左冠動脈主幹部病変の2ステント治療 j-Cypher、AOIレジストリー
別のnoteで左冠動脈主幹部(LMT)病変に対するカテーテル治療(PCI)の治療成績についてまとめたのですが、ボリューム的に盛り込めなかった「LMT病変に対する2ステント治療の治療成績」に関する論文を紹介します。
ここで紹介するのは、日本の実臨床データである「j-Cypherレジストリー」と「AOIレジストリー」のLMT病変に対する2ステント治療に関する解析結果です。
第一世代ステントの治療成績 j−Cypherレジストリー
2009年にToyofukuらが「j-Cypherレジストリー」の2ステント治療に関する解析結果をCirculationに発表しています。(Circulation. 2009;120:1866-1874)
本論文の研究期間は2004〜2006年で、その名のとおりCyperという第1世代薬剤溶出性ステントがLMTに留置された476名が登録されています。そして、その中の96名はLMT起始部など分枝部にかからない病変だったため、残りの380例が左前下行枝と回旋枝の分枝部にかかる病変でした。
その380例の中で、1ステント治療(261例)と2ステント治療(119例)の治療成績を比較した結果が下表にまとめられています。
j-cypherの解析では、LMT病変における2ステント治療は1ステント治療に比べ、心臓死、ステント血栓症、再血行再建(TLR)が有意差をもって多いという結果になりました。
そして、以下のように結語を記載しています。
Although long-term outcomes in patients with ostial/shaft ULMCA lesions were favorable, outcomes in patients with bifurcation lesions treated with stenting of both the main and side branches appeared unacceptable.
"ULMCA"は"unprotected left main coronary artery"のことで、「主枝と側枝両方にステントを行う治療の治療成績は許容されない(unacceptable)」と、かなり強い表現が使われています。
第2世代ステントも含まれたAOIレジストリー
次に「AOIレジストリー」の解析をみていきましょう。
AOIレジストリーは"The Assessing Optimal percutaneous coronary Intervention for Left Main Coronary Artery stenting registry"の略で、過去にLMTにステント治療を施行された症例の長期心血管イベントを後ろ向きに調査したレジストリーです。
2017年にOhyaらがAOIレジストリーのデータから、LMTの分枝部病変に対する「1ステント治療」と「2ステント治療」の治療成績を比較した結果を報告しています。(Am J Cardiol 2017; 119: 355-364)※1
研究期間は2004年〜2012年で日本国内の6施設が参加し、1809名のLMT病変を有する患者さんが登録されました。j-Cyherと異なり、第2世代薬剤溶出性ステントが全体の33%に使用されています。
結果を原著論文のabstractから引用します。
the bifurcation 2-stent strategy was associated with worse clinical outcomes than the bifurcation 1-stent strategy in TLR (adjusted HR 1.76, 95% CI 1.23 to 2.52, p [ 0.002) and definite or probable stent thrombosis (crude HR 3.50, 95% CI 1.32 to 9.33, p [ 0.01), despite neutral risk for all-cause death (adjusted HR 1.00, 95% CI 0.74 to 1.36, p = 0.99).
「2ステント治療」は「1ステント治療」と比較し、全死亡には有意差はみられなかったものの、再血行再建(TLR)とステント血栓症が有意に増加したという結果でした。
そして、以下のように結語を記載しています。
long-term outcomes after stent implantation for unprotected LMCA lesions were not dependent on the bifurcation lesion types but related to the bifurcation stenting strategies with worse outcomes for the bifurcation 2-stent strategy.
AOIレジストリーでもj-Cypherと同様に2ステント治療のステント血栓症、再血行再建が多いという結果になりました。
まとめ
日本発のデータからも「2ステント治療」の治療成績は「1ステント治療」より不良でした。
ただし、2020年現在のPCIは第2世代薬剤溶出性ステントが主に使用されており、第1世代薬剤溶出性ステント(Cypher、Taxus)やベアメタルステントを使用する場面はほぼなくなっています。
j-Cypherは第1世代薬剤溶出性ステントしか使用していませんし、AOIでも1/3しか第2世代薬剤溶出性ステントは使用していないことから、現在の実臨床とはギャップがある点には留意するべきでしょう。
またステントだけでなく、分枝部病変に対するPCI手技の進歩(POTなど)も治療成績の向上が期待でき、最新のデバイス、手技に基づいた新たな知見が待たれます。
注釈
※1:OhyaらのAOIレジストリーの解析に関する論文(Am J Cardiol 2017; 119: 355-364)はfree articleではないため、表や図は引用しませんでした。