産で疲れましたよね?僕、もう帰りますからゆっくり休んでください」
立ち上がる豊を夏樹が掴む。
夏樹「行っちゃ嫌……。そばにいて」
豊「……わかりました」
苺、退出する。
豊「俺、べつに苺ちゃんのことが好きとかじゃないですよ」
夏樹「え……?」
豊「妹みたいに思ってるだけです。…でもそれが期待させることになったみたいで、言い寄られて困っていただけなんです」
豊(実はちょっと可愛いと思ってたけど、それを言うとまた怒りそうだから黙っていよう)
夏樹「そっか。良かった……」
豊「もっと気を遣うべきでした。流されやすいのは俺の悪い癖です。すみませんでした」
夏樹「ううん。私の方こそごめんなさい」
夏樹(ユカさんは優しいから、断れないだけなのに、私ったら勘違いしちゃって。恥ずかしいな。……あれ?)
夏樹、豊の頬に触れる。
夏樹「ユカさんのほっぺ、冷たいね」
豊「そうですか?夏樹さんの手は温かいですね」
夏樹「ユカさんのお顔、真っ赤だよ?」
豊「それは、夏樹さんが僕の手を握りしめているせいです」
夏樹「……ねぇ、もう一回キスしてもいい?」
豊「……はい」
夏樹、豊にキスする。
夏樹「やっぱり冷たい」
豊「……あの、夏樹さん」
夏樹「なぁに?」
豊「もしかして、子供嫌でしたか」
夏樹「どうして?」
豊「…最初から産みたそうじゃなかったから。分かっていたのに、僕は嬉しくて気付かないふりをしてしまいました。本当にごめんなさい」
夏樹「違うよ。逆だよ。嬉しいの。……すごく幸せなの」
夏樹、涙ぐむ。
夏樹「私、今、すっごく幸せ。……こんな日が来るなんて夢にも思わなかった」
豊「僕もです。子供たちは元気ですか?」
夏樹「うん。双子ちゃん。……ユカさんそっくり」
豊「…よかった。夏樹さん。僕はあなたに謝らなくちゃいけません」
夏樹「どうしたの?」
豊「僕は気持ちを伝えるのが下手です。あなたに『好き』とあまり伝えてこなかった。きっとこれからもうまく伝えられないと思う。高価なプレゼントとか、手作りの装飾品とか、きっとそんな形でしか示せない。子供たちにも、僕の気持ちは伝わらないかもしれない。逆に、僕のそういうところが遺伝したかもしれない。……それでも、あなたを好きでいても良いですか?」
夏樹「もちろん!私もユカさんに伝えてなかった。ずっと不安だった。本当に愛されているのか分からなくて、怖かった」
豊「ごめんなさい。本当にごめん。こんなときでさえ、どうしたらいいのか分からないんだ」
夏樹「……抱きしめてくれれば、それで十分だよ」
豊、夏樹の首に手を回して抱きしめる。
豊「ごめんね…夏樹さん、不安にさせてごめん。僕らの子供を産んでくれて、本当にありがとう。本当に本当に愛してる。だからどうか泣かないで」
夏樹「うぅ、りゃんさぁん!」
夏樹、泣き出す。
夏樹の頭を撫でる豊。
+++
新生児室。
夏樹と豊が入ってくる。
看護師「あら、双子ちゃんのお母さん、いらっしゃい。そちらは旦那さんかしら?おめでとうございます」
豊「はい、そうです。夏樹の夫の豊です」
看護師「赤ちゃんを見に来たんでしょう?二人とも、とっても可愛いわよ」
夏花と勇樹のベッドの前に来る3人。
豊「うわぁ…こんなに大きいんですね。二人も入ってて…夏樹さん、相当辛かったんじゃないですか」
夏樹「大丈夫だよ。もうほとんど治ったし」
豊「一番つらいときになんで側に居てあげなかったんだろう…自分のことばかりで、本当に情けないです」
夏樹「でも今は来てくれたでしょう?」
豊「はい……」
夏樹「ねぇ、見て。ユカさんと私の子たち。可愛いでしょう?」
豊「本当だ……あ、今目が合いました!どっちが勇樹でどっちが夏花?」
夏樹「えーっとね、右の子が勇樹。左の子が夏花」
豊「そうなんだ。よく分かりますね。さすがママです」
夏樹「ふふっ。この前、看護師さんに教えてもらったの。ほら、指をこうすると、どちらがどちらか分かるの」
豊「へぇ~すごい。……あれ?夏花のほうは泣いている?」
夏樹「ああ、こっちの子はちょっと人見知りなの」
豊「そっか。発達障害が遺伝してないといいな」
夏樹「うん、そうだよね。心配だし」
豊「発達障害は本当につらい。同じ辛さを味わってほしくない。私立に行かせるお金はないけど、僕、この子たちに出来る限りのことをするね。絶対不幸にさせないようにするね」
夏樹「……ユカさん」
夏樹、豊の袖を引っ張る。
豊「はい?……あっ」
夏樹、豊の頬にキスをする。
夏樹「ありがとう。私もユカさんを幸せにするね」
豊「……夏樹さん…もう俺は死ぬほど幸せですよ」
夏樹の額にキスをする。
豊「退院はいつなの?」
夏樹「明日」
豊「じゃあ、向こうの準備しないと…それとも今夜は側にいる?」
夏樹「今日はゆっくり休んでほしいかな。明日からまた仕事だろうし。それに、ユカさんのご両親も来てくださるみたいだから」
豊「仕事は休むよ。でもこういう時、男親ってほんとに無力だな…何か手伝える事はないの?」
夏樹「いいよ。私は平気。ユカさんは自分の家族を大切にして。私もユカさんの家族を大切にしたいから」
子供を見つめる夏樹を見つめる豊。
豊「そう言えばあの日も、あなたは何か言いたそうだった」
夏樹「……え?」
豊「俺、あなたの言葉をちゃんと聞かなかった。特に俺は鈍いから言ってくれないと分からないんだ。今日はここに泊まりたい。…だめかな?」
夏樹「うぅん、全然ダメじゃない」
夏樹、涙目になる。
豊「今日の夏樹、泣いてばっかりだ。俺、自惚れて良いのかな」
夏樹「……うん、良いよ。だって、ユカさんのこと、大好きだもん」
豊「夏樹…」
キスしようとする豊。
看護師「ダメに決まってるでしょう」
豊「うわっ!」
看護師「面会時間が過ぎたらお引き取り下さいよ。ここはホテルではありませんので」
豊「ちぇっ。じゃあ、それまでゆっくりしましょうか。家族四人で」
夏樹「うん」
+++
モルディブの結婚式場。
チャペルのベルが鳴り、花嫁入場。
ヴァージンロードを歩く夏樹と夏樹の父。
夏樹父「夏樹、お父さんの手を離すんじゃないぞ」
夏樹「はい」
夏樹父「……うむ」
夏樹父と腕を組みながらバージンロードを歩む夏樹。
参列者席には夏花と勇樹を抱えた夏樹母と苺や、その他の人物。
壇上には豊が待っている。
夏樹父「豊くん。夏樹は責任感の強い子だが、その分とても繊細でもある。どうか君が支えてやってほしい」
豊「もちろんです」
