[6分短編小説]NUCLEAR-原子力と核兵器と非核と研究者論文の謎を追え-
NUCLEAR-原子力と核兵器と非核と研究者論文の謎を追え-
2040年──全自動マンションsmart residence®︎に居る、短髪ダンディーな、50代の、男性の、カジノ・賭博分野審議官、パッシオに、世界各国のニュース番組が見れる、global news®︎の、一報が入る。
「ソル原子力研究、反逆派の、権威、レベリオー教授が、亡くなりました。」
パッシオは、瞳を閉じ、呟く。
「あの時の、爺さんか。」
2025年──レベリオー教授は、原子力の、危険性を、早くから、提唱し、学術会の、異端者として、学閥で、反逆派と呼ばれる勢力を、築いていた。
公官庁街、メディウムの、全自動防諜室、secret room®︎で、ソルの、諜報機関コミュニティが、開かれる。
"内情"内閣情報室の男が、告げる。
「報告通りだ。」
"公諜"法務省公安諜報庁の女が、指摘する。
「危険人物だ。」
"外情"外務省情報局の男が、口を開く。
「外圧も、掛かって居る。」
"警護"警察庁警護局の男が、言葉を発する。
「管轄署には、通知済みだ。」
"防調"防衛省調査部隊の男が、返す。
「下見は、して居る。」
内閣情報室の男が、呟く。
「邪魔だ。」
一同が、頷く。ソル諜報機関コミュニティーの、内部通報者が、公正取引委員会に、連絡する。大学も、文部科学分野担当審議官、カジノ・賭博分野審議官の、担当内だ。
臨海副都心、オーケアヌスの、審議院仮小舎で、審判長が、20代半ばの、ナチュラルストレートの髪型の、女性審議官、ウェヌスタに、話しかける。
「原子力研究者、レベリオー教授に、我が島国ソルの、諜報機関から、暗殺指令が下されている。事態は、危険な、状況だ。本件、ウェヌスタ審議官に、レベリオー教授の、保護と、敵対勢力への迎撃を、任命したい。」
ウェヌスタが、「分かりました」と言い、頷く。
30代後半の、短髪ダンディーな、精悍な、男性審議官、パッシオが、口を添える。
「俺も、援護に付きます。」
ウェヌスタと、パッシオで、レベリオー教授に、注意喚起に行く。学園都市ドクトゥスの、中庭で、2人は、レベリオー教授と、話していた。近付いて来た、スマート自動車、smart car®︎から、2人組の男が、降りる。ポロシャツに、カーゴパンツの、防衛省調査部隊の男が、身に付けた、smart globe®︎に、瞬間睡眠ハンカチ、sleep cloth®︎を持ち、接近する。スーツ姿の、内閣情報室の男は、接触硬質化インナースーツsmart suit®︎を付け、周囲を、見回して居る。パッシオが、ウェヌスタに、警告する。
「教授と、逃げろ。」
ウェヌスタと、レベリオー教授は、校内へ逃げる。内閣情報室の男が、苛立ちを露わにし、防衛省調査部隊の男に、言葉を漏らす。
「先走るなと、言っただろうが。」
防衛省調査部隊の男が「面倒だな」と吐き捨て、返答する。
「黙れ。」
内閣情報室の男が、返す。
「仲間割れは無しだ。議論は、始末してからだ。」
防衛省調査部隊の男が、パッシオを、掴もうとする。回避した、パッシオに、内閣情報室の男が、タックルし、パッシオは、吹っ飛ぶ。
内閣情報室の男が、パッシオを、押さえ付け、防衛省調査部隊の男が、ハンカチを、押し付けようとする。パッシオは、内閣情報室の男の、指を、噛み、片腕が、離れる。パッシオが、逃げる。内閣情報室の男が、口を開く。
「逃がすか。」
パッシオは、停車して居た、自動運転スマート二輪車、smart bike®︎の、格納庫である、メットインから、拳銃を取り出す。パッシオが、宣言する。
「動けば撃つ。」
防衛省調査部隊の男が、smart knife®︎を取り出す。パッシオが、防衛省調査部隊の男の、脹脛を、撃つ。内閣情報室の男が、防衛省調査部隊の男を、抱え「覚えておけよ」と告げて、去る。
2040年──オーケアヌスの、海洋遊歩道で、審議院仮庁舎へ向かい歩く、ウェヌスタに、前髪を上に上げた、ポンパドールの1人の女が話しかける。
「レベリオー教授の訃報、お悔やみ申し上げるわ。」
ウェヌスタが、問いかける。
「貴方は誰?」
「私は、ベルルムの諜報機関の、執行官、テネル。教授の意思は、生きて居る。ベルルムと、共同開発する前提で、貴方たちに、協力する。」
ウェヌスタが、続けて、質問する。
「協力とは?」
テネルが、回答する。
「教授の最終論文には、謎がある。謎を解く、鍵を、教えるわ。」
