[5分連載小説]CARD MASTER-取締役会は独立の理想に踊る-
CARD MASTER-取締役会は独立の理想に踊る-
今度の査察、energy社がある目的地は工業都市、アルテス・クアイストゥオーサイ 。2030年代に、開始した、高速旅客機、air speed®︎に、乗って向かった。
energy社へと続く、道の、海辺に、1人、立ちはだかる、人影が、あった。高速移動路フルフィウスで出会った、茶髪翠玉色の眼の謎の美女だった。謎の美女は、語りかける。
「超大国ベルルムは、この国がエネルギーで自立することを、許さない。私は、ベルルムの執行官、ヴァニタス・ミセリア・マエスティティア。私なのよ。car社から、何もかも、仕組んだのは。」
遂に、正体を表した、ベルルムの執行官ヴァニタス。car社から始まる、一連の事案の、糸を引いていた事を、吐露する。ベルルムの執行官とは、ベルルムの諜報機関の中でも、外国での、交戦権を与えられた、エージェントの、称号だ。マレたちの暮らす、島国ソルは、2030年代に、ソルベルルム同盟を、破棄し、永世中立国となって居るものの、2040年になった現在も、ベルルムの、諜報機関の影は、ソル全土に、及んで居る。マレの背後で、建設中の、hybrid plant®︎が爆発する。ネジや、ボルトが、空から、降って来る中、ヴァニタスが語り出す。
「この爆発は、貴女たちへの、贈り物よ。私たち諜報機関の役割は、幾つか、有る。先ず、情報収集。OSINT(公開情報からの情報収集)、HUMINT(人を介した情報収集)、SIGINT(通信・電子信号を傍受する情報収集)、IMINT(偵察衛星・偵察機による情報収集)、MASINT(化学変化調査による情報収集)。そして、もう1つは──戦闘、よ。」
《透過》
ヴァニタスが、姿を、消す。マレは、スマート弾拳銃smart handgun®︎を、構えシューティングスタイルを取る。ヴァニタスの姿が、見えない。四方八方から、声がする。
「私は、ナノマシンを、取り込んでいる。ベルルムで、ナノマシンを、注射しているのよ。知って居るでしょう?今の時代、ナノマシンを注入する事で、人間は、固有の、特殊能力を、発揮出来る。私の、特殊能力は──」
ヴァニタスが、姿を消したまま、マレの、背後から、サイレンサー付きスマート弾拳銃、smart handgun®︎で、マレの右肩を撃ち抜く。ナノマシンとは、0.1-100nmの極小の、機械装置、の事だ。
「──透過する事、よ。私は、透明人間。此れは、警告よ。貴女の暗殺許可は、未だ、出ていない。」
ヴァニタスは、倒れるマレを放置して、砂浜を歩き、去る。マレは、目覚めるとenergy社からほど遠くない病院の、ベットにいた。オーケアヌスが、口を開く。
「撃たれた、ショックで、気絶してしまったんだね。大丈夫、かい?」
「未だ、終わっていない。私に、出来る事をする。energy社の、記者会見を、開く。」
energy社の、取締役会が、始まる。この取締役会で、常務ソレルスか、専務プルーデンスの、どちらかが、代表取締役社長に、選任される。
代表取締役社長に選任されるには、取締役会で、取締役過半数の出席と、過半数の賛成が必要だ。
常務ソレルスが、話し始める。
「見ての通りです。ベルルムに逆らうから、hybrid plant®︎は、爆発した。既存のエネルギー戦略で、ベルルムに、従うべきです。ベルルムとの、共存共栄こそ、我が国の生き残る、唯一の策なのですから。」
多くの役員が、唸る。誰もが、ソルの、エネルギーでの、独立を望んでいるが、敵は、余りに、強大過ぎる。勝負あったかに、思われた。専務プルーデンスは、苦渋の、表情をする。
「それでは、これから、弊社、代表取締役の選任の決議を、致します。」
プルーデンスに、マレのenergy社、記者会見の中継の、一報が、入る。プルーデンスは、「待って下さい。此の中継を、見て下さい」と声を掛ける。一同は、holographic display®︎で、様子を、見守る
マレは、VR空間で、energy社の記者会見を、開いた。
ジャーナリストクラブだけではなく、VR空間で、任意の大衆も、記者会見に参加出来るようにした。マレは、記者会見で、ジャーナリストクラブと、VR参加の大衆に語りかける。
