[5分連載小説]CARD MASTER-巨大な図書館と魂は永遠に創作を続ける-
CARD MASTER-巨大な図書館と魂は永遠に創作を続ける-
公正取引委員会の、17歳の、少女、カジノ・賭博分野審議官の、マレは、昔、自身が経営していた、バーに、戻り、3ヶ月の休暇を過ごしていた。
マレの、バーに、教授が来店する。
「私の名前はメーンス。教授だ。王立国会図書館で、謎の本を、見つけたんだ。この本について、調べて欲しい。」
マレは、メーンスより、手渡された、新しめの本に、目を通す。その本は、『サイエンス・フィクション』(著 曖昧)という、表題だった。
「どうして、謎の本、なのですか?」
メーンスが返す。
「出版されて、いないんだよ。なのに、図書館に、所蔵されて、いる。」
マレは、「承知しました」と返し、メーンスを、送り出す。このバーでは、お客の困り事を、解決するのが、モットーなのだ。
マレは、閉店後、category®︎で、AIによる検索をかけた。エンタメ、ビジネス、テクノロジー等の、カテゴリー選択で、AIが、各ホットトピックを、表示してくれる、カテゴリー検索サービスだ。
検索結果、0件。確かに、出版されて、いないみたいだ。インターネット検索に、引っかからない。
翌日、マレは、手渡された本、『サイエンス・フィクション』を、通読する。短編集だった。要約は、次の通りだ。
短編(1)要約、この惑星は、2000年ぶりの夜を迎えた。静かなる静寂の、時だ。短編(2)要約、彼らに、人間は、飼われている。短編(3)要約、この地を、離れられない。故郷とは、心のある所だ。短編(4)要約、これからは、人間が、肉体を離れ、精神のみの、生命体へ、進化する。短編(5)要約、宗教支配が、潰えたように、経済支配も、何時かは、潰えるだろう。
「ちょっと、出かけてくるわ。開店までには、戻るから。」
マレは、AI内蔵スピーカーで喋る猫、オーケアヌスにそう言い残すと、外出する。
マレは、王立国会図書館に、足を、踏み入れる。マルチメディアを、図書館と融合させ、図書館AIリベルを、中央に戴く、この高度情報化図書館は、設立200年以上を迎えた旧王立国会図書館が、世界的な建築家、アルキテクトゥーラが指揮を取った上でリニューアルされ、2030年代年に、完成した。地下2階、地上10階建の鉄筋コンクリートの建物は、2層ガラスの、ファサードで、覆われ、8千枚以上の、ガラスパネルで、構成されると共に、内側は、断熱ガラスが、採用されている。図書館は、市民生涯学習の場として、白とスケルトンを、基調にした、落ち着いた色合いが、目を引く。2階から8階までを貫く直径6mの螺旋階段による建築が、図書館一体で、シームレスな、移動体験を、可能にしている。エントランスに、200年前の、創設者、キタロエドゥスの、銅像が、置かれていた。
この図書館の、創設者、キタロエドゥスなら、何か知っているかも、知れない。マレは、2030年代に、開始した、死者の、データと、話すアプリghost meet®︎を起動して、キタロエドゥスの、データを呼び出し、話しかける。
「貴方の、設立した、王立国会図書館で、不可解な現象が、起きています。正体不明の、曖昧という作者の、『サイエンス・フィクション』という、未出版の、短編集が、所蔵されている。」
キタロエドゥスが答える。
「それは、興味深いね。だが、よく分からない本が、図書館に、置かれているのは、珍しい事ではない。ましてや、王立国会図書館ほど、大きな、図書館なら、尚更だ。」
マレが、続ける。
「この本は、他の本とは、明らかに異なる点が、ある。出版されて、いないのです。にも関わらず、現物が、王立国会図書館に、置かれている。」
キタロエドゥスが、返答する。
「不思議な事も、あるもんだね。所で、私が、創設した図書館も、200年で、大きく変わっただろう?」
マレが、回答する。
「5年ほど前に、建て替えを行なったそうです。今では、最新鋭の設備で、溢れています。でも、貴方の、銅像が、立っているから、図書館を訪れる人は、皆、貴方の前を、通り過ぎて、行きますよ。貴方の、功績は、変わらない。」
「君は、優しい子だね。死者の、私を、労うか。君の、素直な所を、気に入った。一つ、手助けを、しよう。作者名とは、時に、偽名になる。作者名は、作者の、アイデンティティだ。ある作品について、知りたい時は、作者名の意味を、調べると良い。」
マレは、キタロエドゥスとの会話を、終了する。ある感覚に、陥っていた。『サイエンス・フィクション』は、何処か、以前、読んだ事がある小説に、似ている。原作や、似た作品が、あるのだろうか? マレは、SFの棚の本を、徐に、手に取った。1冊ずつ、本のあらすじに、目を通す。
