クリームソーダにチェリーは要らない
少し前の暑い日に、家でクリームソーダを作ってみた。
炭酸水とかき氷シロップ、アイスクリームさえ用意出来れば、作ること自体はさほど難しくはないけれど、せっかくだからと写真に収めようと思ったら、綺麗に撮るのはなかなかに難しい。出来上がり直後はヨシ!と思っても、少し構図を考えたりしていたら、みるみるうちにアイスクリームが溶けてきてしまうのだ。
喫茶店やカフェでオーダーしたのなら、こんなことはあり得ない。我が家の一般的な家庭用冷凍冷蔵庫と、お店の業務用冷凍庫では、そもそも設定温度が違うのだろうけど、他にも何か秘訣があるのかもしれない。
そんなことを考えつつ、ふらりと足が向かったのは、十数年ぶりに訪れた懐かしすぎる喫茶店。
「コーヒープラザ西林」。
来年1月末での閉館が決まり、50年の歴史に幕を下ろすことが発表された札幌大通のファッションビル4丁目プラザ。略して「4プラ」。
自分と同世代の札幌民なら、その終焉に感慨を覚えない筈のないこのビルと、地下2階の玄関口で変わらず在り続けたこの喫茶店。
初めてオーダーしたこのお店のクリームソーダは、チェリー無し。ホイップクリームの類も一切無し。
潔いほどにシンプルそのもの。
この場所で、私が最もくっきりと思い出せるのは、ちょうど40年前、中学3年の頃のこと。私立校入試の後に、数名の友人達と寄り道したこのお店で、パフェを食べてお喋りをして、散々笑って帰ったっけ。その日は所謂‘すべり止め’の受験で、数週間後に控えた本命の入試前の力試しみたいなものだったけど、それでもすっかり開放感に浸り切ってる中学生を、おおらかに受け止めてくれたのがこのお店だった。
こうして懐かしく思い出のある場所を、また1つ失うのは寂しいけれど。
代わりに今更ながら気づいたことが、2つある。
1つは、がちゃがちゃと明るい若者のファッションビルに溶け込んだ賑やかな喫茶店と思い込んでいたこの場所が、実はとてもオシャレで且つオトナな落ち着き空間だったこと。
そしてもう1つは、アイスクリームの溶けない秘訣こそわからなかったけど、クリームソーダにチェリーは無くても、おそらくは構わない。
甘く綺麗な色のソーダ水とアイスクリーム。それだけあれば、充分ひんやり落ち着ける。充分に美しい。
だから多分、クリームソーダにチェリーは要らない。