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S.T.A.L.K.E.R日記 -X16からの帰還-

手の震えが止まらなかった。何度も落としたタバコに火をつけ、煙を肺に満たし、深く吐き出して、やっと、生きてここにいるという事実が体に戻ってきた。X16からの帰還は、奇跡と呼んでよい体験だった。

二人の仲間を残し、単身乗り込んだX16。地下に潜れば潜るほどスノークの数は増え、2体のブラッドサッカーに襲われた時点で5.45mm弾は底を突いていた。
Bisonでゾンビを薙ぎ払いながら、X16の最深にたどり着き、祖母が読んでくれた童話から抜け出してきたような見た目の姿に、攻撃性を押し込んだようや、忌まわしいホビットを打ち倒した時には、9mm弾は最後のマガジンを満たすほどしか残っていなかった。

命からがらの探索だった。なんの実入りもない。最深部へ行くためのミッション。錆びた階段を上り長い排気筒を抜けると、外の匂いのするはしごにたどり着いた。探索の終わりが近づき安堵の時が近づくのを感じていた。


だが、その安堵は地獄への入り口だった。
はしごを抜けた先は見覚えのない下水道。外の匂いは確かにあったが、入り組んだその地下世界は安寧とはまだ程遠かった。

ヘッドライトが照らす先に何かいないか慎重に進む。這い寄るSTALKERのゾンビを慎重に仕留めると、錆びついた西側のライフルを抱えていた。普段なら二束三文にもならないただの重りだが、今は状況が違う。バックパックに突き刺して、ゆっくりと進む。
ひとつふたつと角を曲がると、あの飽きるほど聞いたスノークの足音が聞こえてきた。それも、複数。身構えた時には奴らは俺に飛びかかっていた。
よろめいた体をなんとか振り戻し、9mmを叩き込む。もう弾は片手で数えるしか残っていない。

まだ、外は見えない。もう何も出てこないことを祈っていたが、そもそも祈るような神がいなかった俺に奇跡は起きなかった。
地面を震わせる、聞き馴染みのない足音が砂煙を上げながら近づいていた。

その怪物は肉塊と呼ぶにふさわしい見た目だった。だがそれは家畜や肥えた中年とは違い、筋肉の塊。肉塊とは呼んだが、その実はそれ以上のものであり、俺はそれを形容する言葉を持っていなかった。

Bisonの弾は早々に尽きた。ゾンビが持っていたライフルは、わずか数発空を切った後、ジャムを起こし使い物にならなくなった。
それでもその肉塊は勢いを止めずに俺に迫ってきていた。明らかな敵意を撒き散らせながら。

死が目の前にあった。腰を抜かしそうだった。もう手はなく、恐怖で頭がいっぱいになった。
俺は、もう、めちゃくちゃにわめき散らかしながら、ただただ走って逃げるしかなかった。逃げて、走って、地面を揺らす足音が聞こえなくなった頃、外の光が見えて。そして俺はエアロックの中にいた。

奇跡がいくつも重なっていた。
肉塊の脇をすり抜ける時。たまたま、砂に足を取られて体制を崩したおかげで、壁をえぐり取る爪に命を取られずになんとかすり抜けることができた。
人の走る速度を簡単に超えるブラッドサッカーが現れなかったこと。飛び出した出口が移動研究所のすぐ近くだった事。出口から研究所の直線の間にも致死のアノーマリーがなかった事。それらはこのZONEにおいてはいずれも奇跡だ。神は俺の中にいた。

タバコの熱が俺を現実に引き戻した。
震えは、もうおさまっていた。

研究所の奥にいるこの奇跡体験をプレゼントしてくれた依頼主に声をかけた。常にライフルを抱えて、俺たちLonerなんてかけらも信用していないあの野郎に、神の素晴らしさ、生の尊さを問うてやろうと思ったのだが、内部から持って帰ってきた紙切れを、ちょっと驚くくらいのルーブルに変えてくれたから、今日は見逃してやることにした。

二人の仲間(スカウトとボスという)は暇そうにしていた。
出発時はピカピカだった俺のSEVAスーツが、ヒビだらけになっているのにも興味が無いようだ。それは普通のストーカー反応で、俺もそれ以上を求めてはいなかった。
Cordonに戻ると彼らに伝えた。シドの親父にミュータントの残骸を売りつけ、この地獄的奇跡体験観光の、ささやかな戦利品を現金にしなければならない。
ただ、弾薬を持たないZONE行脚は、撒き餌と一緒に海に飛び込んで鮫に食われないように祈るようなもので、まずは空っぽになってしまった弾薬の補給が先決だった。
懐にも入れずにルーブルとお別れするのは悲しいことだが、背に腹は変えられず。ライフル博士に弾を売ってもらおうと思ったのだが、俺はこの研究所がNATOの息がかかった研究所であることをすっかり忘れていたのだ。ここは東側の弾薬を一切扱っていない。(9mmも置いていない。)

ZONEで弾無しで散歩をしなければいけない。
一度は信じた神と奇跡を、再度捨てさせるのに申し分ない現実だ。

今俺ができること。
それは、この雇っている二人の仲間に、数少ない共感できる『金こそ神』という価値観にもとづき、どこかで俺を見捨てないよう、全力で俺を守るよう、博士からもらったルーブルをいつもより少し多めに分けることだけだった。

日はまだ高い。
ZONEでは必ずしも銃を撃つことだけが正解ではない。
ガーベージのLonerトレーダーに向けて、俺は弾の無い銃を重そうに構え、研究所を後にしたのだった。

※この日記はS.T.A.L.K.E.R. Anomaly のプレイ日記です。
STALKERはウクライナのゲームスタジオが2002年に開発を開始し、2008年に第一作がリリースされたシングルプレイのFPSで、チェルノブイリ原発を中心に独自の世界観、自由に行動するNPCなどが魅力の、未だに根強いファンのいるゲームです。俺は大好き。ずっと大好きなゲームです。
そして、今。このSTALKERはスタジオの解散など紆余曲折を経て、なんと無料でプレイできるのです。ぜひお試しあれ。

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