ネーミングの大切さ。
長年ビジネスをやっていると必ず悩むことがある。
一体このサービスをいくらで販売するのが適正なんだろうか?
価格が高過ぎれば売れなくなり、価格が安過ぎれば利益が出なくなる…
などという
利益に直結する大問題すらミジンコに思える深刻な悩みだ。
それが何を隠そうネーミングだ。
もしかしたらあなたは
そんなもん適当に付ければ良いだろう?
などと能天気なことを言うかもしれない。
しかし、あなたが買っているその歯磨き粉も、普段使っているそのサービスも、全て"ネーミング"で選んでいる、いや、選ばされている可能性が高いのだ。
いやいや、私は品質と価格で選んでいますよ。
などと、風車を頭に挿して能天気に言うかもしれない。
そんなあなたには、こんな話をしたいと思う。
1950年代のアメリカで、2人の兄弟が小さなレストランをオープンさせた。
そのお店は瞬く間に人気店になる。
なぜなら味はもちろんのこと、何より提供スピードが抜群に早かったのが人気の理由だ。
完璧に設計されたキッチン。
無駄を排除した徹底したオペレーション。
そのスピード感が時代のニーズを捉えたのだ。
そんな人気店に目を付けた1人の男がいた。
その男の名前はレイクロック。
レイクロックは、2人にこう持ちかけた。
「これはフランチャイズにするべきだ!フランチャイズ!フランチャイズ!アーンド!フランチャイズ!」
と。
そこからは怒涛の展開で、世界118ヵ国に出店する超人気チェーンとなる。
ここまでの話で、察しの良いあなたはもうお気付きだろう。
そう、これはマクドナルドの話である。
しかし、なんとレイクロックという男は、強引にマクドナルド兄弟から全ての権利を買い取り、2人を追い出してしまう。
失意の中、兄弟はレイクロックに疑問をぶつける。
「オレたちは無料でノウハウを教えたのに、なぜ買収までする必要があったのか?自分でやれば良かったのに。」
と。
するとレイクロックはこう答えた。
「マクドナルドには素晴らしいシステムともう一つ宝がある。それがなければ成功はしなかっただろう。だからさ。」
「・・・?」
レイクロックは白目をむいて空を仰ぎ、こう答えた
「驚いた。まさか気づいてなかったのかい?」
「・・・なんだそれは?」
「マクドナルドという名前さ!」
そしてレイクロックは、雄弁にこう語る。
マクドナルドという響きは実にアメリカっぽいのさ。
上品だし、口に出して言いたくなる。
これが大切なんだ、と。
にわかには信じられないかもしれないが、
マクドナルドを大人気チェーンにした男は、マクドナルドという名前だから売れたというのだ。
実はこれはとてつもなく大切な教訓なのだ。
ちなみに、私はこれは芸術家にも通じるものがあると思っている。
絵そのものの価値 × 名前
これが揃ってはじめて100年以上価値を保ち続ける事が出来るのだ、と。
ゴッホ然り!
ピカソ然り!
ダヴィンチ然り!
謎に言いたくなる語感があるのだ。
ミレー!マネ!モネ!
なんて、もはやトリオで呼びたいハッピーセットだし、
「叫び」に至っては「ムンクの叫び」がタイトルだと思っていた。
日本人でも写楽はカッコ良すぎるし、葛飾北斎もシビれるし、その葛飾北斎が晩年に名乗ったという画狂老人卍なんてパンク過ぎて失神できるレベル。
一方、15世紀最高の画家と言われる
ヤン・ファン・エイク
をご存知だろうか?
私は全く知らなかった。
もし友達が「ヤン・ファン・エイクの絵を買ったんだ」と言ってきたら、
「キー・ホイ・クァンの絵?」
と、グーニーズの子役の絵と勘違いしてしまうだろう。
そっちの方がマニアックだろ!というツッコミはさておき、
それくらい名前というのは重要なのだ。
人は決して理性で冷静に合理的な判断だけをしている訳ではない。
一番強力な意思決定のトリガーは実はイメージなのだ。
そして、恐ろしいことにイメージは顧客満足度にも大きく影響する。
経営者もアーティストも、名前がもたらす影響力を小さく見積もってはいけない。
と、いうことで、10年以内に"ネーミングデザイナー"という職業が誕生すると予言して筆を置くことにしよう。