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「Practical Cardistry」 by Samuel Pratt at Cardistry Con 2024


初めに

先日初めてカーディストリーコンに行ってきまして
3日目にかの有名なSamuel Prattさんのプレゼン発表がありました。
テーマは「Pratical Cardistry 」です。
和訳すれば「実用的なカーディストリー」とでも言えば良いでしょうか。
もっとしっくりくる表現がありそうな気はしますが。

とても興味深い内容だったので自分の備忘録的な意味も込めて私見を混ぜて言語化してみたいと思います。
解釈違いだと感じるところがあるかもしれませんがご容赦ください。

背景

ここ数年間Fontaine Trialsなど多額の賞金がかかるコンテストが定期的に開催され、コミュニティは大いに盛り上がりました。
コンテストに参加するということは短期間でたくさんのムーブを作らななければいけません。
すなわちアイデア力勝負です。練習するよりムーブ作りに時間を多く割くことになります。
コンテストは動画審査ですから撮影に何時間かかろうと一回成功テイクが撮れればOKなのでPracticalである必要はないのです。
実際にFontaine Trialに2回も優勝しているTrevorさんは撮影に8時間かかったムーブがあるそうです。

一方で発想力だけが全てではないというのは感覚的に理解できると思います。
皆さんご存知Tobais Levinさんの傑作動画「MIX 08」は2時間ほどで撮影が完了したらしく、各ムーブ10分程度しか掛かっていないそうです。しかも新品のデックを使っていてそのクオリティというのが驚きです。
ムーブを作る上の発想力だけでなく、本人の技術力が相まってこの傑作は成り立っていると思います。

上二つの動画は両方とも傑作に違いないのですが違うベクトルの評価軸が前提となっています。

しかし、これまでこの二軸の違いについてあまり議論はされていなかったように思えます。
そう言った意味で今回のプレゼンではそのテーマに関して公に言語化されたという意味で重要だったわけです。

Practicalなムーブの定義

今回のプレゼンでは下記のようにPracticalなムーブを定義していました。

  1. Fun to do やってて楽しい

  2. Easier to film 楽に撮影できる

  3. Higher skill ceiling 上達の余地がある

  4. Desirable to learn 学びたいと思える

  5. Can be performed live その場でできる

Samuelさんは例としてその場で3パケのムーブを見せてくれました。

構造はシンプルですが練習と熟練した技術によってめちゃくちゃ印象的なムーブですね。このムーブはまさに上記の定義に全て当てはまるのではないでしょうか。

カーディストリーの本質

Samuelさんはカーディストリーの本質を「コントロール」と捉えていました。
カードを自在に操れてこそカーディストとでも言えば良いでしょうか。
言われてみれば当たり前のことのように思えますが個人的には頭から抜けていた考え方でした。

今回のプレゼンの中で「コントロール」の定義については下記のように述べています。

「手元を見なくても、他のことを考えながらでもパフォーマンスできるくらい。息を吸うのと同じくらい当たり前にできるレベル」

ここでイタリア語の「Sprezzatura」という単語を紹介していました。
和訳すると「難しいことでも平然と優雅にこなす」という意味です。

前述の「MIX08」でTobiasさんのパフォーマンスがまさにそれだと思います。それぞれのムーブは練習してみると全く簡単ではありません。
しかし、ムーブ自体は鍛錬を積み重ねれば「Sprezzatura」にパフォーマンスできるように構成されており、実際本人の練達した技術によって平然とこなしています。

すなわちカーディストリーにおける「コントロール」とは「Sprezzatura」にパフォーマンスするための要素の一つであり、その要素が「good cardist」と「great cardist」の差を別つと述べられています。

Sprezzaturaを手に入れるには

ここでどうすれば「Sprezzatura」にパフォーマンスできるのかアプローチ方法をSamuelさんは提示しています。

1.Make move easy ムーブを簡単にする

ムーブの難易度は簡単な方が当然スムーズにパフォーマンスできます。
しかし「魅力的なムーブ」であるという前提に立つとこの両立は中々困難です。簡便さを追い求めた結果、ありきたりなムーブになってしまっては意味がありません。
そこで次のアプローチが紹介されています。

①Do what feels good  心地よくできる動きを取り入れる

②Get to the point 要点に絞って尺を短縮化する

③Stay in control 運要素の絡まないコントロールできる範囲にとどまる

①については手癖を取り入れるということも含まれます。
個人的考えですがマスターしている既存技のストックが多ければ多いほど「心地よくできる動き」というのも多くなるのかなと思います。

②について本人の言葉をそのまま引用すると「The longer you make your move , the harder(ムーブを長くすればするほど、ムーブは難しくなる)」とのことです。複雑なムーブは長尺になりがちだと思います。コンセプトがはっきりしたムーブを作ることでシンプルにまとめやすくなると思います。

③についてはまさにこのプレゼンで言うところのカーディストリーの本質そのものなので重要な観点でしょう。パケットやカードを飛ばしたり、ドロップさせるムーブは特に再現性を持たせることは難しそうですが指の配置の微調整や力の入れ具合など突き詰めると解決できることがあります。ダイナミックなドロップ系ムーブを得意とするQuentin Duganさんはまさに良い例ですね。

このムーブを彼は完全に「コントロール」してパフォーマンスできます。現にリアルであった際にほとんど失敗することはありませんでした。もちろん多大な練習時間と研究を重ねてのこの実力なので容易なことではありません。
ハイクオリティなムーブを創作できるのであれば「good cardist」と呼んでもいいのでしょうがそういったムーブの再現性を高められた時に初めて「great cardist」に進化できるのかもしれませんね。

2. Master your craft  作品を極める

このアプローチはある種マインド的な要素の話です。
カーディストリーを芸術の一種とするならムーブは作品といえます。
絵画などの芸術作品であれば創作プロセスが完了すれば後は公開するだけです。しかし、ムーブという作品はパフォーマンスを伴うので創作プロセスだけでは足りず練習プロセスを要します。

「練習が重要」というのはそれこそ当たり前すぎる話ですがここでの考え方としては「練習を疎かにするとアイデアを無駄にする」ということです。
「練習あってこそのアイデア」とも言い換えられるかもしれません。

先ほど「Practicalなムーブの定義」のパートでリンクを載せた3パケムーブは実はSamuelさんの完全オリジナルではないそうです。インスタで他の方の投稿でこのムーブを見つけたそうですが練習不足のまま投稿された結果、注目を浴びてはいませんでした。
ポテンシャルのあるムーブを思いつけるアイデア力があってもそのムーブ(作品)を極めるプロセスを疎かにしてはそのアイデアは輝くことのないまま埋もれてしまいます。

カーディストリーのコンテストにおいてはムーブを量産するだけでなく、期限もあるので練習不足の状態で作品を公開することもやむ無しとなります。
そういった背景もあり、アイデア力を過剰に重視し、「作品を極める」ということの重要性が頭から抜けてしまうということが起こりうるのだと思います。

この意識の差も「good cardist」と「great cardist」を別つ要素の一つということなのでしょう。

まとめ

Practicalなカーディストリーを実現するためには創作プロセスにおいては「Make easy move」を意識し、練習プロセスにおいて「Master your craft」を意識することで「Sprezzatura」を目指すことが必要。
こんなところでしょうか。



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