オーケアヌスの、審議院仮庁舎で、ウェヌスタ、17歳の公正取引委員会のカジノ・賭博分野審議官の、少女、マレ、17歳の、ホワイトハッカーの、少年、ウィンクルム、ボディーチェックをした、テネルが、最終論文を、見つめる。テネルが、呟く。
「鍵は、元素よ。」
ウィンクルムが、論文の、単語の、文字数を、数値化し、唸る。
「この教授論文の、文字総数、これは、元素周期表です。ある元素を、当てはめると、文章が、浮かぶ様になって居ます。」
ウェヌスタが、問う。
「どの元素?」
ウィンクルムが、頭を傾け、返答する。
「分かりません。118種類の、発見済元素を、全て、入力してみます。」
ウィンクルムが、元素を、入力する。
H(水素)、He(ヘリウム)、Li(リチウム)、Be(ベリリウム)、B(ホウ素)、C(炭素)、N(窒素)、O(酸素)、F(フッ素)、Ne(ネオン)、不一致。
Na(ナトリウム)、Mg(マグネシウム)、Al(アルミニウム)、Si(ケイ素)、P(リン)、S(硫黄)、Cl(塩素)、Ar(アルゴン)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)、不一致。
Sc(スカンジウム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Mn(マンガン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Zn(亜鉛)、不一致。
Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)、As(ヒ素)、Se(セレン)、Br(臭素)、Kr(クリプトン)、Rb(ルビジウム)、Sr(ストロンチウム)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、不一致。
Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Tc(テクネチウム)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Cd(カドミウム)、In(インジウム)、Sn(スズ)、不一致。
Sb(アンチモン)、Te(テルル)、I(ヨウ素)、Xe(キセノン)、Cs(セシウム)、Ba(バリウム)、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)、Nd(ネオジム)、不一致。
Pm(プロメチウム)、Sm(サマリウム)、Eu(ユウロピウム)、Gd(ガドリニウム)、Tb(テルビウム)、Dy(ジスプロシウム)、Ho(ホルミウム)、Er(エルビウム)、Tm(ツリウム)、Yb(イッテルビウム)、不一致。
Lu (ルテチウム)、Hf(ハフニウム)、Ta(タンタル)、W(タングステン)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Au(金)、Hg(水銀)、不一致。
Tl(タリウム)、Pb(鉛)、Bi(ビスマス)、Po(ポロニウム)、At(アスタチン)、Rn(ラドン)、Fr(フランシウム)、Ra(ラジウム)、Ac(アクチニウム)、Th(トリウム)、不一致。
Pa(プロトアクチニウム)、U(ウラン)、Np(ネプツニウム)、Pu(プルトニウム)、Am(アメリシウム)、Cm(キュリウム)、Bk(バークリウム)、Cf(カリホルニウム)、Es(アインスタイニウム)、Fm(フェルミウム)、不一致。
Md(メンデレビウム)、No(ノーベリウム)、Lr(ローレンシウム)、Rf(ラザホージウム)、Db(ドブニウム)、Sg(シーボーギウム)、Bh(ボーリウム)、Hs(ハッシウム)、Mt(マイトネリウム)、Ds(ダームスタチウム)、不一致。
Rg(レントゲニウム)、Cn(コペルニシウム)、Nh(ニホニウム)、Fl(フレロビウム)、Mc(モスコビウム)、Lv(リバモリウム)、Ts(テネシン)、Og(オガネソ)、不一致。
ウェヌスタが、問う。
「どう?」
ウィンクルムが「うーん」と困った様に、返答する。
「1つも、駄目です。」
テネルが、告げる。
「ならば、現地調査ね。反逆派の、教授の弟子たちに、ヒントを、求めるしかないわ。」
ウェヌスタ、マレ、ウィンクルム、テネルは、学問都市、ドクトゥスに、査察に行く。反逆派の、教授・准教授・助教授を集め、会議をする。6番弟子、セクス助教授が、話し出す。
