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頼むよって言ってほしい

「明日は朝8時に出発。」
「一緒に行くって、ばあちゃんとじいちゃんにも言っちゃったから。行けばなんかもらえるかもしれないし。リフト代タダだし、天気もいいらしいし。行ったほうがいい。」

夫が、家族4人のグループLineを使い、
息子へ向けて言いたいことを送ってきた。

その前日の夜。
「明後日のスキー誘われてたでしょ?それ、泊まりだって聞いてる?おじいちゃん家に。」
敢えて家族で食卓を囲んだ際に、敢えて夫の前で、私は息子に聞いた。
もし私が話題にしなければ、当日の朝になってから「おい、今日は泊まりだからな。」と有無を言わさず息子に言い放つ夫が見える気がしたから。

もしも夫と息子が2人で何処かへ1泊するのなら、私は娘と2人で、アイスでも食べながら女同士のお喋りなんかして、呑気な夜を過ごせるからウェルカムだ。本来なら。
だけどそもそもスキーへ行くこと自体「帰省させてもらってるし、しゃーない半日くらい付き合うか」という感じの息子なのに、その後そのまま祖父母宅へ行って、やれもっと身体を使うバイトをしろだの、やれもっと積極的になれだの、やれ就職先はどうするだの、あれこれ言われる状況をいきなり突きつけられるのは、あまりに可哀想だと思ったのだ。

「え?」
やっぱり。夫は、やっぱり伝えてなかった。
息子は少しの逡巡の後、彼にしては、わりとはっきりした声で
「さすがに、それなら明後日は行かない。」と言った。「さすがに」という部分に、スキーそのものも決して行きたくて行きたくてではなかったよね、やっぱりねって思ってしまう。

その時は「行かないのか。」とだけ言って、それ以上その話を広げなかった夫。
そして、その翌日の夜。つまりスキーを予定する日の前夜になって、前述のLineを突然送ってきたのだ。

ばあちゃんやじいちゃんに先に言っちゃったのも、たまたまスキー場の企画がありリフト代がタダになって助かるのも、全ては夫自身の問題。
説得力はゼロに等しい。
そしてそれ以上に、とても大人しく、すぐに言葉を飲み込みがちな息子が言った「行かない」を、完全に無視したような夫のLineは、私からすればあり得なかった。

そりゃあ、田舎の年老いた両親に、孫である息子を年明け以来の2か月ぶりに会わせて1晩滞在し、暮らしに彩りを与えてあげたい、ささやかな親孝行をしたいという気持ちは勿論わかる。
全く、ちっとも悪くない。悪くないどころか、それ自体はすごく良い。

だけどそれなら、尚更のこと
「実は、ばあちゃん達に先に言っちゃったんだ、一緒に行くって。今思えば、先に都合とか気持ちを聞くべきだったと思う。そこは、わるい。
だけどすごく喜ぶと思うし。
だから、今回は、さ。頼むよ。」

こうやって、
言ってほしかった。


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律子
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