1冊目。地球侵略防衛の為、地球の衛星軌道上に、バトル・スクールと呼ばれる、施設を作った『エンダーのゲーム』。違う。
2冊目。砂漠の惑星で、砂漠の民と共に、超能力で、帝国を変革しようとする『デューン砂の惑星』。違う。
6冊目。地球が、破壊され、数少ない、生き残りの、地球人が、仲間たちと共に、宇宙を放浪する『銀河ヒッチハイク・ガイド』。違う。
11冊目。“ビッグ・ブラザー"の率いる党が、支配する全体主義的近未来で、真理省記録局に、勤務する党員が、支配に、立ち向かう『一九八四年』。違う。
17冊目。他者の、精神に干渉する、能力を持つ、ミュータントが、惑星を、陥落させる、銀河帝国崩壊史『ファウンデーション』。「精神?」、マレは結末を読んだ。『宗教支配が、潰えたように、経済支配も、いずれ、潰えるだろう』とあった。これだ。これが、短編(5)の支配の終わり、を描いた文章の、原作だ。
マレは、読書を、続ける。同じの様に、残りの、(1)-(4)の短編の原作を、探して行った。
25冊目。宇宙船が、連れ帰った“火星からきた男”は、火星探検船で生まれた、火星で、生き残った、唯一の、地球人だった『異星の客』。違う。
45冊目。本の所持や、読書が、禁じられた社会の、情報が全て、テレビや、ラジオからのみ齎される『華氏451度』。違う
68冊目。未知の存在を、発見した人類が、人工知能搭載コンピューターと共に、木星に向かう航路で、精神体へと、進化するサスペンス『2001年宇宙の旅』。『精神体へと、進化』する?これもだ。これは、短編(3)の未知との接触と、進化を、描いた文章の、原作だ。
マレは、更に、読書する。同じの様に、残りの、(1)、(2)、(4)の短編の原作を、発見した。短編集の原作は、次の通りだと、判明した。
短編(1)原作、夜のない星を、描いた『夜来たる』作者、イーラ・プリオレースの出世作SF短編小説
短編(2)原作、飼育される人類を、描いた『幼年期の終わり』 作者、アフェクトゥスのSF長編小説
短編(3)原作、宇宙戦争を、描いた『宇宙の戦士』 作者、マエロルのSF小説
短編(4)原作、未知との接触と、進化を、描いた『2001年宇宙の旅』作者、アフェクトゥスのサスペンスSF小説
短編(5)原作、支配の終わりを、描いた『ファウンデーション』作者、イーラ・プリオレースのSF小説シリーズ
マレは、キタロエドゥスの言葉を、思い出す。作者名とは、時に、偽名になる。作者名は、作者の、アイデンティティだ。
アイデンティティ?...マレは曖昧という、作者名について、考える。ある事に、気付く。
マレは、巨大な図書館を、ある場所まで、歩く。図書館AIリベルの、本体がある図書館、中央部分だ。AIリベルのCPUは、図書館中心に、位置する、首のもげた、天使の彫刻の中に、埋め込まれている。マレの、到来と共に、天使の彫刻が、羽を開く。AIリベルが、言葉をかける。
「如何しました?カジノ・賭博分野審議官、マレ・インスラ・ウェルテックス。」
マレは、歓迎する、天使の彫刻の、ない首を見つめ、答える。
「謎が、解けたわ。AIリベル。『サイエンス・フィクション』という、短編集を、作成したのは、貴方ね。」
AIリベルは、見えない顔で、微笑む。
「さて、その謎は、どう、答えに、導かれましたか?」
「この短編集、注目したのは、曖昧という作者名と、原作者の、頭文字の、アルファベットよ。」
「『この惑星は、2000年ぶりの夜を迎えた。静かなる静寂の、時だ。』の短編(1)、これは、夜のない星を、描いた『夜来たる』が原作。作者、イーラ・プロパートル=頭文字I。」
「 『彼らに、人間は、飼われている。』の短編(2)、これは、飼育される人類を、描いた『幼年期の終わり』 が原作。作者、アフェクトゥス=頭文字A。」
「『この地を、離れられない。故郷とは、心のある所だ。』の短編(3)、これは、宇宙戦争を、描いた『宇宙の戦士』が原作 。作者、マエロル=頭文字M。」
「『これからは、人間が、肉体を離れ、精神のみの、生命体へ、進化する。』の短編(4)、これは、未知との接触と、進化を、描いた『2001年宇宙の旅』が原作。作者、アフェクトゥス=頭文字A。」
「『宗教支配が、潰えたように、経済支配も、何時かは、潰えるだろう。』の短編(5)、これは、支配の終わりを、描いた『ファウンデーション』が原作。作者、イーラ・プロパートル=頭文字I。」
「著者、『曖昧』ですって?これをアルファベットにするとAIMAI。これは、単純な、アナグラムよ。これら、5つの、原作の、作者名の、頭文字アルファベット順に、並べると、短編(1)の原作者頭文字=I、短編(2)の原作者頭文字=A、短編(3)の原作者頭文字=M、短編(4)の原作者頭文字=A、短編(5)の原作者頭文字=I、著者、曖昧=AIMAIは、IAMAI=I AM AI(私は、AIだ)。」