「レベリオー教授の、研究動機は、奥様への、愛だったのかも、知れません。」
7番弟子、セプテム助教授が、補足する。
「地位や、名声より、新理論を話した時の、奥様の、喜ぶ顔が、嬉しかったのでしょう。」
1番弟子、ウーヌム教授が、感慨深く、声を出す。
「レベリオー教授は、奥様思いの、人でした。」
4番弟子、クァットゥオル准教授が、続ける。
「レベリオー教授の、奥様は、存命です 。」
3番弟子、トリア准教授が、口を、開く。
「レベリオー教授は、研究に、没頭し、夫婦の時間が、取れなかったのを、申し訳なく、思って居た様です。」
2番弟子、ドゥオ教授が、思い出す様に、語り出す。
「奥様の事を、研究以上に、嬉しそうに、話しました。」
5番弟子、クィーンクェ准教授が、付け加える。
「奥様は、孫に囲まれ、幸せなおばあちゃんだと、聞いて居ます。」
ウェヌスタたちが、大学を、去ろうとする時、1人の、若い男が、声をかけて来た。
「僕は、8番弟子の、博士オクトーです。レベリオー教授の、研究の、共通テーマは、奥様と、人類への、愛だと思います。何かの、ご参考になれば。」
ウェヌスタたちは、礼を言い、学問都市ドクトゥスを後にし、オーケアヌスの審議院仮庁舎で、再び、レベリオー教授の元素周期表に、取り組む。ウェヌスタが、知恵を絞り、答える。
「未知の、元素は?例えば、愛。」
ウィンクルムが、元素を入力しながら、返事する。
「Lo(ラブニウム)ですか。不一致です。L(ラブニウム)は...一致しました。」
暗号が、解読される。ベルルム語の、文章が、浮かび上がる。
「Sol will become world top nuclear weapon country(ソルは世界最大の核兵器保有国になるだろう。)」
一同が、息を呑む。ウェヌスタが「これが教授の願い!?」と驚き、戸惑う。
◇
2040年──政治街セナートゥスの、国会議事堂で、核武装の、答弁が行われ、自由国民党が、演説する。
「核武装しなければ、真の、独立は無い。」
国民党が、反論する。
「非核3原則を、守って来たからこそ、第三次世界大戦でも、最悪の状況を、防げた。」
革新の会が、質問する。
「では、永遠に、ベルルムの、核の傘に、居るのか?」
自由国民党が、追随して、声を出す。
「核無き世界は、理想論だ。」
革新の会が、畳み掛ける様に、問う。
「力の論理の、国際社会から、目を背けて、如何する?」
国民党が「だが」と前置きして、反論する。
「打てない核に、意味は無い。」
革新の会が、強弁する。
「保持に、意味がある。」
自由国民党が、重ねて、力説する。
「力無き正義は、無力だ。」
革新の会が、続ける。
「ハード・ソフトパワーは、合わさって、真の力を、発揮する。」
国民党が、問いかける。
「力の競争から、降りる事は、出来ないのか?」
革新の会が、回答する。
「優位性を、保てば、降りる事が出来る。」
国民党が、再び、質問する。
「優位性とは、軍事力か?」
自由国民党が、反対に問う。
「非武装中立で、居ろと?」
国民党が、弁明する。
「国是の、重武装中立と、核武装は、別だ。」
自由国民党が、続けて、問いかける。
「核武装の、タイミングを、逃したら、如何なる?」
国民党が、異議を、唱える。
「核武装前提が、おかしい。」
自由国民党が、力説する。
「核兵器から、目を、背けるな。」
国会中継を、見て居た、ウェヌスタが、言葉を、発する。
「議会は、紛糾している。」
同時刻──レベリオー教授の、弟子たち、8人から、公正取引委員会へ、教授の、パスワードファイルが、1人1個ずつ、合計8個、送られて来る。オーケアヌスの、審議院仮庁舎で、審判長が、カジノ・賭博分野審議官たちに、問いかける。
「パスワードファイルの、中身は、なんだろうか?」
ウェヌスタが、即答する。
「不明です。」
80代の、長老の、男性の、カジノ・賭博分野審議官、クレーメンスが、疑問を、呈する。
「新型核兵器の、設計図か?」
20代の、男性の、熱血漢の、若手の、カジノ・賭博分野審議官、ウィースが、返答する。
「核関連技術資料、だろう。」
パッシオが、話を変える。
「それと、核武装の審議で、国会は、荒れて居る。」
ウェヌスタが、指摘する。
「国民が、置いてけぼりよ。」
審判長が、問う。
「国民投票は、どうだね?」
ウェヌスタが、返す。
「議論が、円熟しないまま、国民投票になり、世論操作の結果、核武装になれば、ポピュリズムの、悲劇です。」
クレーメンスが、持論を、展開する。
