アナザーピース
満月の下に小さく立つ君よどうして君はそんなに蒼い
中庭のちいさな生けるリヤドロよ雨が降るから入っておいで
握らせた金平糖の数ほどに約束できる甘さと痛み
ひらがなの名前とともに吐く息は汚(けが)れたものをゆるさない音
剃刀の切目のような唇が濁点のない世界へ招く
罪と知りながら摘みとる真っ白なつぼみのままの棘のない薔薇
この本の絵をごらんほら牡牛座だ痛くないいたくないいたくない
さざなみのような肋(あばら)にキスをする怯えているのは私の方だ
ただひとつ汚れた陰があるならば私が触れた唇のあと
明日もまた紙飛行機の折り方を教える君の指を見るため
天使でもない悪魔でもない顔につけたクリーム茶色い瞳
「満月の虜」ゲームを始めようルールは何も知らなくていい
真っ暗な部屋に放した真っ白なうさぎ 見えない 見える 見えない
白パンをならべたような膝こぞう 狩りがすんだら食事にしよう
猫に似た仕草で髪を梳いたあと猫に似た仕草で服を着る
お祈りはいらないここは祝福を受けることなどない場所だから
カチャカチャといわさぬように食べなさい おまえはすぐになぜって聞くね
蝶々は窓の向こうを飛んでいる私たちには住めない国を
ヨクサルは猫になったよ泣かないで悪戯をしたお仕置きだから
乗馬靴やわらかな髪生意気な睫毛 お菓子をもう一欠片