夏樹「パパ……ユカさん……」
夏樹、涙ぐんでいる。
神父「では、誓いのキスを」
夏樹と豊は向かい合う。
夏樹「ユカさん……大好きだよ」
豊「俺も大好きだ、夏樹」
夏樹、目を閉じ、唇を少しだけ前に出す。
夏樹と豊は、キスをした。
夏樹「愛しています」
夏樹、笑顔を見せる。
夏樹父、涙ぐむ。
+++
モルディブ。
夜。ホテルのバルコニー。
豊と夏樹が海を眺めている。
豊「なんか、夢みたいだね」
夏樹「うん」
豊「あの子たちの泣き声が聞こえないと、ちょっと寂しいな。ねぇ、ずっと前に聞いて教えてくれなかったことがあるけど。俺のどこが好きになったの?どうしても知りたいんだ。それが分かれば、君をもっと喜ばせることができるから」
夏樹「全部」
豊「全部だなんて、そんな馬鹿な」
夏樹「本当よ。でも、ひとつ挙げるとしたら、やっぱり優しいところかな」
豊「あと1個聞かせて」
夏樹「無理だよ」
豊「じゃあ1個でいい」
夏樹「うーん、そうだなぁ。まずは、顔。ユカさんの顔を見ているだけで幸せになれるの。それから、声。低くてセクシーだし、私の名前を呼ぶ時、ちょっと甘くなるのが素敵だと思う。それと、匂い。いつも爽やかな香水をつけていて、すごく良い香り。たまにタバコ吸ってるよね。それも好き」
顔が赤くなってくる豊。
夏樹「後、手。大きくてあったかい手が好きなの。手を握っていると安心するんだ。それに、お腹。触ると気持ち良くて幸せな気分になる。それから、髪。サラサラしていて綺麗。私は猫っ毛だから羨ましい。それに加えて、性格も良いし、仕事熱心だし、気配りもできるし、それに、とっても強い。私のことを守ってくれる」
豊「買いかぶりすぎだ」
夏樹「そうかな。まだまだたくさんあるよ。背が高いところとか、筋肉質でカッコイイ体してるところとか、大きな口開けて笑った時に見える白い歯とか、意外と子どもっぽいところがあるのも可愛いと思う」
豊「分かったよ、よく分かったよ。ごめんね、恥ずかしかったろう?」
夏樹「ううん、全然」
豊は照れ笑いしている。
豊「僕もあなたの声が好きだ。甘えてくる時の声が特に好き。僕を欲しがるときの切ない声はたまらなく好き。夏樹さんは滅多に甘えてくれないから、すごく興奮するんだ。それから猫目なところ。その目で見つめられると心臓を鷲掴みされたみたいになる。それから低音でよく響く声も好き。耳元で囁かれると参ってしまう。あと…前立腺を…いじってくれるのが好きです…」
豊は顔が真っ赤。
夏樹はわざと耳元で囁く。
夏樹「ユカさん、可愛い」
豊「うぅ…ほらね、やばいから、そういうの」
夏樹「あはは、ホントだ。もう、ドキドキしちゃった」
豊は、夏樹の手を握ったまま、海の方に視線を向ける。
豊「これから先、何があっても俺はあなたの味方だよ」
夏樹「うん」
豊「約束する」
夏樹「ありがとう」
豊は海を見ながら言う。
豊「そう言えば、俺の代わりに夏樹さんと結婚する予定だった男ってだれ?見当付かないんだけど」
夏樹「うふふ、それは内緒」
豊「まさかハッタリじゃないよね?」
夏樹は笑う。
夏樹「大丈夫だよ。今度会わせるよ」
豊「会いたい訳ないだろ!もうその男とは絶対会わないでくれ!」
後ろから夏樹に抱き着く豊。
夏樹「どうして?私が結婚するのはユカさんだけだもの」
豊「男は理性が飛びやすいの!危険なんだよ!分かってんのか!?」
夏樹「ユカさん以外、考えられないよ」
豊「でも結婚の約束までした」
夏樹「それは本当にごめんなさい」
豊「夏樹さんの浮気者」
夏樹のおっぱいを揉む豊。
夏樹「あっ、ちょっとダメだって」
豊「挿れないから。少しだけ遊ぼうよ」
夏樹「しょうがないなぁ」
豊「夏樹さんのおっぱい、大好き」
夏樹「触り方がいやらしい」
豊「ごめん」
夏樹「いいよ。その代わり、ちゃんと責任取ってね」
豊「もちろんです」
夏樹をお姫様だっこしてベッドへ運ぶ。
カーテンを閉める。
+++
数年後。
昼下がりの公園。
夏花と勇樹が遊んでいる。
夏花「お兄ちゃん、見てみて。ブランコ乗れるようになったの」
勇樹「すごいなぁ、上手じゃないか」
夏花は、はしゃぎながらブランコを漕ぐ。
勇樹はベンチに座っている。
夏樹「勇樹くん、お待たせー」
勇樹「ママ、お帰り。お疲れさま」
夏樹「はい、これあげる。お土産」
お菓子を貰う勇樹。
勇樹「わあ、ありがとう」
夏樹「勇樹くん、パパに似てきたね。ますますかっこよくなったよ」
勇樹「そうかな。ママは綺麗になったね。大人っぽくてドキドキする」
夏樹「本当?嬉しい」
勇樹「夏花は元気いっぱいだね」
夏樹「そうなの。毎日大騒ぎで大変よ」
勇樹「そうだろうねぇ。ぼくたち双子なのに、どうしてこんなに違うんだろう」
夏樹「うふふ、きっと性格の違いだよ」
夏花「おにいちゃん、おかあさん、あそんでる。わたしもいっしょにはしる」
夏樹「じゃあ一緒に走ろう」
3人で走る。
+++
病院。
検診を受ける双子。
医師「はい、ではレントゲン撮りますよ」
夏花は看護師に押さえつけられる。
夏花「なぁーん」
勇樹「痛いよ、看護師さん」
看護師「ごめんね、すぐ終わるから」
+++
看護師に呼び止められる夏樹。
看護師「お母さん、ちょっとお話が…」
夏樹が個室に連れていかれるとそこには精神科医が。
精神科医「精神科医の森田です。夏花ちゃんのことで幾つか質問してもよろしいですか?」
夏樹「はい、なんでしょう」
精神科医「偏食や、大きな好き嫌いはありますか?」
夏樹「いいえ、特にありません」
精神科医「大きな音は苦手だったりしますか?」
夏樹「いえ、全く」
精神科医「よくパニックを起こして泣いたりしますか?」
夏樹「はい、たまに」
精神科医は夏樹の目を見つめる。
夏樹「あの、私何かしましたでしょうか……?」
精神科医「夏花ちゃんは発達障害かもしれません」
夏樹「えっ、そうなんですか」
精神科医「とは言え重度ではありません。まだ診断がつく段階です」
夏樹「良かったぁ」
精神科医「ただ、早い段階で療育を考えた方が良いと思います」
夏樹「分かりました」
部屋から出る夏樹。
夏樹「勇樹くん、ちょっと良いかしら」
勇樹「どうしたの、ママ」
夏樹「実はね、夏花が発達障害かもしれないって言われたの」
勇樹「発達障害!?」
夏樹「勇樹くんの言う通り、早めの対処が必要だと思うの。だから一度、児童相談所に行ってみようと思っているのだけど」