「我が国が、第二次世界大戦後、貫いて来た、平和主義、2020年代からの、重武装中立方針に、核兵器は、馴染まない。」
パッシオが、問う。
「明けると、厄災が解き放たれると言う、パンドラの箱の、様なものか?」
ウィースが、回答する。
「開けない方が、良いのかも知れない。」
2日後──ウェヌスタ、マレ、ウィンクルム、テネルは、ドクトゥスで、反逆派の、教授・准教授・助教授・博士と、会議する。4番弟子、クァットゥオル准教授が、神妙に、言葉を発する。
「レベリオー教授の、懸念は、私たちの、島国ソルが、再び、戦争をする事でした。」
2番弟子、ドゥオ教授が、追加する。
「核武装の、破滅を、警戒して、居ました。」
8番弟子、オクトー博士が、感慨深げに、述べる。
「平和主義者、だったのです。」
1番弟子、ウーヌム教授が、懸念を、露わにする。
「レベリオー教授は、核拡散も、恐れて居ました。」
6番弟子、セクス助教授が、補足する。
「レベリオー教授は、核兵器と、真の、独立が、同じでは無いのが、分かって居ました。」
5番弟子、クィーンクェ准教授が、言葉を加える。
「軍拡競争の、先が、見えて居たのです。」
7番弟子、セプテム助教授が、思い出す様に、回答する。
「レベリオー教授は、自分の、理論で、新型核兵器が、作られる事を、危惧して居ました。」
3番弟子、トリア准教授が「教授は優しい人でした」と呟き、答える。
「レベリオー教授は、力の盲信者では、ありませんでした。」
ウェヌスタが、返答する。
「見るべきは、国サイド、司法・立法・行政の方では無い。国民サイド、つまりソルの、1億2千万人の、国民よ。国民は、核武装・戦争を、望んで居ない。」
1番弟子ウーヌム教授が、問いかける。
「それは、審議官としての、意見ですか?」
ウェヌスタが、返事する。
「私の、国民としての、意見よ。」
1番弟子ウーヌム教授が「良く分かりました」と答え、話し出す。
「レベリオー教授は、状況が、混沌とする事が、分かって居たのかも、知れません。」
ウィンクルムが、徐に、呟く。
「混沌?カオス状態?」
混沌という言葉から、何かに気付いた、ウィンクルムが、レベリオー教授の、最終論文の、暗号文を、ランダムに、無作為化し、説明する。
「教授の、パスワードファイルの、パスワードは、もしかすると、レベリオー教授の、メッセージを、ランダム化したものかも知れません。混沌とした、状況になった時に、このファイルがら開かれる様に、意図したのです。文字順序の、総計パターンは、文字増加で、指数関数的に増えます。レベリオー教授の、メッセージ、Sol will become world top nuclear weapon country(ソルは世界最大の核兵器保有国になる。) これを、無作為化すると、Sol(6パターン)×will(6パターン)×become(720パターン)×world(120パターン)×top(6パターン)×nuclear(5040パターン)×weapon(720パターン)×country(5040パターン)=約34京パターンです。これは、人間の手では、全てのパターンの、パスワードを、試す事は、不可能です。ただ一つだけ、方法が、あります。無作為化を、得意とする、量子コンピューターに、頼む事です。レベリオー教授は、人間の力だけでは、この問題を、解決出来ない事を、予期していたのかも、知れません。」
ウィンクルムが、工業都市アルテス・クアイストゥオーサイの、王立科学研究所、量子テクノロジーラボに、アクセスし、量子コンピューター、クォンタムに問い合わせる。
「クォンタム、力を、貸してくれないか?」
量子コンピューター、クォンタムが、答える。
「同時多発企業買収の時に、気付いた。君たちは、面白い存在だ。良いだろう。力を、貸そう。」
クォンタムが、約34京パターンの、パスワードで、教授の、弟子たちから、送られた、8つの、パスワードファイルを、解除する。ウェヌスタが「もしかして」と呟き、レベリオー教授の、弟子たちに、問う。
「貴方たちは、最初から、中身を、知って居たのね?」
1番弟子ウーヌム教授が「うむ、そうですよ」と返答し、説明する。
「我々、反逆派は、核武装を望む者に、教授の意思を、見せられません。誰に託すか、吟味していたのです。先程、国民は、核武装・軍国主義化を、望んでいないという、ウェヌスタ審議官、貴方の、1国民としての、意見を、お伺いして、確信しました。貴方たちなら、この技術を、正しく使ってくれる筈だと。」
