たぬきのお菓子屋さん🦝③シュトーレン【童話】
たんたんたぬきのお菓子屋さん。
お母さんが毎朝早くからお菓子を焼いて、お父さんがお店で売って、僕と妹も時々お手伝いをしているよ。
もうすぐクリスマス。
1年で1番、お菓子屋さんがキラキラになる季節。お菓子屋さんのある商店街だって、あっちもこっちもキラキラ。
寒いけど大好きな季節だよ。
午後からお店へやって来たのは、商店街で酒屋さんをやってる猪のおじさん。
いつもすごい勢いでやって来て、すごい勢いで喋るんだ。
「やあやあ、かわい子ちゃん達。今日もお手伝いかい?えらいねえ。うちの子たちなんて、どこへ遊びに行ったもんだか、いつ帰ってくるもんだか、ちっともわかりゃしない。ハッハッハ」
「子供は元気が何よりです」お父さんがニコニコ応える。
「それにしても、この真っ白いお菓子、なんだい?初めて見たよ」
「シュトーレン。ドイツ発祥のクリスマスのお菓子です」
「へえ、ドイツの。何だか他のケーキと違って、硬いかたまりみたいに見えるけど。味は美味しいの?」
「もちろんです」お父さんは少し大きめの声で言うと、そのまま続けた。
「毎年11月になったら、たっぷりのドライフルーツとナッツ、スパイスに洋酒も加えて、じっくり焼き上げたら、そのあと半月ほど寝かせるんです」
「半月も?腐らないのかい?」
「はい。たっぷりめの砂糖と洋酒とスパイスの効果で、きちんと作れば何か月でも美味しく食べられます。食べる時には真ん中からナイフを入れて、一切れは薄く、食べる分だけ数切れをカットしたら、両側をぴったりくっつけて保存します」
「なるほど」
猪のおじさんは、大きなシュトーレンを1つ買って、すごい勢いで帰っていった。
実はね、今日僕は発見したんだ。
いつも細い目でニコニコしているお父さんだけど、お菓子の説明する時は、何だかいつもより大きくて強そうで、何だかすごくキラキラして見えること。
それとも。
街もお店もキラキラしているクリスマスだから、そんな風に見えたのかな。
今日は、辛いけどおやつは我慢の日だよ。
その代わりお店を閉めたあと、家族みんなでシュトーレンやクリスマスケーキをいっぱいいっぱい食べるんだ。
早く閉める時間になればいいなあ。
おしまい