平行四辺形の部屋から
「あっちで話しませんか」
直角五郎君が素直に従ったので、どうしようかと考えていた私も、仕方なくついて行った。
誘惑太郎氏がドアを開けると、直角五郎は中に入るなりグエッといった妙な声を上げたので何だろうと思ったが、なるほど入ってみて納得。
その部屋は、まるで、巨人が床と天井に両手の平をあてがってギュッと歪めたような平行四辺形で。一瞬頭がクラっとした。が、同時に変なわくわく感もあって。1分もしないうちにとても居心地が良くなってきた。
ところが、真っ先に入った直角は、吐きそうだと言ってすぐに出てしまった。素直なのか自分勝手なのか、よくわからない男だ。でもまあ、仕方ない。きっと彼は、歪んだ部屋アレルギーか何かだったんだろう。
誘惑氏が、苦笑しながら顎をしゃくって移動を促す。
部屋から一歩外へ出てびっくり。歩けない。というより、まっすぐ立つことができないのだ。吐きそうだと先に部屋を出てしまった直角君は、しっかりした足取りでスタスタ歩いて行ったというのに。
手摺りに掴まり、と言うよりぶら下がるようにして進んだ廊下の突き当りに、もう一つの部屋があった。そこは平行四辺形部屋ではなく、たぶん普通の部屋。だったんだろう。
「ちょっと待ってくださいね、今コーヒー淹れますから」
しばらくして、制服の女性が持ってきてくれた白いコーヒーカップに手を伸ばそうとしたが、空振り。うまく掴むことができず、私はテーブルの上に突っ伏した。
「おい、大丈夫か」
隣の席で、うまそうにコーヒーを飲んでいた直角君が言った。
真っ直ぐて何だ? 平行、垂直……角度ってどういう意味だった? というか、歪んでいるのはどっちの部屋だ?
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