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にほん ごっこ1

ベルギーからドイツのフランクフルト空港で乗り継ぎ、13時間のフライトを終え羽田空港上陸。
前回日本に帰国したのは2019年夏だったから、3年ぶりの日本だ。
今年の6月1日からヨーロッパのほとんどの国から日本入国時の隔離、公共交通機関利用の制限がなくなった。
海外に住む日本人は待ってましたとばかりに、ゾクゾクと日本へ帰国。

「My Sosの青い画面を見せながら一列になって、お進みください」

自分の携帯の青の画面を見せながら、羽田空港の建物内を長い列で歩く。
My Sosというのは今年日本政府が作った日本入国をスムーズにするための携帯アプリで、入国に必要な面倒な書類手続きを事前に自分で入力して済ませておけるもの。

こんなに大勢で列になって歩くのって、中学校以来かもしれないなあ。
なんだか移民とか難民の入国審査みたい。
まあ確かにそれに近いってことか。

コロナが始まってからの3年の月日は長かったのか、短かったのかはわか良くわからない。
2020年の夏はドイツのドュッセルドルフ。その次の夏はパリ。ヨーロッパの大きな都市なら、日本系列のラーメンやさん、レストラン、書店、食材店なんかがあるから、日本に帰らなくてもそれなりに、日本気分を味わえた。

でもやっぱり日本に帰りたいなあ、と思った時があった。
あの時期は思春期真っ盛りの15歳になる娘モモの学校がコロナで閉鎖になっていて、自宅からのオンライン授業に切り替えられていた。学校に行きたくないと、その前の年から口にしていたから、学校閉鎖になってモモは内心ホッとしていたにちがいない。

コロナ真っ盛りの2021の春。
モモと口論になった
「そんなこと言うなら、家を出ていきなさい」
「じゃあ出て行く」
スーツケースに荷物をまとめて、まるでバカンスに出かけるみたいにモモはなんの迷いもなく家を出て行った。
家出の先はモモのパパの家。
8年前からモモには家が二つある。
パパの家とママの家。
1週間づつパパとママの家を行ったり来たりする学生生活はここベルギーでは割と普通。
あの春の日、モモが家出をした日から、モモはママの家に帰ってくることはなくなった。家出というか、モモはあの日に『出家』をしたのだと1年程過ぎて、気づき始めた。家には帰ってくなくなったけど、1ヶ月に1回くらいは一緒にご飯食べに行ったり、買い物に出かけたりしていたから全く音信不通になったわけではなかった。「今年の夏は日本に絶対に行く!」とモモが言ってたから、年が明けてすぐに夏の日本行きのチケットを二人分購入していた。
が、春先になって「日本行きの私の分の飛行機のチケットキャンセルできる?」モモ本人からの申請。

「????」
彼女の願いを叶えてあげるのが私にできること。
そんなわけで、3年振りの日本帰国はモモからの贈りもの
『おひとりさま日本帰国』となった

スーツケースがベルトコンベアに乗って流れてくるのを朦朧とした半開きの目で
眺める。ベルギーは今真夜中の3時頃だから眠いはずだ。ベルギーから乗り継ぎをしたドイツのフランクフルト空港はコロナの影響で人出不足。乗り換えの飛行機に間に合わなかったスーツケースが山積みになっている、という噂は小耳に挟んでいたのだが。
うそー!
ロストラゲージ?
周りを見渡すとガランとしたベルトコンベアーの周りで30人程の人が途方に暮れている。
さすがにこれはMySosアプリでスムーズに対処することはできず、一人づつ書類に手書きで対応。
「申し訳ございません。3日後にご記載いただきましたご住所にスーツケースをお届けさせていただきます」
丁寧な対応は日本ならでは。
手続きを済ませ、とりあえずスーツケースが届くまでは実家の新潟ではなくて、関東圏内の実姉のところに滞在させてもらった方が良さそうだと思い、姉とLineでやりとり。
「羽田に到着したんだけど、スーツケースが到着しなかった。荷物が届くまで、そちらに滞在は可能?」
「大丈夫だよーん」
ということで、予定変更。
とりあえず、歯ブラシとパンツ買わないとなあ。
空港内はガラガラ。
自分の前を歩く若い女性の歩き方が妙に気になる。
上半身がフニャフニャ幽霊みたいに漂ってる。なんていうか。
脚の存在が感じられない歩き方。
空港の建物から外に出ると一気にもわっとした暑さが肌にまとわりつく。
この熱気の中マスクするんですか?
息できないんですけど。
姉の家に向かうバスが時間通りに到着。
涼しくてゴミ一つ落ちてないどこか凛としたバスの車内。
なんか神社の本殿に入ったみたいに落ち着く。
乗客は私一人。
一気に深い眠りに落ちる。


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