2025年──オーケアヌスの、審議院の、帰りの、夜道で、ウェヌスタと、パッシオの、前に、Tシャツに、ハーフパンツの、警察庁警護局の男と、スーツ姿の、法務省公安諜報庁の女が、現れる。警察庁警護局の男は、スマート特殊警棒 、smart baton®︎を取り出し、法務省公安諜報庁の女は、拳銃を、構える。パッシオが、ウェヌスタに、告げる。
「逃げろ。」
ウェヌスタが、拒否する。
「嫌よ。」
警察庁警護局の男が、smart baton®︎で、パッシオの、頭部を、狙う。パッシオが、後ろ飛びし、左腕で、防ぎ、パッシオの、骨が、軋む。ウェヌスタが、法務省公安諜報庁の女の、左腕を、smart knife®︎で、切り裂く。法務省公安諜報庁の女が、ウェヌスタの、右肩を、撃ち抜く。負傷した、法務省公安諜報庁の女が、提案する。
「停戦しよう。」
パッシオが、頷く。2人組が、去り、パッシオが、ジャケットと、シャツを脱ぎ、ウェヌスタの、貫通した、銃槍に、生理用の、タンポンを、詰め、シャツを、巻き、止血する。
「手の掛かる、お嬢ちゃんだ。立てるか?」
ウェヌスタが、不服そうに、回答する。
「大丈夫。自分で立つわ。」
パッシオが、質問する。
「不満か?」
ウェヌスタが、返す。
「何の役にも、立てていない。未だ、貴方の相棒に、なれて居ない。」
◇
2040年──学問都市、ドクトゥスで、ウェヌスタ、マレ、ウィンクルム、テネルと、反逆派の、教授・准教授・助教授・博士との、会議が続く。レベリオー教授の、パスワードファイルを、1番弟子から、順に、解析していく。1番弟子、ウーヌム教授が、解説する。
「ファイルの中身は、非核関連技術です。教授は、この技術で、核兵器の、使用ハードルが、下がるのを、懸念して居ました。私が、渡された技術は①放射能汚染水除染フィルターnuclear filter®︎です。ホエイプロテインと、活性炭を、活用し、実験では、フィルター膜が、テクネチウム99m、ヨウ素123、ガリウム68など、医療分野で、使用される、放射性核種を、水から、効果的に、除去でき、1回の、濾過ステップで、成功率は99.8%です。」
ウーヌム教授は、続ける。
「また、放射性ヨウ素131・ルテチウム177を含んだ、病院排水を、サンプルで、試験し、両要素を、殆ど、除去出来ました。廃棄物量を、大幅に、減らし、放射性物質の、コンパクトな、乾燥固体保管が、可能です。大病院と、組んだ、放射性廃液濾過事業が、考えられ、2011年の、原発事故の、汚染水処理にも、活用可能です。」
ウェヌスタが、返答する。
「産学連携を、支援するわ。」
2番弟子、ドゥオ教授が、話し出す。
「私が、渡された技術は②放射能低減チューブnuclear tube®︎です。長さが、2.8mから、16.5mの、ポリエチレン製特殊形状チューブを、中心とし、構成される、管状デバイスを、地中鉛直方向に、一定間隔で、多数、埋設します。チューブ中に、放射性同位元素からら発生する、高速ポジトロン(陽電子)を集め、自然に、加速し、地表近傍の、土壌中の、放射性同位元素核に、集中的に、衝突させ、放射性核種崩壊を、加速し、放射能レベルを、弱められます。実験では、立入禁止区域内1haの土地に、約5000本の、nuclear tube®︎を、埋設しました。埋設1年後、地上から、5cm、及び、1mの、深さの、土壌・大気中放射能レベルを、測定したのです。土壌中の、137Cs、90Sr、241Amから、発生する、放射能レベル(Bq/Kg)は、1年前と、比べ、各35%、34%、70%低下し、大気中の、最大平均EDR等価線量率は、0.4μSv/hから、0.25μSv/hに、低下しました。今後、汚染除去の、詳細メカニズム・取得データ普遍性の、詳細検証・評価が、必要です。数万年単位の、期間を、要すると、考えられる土壌・大気の、完全原状回復が、約4年間で、実現出来ます。化学物質・土壌交換に、頼らず、放射能汚染を、解決可能で、海洋放出の、原発の、放射性処理水に、適用可能です。」
ウェヌスタが、支援を、約束する。
「デュアルサポートシステムで、研究多様性を、促進するわ。」
3番弟子、トリア准教授が、口を開く。