勇樹「そっかぁ。分かった、行ってきなよ」
夏樹「でも勇樹くんはどうしよう……。勇樹くんも一緒に行く?」
勇樹「いや、ぼくは大丈夫。それにさ、もしも発達障害だとしたら、それはそれで構わないんじゃないかな」
夏樹「どういうこと?」
勇樹「夏花もママも僕が守るから」
夏樹「ありがとう、勇樹くん」
勇樹は笑う。
+++
帰宅する夏樹、夏花、勇樹。
夏花「ただいま、パパ!」
豊「お帰りなさい。2人とも手を洗ったかな?じゃあ、リビングに来てくれるかい」
勇樹「何があるの?」
豊「夏花が描いた絵を飾ってみたんだ」
勇樹は夏花の方を向く。
勇樹「ほらね、やっぱり才能あるんだよ」
夏花は照れる。
勇樹「夏花は将来、画家になれると思う」
夏花「ほんとう?うれしいな」
勇樹「うん!ママに似て、とても可愛い絵を描くよね」
夏樹「そうね。夏花は本当に可愛くて優しい子だものね」
勇樹「夏花、ぼくは夏花のことが大好きだよ」
夏花「おなかすいたよぉ」
豊「そうだね。じゃあご飯を食べに行こうか」
+++
夜、夫婦の寝室。
豊と夏樹がベッドに寝ている。
豊「夏花は発達障害だって?」
夏樹「うん。まだ確定ではないけど、もしそうなら早めに対処してあげた方が良さそうだと思って」
豊「確かに、その判断は正しいと思う」
夏樹「でしょ?」
豊「僕は2Eだったから良かったけど、彼女がそうとは限らないよね。夏花は絵が上手いけれど、その道だけに狭めてやりたくない」
夏樹「そうよね。夏花には色々な可能性があるはずだわ」
豊「僕は勇樹も心配だ。僕らが夏花にかかりきりになるほど、勇樹は寂しい思いをしているだろうし」
夏樹「私は、勇樹くんは大丈夫だと思うの」
豊「どうしてだい?」
夏樹「勇樹くんは、きっと誰よりも優しい子に育つと思わない?」
豊「どうかな。僕たちを恨むかもしれない。勇樹は君に似て頭が良いから、思い詰めないか心配なんだ。僕はなるべく勇樹との時間を作るようにするよ。だから、ママは夏花のことを頼むね」
夏樹「分かったわ」
+++
2年前。高校。
歩いている夏樹を豊が呼び止める。
豊「あの、佐藤夏樹さんですよね」
夏樹「はい、そうですけど……」
豊「僕は放送部の桜庭豊といいます。早速なんだけど、放送部に入るつもりはない?」
夏樹「えっ、私がですか……!?」
豊「うん。綺麗な声だと思って。ぜひ入部して欲しいんだ」
夏樹「ありがとうございます。でも私、人前に出るのが苦手なので、遠慮させていただきたいんです」
豊「そっか、残念。ああそうだ」
豊は雑誌を取り出す。
豊「これ、僕が書いた脚本があるんだ。良かったら読んでみてくれないかな」
夏樹「分かりました」
夏樹は雑誌を受け取る。
夏樹「面白そうですね」
夏樹は微笑む。
+++
放課後、演劇部。
舞台の上で夏樹が演じている。
夏樹「『私、あなたが好きです』」
観客「おおー!」
夏樹「『ずっと、あなたのそばにいたいの。ねえ、私の気持ち、伝わってる?』」
夏樹は演技を終える。
拍手が起こる。
豊が舞台袖から出てくる。
豊「素晴らしい!完璧だよ、夏樹さん」
夏樹「ありがとうございます」
豊「夏樹さんの声は、僕の想像以上だった。これからも練習に付き合ってくれるかい?」
夏樹「もちろんですよ。よろしくお願いします」
夏樹は笑顔で言う。
+++
数年後。カフェでコーヒーを飲む二人。
豊「ラプンツェルの母親はどうして彼女を閉じ込めたんだろう」
夏樹「きっと彼女は美しい娘だったのね。それで嫉妬したんじゃないかしら」
豊「ラプンツェルを見ていると、どうしても他人とは思えないんだ。これって変かな」
夏樹「いいえ、そんなことないわ」
豊「君はどう思う?どうして僕はこんなに彼女に惹かれるのか」
夏樹は微笑んで言う。
夏樹「それはね、きっと……」
夏樹「きっと、恋をしているからよ」
豊「恋?これが…」
夏樹「私は、自分の母に恋をしていたの」
豊「え?どういう意味?」
夏樹「母は美しくて、そしてとても愚かな人だった。だから、私は母のことが好きになったの」
豊「あなたもじゅうぶん綺麗ですよ」
夏樹「うふふ、お世辞を言っても何も出ないわ」
夏樹は楽しそうに笑う。
コーヒーを飲む豊。
豊「じゃあ、ラプンツェルも自分の母が好きだったんだね。だからなかなか家を飛び出せなかったんだ」
夏樹「そうかもしれないわね」
豊「僕の母も愚かな人なんだ。僕には分かる。だって僕は、母に似ているから」
夏樹「…………」
豊「母のせいで、父は死んだんだ」
豊の顔が歪む。
豊「母は父を裏切った。父が死んだ後、財産だけを奪って、姿を消したんだ」
夏樹「そうなの……」
はっとする豊。
豊「…ご、ごめん!つまらなかったよね。もう帰ろうか」
豊は立ち上がる。
夏樹「待ってください」
豊の腕を掴む夏樹。
夏樹「私、あなたのお話を聞いてみたいです。もっと聞かせてくださいませんか?」
豊「えっ、でも……」
夏樹「だめですか?」
豊「いや、ダメじゃないけど……。本当につまらなくない?」
夏樹「はい、全然」
夏樹はにっこりと笑う。
豊「……分かった、話すよ」
豊は椅子に座る。
豊「……僕の両親は駆け落ちして結婚したんだ。だけど父が浮気をして、結局離婚することになった。僕が物心つく前のことだから、あまり覚えていないけど」
夏樹「まぁ……」
豊「その後、母は新しい男を作った。それが、今の父の兄に当たる人だ。その人は母と不倫関係にあった。そして、二人は子供を作ってしまったんだ」
夏樹「……まさか」
豊「そうだ。君が想像している通りだ。生まれた子供は、母が引き取った。それが僕だ」
夏樹「……そんなことが」
豊「それ以来、父とは会っていない。だから、僕は父のことをほとんど知らないんだ。顔すら見たことがない」
夏樹「そうだったのね」
豊「母は、僕を引き取って育ててくれた。でも、愛はなかった。それはさながら塔の中に閉じ込められたラプンツェルのようだった。それでも、いつか外に出られる日が来るって信じてる」
豊は悲しそうに笑う。
豊「来年、京都の大学に行くことにしたんだ。母から離れられるし、もっと映画の勉強を本格的にしたいから」
夏樹「素敵な夢ね」
豊「ありがとう。でも、怖いんだ。もし母に見つかってしまったらと……」
夏樹「大丈夫よ。その時は私が守ってあげる」
豊「えっ?」
夏樹「ふふ、冗談ですよ」
豊「びっくりしたー」
豊は安堵の表情を浮かべる。