「私は、公正取引委員会直轄の審議員、マレ・インスラ・ウェルテックスです。私が、担当しているenergy社のhybrid plant®︎で、爆発事故が起きました。この事故は、任意のサイバー攻撃による、人為的なものと考えられます。」
「energy社は、2030年代から、風力、太陽光、潮流、複合発電人工島、plant island®︎でこの国のエネルギー問題を解決するスーパープラントを建設しています。エネルギー問題の解決と自立は、この国の、最重要課題の一つです。何人も、どんな国も、他国のエネルギー自立を阻む権利は、ない。」
「皆さんの力が、必要です。どうか、この国のエネルギー問題解決を図るenergy社の事を、見守っていて下さい。」
記者会見は、news watch®︎やour media®︎で取り上げられ、拡散された。news watch®︎は、2020年代に、リリースされた、Tverの様に、各チャンネルのニュースを集めた、動画配信サービスだ。
our media®︎は、2020年代に、開始した、フォローすると、フォローした人のオススメニュースを、解説付きで読める、Twitterのニュース版サービスだ。
プルーデンスが、常務ソレルスに、待ったを掛ける。
「こんな少女でも、頑張って居るんだ。我々が、負けて、どうするんですか!?」
ソレルスが、返す。
「しかしねぇ。現実を見たまえ。ベルルムは超大国で、我が国は、属国の様なものだ。敗戦国なんだよ。事実上の、宗主国に従うのは、君、敗戦国の、義務だよ。」
プルーデンスは、引かない。
「現実的な、対応策として、記者会見の結果、これから我が社には、反響と、同情が、集まる。我々は、無力ではない。我々、大人が、夢を語らずして、どうするんです。子供たちは、今も、夢も、描けない。こんな国に、誰がしたんですか!?我々が、夢を、描かなくて、どうするんですか!!」
ソレルスが、水を、差す。
「プルーデンス君、演説は、辞めたまえ。」
プルーデンスは、続ける。
「plant island®︎があれば、此の国は、エネルギー自立が、出来る。エネルギーを、輸入に頼らずとも、済む。此の国の、夢の、1つに、手が届くんです。」
ソレルスが、声を、荒げる。
「辞めろと、言って居るんだ!!」
プルーデンスが、答える。
「辞めません!!我々の手に、此の国の未来は、今、掛かっている。どうか、思い出して、下さい。未だ、若かった頃の、純粋な、願いを。我々が、夢を形にしないと、此の国も、子供たちも、永遠に、報われない。」
「あの少女を見て、私も、覚悟を決めた。私は、此の国のエネルギー自立に、これからも、人生を、捧げます。」
取締役会採決が、始まる。
取締役16名に対し、ソレルス7票、プルーデンス8票、で、賛成票が、割れた。残るのは、最高財務責任者タキトゥスの、1票だけだ。
ソレルスが、タキトゥスに、問う
「君は、分かっているね?」
タキトゥスが、返す。
「我々は、無力では、ない。」
ソレルスは、崩れ落ちた。
タキトゥスがプルーデンスに投票する。得票数9票、取締役の過半数の賛成の結果、専務プルーデンスが、energy社の次期代表取締役社長に、選任された。
取締役会後、プルーデンスは、マレに、ペン型のスマートフォン、pen phone®︎で、電話する。
「君の、おかげだ。我が社は、生まれ変わる。」
マレが、微笑み、答える。
「私は、ソルの、1億2千万人の力を、信じています。」
プルーデンスは、アルテス・クアイストゥオーサイの海辺を、1人、歩く。昔を、思い出していた。
未だ、新入社員で、営業をしている頃、お客さんを怒らせて、上司に激怒された。
30歳を過ぎて、転職するか悩んでいた頃、上司は、マレの前任のマスターが経営する、バー、ポルトゥスで、親身に、話を聞いてくれた。
子供が出来、子育てに追われ、何時しか、夢を追う事を、辞めてしまっていた。
プルーデンスは、海辺に転がっている、爆発した、hybrid plant®︎のボルトを、1つ拾い上げて、握り締め、夕暮れの、海を見つめ、呟いた。
「日は、また、昇る。」