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マルチレイヤード・シティの秘密

 ビルヂングの意匠や技術にも流行がある。汎暦2005年のJR大阪駅付近の場合、レトロモダンな味わいの郵便局ビルの南に幻想的なガラス・カーテンウォールのビルがあり、その向かいにはバッテリーチックとゆーか金属のカプセルみたいなのが建っていて。それぞれのゲシュタルトに、建てられた当時の流行が見て取れる。街並みとは、いつだって斯様にマルチレイヤードな成り立ちをしているもの。とは言え、この、そこはかとなくちぐはぐな感じをどうしてくれる? 何、建築なんて、中で執務をとる人たちの都合とか、商業建築なら顧客の都合とかへのぬかりない配慮があればそれでよろしい。だから、ランドスケエプてえ視点を忘れちゃいませんか? 

 …話しておかんければばならんことがある。実は、大阪の街とは、そのうち実現するであろう天上界の未来都市の、かなり予算をケチった安物の模型だったのである。なぜケチったかと言えば、それだけ勝ち目の薄いコンペだったから。私は、担当の設計屋(巨人族)を直接知る知人からそう聞いた。ビル単体の意匠プレゼンではなく、お題は界隈のいわゆる再開発計画で。その割に統一感に欠けるように思われるのは、コンセプトが“マルチレイヤード・シティ”だった為。と言うのは大嘘で、件の設計屋が某外資系ホテルを1棟まるまる忘れていたらしい。そのことに気づいたスタッフ達(小人族)はそりゃもう痛々しいぐらいに大慌てだ。無理もない、この歴史的大ボケが発覚したのは、実にプレゼン前日のことだったのだから。しかしながら、当の設計屋は、慌てる周囲をよそに胸ポケットから愛用のiPod-miniをゆっくり取り出し、模型の空いた所にぺろっと糊付けしたとのことである。ご承知の通り、巨人族の時間はゆっくり流れるものだ。

 で、ホンチャンの完成はいつ頃か? 残念ながら。そんなことは誰にも分からない。ひとつには、先に触れたように、巨人族の時間があまりにゆっくり流れる為、我々の時間尺度ではそれを表現しようがないということ。しかも、それが実現される天上界の場所を正確に言い当てることのできる者は、目下の所誰ひとりいないのである。そもそも、この案が採用になったのかどうがが怪しいと言うのに。

 斯様な次第で、そんなものは私にとってどうでも良いことばかり。私の関心事は只、あのビルの容量がいったい何ギガあるのか、黒百合姉妹の歌の場合何曲入るかというその一点に尽きるのである。

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