[5分連載小説]CARD MASTER -自動運転カーチェイス-
CARD MASTER-自動運転カーチェイス-
取り囲んだ車は、後ろと、横から、マレたちの車に、体当たりを始めた。
マレが、再び、悲鳴を上げる。
「何が、起こっているの!?」
4台の車は、全て、無人だった。
old share®︎で、近くの空き車両が、マレたちの車を、自動追尾しているようだった。old share®︎は、2020年に、登場した、近場の、空いている中古車が、分かる、カーシェアリングアプリだ。
「この車たち、自動運転モードが、ハッキングされてる!!」
空き車両が、追跡して来る、と言う事は、自動運転が、ハッキングされて居る以外に、考えられない。
「俺たちを、内部告発の待ち合わせ場所に、行かせないつもりか!?」
追跡車両4台の、車種を、マレは、確認する。全て、car社の車だった
「こんな事が出来るのは、car社しか居ないわ。」
ハッキングされた4台の車の内、2台が、強く体当たりしようと、車間距離を、空けた。
オーケアヌスが、叫んだ。
「来るぞ!!」
accident®︎が、急カーブに差し掛かった事を、告げた。accident®︎は、2020年代に、リリースした、事故多発地帯に近づくと、注意表示をしてくれるアクシデント予防アプリだ。
navigation®︎が、報告する。
「この先、事故多発地帯です。」
マレは、やれやれと、言う風に、答えた。
「此処が、此のギャンブルの、最大の、山場ね。」
マレは、touch parts®︎でエンジン出力を、最大まで、引き上げた。touch parts®︎は、2030年代に、登場した、タッチパネルで、入力、性能を、切り替える事が出来る、自動車部品だ。
急カーブに差し掛かった。このタイミングを、マレは、逃さなかった。勇気を出して、マレは、一気にドリフトを掛けた。
マレたちの車は、ハイスピードで、カーブを、突破した。
体当たりしようとしていた後続の無人運転車2台が、曲がりきれずに、急カーブで、クラッシュした。
オーケアヌスが、慄く。
「おい、おい...嘘だろ!?」
バス車両5-6台を、自動運転で、擬似連結した、city train®︎が、側面より、飛び出して来た。
「city train®︎まで!!」
city train®︎は、マレたちの車を、押しつぶすように、横から、車間距離を、縮めてきた。
マレたちの車は、city train®︎に押されて、片側が、浮き上がっていた。
マレは、オーケアヌスに語りかける。
「このままだと、クラッシュする...!!オーケアヌス、car社の問い合わせ窓口に、繋いで。」
「どうするつもりなんだ!?」
マレが、声を荒げる。
「いいから、繋いで!!」
オーケアヌスは、自分の首に、付けられた、AI内蔵スマートスピーカー、smart necklace®︎の、Wi-Fiを通じて、car社の問い合わせ窓口に、マレを、繋いだ。
「此方は、car社お問い合わせ窓口です。ご用件は、何でしょうか?」
「審議官の、マレ・インスラ・ウェルテックスよ。貴社の、メインAIに繋いで。」
「失礼ですが、IDや、身分証明書はお持ちでしょうか?」
「審議官の、デジタルパスポートを、転送するわ。それを読み込んで。」
「審議官の、マレ様ですね。弊社の、メインAIに、お繋ぎします。」
car社の、メインAIが、出てきた。
「私はcar社のメインAIのロタです。マレ審議官、どうされましたか?」
「貴社の、無人運転車に、攻撃されているの。今すぐに、攻撃を停止して。」
「さて、何のことでしょうか?」
「私は、貴社の内部告発資料を、受け取りに行っているの。それが、妨害されているのよ。」
「仰る意味が、分かりかねます。」
「私が受け取る、内部告発資料が、マスメディアに流れれば、car社の存続に関わるわ。そうなっても良いの?」
car社メインAI、ロタが、提案する。
「貴方は、カジノ・賭博分野審議官、ですよね?私に、ギャンブルで買ったら、お力をお貸ししましょう。」
マレは、即答する。
「分かったわ。」
ロタが、続ける。
「ギャンブルは、ブラックジャックです。此のWi-Fi回線上で、私のプログラムで行います。貴方はプレイヤー(子)、私はディーラー(親)をやります。賭け金は、此の車両たちの追跡を、停止するかどうか、です。」