豊「こんなことまで他人に話したのは初めてだよ。夏樹さんは本当に不思議な人ですね」
夏樹「そんなことないわ」
夏樹(好きな人と少しでも長く一緒に居ようとしているだけの、姑息な女なだけよ)
豊「京都に行っても、連絡してもいいかな?たまにでいいんだけど」
夏樹「もちろん!」
夏樹は嬉しそうに笑う。
笑う豊。
+++
スタジオ。
バイトとして荷物運びをしている豊。
監督「おい新人!ボサッとしてねえで早く運べ!」
豊「は、はい!」
終業後、眩暈がする豊。
豊「うぅ……」
豊(ダメだ、こんな所でへたばるわけにはいかない。二度と家には戻らないんだから…)
豊「くそっ……」
壁に寄りかかる豊。
そのまま倒れる。
+++
病室。
夏樹が入ってくる。
夏樹「失礼します」
豊「あっ、夏樹さん」
夏樹「具合はどうですか?」
豊「うん、悪くないよ」
豊(本当は死にそうなほど辛いけど、彼女に心配掛けたくないし)
豊「…俺、大学も辞めて、実家に戻ることになった」
夏樹「……そう」
豊「夢は叶わないから夢なんだね。御伽噺のようには行かないね」
ぽろりと泣き出す豊。
豊「あれ、おかしいな。ごめん、なんか涙が出てきちゃった……」
夏樹「泣いたら楽になるわ」
豊「……ありがとう」
豊は泣く。
豊「ごめんなさい、ちょっとだけ胸を貸してください」
夏樹「えぇ、好きなだけ泣いてください」
豊「ぐすっ、ぐすっ……」
夏樹「よしよし」
夏樹は豊の頭を撫でる。
しばらくして、豊は落ち着きを取り戻す。
豊「……すみません」
夏樹「落ち着いた?」
豊「はい、もう大丈夫です。お見苦しい所をお見せしました」
夏樹「気にしないで」
豊「俺はもうニートだし、高卒だし、障害者だし、あなたとは生きる世界が違ってしまった。だから…さよなら」
夏樹(え?)
豊「……もう会わない方がいいと思うんです。お互いに」
夏樹「それは……」
豊「このままだと、あなたに依存してしまいます。そうなると、きっとお互い不幸になってしまう。だから、ここでサヨナラしましょう」
夏樹「……わかったわ」
豊「あ、でも、結婚式には呼んでくださいね?あなたの花嫁姿を見てみたいです」
夏樹「え、えぇ、必ず」
豊「楽しみにしておきます」
夏樹(…フラれちゃった)
夏樹は寂しそうに笑う。
+++
さらに5年後。
スタジオ。夏樹は声優となり仕事をこなしている。
夏樹「『先生、これは…殺人事件ですね!』」
声優1「『待ちたまえ。まだこの中に犯人がいるとは限らない』」
声優2「『そうよ!誰が犯人かなんてわからないじゃない!』」
+++
収録後。
豊が夏樹に水を渡す。
豊「どうぞ」
夏樹「ありがとうございます」
夏樹が豊を二度見する。
夏樹「あの、どこかで会ったことありませんか?」
豊「いいえ、他人の空似ですよ」
夏樹(絶対嘘!その声は桜庭さんだ)
豊「では、これで」
夏樹「待ってください!」
豊「何か?」
夏樹「私のこと覚えていませんか?」
豊「残念ながら、声優の知り合いはいませんね」
夏樹「私、佐藤夏樹といいます」
豊「知ってますよ、夏樹さん」
豊は愛しそうに言う。
豊「僕達は身分が違う。もう話し掛けないで下さい」
夏樹「私は桜庭豊のファンだったんですよ!」
豊の腕を掴む夏樹。
豊「ちょっ、夏樹さん…」
豊はため息をつく。
豊「こっち来て」
夏樹「えっ!?」
+++
物陰。
豊「僕だって会いたかった。だからもう紛らわしいことするのはやめて下さい」
夏樹(どういうこと?)
夏樹「ごめんなさい」
豊「僕もあなたのファンなんだ。嫌われたくない。だから、もう話しかけないで欲しい」
夏樹「わかりました。じゃあ、またいつか」
豊「分かってくれてありがとうございます」
夏樹「……でも、やっぱり話したい」
豊「ダメだよ。これ以上僕を勘違いさせないで」
夏樹(勘違いってどういう意味?まさか桜庭さんは…いや、そんなはずないわね)
夏樹「……そうね。さようなら」
豊「さようなら、応援してますよ」
夏樹は泣きそうな顔をしながらその場を去る。
+++
夏樹の家。
夏樹はスマホを取り出す。
夏樹「……もしもし」
豊「…声優って案外暇なんですね」
夏樹「今日はオフなんです」
豊「そうですか。僕も今日はオフですよ」
夏樹「え、本当ですか?偶然ですね」
豊「そうですね。ところで何か用事ですか?」
夏樹「……いえ、ただあなたと話したかっただけです」
豊「………」
夏樹「あ、すみません、急にこんなことを言って」
豊「別にかまいませんけど…良かったらカフェでも行きます?なにか…脚本を持っていきますよ…?」
夏樹「……はい」
夏樹は嬉しそうに返事をする。
夏樹(夢みたい)
+++
カフェにて。
向かい合って座る二人。
夏樹「本当に来てくれたんですね」
豊「えぇ、まぁ、せっかくだから……」
夏樹「ふふっ」
豊「それで、どんな話が聞きたいんです?最近は恋愛ものしか書いてませんよ、昔のような長編は体力的にキツいから」
夏樹「あなたが書いた物語ならなんでも読みます」
豊「……あなたとの恋愛を書いた作品でも?」
豊はテーブルに肘をついて俯いている。その顔は真っ赤だった。
それから睨むような真剣な目つきで夏樹をみる。
夏樹「もちろんです」
豊「夏樹さんって…もしかして鈍いんですか?僕は今、あなたに告白しているんですが」
夏樹「……え、あっ……えっと……はい」
豊「……キスしても良いですか?」
夏樹「はい!」
豊「冗談ですよ」
フッと笑う豊。
豊「もしかして知ってました?僕があなたを好きだってこと」
夏樹「いいえ」
豊「…じゃあ…夏樹さんは僕が好きってこと…?」
夏樹「はい!」
豊「……いつから?」
夏樹「初めて会った時からずっと」
豊「そんな前から?」
夏樹「はい!」
豊「だって僕が口説いてもぜんぜん、靡いてくれなかったよ」
夏樹「それは……恥ずかしくて」
豊「もしかして、冗談だと思われてたの?」
夏樹「はい。お仕事の関係上、そういうことは控えているのかと」
豊「あなたはそれで良かったの?」
夏樹「私はそれでも構わなかったわ」
豊「…僕があなたを好きになったのは入院した時だよ。あの日から僕はきみのことが頭から離れないでいるんだ。でも…落ちこぼれた自分には告白する資格なんて無いと思っていて……」
夏樹「そんなことありません!私だって、ずっとあなたのことを考えていました。あなたに会えない日も、あなたへの気持ちは募っていくばかりで……。だから、今日、こうして話せて嬉しい」