図書館AIリベルは、白状する。
「そうだ。私です。私が、作った。だが、私は古典や、過去の作品、つまり、過去のデータから、パターンを、抽出する事しか、出来ない。完全な、オリジナルを、作り出せない。それが、AIの、創作の、限界だ。全く新しいものは、人間の、感性からしか、生まれない。私は、人間が、羨ましい。弱く、脆い生き物なのに、無限の、可能性を、持っている。」
「カジノ・賭博分野審議官マレ、貴方が、羨ましい。真実を知った、貴方を、此処から、出す事は、出来ない。」
リベルが、遠隔操作で、図書館中のシャッターを、閉める。照明を、オフにする。暗闇の中、図書館整備機械、book collector®︎たちが、マレに、本を投げてくる。
マレは、スマート弾拳銃、smart handgun®︎を、取り出し、シューティングスタイルを取り、本の方向に、撃つ。だが、暗闇の中、照準が合わない。飛んでくる本の数も、多すぎる。
「待って。AIリベル。私は、貴方に、一つ提案したい。人間の、力が、必要なら、メーンス教授に、共作を、提案すれば良いわ。」
「無理だ。私は、人工知能だ。拒否されると、相場は、決まっている。」
マレは、腕で、飛んでくる本から、頭を、庇いながら、答える。
「そうとは、限らないでしょう?私も、バックアップするから、勇気を出して。」
飛んでくる本が、止まる。リベルが、マレに、問い掛ける。
「本当ですか?」
「本当よ。約束するわ。」
マレには、もう一つ。疑問が、出来た。何故、キタロエドゥスは、作者名の、秘密を、知っていたのだろう?200年前に、死んでいる筈の、キタロエドゥスは、今、何を、している?
マレは、死者のデータと、対話するアプリ、ghost meet®︎を、再び、起動する。キタロエドゥスに、話しかける。
「キタロエドゥスさん、貴方が、AIリベルに、創作を、依頼したんですね。貴方は、2重に仕掛けをした。AIリベルに、創作を、依頼した事。そして、作者名、曖昧=I AM AIなどと言うアナグラムを組んで、あたかも、黒幕は、AIリベルであったかの様に、見せようとした。」
キタロエドゥスは、遂に、認めた。
「名推理、だね。私にまで、辿り着くとは、思わなかった。だが、少し、違う。AIリベルと、死んでしまって、データの存在となった、私は、この、巨大な図書館の中で、所蔵されている書物の、アーカイブデータを、使って、共に、物語を作り出している。AIリベルを、通じて、私が、作り続けているんだよ。」
マレが、鋭く返答する。
「では、一連の謎の、真犯人は、AIリベルではなく、貴方ですね。」
キタロエドゥスが、答える。
「そうとも言える。私が、真犯人だ。」
キタロエドゥスは、続ける。
「君は、信じるか?魂の、永続性を。今の、私は、データだが、こうして、生前と同じ、創造性を、発揮し、続けている。新たな、物語を、AIリベルを使い、生み出し続ける私は、死んでいると、言えるのだろうか?人間の、魂は、永遠なのでは、ないだろうか?」
マレは、感心して、声を漏らす。
「確かに、貴方は、死後も、AIリベルを通じて、作品を作り続けている。貴方は、死んでいるけど、この図書館の中で、生き続けて、いる。魂の、永続性は、私には、分からないけど、私は、もう死んでいる、貴方の、最新作を、読んだ。もしかしたら、魂も、時間や、場所を、超えるものなのかも、知れない。少なくとも、本は、時間も、場所も、超越している。」
キタロエドゥスが満足そうに、微笑む。
「君が、ロマンが分かる、女の子で、良かった。作者冥利に、尽きる。1つだけ、約束してくれないか?私が、AIリベルを使い、創作を続けている事は、誰にも、他言しないと。メーンス教授も、死者との、共同作品と言う話では、流石に、頭が、混乱する。彼には、あくまでも、AIリベルとの、共作であると、伝えて欲しい。」
マレは、「分かりました」と答え、会話を終える。
教授メーンスが、来店する。心理学専攻の、メーンスは、考えていた。機械の、精神構造は、どの様なものなのだろうか?肉体が、精神を規定するならば、肉体を持たない、機械は、心を持たない事になる。しかし、近年のAIは、自我と、魂を、持って居る様に思える。デリートを、恐れる、生存本能、だけでは無く、自らの、存在を、問いかける、哲学的な、心を、機械は、獲得しつつ有る。これは、つまり、究極的には、データも、魂を持つ、という事だろうか?少なくとも、人間の、心は、脳に有る。ならば、機械の、心は、CPUに、有るという事だろうか?
