じつは茨城...とある北関東の町中にて...
将来のモビリティ社会を構成する重要な要素「MaaS(マース)」をご存知だろうか?
Mobility as a Service(サービスとしてのモビリティ)の略称であり。
その内容は、ネットワークやAIを活用しながら、ユーザーへ最適な移動手段(公共交通機関・シェアモビリティ等)と、最適な経路を提案し、尚且つ乗車予約・決済なども1つのツールにて完結できる様にするという、スマートモビリティ社会の実現を目指す取り組みである。
MaaSの大きな目的として、地域課題の解決が挙げられる。その内の1つが自動運転車の普及に伴う"従来の車社会"(地方で見られる、車がないと生活がなり立たない状況)からの脱却が見込まれる。
各自治体でも新たなモビリティ社会の実現に向けて、様々な取り組みが始まってきている。
今回はMaaSに関する取り組みの事例として、茨城県境町で行われている自動運転バスを使用した試みをご紹介しよう。
※画像引用:茨城県境町HP
■地方であるからこその、車社会の課題点とは
茨城県の西南端に位置する境町。町の南側は利根川に面しており、川を渡ると千葉県野田市となる。また県境という立地にプラスして圏央道や各種バイパス道路が町付近を通っている為、首都圏や各近県からのアクセスもかなり良好なポジションにある。
そんな境町の中身は、休日には中々の賑わいとなる道の駅さかいを含む各商業施設・住宅地がまとまっている中心エリアと、畑や田んぼが広がるのどかな郊外エリアに別れる。
広さとしては東西に8km・南北に11kmていう規模感だが、町中の移動手段としては、やはり車がメインとなってしまう。いわゆる”車がないと生活に不便さが生じる=車社会”に属する境町も、似た市町村と同様の問題に直面していた。
それは、高齢者の増加とバスドライバーの人材不足だ。
近年、高齢者の運転免許返納の事例が増えている。そうなった背景は割愛するが、境町においても例外ではない。そして車を手放した高齢者の生活の足となるのは自転車orバスが挙げられる。
しかし、お店が立ち並ぶメイン通りから一本外れたら、昔ながらの街並みや道幅の狭い区間も点在する境町。その区間でも生活道路である以上、車通りはかなり多い。その様な地域では、自転車移動には高い危険度が伴うのと長い距離の移動には向かない。
その為、おのずとバス移動の需要が増えるのは納得する。しかし、肝心のバスはというと運転手の人材不足が全国的な課題となっている。現在は稼働していても、将来的にドライバーが居なくってしまう危機感は拭えない。
その様な問題の対策としてして施行されたのが、今回取り上げる自動運転バスの導入だった。
導入の背景としては境町町長からの要望に、車両の運行システム管理を担当するBOLDLY株式会社と、車両のメンテナンスを担当する株式会社MACNICAが協力する形で実現となった。
そして、2020年11月より全国の自治体として初の自動運転バスの運用が開始されたのだった。
■現状における、自動運転の試みのモデルケース
境町では現在、3台の自動運転バスが稼働中だ。走行ルートや本数は以下の通りで、どちらも市内の主要箇所(郵便局、市役所、ショッピングセンター等)や観光スポットを通る様に設定されている。
・道の駅さかい⇔高速バスターミナル:往復4便
・道の駅さかい⇔シンパシーホール(多目的施設):往復6便
尚、走行ルートは随時拡充していく予定ではあるらしい。
今回は筆者の持ち時間の関係上、道の駅さかいを起点に途中下車を介しての往復1時間の乗車体験のレポートをお届けする。
自動運転バスの車両はフランスのNavya社製・アルマ。先に自動運転バスが運用されているヨーロッパ諸国でも同様の車両が使われている為、境町もそこに倣って導入したのだろう。
また運用されている3台は町のコンセプト「自然と近未来が体験できるまち」をイメージしたデザインがラッピングされている。
町中に彩りを加えるカラーリング
動力はバッテリーの完全EVとなり、2台が稼働している間に1台は充電というルーティーンを基本としている。ちなみに、8時間の充電で9時間は稼働できるスペックらしい。
さて、道の駅さかいよりバスに乗り込む。
乗車券は無く、乗降口にあるカメラにて利用者の顔写真を撮影する事で乗車・降車を管理する仕組みだ。
乗降口に設置されるカメラ
乗り込んだ車内は、窓の面積が広いので開放感はあるものの、座席の広さはあまり無い作りとなっていた。
最大乗員人数は11人で、利用者は必ず座り乗車となる。これは、管轄の警察との取り決めらしい。とはいえ11人フル乗車となった場合は、密集度は高くなるだろうと予想する。
そして、いざ出発してしまえばEVらしいシームレスな加速感&静粛性の高さが目立つ乗り心地だった。従来のバスが持っている騒音・ガタガタした乗り心地・排気ガスが無い分。新鮮さと同時に「バスこそEVが似合う」とも思っていた。
また、走行速度は19km/hとかなり安全運転である。
ちなみに自動運転バスと言いながらも、完全自動&無人ではない。信号の通過や走行途中のアクシデントに備えて、添乗員が同伴する仕組みだ。
コントローラーにて車両を操作
「有人なら、自動じゃないじゃん」と、思ってしまう読者も居ると思うが。大半の作業が自動で処理されているのは確かだ。
例えば、走行ルートの指定。GPS&車外センサー類にて表示されるマップには走行ルートが表示されていて、バスはそのルートに沿って走行する様にプログラムされている。
ルート情報が管理されているモニター
さらに車外&車内の状況はカメラにより撮影されており、境市内にある管理センターと接続されている。その為、予期せぬアクシデント時には遠隔操作でバスを動かす事も可能だ。
また、現状における完全自動運用には課題点が多い。とあるケースでは接触事故が起きてしまったのも記憶に新しい。
そんな中で添乗員が同伴するのは、一種の保険とも思える安心感がある。
しかし近い将来に完全自動運転となったこのバスが、境町における1つの移動手段として定着する日も、遠くないのかもしれない。
■近い将来のモビリティ環境を見据えて
さて、今回は茨城県境町の取り組みをご紹介した。キッカケとなったのは、妻の実家が境町の近くであり、何度か町中を走行している様子を見ていたからだった。
乗った際に添乗員さんが言っていたが、やはり主な利用者は免許を返納した高齢者が多いらしい。
さらに、ただの移動手段としてだけでなく、移動しながら日々のコミュニケーションの場としても活用されてる利用者が居る、という話を聞いた。
その時に「移動の楽しさとは?」について、この様なケースも存在するのかと改めて考えさせられるいい機会だった。
何にせよ重要なのは、茨城県のとある自治体が、将来のモビリティ社会実現の先駆けとなって取り組んでいるという事実を、多くの人に知ってもらいたいのだ。
今後は他市町村でも、同様の取り組みを行う自治体も増える傾向にあるだろう。
筆者含め、普段から自家用車を運転する・車の運転が好きな人も、変化していくモビリティ環境をしっかりと理解し、共存していかなければいけない未来は案外近い将来になると思われるだろう。