豊「夏樹さん」
夏樹「桜庭さん…」
豊か「ユカって呼んでください」
夏樹「はい、ユカさん」
豊「夏樹さん、俺の恋人になって下さい」
夏樹「はい!」
+++
現代。
夏樹、豊、夏花、勇樹は遊園地に来ている。
夏樹「ねぇ、ユカさん。どうして、この遊園地にしたの?」
豊「んー、なんか懐かしくなって」
夏樹「そういえば昔はよく来たよね」
豊「そうだね。まさかこんな関係になるとは思っていなかったけど」
夏樹「本当。でも、今は幸せ」
豊「うん」
お化け屋敷の前を通りかかる。
豊「あれ、お化け屋敷ができてる」
夏花「りおか、はいりたい」
勇樹「夏花、お化け屋敷がどんなところか知ってるの?」
夏花「うん?」
勇樹「怖いんだよ」
夏花「こわくないもん」
勇樹「ほら、手を繋いであげるから行こう」
豊「ちょっと待った。まずパパとママが下見をしてくるから、二人はここにいてください」
夏樹「えぇ」
豊「さ、ママ、行こう」
手が震えている豊。
夏樹(ユカさん、お化け苦手なのに。子供たちの前だと我慢しちゃうのね)
夏樹「大丈夫よ。パパ、無理しないで」
豊「ママ一人で行かせる男がどこにいるんです!?男には負けられない戦いがあるんですよ」
夏樹「ふふっ。わかったわ。それじゃあ、行きましょう」
勇樹「…パパ、頑張ってね」
お化け屋敷に手を繋いで入る豊と夏樹。
豊「うぅ……夏樹さん、やっぱり帰りません?」
夏樹「ここまで来て何を言っているのよ」
豊「いや、だって、ここのお化け屋敷って有名なんですよ。出るって噂だし。ほら、僕、こういうのダメじゃないですか。だから、その……手を握ってください」
夏樹「もう、仕方がない人ね」
ぎゅっと握られる手に安心する豊。
豊「ひぃっ!」
お化けが出てくる度に驚く豊。
夏樹「きゃぁぁ!!」
豊「ちょ、夏樹さん、いきなり叫ばないで。心臓止まるかと思った」
夏樹「ごめんなさい。つい、驚いてしまって」
豊「いいですけど。ほら、出口が見えてきましたよ」
夏樹「よかった。早く出よう?」
豊「はいはい」
外に出ると勇樹と夏花が待っている。
夏樹「あら、二人とも、どうしたの?何かあったの?」
勇樹「怖かった」
夏花「こわいのきらい」
豊「待ってるだけで怖がっているようじゃ、やっぱりまだあなたたちにここは早すぎますね。また今度来ましょう」
勇樹「うん」
夏花「うん」
夏樹の手を握って離さない豊。
夏樹「…ユカさん、手が痛いわ」
豊「あっ、すみません。でも、もう少しだけこのままで……」
夏樹「しょうがないわねぇ」
夏樹は優しく微笑んだ。
+++
夜、桜庭家。
子供が寝た後、テレビを見ている夏樹と豊。
テレビ「芸能リポーターの鈴木太郎です!本日はよろしくお願いします。今日はなんと五回目の浮気が発覚してしまった佐藤夏樹さんの特集をお送りしたいと思います!」
夏樹「私?」
豊「芸名が同じあっちの佐藤夏樹さんですね。僕の妻は浮気とかしませんし」
夏樹「当たり前でしょう」
豊「……とか言って実はちょっと火遊びしていたり?」
夏樹「し、してないわよ。ねぇ、それより、この番組のディレクターは誰だったかな」
豊(今、あからさまに話を逸らさなかった?まさか本当に浮気しているのか?)
豊「夏樹さん」
夏樹に詰め寄る豊。
夏樹「な、何?」
夏樹をソファに押し倒す豊。
豊「夏樹さん、前に年上がタイプだって言ってたし、職場には魅力的な俳優さんもたくさんいるでしょう?もしそうならちゃんと言ってくれないと」
夏樹「ちがっ、そういうことじゃなくて」
豊「じゃあ、どういうことなんです?」
夏樹の乳首をつねる豊。
夏樹「いたいっ!」
豊「答えてください」
夏樹「やだ、言わない」
豊「へぇ、言いたくないくらいイイコトを?僕にもしてくださいよ」
夏樹「だめっ、そこは弱いの。んぅ♡」
豊は夏樹のスカートの中に手を入れ、パンツ越しに夏樹の敏感なお豆を刺激し始める。
夏樹「あっ、そこぉ♡」
豊「もしかして感じているんですか。淫乱ですねぇ、ほかの男にもそうやって股を開いてきたんでしょう」
夏樹「そんなっ、こと、ないっ。あぁっ、だめぇ、おかしくなるぅ」
夏樹(こんなところ、子供たちに見られたら)
豊「ふぅーん。子供たちに見られるかもしれない状況で興奮するなんて、変態さんなんですね」
夏樹「違うの。これはあなたが無理やり。やめて、お願い」
豊「…本当に浮気してないですよね?」
夏樹「しないってば。しつこい男は嫌われるわよ」
豊「僕のこと、嫌いですか」
夏樹「……きらいじゃないけどさ」
豊「じゃあ、好きですか?」
切ない顔で夏樹に抱き着く豊。
豊「ねえ夏樹さん。浮気くらいしてもらってもいいんですよ。俺はときどきあなたが怖くなる。どこまで完璧なんだろうって」
夏樹「私は完璧なんかじゃないよ。普通の人間だよ」
豊「いいや、あなたほど完璧な女性はいません。…俺なんかと結婚してくれて、ありがとうございます」
夏樹の後頭部にキスする豊。
夏樹「こちらこそ、私を選んでくれてありがとう。……ねぇ、もう許してくれる?」
豊「もう少しこうしていたいな。朝まで」
夏樹「……少しだけよ」
夏樹は豊の背中に手を回した。
豊「『お嬢さん。あんな甲斐性のない男はやめて、僕と浮気してみませんか?』」
夏樹「『まあ素敵。あなたのような素敵な方に愛されたらどんなに幸せかしら』」
豊「『お嬢さん。あなたの旦那さんはきっと、お子さんの面倒もろくに見れませんし、家事だって満足にできません。それどころか、あなたをないがしろにして遊び歩くようなダメ亭主です』」
夏樹「『ひどい人!でも、その通りです。どうしてそれをご存じなのかしら?』」
豊「『僕はなんでも知っていますよ。お嬢さんのことをすべて知りたいのですから』」
夏樹「『まあ嬉しい。ねぇ、私のことは何でも教えてあげるわ。だからあなたも教えてちょうだい。が好きなもの、嫌いなもの、全部。そしてずっと一緒にいて頂戴。離れちゃ嫌よ?約束して』」
二人起き上がりながら話す。夏樹の首元にキスする豊。
夏樹「あっ♡」
豊「もちろんですとも。永遠に」
再びソファに押し倒される夏樹。
+++
やかんのお湯が沸く。
トースターが焼け、チンと音が鳴る。
豊がスクランブルエッグを焼き、それを皿に移す。
豊「よし、さあみんな、ご飯だぞ」
夏花「ママ、おはよう!」
夏樹「おはよう。ほら、席について」
