トヨタ流・車作りの今とミライ
トヨタイムズマガジン2020を読んで〜車作り編〜
トヨタ自動車(株)が運営する「トヨタイムズ」をご存じでしょうか?
俳優の香川照之さんを編集長に据え、トヨタに関する様々な情報発信を担うWEBメディアです。
大きな注目点は、豊田章男社長が頻繁に登場する事です。
(写真引用:トヨタ自動車(株))
社長自らが"トヨタの今、そして未来"について語っています。その際見られる香川編集長との楽しいやり取りも相まって、エンタメ性も高いです。
そんなトヨタイムズがこの度、豊田社長をフィーチャーした内容で初の書籍化。(以下:"本書"と記述)
大企業の社長、そしてレーシングドライバー・モリゾウとしての各種活動・活躍を総力特集。
今回は本書の中から「トヨタのクルマ作り」について、私が感銘を受けた2つの内容をお届けします!
トヨタイムズHP
(文章引用:トヨタイムズmagazine2020/トヨタ自動車(株)発行)
■「もっといいクルマ」作りへの執念~GRヤリス誕生のきっかけ~
昨年発売されたGRヤリス。レースカーの性能を市販車にフィードバックして開発されたバックグラウンドがあり。驚きの"スポーツ性能&楽しさ"を持ち合わせていて、海外でも高評価を得ています。
GRヤリス
この車の注目点の1つが、「純粋なトヨタ製スポーツカー」である事。近年、他メーカーとコラボしたスポーツカーが多かったトヨタが、全て自社開発に至った経緯は、豊田社長のある決意によるものでした。
①"トヨタのスポーツカーを取り戻す"キッカケ
豊田社長が、「もう一度、トヨタのスポーツカーを取り戻す」決意をしたキッカケが語られていました。
それは2007年。社内の有志でチームを結成し参戦した、ドイツ・ニュルブリンクにて行われる24時間耐久レースでの事です。
しかし当時、トヨタの新車ライナップにスポーツカーは存在せず。参戦車両は、改造した中古のアルテッツァ(2005年に生産終了のスポーツカー)でした。
豊田社長=モリゾウとアルテッツァ (写真引用:トヨタ自動車(株))
しかし周りの参戦メーカーは、2〜3年後に発表する新型車の開発も兼ねてレースに参戦していました。
この時に感じた悔しさが、「自分たち(トヨタ)の手に再びスポーツカーを取り戻すという覚悟」に繋がったと、様々な場面で豊田社長は語っています。
②ラリーの舞台が、トヨタのスタイルを蘇らせた。
2010年以降のトヨタは、立て続けにスポーツカーを発売します。
・プレミアム・スポーツカーのレクサス/LFA(ヤマハ製エンジン)。
(画像引用:autocar.jp)
・スポーツカーのニュースタンダード的立ち位置を確立した86(スバルとの共同開発)。
・往年の名車の復活、GRスープラ(BMWとの共同開発)。
しかし、豊田社長が本当に望んでいるのは「全てがトヨタで作られた車」。まさしく「ALL MADE OF TOYOTA」です。
そして、新たなターニングポイントが。
2012年より、豊田社長はラリー競技に積極的に参加するようになりました。
ラリー競技とは、公道を舞台としたレース。サーキットの様に整備された路面ではなく。凸凹のある舗装路。また、未舗装のダート路面や雪道など。徹底的に車を傷めつける環境が整っています。
そんな過酷な現場で車を開発する。それはトヨタの哲学「道が人を鍛え、クルマを鍛える」に、見事にマッチすると豊田社長は考えたのでしょう。
そして、豊田社長は決断しました。
2017年、トヨタがラリー競技の最高峰・WRCへ参戦を表明しました。しかも、現場に新車開発エンジニア達を携えて。
③究極の現場・現物主義の実現
豊田社長が開発エンジニアをレース現場に送り込んだ狙い。それは、エンジニアにリアルなレース現場を体験してもらい、それを新型スポーツカーの開発にフィードバックする為。
レースの現場では、ドライバーのカウンセリング内容をエンジニアが瞬時に解析し、その場で車のセッティング変更が行われていきます。
ましてやラリー競技は特にシビアです。サーキットの様なセーフティゾーンが無い公道が舞台な為、一歩間違えば大クラッシュ・崖下への転落も起きる。
常に現場で最適な改善作を考えられ、車がアップデートされていく。
