茄子とおじちゃんと私
「お疲れ様でした〜。」
カイトサーフを終え、海岸近くのサーフショップを後にする。
夏と秋の間の少し涼やかな風の中、田舎道をてくてく歩いていく。
ようやく見えたバス停。
次のバスまでの時間は15分。
周りには、畑と、コンビニと、店主のいないおせんべい屋さんがあった。
(コンビニで時間でも潰そうかな…。)
バス停のすぐ脇の畑に、黙々と草をむしる、昔のヤクルトスワローズの帽子をかぶった、おじちゃんがいた。
おじちゃんと目が合った。
おじちゃん:「こんにちは〜。」
私:「こんにちは〜、暑いのに大変ですねぇ。」
「うはは、嫌んなっちゃうよ〜。でもやらなきゃいけないかんね〜。これ茄子、これ葱、あれが冬瓜。あんた、どこに帰んの〜?茄子食べるか〜?」
「いやいや〜大丈夫ですよ〜。これから東京に帰るんですよ〜。」
「うちの孫も東京いるよ〜。うちの茄子、米ぬかやってっから、うまいよ〜。茄子食べるか〜?ほら、うち煎餅やってるから、米ぬかやってんの。うまいんだ〜。」
どうやら店主のいないせんべい屋、の店主は、このおじちゃんらしい。
「でも、悪いですよ〜。」
「いいのいいの。俺すぐみんなにやっちゃうの。あははは。今、切ってやっから。」
そういうと、おじちゃんは、せんべい屋からハサミを持ってきて、パチンパチンパチンと茄子を3本切り、「ほい。」と私に手渡した。
「ありがとうございます!」
「うまいよ〜。あ、紙いるか?ちょっと待っとれ。」
せんべい屋に戻り、新聞紙を1枚、ヒラヒラと持ってくるおじちゃん。
「これでくるめ。」
といい、おじちゃんはせんべい屋へ戻っていった。
お礼を言い、新聞紙に包んだ茄子を持ち、バスを待つ。
バスまでの時間は、あと5分。
…ん?茄子をもらったおじちゃんが、せんべい屋の店主なら、せんべいを買わないと失礼なんじゃないか?
「おじちゃん、この黒豆の入ったおかき買ってくね!」
「え?それ、俺、あんまり好きじゃない。」
「え⁉︎じゃあオススメは?」
「マヨネーズのやつ。」
「じゃあ、黒豆とマヨネーズのやつ買うね。」
「…なんか悪いな…。昨日切った茄子も1本、あげるわ。うちの茄子うまいよ〜。」
と言ったおじちゃんは、後ろの棚から、1本の茄子を取り出し、そっとせんべいの入った袋に茄子を入れた。
「おじちゃん、ありがとね。」
そしてバスが到着する。
「ほいじゃ、またね。」
「またね。」
バスの扉が閉まる。
手を振るおじちゃん。
手を振る私。
今年一番の夏の思い出になりそうだ。
ありがとう、おじちゃん。