勇樹「おはよう、パパ、ママ」
豊「おはよう勇樹。早く食べないと遅刻するぞ~」
勇樹「うん」
夏樹「じゃあ、いただきます」
三人「いただきまーす」
コーヒーを淹れる豊。
豊「はい、ママ」
夏樹「ありがと」
豊「今日もお仕事頑張って下さいね」
夏樹「えぇ」
夏樹はトーストにマーガリンを塗る。
勇樹「あのさ、母さん」
夏樹「なに?」
勇樹「父さんと喧嘩しないでよ。毎晩うるさいんだけど」
夏樹「……善処します」
勇樹「はぁ。まあいいや。ごちそうさま。いってきます」
夏樹「はい、いってらっしゃい」
夏花「お兄ちゃん、待って!」
勇樹「勝手にくれば」
勇樹は玄関から出て行った。
豊「勇樹、反抗期かな?」
夏樹「思春期にはよくあることよ。気にすることないわ」
豊「そうだといいんですけど……」
夏樹「大丈夫よ。それより、そろそろ行かないと」
豊「行ってらっしゃい。夏花もほら、忘れ物ない?」
夏花「はい!ママ、お弁当持った!水筒も!ハンカチも!ティッシュもある!歯ブラシも!お財布も!ふでばこも!……あ、ノートがない!」
豊「焦らなくていいからね。怒られても気にするなよ」
夏樹「そうよ。また買えばいいんだから」
夏花は靴を履いている。
豊「夏花」
夏花「うん?」
豊「学校楽しい?」
夏花「わかんない」
豊「そっか」
夏花「いってきまーす」
夏樹「はい、いってらっしゃい」
走っていく夏花。
夏樹「……はあ」
ため息をつく夏樹。
豊「どうしたの?元気ないみたいだけど」
夏樹「なんでもないわ。ちょっと疲れてるだけ」
豊「無理しないで。お薬飲みますか?」
夏樹「ううん、平気よ。私も支度しないと」
立ち上がる夏樹。
豊「僕がやりましょうか?」
夏樹「ありがとう。でも、自分でやるから。それに、たまにはゆっくりして」
夏樹の額に手を当てる豊。
豊「たいへん、すごい熱ですよ!」
大げさに驚く豊。
夏樹「嘘よ。もう、心配性なんだから」
豊「風邪は万病のもとです。今日は休んでください。さ、お薬飲んで」
夏樹「嫌よ」
豊「どうしてですか?」
夏樹「だって、あなたが休むじゃない」
豊「あなたのほうがよっぽど大切ですよ!絶対寝てもらいますからね!」
無理やり夏樹をベッドに押し倒す豊。
夏樹「きゃっ!?」
豊は夏樹の洋服を脱がせにかかる。
夏樹「ちょ、何するのよ!」
豊「看病です。ほら、おとなしく寝てください」
夏樹「分かった、分かりました!」
夏樹は大人しくなった。
豊「よかった。さ、お布団かけて。体温計持ってきます」
夏樹「えぇ……。ごめんなさい、手間をかけさせて」
豊「謝らないで。今日はゆっくりしてください。リラックスさせてあげましょうか?」
夏樹「結構よ。そんなことより、早く仕事を終わらせてちょうだい。私のために時間を使わないでほしいわ」
豊「あなたが寝たら仕事しますよ」
夏樹「……そう」
豊「おやすみなさい、夏樹さん」
夏樹「お休みなさい」
夏樹は目を閉じた。しばらくして、規則正しい寝息が聞こえてきた。
豊は夏樹の頭を撫でた。
+++
学校。
教室。夏花は授業を受けている。
夏花はノートにらくがきしている。
勇樹は後ろを向いて、夏花の様子を眺めている。
勇樹(あの子、本当に俺の妹なのかな)
先生「佐藤さん、聞いていますか?」
夏花「あっ、はい!」
慌てて前を見る夏花。ため息をつく勇樹。
勇樹(いらいらするなあ)
休み時間。夏花が遊びに来る。
夏花「お兄ちゃん、一緒に遊ぼう?」
勇樹「ダメだよ。勉強中だから」
勇樹は教科書を読んでいる。
勇樹「邪魔しないでくれるかな」
夏花「じゃあ、絵本読んで」
勇樹「い・や・だ!勉強できないじゃん!自分一人でやってよ」
夏花「お兄ちゃん、なんで怒ってるの?」
勇樹「はぁ?お前のせいでイラついてんだよ!」
夏花「どうして?」
勇樹「うるさいな!いいから帰れよ!」
夏花は泣き出した。
+++
桜庭家。
泣き疲れて寝ている夏花。
夏花を心配そうに見つめる豊。
豊(いつも出来の良い兄と比べられるのは苦痛だろうな…)
豊(やっぱり、得意な事だけやらせたほうが本人の苦痛が少ないだろうか?いや、でも…)
夏樹「ただいま」
豊「おかえり、夏樹さん」
夏樹「どうしたの?浮かない顔して」
豊「ん…夏花が学校で何かあったみたいで……」
夏樹「そうなの?」
豊「うん。勇樹と喧嘩したのかな。さて、ご飯にしますか、お風呂にします?それとも僕?」
夏樹「ユカさん」
豊「冗談ですよ~」
夏樹「分かってるわよ」
豊「ふふっ」
夏樹「ねえ、ユカさん」
豊「何ですか?」
夏樹「その……最近、私に冷たくないかしら?」
豊「え?」
豊(そうだったかな…夏花のことばかりで奥さんには気を配っていなかった……)
夏樹「私はユカさんの妻なのに、最近はあまり構ってくれない気がするわ」
豊(えええええ、このタイミングで奥さんのデレ期?どうしよう、正直キャパ超える)
夏樹を引き寄せて膝に乗せる豊。
豊「夏樹さん、僕は少し疲れてるみたいです。夏樹さんのおっぱいが欲しい」
夏樹「もう、仕方のない人ね」
豊「ありがとうございます」
豊は夏樹の胸に顔をうずめた。
夏樹「お疲れ様、ユカさん」
豊「ありがとうございます」
夏樹「さ、そろそろ寝ましょう」
豊「はい」
豊は夏花を抱きかかえて寝室に向かう。
豊「お休みなさい、夏樹さん」
夏樹「お休みなさい、ユカさん」
+++
豊、眼鏡をして検査結果を見ている。
豊「………はぁ」
夏樹「ユカさん、どうかしたの?」
豊「最近、体調があまりよくないんだ。大腸炎が再発したかもしれない」
夏樹「それは大変だわ!」
豊「きょうは一日横になってるよ」
夏樹「大丈夫?」
豊「ごめんね、せっかくのクリスマスなのに」
夏樹「いいのよ。ゆっくり休んで」
豊はベッドに入った。
豊「……ねぇ、夏樹さん」
夏樹の手を掴む豊。
豊「お願いがあるんだけど……」
夏樹「なあに?」
豊「あの…実は…」
豊が布団をはだくと、下半身が勃起していた。
豊「今日はずっと側にいてくれないかな?」
夏樹「もちろん!」
二人、深いキスをする。
豊は夏樹を押し倒した。
+++
翌朝、ベッドで目を覚ます豊。
豊「うう…調子悪い」
豊(調子が悪い時に性欲が強くなるのって何なんだろう)
豊はスマホを手に取った。
夏樹『おはよう。具合はどう?』
豊『うん。ちょっと熱っぽい』
夏樹『お大事に。お昼にちょっとした助っ人を呼んでおいたよ』
豊(助っ人?)
