行き場のない話
hihihiと笑いながら生きることを説いてくれる死神の話を読んで、こんな死神なら会ってみてもいいかもと思った次の日の話。
その夜、灯りを消して布団に入り目を閉じた。
しばらくするとふと目が覚めた。
暗がりの中にぼーっと浮かぶ人影が見えた。
よく目を凝らすと黒いフード付きのマントのような服を着て、大きな鎌をそばに置いた人が浮かんでいた。
「お前が会いたいって言うから来てやった。」
あぁ、死神か、と私は思ったがあまり驚きはしなかった。
「くくくくっ。まさか来るとは思わなかっただろう。」
「はい。まさか来るとは思ってませんでした。」
「その割にはあんまりびっくりしてないな。」
「まぁそんなこともあるのかなと思って。」
「くくくっ。話が早いな。では早速…」
「あれ?死神様の笑い方、hihihiじゃなかったでしたっけ?」
「ふっ、あれは又吉が書いた死神だろう。死神が1人だと思うなよ。では早速…」
「あぁ死神って結構人数いるんですね。デスノートみたいな感じか。…痛っ!!!何するんですか!!」
死神が私のお腹を棍棒のような物でこづいてきた。
「何って俺は死神だからな。死を与えるのが仕事だ。くくくっ。黙って受け止めろ。」
そう言って死神は何度も何度も私のお腹めがけて棍棒を振り下ろした。
「痛っ!痛いっ!痛いっ、ちょっとやめっ、痛いっ…ん?ん?何で?」
「何だ?どうした?」
「はぁ、はぁ、痛い…。んーと…何で」
「何だ?」
「何で棍棒なのかなって思って。鎌あるのに。」
そういうと死神は後ろに立てかけたままの鎌を振り返りながら見つめた。
しばらくの沈黙の後、死神はこう言った。
「…そうだな。いや、でも今日は棍棒だ。棍棒でいく。そういう日だ。さらば。」
そうして再び棍棒を振り下ろす。
「痛っ!痛い!いっ、痛い…、痛い?痛いんだけど…痛い…?」
「何だ?今度はどうした?」
「…いや、なんか思ってた痛さと違うなと思って。なんて言うか、殴られる痛さってもっとズドンとくる感じだと思ってたんですけど、なんかじわじわ痛いというか…。あっ!なんていうか子供の時に、大人にくすぐられて『やめてっ!』って言ってるのに全然くすぐるのやめてくれなくて、もう笑いすぎて腹筋が痛すぎて死ぬかもーっ!…みたいな感じのお腹の痛さというか…。痛いんですよ?痛いんですけど、想像と違うなーと思って。」
「ふっ。痛みなんてそんなもんだ。全てがお前の想像通りだと思うなよ。もう言いたいことはそれだけか?いくぞ。」
そしてまた棍棒を振り下ろす死神。
じわーんじわーんとくる何ともいえぬ嫌な痛みが絶えず続く。腹筋に力を入れて堪え続ける。
「痛いっ、痛い…、はぁ、はぁ、痛い…」
ずっとこの痛みが続くのか?
いや、こんなことあるか?
これ、夢じゃない?
これ夢だろ。
夢なら目を開ければいい。
起きればいいんだ。
よし!起きるぞ!
起きろ!
ーパチッー
はぁ…、はぁ…、はぁ…、
起きられた…。
「夢から覚めたと思ったろ?」
視界に再び死神が現れた。
まじかよ…。
「まじかよって思った?まじだよ。人生そんなに思い通りにいかないさ。まだまだ続くぞ。覚悟しろ。」
再び棍棒を振り下ろす死神。
「もうやだ。痛っ!腹筋ちぎれる!」
「腹筋はなかなかちぎれないから安心しろ。」
手を緩めない死神。
「私、このまま死にますか?」
「さぁ?どうだろう?くくくっ。」
「痛っ!ってかこのまま死んだら、死因は何ですかね?…痛っ!」
「…そうだな。『撲殺』となりそうなところだが、外傷が残るわけじゃないしな。…そうだ。さっきお前が言っていたくすぐられているのを我慢しているような痛みっていうのを採用して、『笑い死に』っていうのはどうだ?まぁ実際顔は笑っていないから『笑い死に風』だな。くくくっ。死因:笑い死に風。くくくくくっ。」
「えー、めっちゃダサいー。痛っ!やだー。…はぁー…これ…いつまで続くんですか?痛い…。もうやだ。疲れた…。」
「くくくっ。疲れたなら目を閉じて眠れ。くくくくっ。」
「えー、目ぇつぶって寝たら、絶対そのまま死ぬパターンじゃん、これ。やだよー。やだー。」
「くくくくっ。」
「くくくっだって!ほらぁ、絶対目ぇつぶったら死ぬよー。まじかよー。…あぁダメだ。疲れて眠い。あー、まじかー。笑い死に風やだぁー。あー…眠い。こんな感じで死ぬんだー…。」
「さぁ早く目を閉じろ。くくくくっ。」
あぁ…疲れた…
薄れゆく意識の中、死神の最後の言葉が聞こえた。
「人生、お前の思い通りにいくと思うなよ…」
翌朝、アラームが鳴り目が覚めた。
周りを見渡すが死神はいなかった。
ただ異常なほどのお腹の筋肉痛で、
起き上がるのが大変だった。
夢なんだけど、夢じゃないような
不思議な感覚を体験したそんな話です。