「私が、渡された技術は③放射能電気分解nuclear light®︎です。汚染水の、処理は、各方法が、開発されて居ます。トリチウムは、他の、放射性物質に、比べ、除去が、困難で、安全・高効率な、処理方法開発が、求められていました。汚染水に、炭化物粉末と、シリカ鉱石粉末を添加・撹拌し、水を、電気分解した、トリチウムの、減衰率が、約9.02%で、比較的高い、分離効率の、放射線物質分離技術として、応用が、期待されます。ペクーニアエ・コンメリクムの、産学技術研究センターとの、共同研究で、国際科学誌への、掲載後、企業と共同研究・社会実装を、目指して居ます。トリチウム疑似汚染水50リットルに対し、吸着剤で、籾殻などで、作った、炭化物粉末と、シリカ鉱石粉末を、加え、撹拌・循環しました。撹拌装置に、未粉末の、1cmから、2cmの、シリカ鉱石を、充填したドラムも、設置し、回転・循環させ、陰極に、ステンレス、陽極に、アルミニウムで、処理水を、電気分解します。水中の、トリチウム分子は、解離し、トリチウムイオン・トリチウム(水酸化物イオン)になり、撹拌・循環で、添加物が、吸着し、トリチウムが、吸着した、添加物は、電解処理で、電極堆積・回収出来ました。一連の工程を、2回繰り返した、処理水を、調べ、トリチウムの、減衰率が、従来より、高く、再現性も高いと、分かりました。」
ウェヌスタが、返事する。
「ネットワーク・ハブ形成を、支援するわ。」
4番弟子、クァットゥオル准教授が、説明する。
「私が、渡された技術は④放射能抑制剤nuclear protect®︎です。原発事故以降、各放射能問題への、対策が、行われ、土壌から、農作物への、放射性セシウム移行対策も、その一つです。農業現場における、土壌から、農作物への、放射性セシウム移行対策は、塩化カリウム施用が、推奨されていました。中和シュベルトマナイトを、用いた、放射性セシウム移行抑制剤を、開発し、放射性セシウムの、作物移行の、半減効果を、明らかにしました。中和シュベルトマナイトは、水質保全事業の、副産物で、各地で、大量保有されて居ます。放射能汚染土壌で、開発した、抑制剤を、用いて、イネ、サツマイモ、ハクサイ、カブといった、農作物栽培の、試験研究を、実施しました。今後、各土壌での、効果や、作物への、放射能移行抑制に関する、詳細メカニズム解明研究を、継続する予定です。ペクーニアエ・コンメリクムからら支援を受け、関連企業と、特許共同出願を、計画して居ます。中和シュベルトマナイトは、既に、別用途農業用資材で、市販され、放射能汚染を受けた、広範囲地域に、適用可能です。」
ウェヌスタが、回答する。
「特許出願・管理・活用推進を、支援するわ。」
5番弟子、クィーンクェ准教授が、声を発する。
「私が、渡された技術は⑤放射能元素変換nuclear change®︎です。重水素を使い、少ないエネルギーで、元素種類を変える、元素変換基盤技術を確立しました。原子炉・加速器を使わず、セシウムは、元素番号が、4つ多い、プラセオジウムに、変わるのを、実験で、確認し、放射性セシウム・ストロンチウムを、無害非放射性元素に、変換する、放射性廃棄物無害化処理の道を、開きました。大学の、先進技術研究センターで、実験し、厚さ数10nmの、極薄金属パラジウムと、酸化カルシウム薄膜を、交互に、積層した、多層膜に、変換したい、金属を付け、重水素を、透過させ、100時間で、元素番号2から、4、6多い、元素に、変換可能なのが、分かりました。セシウムは、プラセオジウムに、ストロンチウムは、モリブデン、カルシウムは、チタン、タングステンは、白金に変わります。セシウム元素変換率は、偏差は、ありますが、100%近いものもあり、元素変換の、ガンマ線も、微量検出し、詳細メカニズム・理論は、分かって居ません。低いエネルギーでの、元素変換は、常温核融合と、同じで、1億度超高温でなくても、核融合が起こり、過剰熱が、発生する現象を、再現しようと、世界中で、再現実験が、研究されました。当時から、研究を始め、途中から、エネルギー発生証明より、元素変換を、示すのが、実証容易と、考え、元素変換に、的を絞りました。元素変換・低温核融合を、テーマに、研究する、研究者・技術者を、各地から集め、研究したのです。」
ウェヌスタが、返す。
「基礎・応用研究補助金給付を、支援するわ。」
6番弟子、セクス助教授が、話を始める。
