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心室性期外収縮は治療が必要か? 2020.11.23

心室性期外収縮(PVC)は健診でもよくみかけますし、モニター管理をしている入院患者さんでは日常茶飯事に遭遇する不整脈の一つです。

PVCはほとんどが無症状であり、一般的には治療を要しない良性の不整脈と考えられていますが、日本循環器学会が発表している不整脈薬物治療ガイドライン 2020年改定版 (以後、PCA-GL2020と記載)では、以下のようにリスク評価を推奨しています。

心室期外収縮が重篤な不整脈トリガーになる症例や,また心室期外収縮の多い症例では心機能が低下することも報告されているため,適宜,心室期外収縮のリスク評価を行う.

では、PVCに対してどのように対応すればよいのでしょうか?今回はPVCの治療適応についてガイドラインをもとにまとめます


器質的心疾患を伴わないPVC (特発性)

PVCの治療方針を考えるうえで、PVCの原因となる器質的心疾患の有無が重要になります。

特発性PVC、すなわち虚血性心疾患や心筋症などの器質的心疾患を伴わないPVCについて、PCA-GL2020, p27では以下のように記載しています。

器質的心疾患を伴わない心室期外収縮は一般に予後はよい. 自覚症状が軽微なら抗不整脈薬投与を行わない

つまり、器質的心疾患がなく、症状がなければ基本的には経過観察となります。

一方、自覚症状がある患者さんには、自覚症状の改善のためにベータ遮断薬(アーチスト®、メインテート®)等を投与することがあり、ガイドラインでは「器質的心疾患のない症候性PVC患者に対するQOL改善を目的としたβ遮断薬やCa拮抗薬の投与」をclass Ⅱaで推奨しています。

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ただ、私も自覚症状が強い患者さんにベータ遮断薬を処方したことはありますが、内服治療で症状がすっきりと改善した経験はほとんどありません。高血圧や慢性心不全などが基礎にあり、もともとベータ遮断薬の適応がある患者さんに対して薬物治療をするのはありだと思います。


器質的心疾患に伴うPVC

続いて、心筋梗塞や心筋症など器質的心疾患を有している患者さんのPVCの場合はどうでしょうか。

特発性PVCに比べると、器質的心疾患に伴うPVCは治療対象となりやすいですが、やはりここでも自覚症状の有無が重要になります。PCA-GL2020, p27では以下のように述べています。

不整脈による自覚症状の強い症例や心室期外収縮の多い(総心拍数の10%以上)症例では治療を考慮する
心室期外収縮が多い症例では,期外収縮の減少より心機能の改善を認めることがあり,β遮断薬,アミオダロン,メキシレチンなどが用いられる

自覚症状ある症例やPVCが多い症例では、薬物治療を検討するように記載されています。しかし、PCA-GL2018では具体的にどれくらいの頻度で治療を行うか、どの抗不整脈薬を選択すべきかといった詳しい使い方までは言及していません。

そこで視点を変えて、器質的心疾患の代表格である急性冠症候群に伴うPVCの対応について、急性冠症候群診療ガイドライン 2018年改訂版(ACS-GL2018)をみてみます。ACS-GL2018, p61では、PVCについて以下のように記載しています。

心室期外収縮(PVC)は心筋梗塞急性期にしばしば出現するが,PCI 時代においては予後を悪化させたとする報告はなく,現時点では抗不整脈薬による治療は不要である

ACS-GL2018でも自覚症状がなければ、基本的には抗不整脈薬は用いないとしています。

器質的心疾患に伴うPVCであっても、PVCそのものを減らすことにこだわらず、基礎疾患の治療を行う。そのうえで、自覚症状が強い場合やPVCの頻度が多い場合にはβ遮断薬等を処方すると読めます。


PVC治療の歴史を変えたCAST試験

PCA-GL2020では「心筋梗塞後の心室期外収縮患者に対してIA群,IC群抗不整脈薬の投与」をclass Ⅲとしています。

なぜ抗不整脈薬である、Ⅰa群、Ⅰc群の薬がPVCに使えないのでしょうか?

この根拠となったのが、20年以上前に報告されたCAST試験 (N Engl J Med. 1991; 324: 781-8)です。私も研修医の頃、この論文の結果を勉強したときは衝撃を受ました。

本研究は、心筋梗塞後でPVCを有する1498例の患者さんに、抗不整脈薬(フレカイニド、エンカイニド)を投与した群とプラセボ群の予後を比較した試験です。

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その結果、上図のように抗不整脈薬を使った群で有意に死亡率が高いという結果となりました。心筋梗塞後のPVCに対して、抗不整脈薬を使うとかえって予後を悪化させたという衝撃的な結果でした。

そして、この研究から20年以上たった現在のガイドライン(PCA-GL2020)でも、このCAST試験を引用して以下のように述べています。

器質的心疾患合併例や心機能低下例ではIC群薬は禁忌であり,同様にIA群薬も原則使用しない

ちなみにⅠc群というのは、「Vaughan–Williams分類:ヴォーン・ウィリアムズ分類」という昔ながらの抗不整脈薬の分類で分けられたカテゴリーの一つです。Naチャネル遮断薬はⅠ群と呼ばれ、その中でもIc群薬は遅い動態を示すため、あらゆる心拍数でその電気生理学的作用を発現するそうです。このへんはマニアックなので、正直私もよくわかりません・・・。

Ⅰc群の具体的な製品名としてはピルジカイニド(サンリズム®)、フレカイニド(タンボコール®)が挙げられます。


PVCに対するカテーテルアブレーションの適応

近年、アブレーション治療が急速に進歩し、PVCに対するアブレーション治療も広く行われるようになりました。PVCに対するアブレーション適応について、不整脈非薬物治療ガイドライン2018年改訂版から推奨に関する表を引用します。

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表の二段目に「頻発性PVC (1日総心拍数の約10%以上)」という数値が出てきます。ここでも「頻回」の指標の一つとして、「1日総心拍数の約10%以上」がカットオフとして使用されています。10%という目安は覚えておいたほうが良いでしょう。

そして表の最下段では、「器質的心疾患にともなう頻発性PVCで,薬物治療が有効または未使用でも,患者が薬物治療よりもカテーテルアブレーション治療を希望する場合」をclass Ⅱaで推奨しています。


まとめ

以上、PVCに対する治療方針のポイントを抜粋すると・・・

・自覚症状がない、頻度が10%未満→経過観察

・器質的心疾患がある場合は原疾患の治療を行う

・自覚症状が強い、頻度が10%以上のとき→薬物治療やアブレーションを考慮

といったところでしょうか。

CAST試験の教訓から不必要な抗不整脈薬による治療は行わず、治療適応がある患者さんにはどの薬剤をどの段階で開始するか、患者さんのリスクベネフィットに応じて個別に対応していく必要がありますね


このまとめが、少しでも皆さんの日常診療のサポートになれば、嬉しいです。
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