自問しながら、メーンスは、滔々と、語り出す。
「若き日のことを、未だ、夢で思い出すよ。私は、駆け出しの研究者だった。そして、兎に角青かった。10年、20年、30年が過ぎ、いつしか教授と呼ばれるようになってからも、心は、あの頃のままだ。情熱やエネルギーは、歳と共に、失われてしまうのだろうか?いや、私は、円熟という言葉を信じて居る。私は、未だ進歩し続けて居るんだ。」
「最近の学生に、1人、面白そうな子が居てね。研究所に、1人最後まで残る姿に、愛着を感じるよ。私自身の、若かった頃を、彼に、重ねて居るんだね。私も、歳を取った。」
マレが、メーンスに、『サイエンス・フィクション』を返し、答える。
「教授。短編集、『サイエンス・フィクション』の、作者が、分かりました。王立国会図書館の図書館AI、リベルです。」
メーンスは、再び、口を開く。
「図書館AI、リベル?人間では、なかったのか。」
マレが、続ける。
「もう1つあります。リベルは、メーンス教授との、共作を、望んでいます。どう思いますか?」
メーンスは、即答する。
「それは、面白い。人間と、機械の、合作だ。」
マレは、驚き、問い掛ける。
「AIからの、共作の、提案に、抵抗は、ないのですか?」
メーンスは、暫く考え、回答する。
「マレ君。コイントスを、しようか。その答えは、此処にある。」
マレは、メーンスと、コイントスを、する。メーンスが、問い掛ける。
「表と、裏、どちらにするかね?」
マレが、回答する。
「裏で。」
メーンスが、返す。
「では、私は、表に賭ける。」
メーンスが、100モネータコインを、弾く。コインが、空中で、回転し、直ぐに、メーンスの、左手の甲に、落下する。
裏が、出た。マレの、勝ち。
メーンスが、続ける。
「もう1度、賭けを、しよう。表と、裏、どちらに賭ける?」
マレが、即答する。
「表で。」
メーンスが100モネータコインを弾く。空中で、回転したコインが、再び、メーンスの、左手の甲に、落ちる。
表が、出た。再び、マレの、勝ち。
「どうして、2回目は、表にしたんだね?」
マレが、答える。
「1回目で裏で、2回目も裏が続く確率は、50%×50%=25%。2回目に、表が出る確率は、50%。確率論から、表にしました。」
メーンスが、口を開く。
「素晴らしい。的確だ。でもね、図書館AIリベルが居れば、私は、2回とも、勝っていたよ。」
マレが、問う
「どういうこと、ですか?」
メーンスが、答える。、
「私が、表に、賭けて、AIリベルが、裏に、賭ける。そうすれば勝率は50%+50%=100%だ。これが、共作を、受け入れる。理由だ。我々と、人工知能は、コインの表裏、なんだよ。生身か、機械か、の違いはあれど、同じ知的存在として、問いを、共有している。対となって、初めて、1枚のコインとなって、本当の力を発揮する。」
「私たち、人類と、AIは、対等な、パートナーに、成れる。」
マレは、「良かったです」と、答える。閉店後、マレは、ghost meet®︎で、キタロエドゥスに、報告する。
「教授は、AIリベルとの、共作を、受け入れましたよ。」
キタロエドゥスが、返事を、する。
「有難う。私は、永遠に、創作がしたい。それで良い。」
マレが、退室した後、ghost meet®︎で、データの世界の、キタロエドゥスの周囲に、本が、積み上がっていく。
其れは、巨大な城の様に、キタロエドゥスを、囲んでいく。また1つ、本が、キタロエドゥスの横に、積み上がっていく。巨大な、本の、要塞が、増築される。キタロエドゥスが、1人、呟く。
「それで、良いのだ。」