嫌いという感情
私は『人を嫌いになる』という事があまり無い。苦手だと思う人が居ても、苦手と感じた時点で距離を取るので、『嫌い』という感情まで辿り着かない。ただそれでも稀に距離を取りきれない場合に、嫌いになる事がある。
小学校5年生の時、4年生から持ち上がりで受持だった担任の先生に怒られたことがあった。休み時間に先生が先生の机の後ろにある棚からポスカのカラーペンをバラバラと落とした時に、先生の机の近くにいた私が「あーあ」と言ったのが原因だった。
「あーあじゃねーんだよっ!!拾えよ!!」と先生にすごい剣幕で怒鳴られたのだ。
落としたのは先生なのに、何故拾えと言われなければならないのだと思ったが、確かに心無い言い方をしてしまったし優しくなかったかもしれないと思い、散らばったペンを拾って「すいませんでした。」と謝って席に着き、その日の授業を終えた。4年生の時からいろいろ話をしてきた先生だったので、正直豹変ぶりに驚いた。
翌日学校に着き教室に入ると、私の席の周りに友達が集まっていた。何があったのかと席を見てみると、私の机の上に昨日までに私が受けたテストや提出した宿題やプリントが、採点もされずに置かれていた。友達は「大丈夫?」と心配してくれた。しかしこの仕打ちにあまりにも腹が立ち過ぎた私は友達に「とりあえず今日は帰るわ。」といい、提出したものをもう一度先生の机に力任せにバンッと置いて、教室を出た。通学してくる生徒と真逆の方向に歩き、校門から出ようとした時、担任の先生が追いかけてきた。
先生は「おい!」と私を呼び止め、私が振り返るとどうだ!ざまあみろ!とでも言いたそうな顔で少しニヤニヤしていた。先生は私が半べそで許しを乞うとでも思っていたようだ。私は話にならないと思い、くるりと向きを変え歩き出した。
無言で帰ろうとする私を見て慌てた先生は、私の正面に回り込んでこう言った。
「親には言わないで。」
最低だと思った。
「言われたくないような事ならしないでください。今日は帰ります。」と言って再び帰ろうとしたが、今家に帰してしまっては親に事情を聞かれると思ったのだろう、とりあえず教室で話をしようと言われた。
この状況でこの人は一体何を話すというのかと興味が湧いたので、とりあえず一度教室に戻り様子を見ることにした。教室に戻ると先生は何事もなかったかのように少し明るく朝の会を始めた。バカらしくなった。
1時間目の授業が終わると、「気分が悪くなったので帰る。」と友達に言い残しその日はそのまま家に帰った。
その日からその先生のことが大嫌いになったので、最低限のこと以外でその先生と話す事はなくなった。しかしその後優しさをアピールする様に妙に馴れ馴れしく接してくることがとても気持ち悪かった。
大人になっても平気でこういうことをする人間がいるのだと知って、ちゃんと自分にとって信頼できる人を見極めて人との距離感をしっかり保っていこうと思うきっかけになった出来事だった。
人を嫌いになるという行為は、パワーがいる。嫌いな人のために自分のパワーを使うのは勿体無いので、極力人を嫌いにならないように、穏やかに生きていきたいと思っている。