心不全に対するSGLT2阻害薬の使い方についてまとめてみた 2023.12
SGLT2阻害薬は元々糖尿病治療薬として登場しましたが、最近では糖尿病の有無にかかわらず心不全患者の予後改善に効果があることが明らかになり、心不全治療薬としてのエビデンスが急速に確立しています。
心不全の治療において、循環器内科医の間では、心不全の予後を改善する「ファンタスティック4」と呼ばれる4種類の治療薬(ベータ遮断薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬:ARNI、ミネラルコルチコイド受容体遮断薬、SGLT2阻害薬)の導入が推奨されています。
そこで今回は、この新たな心不全治療薬であるSGLT2阻害薬の心不全患者への投与法に焦点を当てて解説していきます。
SGLT2阻害薬の作用機序
SGLT2阻害薬は、Sodium-glucose co-transporter 2 inhibitors(ナトリウム・グルコース共輸送体2阻害薬)の略称です。
そもそもSGLT2(ナトリウム・グルコース共輸送体)は、近位尿細管の最も近位に分布し、 尿糖の90%を再吸収します。SGLT2阻害薬はこのSGLT2を阻害することによって、尿中への糖の排泄を増加させ、それによって血糖値を下げる薬剤です。
ではこの血糖降下薬であるSGLT2 阻害薬が、なぜ心不全に有効なのでしょうか?
そのメカニズムとして様々な機序が提唱されていますが、利尿効果(浸透圧利尿、 Na利尿)、腎保護作用、交感神経過剰興奮の低減などが挙げられています。
さらにSGLT2阻害薬はループ利尿薬の作用増強効果や、エリスロポエチン血中濃度を上昇させ、赤血球造血を高める効果も報告されています。貧血は心不全の悪化因子であるため、エリスロポエチン濃度を上昇させて貧血を改善することは、心不全に対して良い影響をもたらすと考えられます。
心不全に対するガイドライン推奨度
2023年11月の時点で、日本循環器学会が最後に発表した心不全ガイドラインは2017年版です。このため、2017年以降に発表された新しいエビデンスはこのガイドラインには反映されていません。しかし、近年の心不全治療薬の進展を踏まえて、日本循環器学会は「2021年JCS/JHFS ガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療」を発行しました。このアップデート版では、SGLT2阻害薬についての言及も行われています。
このアップデート版では「最適な薬物治療(最大量あるいは最大忍容量のβ遮断薬,ACE 阻害薬 [または ARB] および MRA)が導入されているにも関わらず症候性で,収縮能の低下した(LVEF≦40%) 慢性心不全患者に対し,心不全悪化および心血管死のリスク低減を考慮してダパグリフロジンまたはエンパグリフロジンを投与する」として、SGLT2阻害薬の使用をクラスⅠで推奨しています。
一方、LVEFが保たれている慢性心不全に対するSGLT2阻害薬の推奨度に関して、このアップデート版では推奨度を示していません。
2023年に日本循環器学会・日本心不全学会が合同で発表した「心不全治療における SGLT2 阻害薬の適正使用に関するRecommendation」においても「心不全患者において、SGLT2阻害薬(ダパグリフロジンとエンパグリフロジン)は 2 型糖尿病の合併・非合併および左室駆出率にかかわらず、心不全イベントの抑制が報告されており、リスクとベネフィットを十分に勘案して積極的にその使用を検討する」と記載しています。
続いて、アメリカのガイドラインの推奨度も確認してみましょう。
”2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure: Executive Summary”では、LVEFに応じてSGLT2阻害薬の推奨を分けており、LVEF 40%以下(HFrEF)ではクラスⅠ、LVEFが41-49%と軽度低下している症例(HFmrEF)と、LVEFが保たれている症例(HFpEF)ではクラスⅡaでSGLT2阻害薬の投与を推奨しています。
SGLT2阻害薬の心不全に対する用法容量
2023年12月時点で、日本で心不全の治療薬として承認されているSGLT2阻害薬は、エンパグリフロジン(ジャディアンス)とダパグリフロジン(フォシーガ)の2剤だけですので、それぞれの添付文書を確認していきましょう。
両薬剤とも1日1回内服ですので、患者さんの服用しやすさという点ではかわりないですね。
SGLT2阻害薬の禁忌
続いて、両薬剤の禁忌も確認しておきましょう。
禁忌に関しては、両薬剤間で大差はありません。この禁忌項目に該当する状態の方にSGLT2阻害薬を処方することは通常はないと思います。
一方、腎機能障害(血液透析)が禁忌事項に含まれていないことがポイントですね。
腎機能障害がある患者さんへの投与
では腎機能障害がある患者さんに関しては、添付文書にどのように記載されているでしょうか?
両薬剤とも腎機能障害を理由に禁忌にしはしていませんが、eGFRがジャディアンスでは20、フォシーガは25をカットオフとして、慎重に投与の必要性を判断するよう勧めています。
一方、DOACのように腎機能障害の程度に応じて、減量するといった記載はありません。
まとめ
SGLT2阻害薬に関する多くの臨床試験が現在も進行中です。これらの試験結果を基に、本薬剤の適応範囲や投与方法について知識のアップデートを随時行う必要があるでしょう。
このまとめが、少しでも皆さんの日常診療のサポートになれば、嬉しいです。
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参考文献
- 2021年JCS/JHFS ガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療
- 心不全治療における SGLT2 阻害薬の適正使用に関するRecommendation
- Heidenreich et al. Circulation. 2022;145:e876–e894.
- 濱野:SGLT2阻害薬の逆襲. 2021. 現代医学 68巻2号
- 佐藤:新しい心不全治療薬SGLT2阻害薬の作用機序. 日本心不全学会 eLetter2020年冬号
- ジャディアンス、フォシーガの添付文書