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りーこ relax communication 🐥9 『夫の着せ替え』
洋服音痴だ、
って夫は、
自分のことをそう言うけれど、
私から見るとそうでもなくて、
彼の歌より彼の装いの方が、
よっぽど外してないよなあ、
って思っていたりする。
初めて夫に会ったとき、
じゃないな、
初めて二人で会ったとき、
つまり初デートのとき、
彼が何を着てたかはっきり覚えている。
ブルーデニムに白Tシャツ、やわらかそうな素材の黒ジャケット。白いスニーカーを履いていて、手には何も持っていなかった。
青山一丁目のイタリアンレストラン。
「イタメシ予約しといた」
って彼が言ったから、
私はシックなワンピースを着込んで行ったのだけど、
彼の格好は、
想像を超えてカジュアルだった。
リストランテとトラットリアの中間くらいのお店だったから、デニムでも全然問題なかった。
だけど、白いTシャツにプリントされてる、黒い線画のバスケットシューズが、初デートの装いにしてはいささか砕けすぎてるようにも思えた。
2軒めのバーで彼は足を組み、酔っ払い、宇宙の話だとか、存在の話だとか、私からしたら面白くもなんともない話を楽しそうに喋った。
話はつまらなかったけど、そんな話をする彼は面白いなって思った。
そう思いながら見ると、彼の胸のコミカルなバスケットシューズも、なんとなく愛らしく見えてきて、そうか、こういうのが彼らしいんだなって感じた。
そのあとタクシーで奥沢まで送ってもらい、
私の部屋で彼はトイレを借りて、
私が淹れた珈琲を立ったまま飲むと、
これからまた会社に戻るからと言ってタクシーに乗り込んだ。
タクシーの中から窓を下ろして、
「今度、ドライブとかどう?」
とかなんとか彼が言って、
私は頷いて、
後日九段下の地下鉄階段を上ったあたりで待ち合わせをした。
彼の車はオレンジ色で、やっぱりカジュアルだった。
後ろのシートが倒されていて、そこに、こちらもオレンジ色の折り畳み自転車が載っていた。
ベンチシートになってる前席に乗り込んだのだけど、
ご丁寧に、シートの色までオレンジ色だった。
そして彼はまたまたブルーデニムで、白Tシャツで、黒いジャケットで白いスニーカーだった。
Tシャツの柄とジャケットの素材が、前回と少し違っているだけだった。
私たちは横浜まで走って、
スパランドで入浴して、
並んでマッサージを受けて、
それからまた夜の街に走り出した。
カジュアルな1日だった。
服装も車も、デートプランも笑い方も、何もかもがすべてカジュアルだった。
そういうのっておしゃれに思えた。
夫は今でもカジュアルだ。
サラリーマンを辞めてからいっそうカジュアルになった。
足腰が無駄に綺麗なもんだから、いろいろ着せてみたくなる。
でも本人は面倒くさがって、いつも同じ格好をしようとする。
ドレッシーなものには顔を背けるみたいにする。
もっと着こなせるはずなのに。
夫はいつでもブルーデニム、それからTシャツ、ジャケット羽織ってスニーカー。
進歩がなくってつまらないのだけど、
浮気のできないタイプなんだって思って、
ストレートのデニムをジョガパンに置き換えたり、黒ジャケットをへちま襟のカーディガンに置き換えたり、嫌がられない程度の着せ替えで許してあげている。
ビールの銘柄くらいには洋服に、こだわってくれたら楽しいのにな。
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![りーこ(と、あひろ)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/102612071/profile_47ea9a6df4f2132cdae5208420d6e1f0.jpg?width=600&crop=1:1,smart)