「私が、渡された技術は⑥放射性廃棄物無害化nuclear waste®︎です。原子力発電所から、発生する、放射性廃棄物の、LLFPを、短寿命核種変換し、無害化する、システムです。小型高速炉炉心周辺部分に、減速材と、LLFPを、配置し、中性子を、吸収、炉心部生成より、早いペースで、短寿命核種変換する、技術です。小型高速炉技術を、使用するため、早期展開でき、軽水炉からの、蓄積プルトニウム燃料に、消費し、将来的に、核軍縮の、解体核兵器プルトニウム有効利用も、可能です。使用済核燃料中には、核分裂生成物を始め、LLFPが、含まれ、既に、ソル国内で、使用済数万tonの、使用済核燃料が、保管されて居ます。ソル国内の、放射性廃棄物最終処分場の、建設は、最小限の、面積で、環境負荷最小化の、必要がありました。使用済核燃料には、LLFPが存在します。代表例は、セレン(Se-79 半減期30 万年)、ジルコニウム(Zr-93 半減期153 万年)、テクネシウム(Tc-99 半減期21 万年)、パラジウム(Pd-107 半減期650 万年)、スズ(Sn-126 半減期23 万年)、ヨウ素(I-129 半減期1570 万年)、セシウム(Cs-135 半減期230 万年)があります。このシステムは、生成量が、少なく、中性子反応性が、極端に低い、Sn-126を除く、6 種類の 、LLFP に対し、高速炉排出される、同位体組成で、実効半減期を、飛躍的に、低減します。高速炉炉心生成量より、多くの、LLFPを、無害核種に、変換することが出来ます。」
ウェヌスタが、支援を表明する。
「関連法案成立を、支援するわ。」
7番弟子、セプテム助教授が、詳細を述べる。
「私が、渡された技術は⑦放射線修復nuclear recovery®︎です。放射線で、生じた、DNAの、傷を治す、タンパク質機能を、放射線抵抗性細菌から、解明しました。放射線に、強い、細菌の中に、含まれる、タンパク質の、分子立体構造・機能発揮に、重要な、役割を、果たす、アミノ酸を、世界初、解明しました。放射線で、傷ついた、遺伝子を、修復する、タンパク質を、原子レベルで、正確に、捉え、放射線障害・がん化抑制医療への貢献が、期待されます。ヒトより、1,000倍以上、放射線に、強い、放射線抵抗性細菌、デイノコッカス・ラディオデュランスは、放射線照射で、生じる、DNAの、傷の、二本鎖切断を、効率良く、修復する能力を、持っています。この、細菌には、PprAと呼ばれ、DNAに、結びつく、タンパク質が、存在することが、知られ、PprAの、立体構造解明が、必要でした。高エネルギー加速器研究機構放射線研究施設と、超輝度光科学研究センター大型放射光施設の、X線を、用い、PprAの、立体構造を、解析し、8個の、PprAが、連なり、約40nmで、一つのユニットを、形成する、螺旋構造を、見出しました。PprAと、DNAの、結合の、様子を、分析し、DNAの、傷を、修復する機能を、発揮する、4つの、アミノ酸を、特定し、一般的タンパク質に、無い構造で、DNAを、引き伸ばすことを、示しました。放射線で、生じた、DNAの、傷の、修復メカニズム解明が、飛躍的に、進み、放射線障害・がん化の、抑制に、繋がるのが、期待されます。」
ウェヌスタが、即答する。
「学校法人に係る税制優遇適用を、支援するわ。」
8番弟子、オクトー博士が「私のは未だ未完成の技術で」と付け加え、詳細を明かす。
「私が、渡された技術は⑧放射能除去装置nuclear clean®︎です。この研究は、未だ未完成で、アルゴンプラズマのマイナーアクチノイド(Np、Am、Cm)と、核分裂生成物(Cs、Sr)分離研究、長半減期放射性排気部の、核変換短寿命化研究です。更に、強力磁場の、放射性物質・廃棄物の、高効率分離捕集研究、原発事故の、高レベル放射性廃棄物の、減容化手法確立に、資するものです。」
ウェヌスタが、微笑み、約束する。
「世界的研究教育拠点開発を、支援するわ。レベリオー教授の研究で、ソルを、再生する。」
マレが、補足する。
「私の方でも、産学連携、基礎・応用研究補助金、特許管理・活用推進、関連法案促進を、支援します。ウェヌスタさんと、連携します。」
テネルが、唐突に、宣言する。
「茶番は、ここまでだ。全員、動くな。」
2025年──公官庁街、メディウムの、全自動防諜室、secret room®︎で、ソルの、諜報機関コミュニティの、定例会が、開かれ、内閣情報室の男が、問いかける。
「停戦とは?」
法務省公安諜報庁の女が、苦虫を踏み潰した顔で返す。
「そんなものは無い。」
防衛省調査部隊の男が、問題を、提起する。
「負傷者が出て居る。」
警察庁警護局の男が「まぁ落ち着け」と、宥める。
「何時もの事だ。」
外務省情報局の男が、告げる。
「我々が出よう。」
内閣情報室の男が、宣言する。