雪道を疾走するヤリスWRC。エキサイティングな走りの裏には、常にクラッシュのリスクを伴うWRCの現場(写真引用:auto sport.jp)
豊田社長は、そんな極限のモータースポーツの現場を体験する事が、新しい車両開発に生かせると考えました。
そしてWRC参戦と並行して、トヨタは新スポーツカー「GRヤリス」の開発をスタートさせます。
④"レースカー"の市販化へ
「今回は逆転の発想で行く」
本来の市販車ベースのレースカーは、言葉通りに市販車を改造して作られます。
しかしGRヤリスの場合は、まずはレースに勝つ車を作る。そして、その車を販売する。
豊田社長は、車好きを満足させる為には、それが一番近道だと考えたました。
そして実際の開発現場も、今までのトヨタの常識が通用しない、新しい手法が取られています。
例えば、走行テスト。開発の段階でプロドライバーに運転をしてもらい、カウンセリング内容をエンジニアがその場でフィードバックし、改善を行う。
まさに前述した"レース現場"をなぞる様な開発現場が展開されました。
社長(モリゾウ)自らハンドルを握る (写真引用:トヨタ自動車(株))
ここに関しては、一般的な自動車開発のフローを知っている私から見ても、「かなりチャレンジングな事やってるなー!」と見て取れましたら。
また面白いのは、「これは始まりに過ぎない」と豊田社長が言い切っている事です。
つまり、これから発表されていくトヨタのスポーツカーも、GRヤリス同様の開発手法を取っていくとの事。
これはスポーツカー好きとして、ワクワクがとまりませんねっ!「あの車が、次に発売されるのかな?」と思いながら、レース観戦をしてみても良いかも知れません。
好きな1ページ(写真引用:トヨタ自動車(株))
■自動運転について〜人と車の協力〜
本書では、豊田社長が自動運転技術について、以下の様に語った様子が記述されています。
「モビリティ・チーム・コンセプト」
これは、ヒトとクルマを”チームメイト”として考え、自動運転技術の恩恵を享受しながらも、自分で運転したい時には、安全で楽しく自由に運転できるようにするという開発思想。選択の自由はドライバーにあり、車を運転する楽しみはしっかりと残しながら、より確実な安心・安全を約束するコンセプトだ。AIが人間の代わりをするのではなく、互いが対等な関係で”協力”しながら運転するという発想は、”自動車メーカー社長”と”マスタードライバー・モリゾウ”という二つの顔を持つ豊田章男ならではと言える。
この文章を見て、私は驚きました。
将来、全自動運転が世に普及してしまえば、人は運転行為をしなく済む。それはとても便利な事だと思っています。
ですが、私は車の運転が大好きなので、正直"つまらない・魅力を感じない・必要性を感じない"と考えてしまっているのが現状でした。
しかし、前述の「モビリティ・チーム・コンセプト」通りに解釈すると。自動運転技術を有しながらも"運転する楽しさ・喜び"は実感できる自動車が、将来出てくる事になります。
まさに究極の「安全&楽しさ」を実現できるのではないか?と思いました。
オートメーション化が進んでいく世の中でも、既存の"楽しさ"はしっかりと残す。この点に深く感銘を受けました。
何年後になるかは分かりませんが、このコンセプトを形にした車が世に送り出されるのを楽しみにしたいですね。
■終わりに~車と人の関係性について~
いかがでしたでしょうか?今回は本書で語られていた「トヨタの車作り」にフォーカスした記事をお届けしました。
GRヤリスから始まった、新しいスポーツカー作りの手法。そして、将来に出てくる自動運転車に対する考え方。
フルラインメーカー(市場全体を対象とし、あらゆるセグメントに対する商品を製造販売するメーカー)であるトヨタの強みを活かしながら、これからも全世界のユーザーをワクワクさせる車を、作り続けていってほしいですね!
最後に、豊田社長が"車と人の関係"について語った文章で、この記事の締めとさせてもらいます。
「数ある工業製品の中で「愛」がつくのはクルマだけ。例えば冷蔵庫を「愛庫」とは呼びませんし~(中略)~自動車業界がそう(愛車)行ってくれと頼んだわけでもなく、自然とそう呼んでいるのは、やっぱりエモーショナルな関係が車と人の間にあるからだと思います」