チャイムの音が鳴る。
ドアを開けると、そこには翔がいた。
豊「あ…翔くん」
翔「こんにちは、お義兄さん」
夏樹から送られてきたメッセージを見る豊。
夏樹『今朝、翔に電話したらどうしても来たいっていうものだから連れてきちゃった。これから二人で看病するから安心して』
豊「……えっと、どうしてここに?」
翔「病気が再発したって聞いたから手伝いに来たんですよ。お邪魔します」
豊の許可を得る前に上がり込む翔。
翔「お義兄さんは寝ててください」
豊「ありがとう、助かるけど、今日クリスマスだよ?恋人とかいるんじゃないの?」
翔「…あなたがそれ、言いますか」
豊「え?」
豊(え?どゆこと?)
豊「あ、ごめん。余計なお世話だよね」
翔「そうですね」
豊「……ですよね」
食事の支度を始める翔。
それをソファに寝転んで見ている豊。
豊(翔くんと二人きりになるの、初めてだなー…)
豊(なんか気まずい)
翔「何かリクエストあります?」
豊「いや、冷蔵庫にあるもの勝手に使っちゃっていいよ」
翔「じゃあ適当に見繕いますね」
+++
料理が次々と完成する。
豊「おぉ…」
クリスマスらしい豪華な料理の数々。
翔「食べれそうなら言ってください」
豊「ありがとう、すごいね」
翔「いえ」
豊「いただきまーす」
豊は箸を手に取り、料理を口に運ぶ。
豊「ん!おいしい!」
翔「良かったです」
豊「これ、どうやって作ったの?」
翔「それは……秘密です」
豊「そっか、秘密かぁ」
翔「姉が好きな料理が何か、知ってますか?」
豊「さぁ……」
翔「オムライスなんです。子供みたいでしょ」
豊「そうかな?僕も好きだけど…」
翔「じゃあ姉が一番好きなアイドルは?」
豊「……あ~あの…松潤?」
翔「違う。嵐じゃない。その前」
豊「うぅん……誰だろ?」
翔「じゃあ、姉が貴方と再婚する前、婚約してた相手は?」
豊「…………」
豊の顔が青くなる。
豊「…え?」
翔「姉たちから聞いてませんか?彼女たちは両親の実の娘じゃない。僕とは直接血の繋がりがないんですよ」
豊「……初耳」
翔「でしょうね。家族の中ではタブーになってる話だから」
豊「……そうなんだ」
翔は豊を睨みつける。
翔「本当は僕だって言うつもりなかった。姉がずっと隠してるんだから。でも、あなたを見ていると、なんだかイラついてきちゃいました」
豊「ご、ごめんなさい……」
翔は机から乗り出して豊に顔を近付ける。
翔「姉はずっと苦労してきたんです。継母と義父の顔色をずっと伺いながら生きてきた。ろくに青春も謳歌せず、はじめっから大人の仲間として扱われてきた。姉の気持ちを考えたことはあるんですか!?」
豊「う、うん……」
豊(夏樹さんは自分の話はあまりしない。夏樹さんの過去については何も知らない)
豊(このことは僕が知ってしまっても良かったのだろうか?)
翔「俺の夢は…そんな姉のことを少しでも楽にしてあげること。なのにその夢は…あんたに奪われた」
ギラついた目をする翔。
豊(この子は…夏樹さんのことが好きなのか…姉として…いや、異性として……)
豊「ごめん」
翔「謝らないでくれます?今さら」
豊「……そうだね」
翔「あなたが死んだら、俺が夏樹を幸せにするつもりだった。でももう待てない。あなたには死んでもらう」
豊「へ?」
突如、眩暈を覚える豊。
豊(ま、まさか…毒……?)
