スクールアイドルグループの作曲家になれるのか? ~Liella! / START!! True dreams のミリしら作曲をやってみた
筆者プロフィール・動機
筆者(ぴょんぴょこ)は作曲(狭義作曲:歌モノ曲の主旋律とコード進行を作るだけ。作詞はできない)を趣味で気が向いたらするぐらいである。これまで内輪向けに3曲くらいしか作った経験がない。同人で自作曲を販売したり誰かとコラボするなどはまだまだ遠い世界である。
イラストレーターなどの界隈で「ミリしらチャレンジ」が流行っているのを知って、作曲ミリしらもできるのでは?? と思いつき試してみた。
ミリしらチャレンジ(ピクシブ百科事典):https://dic.pixiv.net/a/%E3%83%9F%E3%83%AA%E3%81%97%E3%82%89%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BA
自分で歌詞から主旋律を作ってみた後は、自作メロディと原曲メロディを比較し、自作のメロディに足りていない要素を探った。本記事はこの考察までをまとめている。商業曲のメロディがどう安定しているのかを知る一例にできたと思う。
楽曲:Liella! / START!! True dreams
作詞:畑 亜貴、作曲:小幡康裕、編曲:山下洋介、歌:Liella!
筆者はラブライブ!を虹ヶ咲以降ほぼ知らない。「ラブライブ!っぽさ」は分かるが曲を具体的には知らない、というちょうど良い素材だったのでこの曲をチョイスした。
与えられた歌詞とコード進行とオケ音源から、私なりにメロディを考える
歌詞
コード進行 (ChordWikiから)
https://ja.chordwiki.org/wiki/START%21%21+True+dreams+
off vocal音源を聴くと、ピアノや弦パートで主旋律をなぞっているらしきフレーズが出てくるので、部分的には逆算できてしまう。Chordwiki も同じで、歌詞とコードシンボルの位置関係をじっくりみたら検討がついてしまう……がなるべく見ないようにした。
自作のメロディ譜と動画
ワンコーラスのみ制作(フルバージョンの1番終わりまで ≠OP 90秒版)。
歌:AIきりたん
オケ音源:メイエム / MayMstudio 様
【自作カラオケ音源】 Liella! - START!! True dreams 【ラブライブ!スーパースター!! OP】
https://www.youtube.com/watch?v=_8A9PVKSA18
原曲メロディとの比較考察(反省会)
要約: 私のメロディに足りていなかった3つの要素
① 動機の作り込みが甘い
② 歌詞の文字数が多いときの処理がスマートでない
③ 楽節を超えて、および楽節の内部で音域をどう抑えるかの見通しがない
以下、楽譜には
①の問題 → 赤色
②の問題 → 青色
③の問題 → 緑色
の線や文字で指摘を書き加えていく。
【Intro】
サビ (楽譜の Cパート) 後半とかぶるフレーズなのでここで取り立てて指摘するポイントはない。
しいていえば、自作メロディではなぜ緑枠の音を最高音 (hi Bb) にしたのか、明確な意図を持っていなかったし、最高音を繰り返し使って散漫な印象にはなったかもしれない。原曲は、歌詞の中区切りで1カ所だけはっきりと最高音 (hi D) を置いている(問題点③:緑色)。
【Aメロ】
問題点③:音域(緑色)
自作メロディでは、楽節内の最高音 (hi C) をはっきりとした意図を持たずに使っていた。
また、そもそもAメロの音域が、後に盛り上げるべきサビと大差なく、全体としてダイナミクスに欠けてしまった(自作 Aメロ音域:mid2 C~hi C)。原曲ではAメロの音域を低めに抑えられている(原曲 Aメロ音域:mid2 A~hi A)。
問題点①:動機を使いこなせていない→全体としてまとまりがない(赤色)
まず自作メロディの意図をまとめておく。動機a (「いーつのーまーにかー」)の音型は、Aメロ前の間奏から借りてきた。(本来の作曲の工程とは逆転するが)おそらくこの音型は主旋律にも出てくるであろうこと、あと音価が長めなのでサビよりもその前で使うほうが相応しいと想像した。
