天色ストーリー⑧❨そしてわりと明るい空·最終話❩【連載小説】
この経歴には、理由があるんです。決して、何事も続かないタイプではありません。
美彌子のそんな主張を聞き入れる前に、まともな会社からはほぼ書類審査で落とされる。募集内容にやや疑問のある会社を受けてみると、すぐに採用されるも詐欺まがいの教材販売会社であったり、次に小さな事務所に雇われ半年ほど働いたものの、お給料が徐々に遅配となり、やがて完全に止まったり。それでも職種を厭わずアルバイトを見つけ、何とか収入が続くように踏ん張った。
折しも、高校時代に特に仲の良かった数人の友人達は、市内では長く人気を誇り就職にも強いと言われる短大を出て、大手企業での社会人生活をスタートさせたところ。
一方で自分の置かれた現状との落差は、もう笑うしかないと思う美彌子だった。
進学を希望することすら危うく悩み続けた中学や高校生の頃の自分。あの頃に想像した以上にボロボロの吊り橋を渡る今の姿を知ったら、一体どう思うだろう。いっそ、この吊り橋がひび割れて足をとられ、奈落の底へ落ちて永遠の眠りにつけたらいいのにと思うこともある。でもそうは問屋が卸さなかった。
その後いくつか仕事を変わり、時にはダブルワークをしながら数年が経過した。
25歳なった美彌子は、夕方から数時間のテレフォンアポインターのアルバイトを始めて、数か月後には上司から声をかけられ、その会社の正社員となった。
その頃には妹も就職、弟は大学生だったが、両親も例のジャガーのローン返済が完了して、ひと頃より随分ましな経済状況となっていた。
美彌子が就いたのは、家庭教師の派遣会社。
職種や業務内容を選べる状況ではないため、特に狙ったわけではなかったが、手に入れることを叶えきれなかった進学に関わる仕事だった。
日々多くの大学生と対面して話し、また電話で様々な悩みを抱えた小中高生の保護者と話す。必ずしも勉強や成績に関することだけとは限らず、学校での人間関係に悩む我が子や、はっきりとした理由はわからないまま不登校になった我が子に悩む保護者の思いは深い。
そして、それぞれの家庭の数だけ、それぞれの悩みや葛藤があることを知る。親も子も、全てが順風満帆、来る日も来る日も笑顔だけがあふれる家庭なんて、あるわけがないのだ。
簡単ではないけれど、張り合いとやり甲斐に満ちた仕事を得て、美彌子の日々は潤った。
ここへ辿り着くために、随分長い間ぐるぐると、遠回りをしていたのかもしれない。
❲完❳