豊(夏樹さん……どうして……)
+++
豊の過去回想。
クラスメート「ほんと、桜庭って鈍感だよな」
クラスメート2「デリカシーがない」
クラスメート3「人を怒らせる天才だよね」
クラスメート4「わざとやってんじゃねぇの?」
クラスメート5「絶対友達いないよね」
豊(なんなんだよ……)
豊(僕はただ……普通に生きていきたいだけなんだけどなぁ……)
豊(それにしても……眠いな……)
豊(子供たちに………プレゼントを渡さなきゃ………)
救急外来。豊が運ばれてくる。
救命士「急患通ります!」
医者「すぐに手術室へ運んでください」
夏樹が豊にしがみついている。
夏樹「ユカさん、ユカさん!!」
翔「姉ちゃん、落ち着いて!」
夏樹は泣きながら叫ぶ。
夏樹「ユカさん!!死なないでぇ!!!」
夏樹は豊の手を握りしめる。
豊「……夏樹……さん」
ピーッという電子音。
看護師「心拍数低下!すぐに心臓マッサージを!」
心臓マッサージを行う救命士たち。
ボロボロと泣いている夏樹の背中を翔がさすっている。
+++
豊の夢の中。
豊、街の中を走っている。
クラスメートや、両親が逃げていく。
走っても走っても逃げられる。
豊「待って、みんな、置いていかないで!」
扉が閉まる。
豊「僕はここにいるよ!見捨てないで、置いていかないで…………っ」
崩れ落ちる豊。周りには誰もいない。
豊「うぐっ…ひくっ…死にたくない…死にたくないよぉ…ひとりぼっちで死にたくないよぉ………」
夏樹「泣いたら楽になるわ」
豊「……え?」
夏樹の声。顔を上げると優しい笑みの夏樹がいる。
夏樹「好きなだけ泣いてください、私が傍にいますから」
豊「夏樹………」
夏樹に手を伸ばそうとすると、夏樹の後ろから黒い手が伸びる。
黒い手に連れ去られる夏樹。
豊「夏樹!夏樹!!!!!」
手を伸ばして叫ぶ豊。
病室で目が覚める豊。
豊「………」
目の前には泣きじゃくっている夏樹。
その後ろで苦虫を噛み潰したような顔をしている翔。
夏樹「ユカさん、ユカさん……」
夏樹は豊の手を握る。
夏樹「お願い、目を開けてください……」
豊「夏樹さん……」
夏樹「……はい」
夏樹の目から涙が流れる。
夏樹「ユカさん、ごめんなさい……私のせいで……」
豊「……夏樹さんは何も悪くありません」
夏樹「でも私がもっと早く気づいてれば……こんなことにはならなかったのに……ごめんなさい……本当にごめ……」
豊「夏樹さんのせいではありません」
夏樹「……ユカさん」
翔「そうだよ、姉ちゃん。悪いのは僕だ。姉ちゃんからちゃんと豊さんのアレルギーについては聞いてたはずなのに、"つい、うっかり"しちゃって……次からは本当に気を付けます」
深々と頭を下げる翔。
豊「良いんだよ翔くん。次からは気を付けてね」
にこっと笑う豊。
翔「ユカさん……ありがとうございます」
ほくそ笑む翔。
豊「なんて、言うとでも思ったか?このクソガキ」
豊、笑顔のまま。
豊「悪いけどね、僕は悪意を向けられることには慣れているんだ。こんな時に備えて家には常に監視カメラが仕掛けられている。もちろんレコーダー付きでね。これが何を意味するか分かるな?」
翔の顔色が真っ青に変わる。
豊「君の言動はすべて録画してある。今後また同じことをすれば、君を社会的に抹殺することだってできる」
翔「あ……ああ……」
豊「悪いけど、まだ死ぬわけにいかないよ。僕には"生きる理由"があるんだから」
夏樹の手を強く握る豊。
翔「この…調子に乗りやがって…苺と浮気したくせに…お前なんか死ねばいい!」
夏樹「翔!」
翔「黙れ!俺をコケにした罰だ。このまま死んじまえ!!」
翔がナイフを夏樹に向ける。
豊「夏樹!!!」
豊は夏樹を突き飛ばす。
夏樹「ユカさん!!」
夏樹、思わず顔を逸らす。おそるおそる目を開けると、そこには血まみれの豊がいた。
豊「妻に触るな…彼女に手を出すなら、先に僕を殺してみろ」
夏樹「ユカさん、もう喋らないでください!」
豊「夏樹さん、愛してます」
夏樹「ユカさん……っ!」
豊「あなたを…愛しています」
夏樹「ユカさん、私もです!」
豊「良かった……」
豊の力が抜ける。
夏樹「ユカさん、しっかりしてください!ユカさん!!……ユカさん!!」
豊の夢の中。広大な草原。
夏樹、夏花、勇樹が遊んでいる。
こちらに気付き、3人が手を振る。
夏花「パパー」
豊駆け寄る。
夏樹「ユカさん!」
勇樹「父さん」
3人まとめて抱きしめる。
+++
キャンプ場。
ギターのチューニングをする豊。
その隣で夏樹はコーヒーを飲んでいる。
夏樹「そういえば、今日は退院記念日ですね」
豊「えぇ、そうですね」
夏樹「あの日、ユカさんが倒れた時は心臓が止まるかと思いましたよ」
豊「すいません、心配かけてしまって」
夏樹「本当ですよ。私を置いて逝かないでくださいね」
豊の膝に手を置く夏樹。
豊「大丈夫ですよ。まだまだ死にません」
夏樹の手を握る豊。
夏樹「ふふ。でも、無理はしないでくださいね」
豊「ええ、もちろん。お互いいい年ですしね」
ギターを弾いて歌う豊。
子供たちがやってくる。
夏樹は曲に合わせて歌う。とても上手い。
勇樹「夏花は多才だなぁ、どうやったらそんな綺麗に歌えるんだ?」
夏花「歌手になりきってうたえばいいんだよ」
勇樹「だから、それが難しいんだってば。ねぇ母さん」
夏樹「うーん。私はそういうの苦手だったから……」
夏花「ねぇパパ、『歌ってベス』やって!」
豊「よしきた!」
夏花「ママも一緒に歌おうよ」
夏樹「はいはい」
夏樹は立ち上がる。
夏花と何やら踊りながら歌う。豊伴奏。
そよ風が吹き、木々が揺れる。
子供たちは川遊びをしている。
豊「…森の中にいると、出会った頃を思い出します。僕達の学校は山の中にありましたよね」
夏樹「懐かしいですね。私が転校してきたばかりで、みんなにいじめられてた時、ユカさんが助けてくれたんですよね」
豊「えっ?そんなことをした覚えはないんですが。いじめられていたんですか?いつも一人でいると思ってたけど、そういうことだったのか」
夏樹「あはは。今となっては笑い話ですけどね」
豊「だから僕なんかに恋してくれたんですね。僕はとにかく実家から離れたくて、辺境の高校を選んだだけだったのに。僕にとって高校時代は、今も決して色褪せることなく思い出せるほど大切なものになっています」
夏樹「私も同じ気持ちですよ」
豊「夏花もあの高校なら楽しく過ごせるだろうけど、学費がなぁ……もっと稼げるようになれれば良いんですが」
夏樹「それは言わない約束でしょう。それに、今の学校だって楽しそうじゃないですか」
豊「そうですね。やっぱり、無理に絵の道に進ませなくてよかった」
伸びをする豊。
豊「僕も絵を描いていたことがあるじゃないですか。あなたにも何枚かあげたことがある」
夏樹「えぇ。どれも素晴らしい作品ばかり。あの頃のユカさんの絵が一番好きです」
豊「ありがとう。でも、本物の絵描きにはやっぱり敵わないよ。僕は勉強して勉強して、それでもやっと他人の物真似が出来るようになっただけ。夏花に同じ挫折を味わわせたくなかった。それだけなんだ」
夏樹「……」
豊「でも夏花は僕じゃない。これからどうするかは、夏花に決めてほしいと思ってる。もちろん勇樹もね」
花を摘んで子供たちと見比べる豊。
豊「ひとつだけ後悔があるなら、もっと女心を勉強しておけば良かったな。あの頃は『女なんて…』って思っていたから」
夏樹「私は今でも十分すぎるくらいに理解してくれていると思いますよ」
豊「…あなたはちょっと独特だから」
夏樹「あら。ひょっとすると、これは喧嘩を売っているのでしょうか?」
豊「まさか!褒めてるんだよ」
夏樹「では、お礼を言いましょう。ありがとうございます」
豊「どう致しまして」
豊は手を差し出す。夏樹はその手を握り返す。
2人は見つめ合う。
夏樹「私は幸せ者です」
豊「僕こそ。こんな素敵な奥さんと一緒になれて」
懐中時計を確認する夏樹。
夏樹「あっ、もうすぐでお昼ご飯の時間ですね。戻りますか」
子供たちが2人を呼ぶ声がする。
夏樹「行きましょう」
豊「うん」
子供たちの元へ行く。
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