しかし、この 動機a はAメロで2回しか使えていないし、しかも2回目では音程が違い(2回目は C#dim がくるのでぶつからないようにしたためだが)統一感はない。これ以外の部分で音型が一致する部分もないし、Aメロ全体として歌詞の文字数に踊らされてしまっている。
筆者は最初に歌詞とオケ音源を照らし合わせたとき、「歌詞が長い」という印象を受けた。でもAメロから慌てたような動機を使いたくなくて楽譜のようにしてみた。結局Aメロの最後でしわ寄せを喰らって歌詞の割り当てがアンバランスになってしまっている。
一方で、原曲のメロディをみてみると、「いつのまーにかー」の音型をAメロで4回繰り返されているし、その後の「だいすきが」の音型も3回繰り返されており、まとまりが出ている。音符もバランス良く全体に散らばっている。
問題点②:歌詞で一音にまとめられる音をまとめていない→忙しいメロディにしてしまう(青色)
上の問題①ともつながるが、長い歌詞でまとめられる音があるなら、まとめない手はない。「決めたんだ」「ほんきさ」「どんな」の「たん」、「ほん」、「どん」は一音でまとめられるし、すると他の歌詞割りに余裕が出てきて、のびのびとした旋律を作れるようになる。
《Aメロ自作》
《Aメロ原曲》
【Bメロ】
問題点③:音域(緑色)
音域への意識を持てていなかったのは、Aメロと同じ。
この点原曲では、Bメロの最後からサビ冒頭にかけて最高音 hi Bb を用いている。原曲Aメロの最高音は hi A なので、Aメロから通して聴いても、25小節全体でここが最高音となる。はっきりとこれから盛り上がる場面であることが音域からも読み取れる。
問題点②:歌詞が長いときの工夫(青色)
Aメロと同じく、「やりたいこと」「たのしいね」「そう感じて」と1音にまとめられる部分がある。Bメロの場合、自作と原曲とでこの3カ所が費やした音価は変わらないが、原曲のほうが「休符を入れてメロディの忙しさを軽減できている」「経過音や刺繍音に頼って音を増やさなくても間に合う」点で良いと思う。
《Bメロ自作》
《Bメロ原曲》
【サビ】
最初の印象と対処:
歌詞が長い!!! くて、どうしたらよいかと悩んだ。原曲は2小節ぐらいフライングして歌い出しているのでは? とも思った。がそうすると違和感がでるので、歌い出しを弱起3拍に収めた。
問題点③:音域(緑色)
原曲をみると、意外と高音域に頼っていない。自作のサビメロディで hi C ~ hi E の箇所を枠で囲ってみると6カ所出てきたが、原曲ではhi C 以上が最高音の1カ所しか出てこない。
原曲ほどサビで高音部を削らなくても良いとは思うが、歌いやすい旋律になっている。
問題点①:4小節区切りで縦にみていくと自作メロディには統一感がない(赤色)
サビのメロディを自作と原曲とで比べてみると自作メロディの行き当たりばったり感が浮き彫りになる。原曲の楽譜を縦に眺めると、美しいくらい音型が揃っている。
この4小節単位でみられる統一感は手抜きでできるものではなくて(作詞者にその分の負担を丸投げすれば可能かもしれないが)、計算し尽くさないとできない芸当であることが身にしみて分かりました…。
問題点②:音の縮約(青色)
原曲はサビで、ひとつ感動的なテクニックを見せている。サビの3小節目、「ぼくらのスタート」をおしゃれに4拍に収めた点!! これを聴いたとき、私にはとても真似できない!! と思った。このテクは原曲サビの動機に統一感を残す一助にもなっただろう。
自作メロディでは「ぼくらのスタート」に5拍使っている。8モーラ(ぼ/く/ら/の/す/た/ー/と)なのですべて8分音符にすれば4拍に収まる。しかしこの拍感ではロボットが歌っているような印象を与えると考え、採用したくなかった。そのため、この前後を押しのけて5拍のスペースを確保するしかなかった。
原曲は、ここを「ぼ-く/ら/の/スタート」とし、(1)「く」を無声音のように扱って唐突に付点8分+16分のリズムを出しても違和感がないようにし、さらに (2) 「スタート」を英語みたく扱って start 1音節を1音で片付けている。この発想はなかった。これで前後の収まりも良くなっている。
+αの気になった点
自作のサビ 5, 9小節の頭に助詞(と、の)が出てくるのは良くはないかもしれない。強拍は自立語の1文字目を当てたほうが歌いやすいと思う。ただし原曲のIntro 2, 3小節目も助詞が来ているので絶対ダメではなさそう。
《サビ自作》
《サビ原曲》
結論
修業が足りない。
おまけ
澁谷かのんさんがかわいいと思います。