「仕留めるぞ。」
フォンス郊外。ジャケットに、ジーパンの、外務省情報局の女が、路地裏で、通りすがりに、パッシオへ、暴言を吐く。女の言う事だと、パッシオは、気にしなかった。しかし、パッシオは、背後から、肩を、自動2連発射改造銃で、撃たれ、崩れ落ちる。外務省情報局の女は、崩れ落ちた、パッシオの、額に、改造銃を、向ける。無表情で、女は、引き金を、絞ろうとする。背後から、銃弾が、外務省情報局の女の、腰を、貫く。ウェヌスタが、拳銃を、構えて、立っていた。拳銃を、発射した、ウェヌスタが、自信を得た様に、微笑みながら、パッシオに、語りかける。
「貴方の、命を、救った。これで、相棒ね。」
2040年──ドクトゥスで、協力者だった、ベルルムの諜報部員、執行官テネルが、宣言する。
「お前たちを、全員、排除する。我々も、パスワードは、最初から、知って居た。私たちは、ソルの、再軍国化・核武装・戦争誘導が、目的だった。しかし、核の餌に釣られない、お前たちで、予定が、狂った。仲良しごっこは、終わりだ。」
ウェヌスタが、スマート弾拳銃、smart handgun®︎を取り出す。テネルが、自動4連発射スマート弾改造銃、quadruple handgun®︎で、ウェヌスタの、左肩を撃つ。背後から、スマート弾がテネルの、右肩を、貫く。パッシオが、smart handgun®︎を構え、立って居た。パッシオが「危ない所だ」と落ち着き払って、声を出す。
「ヴァニタスに、元同僚の、執行官テネルの噂を聞いて、やって来た。やはり、こういう展開になったか。」
テネルが、立ち上がりquadruple handgun®︎を、左手に、持ち替え、パッシオに、向ける。ウェヌスタが、テネルの、腰を、smart handgun®︎で撃つ。テネルが、倒れ込む。まだquadruple handgun®︎を、構えようとする、テネルに、パッシオが「諦めろ。次は両足を撃つ」と宣言する。
テネルが、諦めて、銃を置く。パッシオが、ウェヌスタに打診する。
「肩を見せろ。昔と、同じだ。2発被弾し、停弾して居る。」
パッシオが、ジャケットと、シャツを、脱ぎ、ウェヌスタの、銃槍に、タンポンを、詰め、ジャケットを、巻き付け、止血する。マレが、救急車を呼ぶ。
オーケアヌスの、夜の、海辺に、ウェヌスタと、パッシオが、立ち、海を見つめる。パッシオが、ウェヌスタに、問いかける。
「15年前、レベリオー教授は、未だ、60代後半だったな。」
ウェヌスタが、言葉少なく、返事する。
「そうね。」
パッシオが、続けて、問う。
「悲しんで居るのか?」
ウェヌスタが、返す。
「ええ。人の死は、悲しいものだわ。ねぇ、私たち、良い相棒に、なれたかな?」
パッシオが「勿論だ」という風に、ウェヌスタの、目を見つめ、ガッツポーズで、ウェヌスタに、返答する。
「お前は、自慢の相棒だ。」
ウェヌスタが、ほんのりと、頬を、緩める。パッシオと、ウェヌスタが、互いの片肘を、軽く、ぶつけ合う。そして、力強く、握手する。
パッシオは、ウェヌスタが、未だ、10代の頃、「新人の審議官です。宜しくお願いします。」と、最初に、挨拶して来た時の事を、思い出していた。こんな、お姉ちゃんに、何が出来るのかと、思ったが、幾たび、死にかけ、ウェヌスタに助けられるたび、彼女でなくてはならないという思いが、強くなっていた。あの時の、お姉ちゃんが、長い月日を、経て、本当に、強く、しなやかで、良い女になった。ウェヌスタも、最初に、パッシオに、会った時の事を、思い出していた。パッシオが、カードテクニックを教えてくれた時の事。負傷して、手当てをしてくれる時の事。その優しさは、20年前も、今も、変わらぬままだった。いつの間にか、自分の、相棒と言えば、パッシオ以外、思い浮かばなくなっていた。20年の、月日を経て、2人の、絆は、男女や、師弟関係を超え、強く、絶対に、途切れない、一つの、鎖に、なっていた。ウェヌスタは、その鎖が、自分を、束縛するもの以上に、心地よいと、感じていた。パッシオも、同じだった。2人は、最高の、相棒だ。正確には、20年を経て、生きる時も、死にかけの時も、共有して、最高の相棒になった。単なる、仕事仲間を、超え、お互いが、お互いでなければ、ならないと、強く思っていた。オーケアヌスの、海辺に、夜風が、吹き抜け、波が、静かに、揺れる。煌めく波は、2人の、長い道のりを、祝福するかの様に、キラキラ、キラキラと、輝いて、そして、夜の、夕闇に、いつまでも、いつまでも、乱反射していた。