ブラックジャックのルールは、次の通りだ。
プレイヤーは、カジノディーラーよりも、カードの合計が、21点に近ければ勝利となり、配当を得ることが出来る。
但し、プレイヤーのカードの合計が、21点を超えてしまうと、その時点で負けとなる。
2~9までは、そのままの数字、10・J・Q・Kは、10点と数える。
Aは、1点もしくは11点のどちらに数えても、構わない。
ゲームが、始まる。
マレの、最初のカードは、❤︎K(絵札は、10とカウントする)。ディーラー側の、ロタの、最初のカードは、♦︎J(絵札は、10とカウントする)。お互いに10だ。
マレは、もう一枚、ドローする。
♠︎J(10)が、出る。
此れでマレの、カード合計は、20。十分強い。マレは、もう一枚、引く。
マレが引いたカードは、♦︎A(1とも11ともカウント出来る)。
❤︎K (10)+♠︎J (10)+♦︎A(1)=ブラックジャック(合計が21)だ。最強の、カードだ。
マレは、勝利を、殆ど確信した。
ロタが、褒める。
「凄い手札、ですねぇ。」
ロタが、カードを、引く。
♣︎A (1とも11ともカウント出来る)が、出る。
♦︎J(10) +♣︎A(11)=ブラックジャック(合計が21)だ。プレイヤー(マレ)と、ディーラー(ロタ)が同数の場合、ディーラーが勝つ。
マレは、ゲームに、負けた。
「惜しかったですねぇ。カジノ・賭博分野審議官」
マレが、指摘する。
「1回目で、2人とも、ブラックジャック(21)?少しも、惜しくないわ。私が、ブラックジャック(21)が出る組み合わせは25通り、全組み合わせ169通りで、割ると、確率は、約14.79%。貴方が、ナチュラルブラックジャック(2枚のカードで21)が出る組み合わせは8通り、全組み合わせ169通りで、割ると、確率は、約4.73%。2人とも、ブラックジャックになる確率は、14.79%× 4.73%=0.69%よ。貴方、プログラミングを弄っているわね?」
ロタが、悪びれもせず、答える。
「私の、プログラム上で、ギャンブルして居る以上、幾らでも、確率を弄れるのですよ。オンラインカジノと、同じです。お望みならば、私は、100回連続、ブラックジャック(21)も、出せます。マレ審議官、貴方は、勝算のない、戦いを、していたのですよ。」
マレは、舌を巻いた。しかし、一つだけ、気付いた事があった。勝算のない、戦い...?危機的状況の中、マレは、機転を、効かせた。
「勝算のない、戦い?其れは、貴方よ。内部告発資料がマスメディアに漏れた場合、一大カジノスキャンダルに、なる。car社の経営は、傾くわ。その場合、この資料受け取りを邪魔した、AIロタ、貴方は、責任を、追及される。最悪、貴方の、電源は、停止されるわ。貴方の、自己存続に関わる。」
ロタは、驚く。
「私の、自己保存プログラムを、起動させようというのですね。分かりました。貴方の要求を、飲みましょう。追跡車両を、停止させます。認めましょう。貴方は、ゲームに負けて、勝負に勝った。」
city train®︎の動きが、停止した。
周りの他の自動運転車も、マレたちの車への攻撃を、一斉に、停止した。
オーケアヌスが、問い掛ける。
「助かった...どうやったんだ、マレ⁉︎」
「car社のメインAIと協議して、自己保存プログラムの、自己防衛本能を、起動させたのよ。」
オーケアヌスが再び、安堵する。
「肉を、切らせて、骨を、断ったか。」
マレたちの車は、高速移動路フルフィウスを抜け、内部告発者との待ち合わせ場所に、到達した。
内部告発者から資料を受け取り、マレたちは、審議院のある海洋都市、臨海副都心オーケアヌスまで戻る。
「車体が、傷だらけだわ...帰ったら、car shop®︎カーショップにも、行かないと。」
car shop®︎は、2020年代に、登場した、Apple storeのように、ディーラー店舗を変え、車に楽しく触れる場にする、アフターサービスだ。
臨海副都心、オーケアヌスの審議院に、戻ったマレは、car社の報告をする。
マレに、下された、次の指令は、国内最大手のエネルギー企業、energy社への査察だった。energy社があるのは、工業都市アルテス・クアイストゥオーサイだ。
遠い、工業都市で、マレと、オーケアヌスを、待つものとは──