セカイが終わる。カッパが騒ぐ。
「セカイ、とうとう終わるらしいで」
となり町から、シンジョーがやってきた。正しくは、シンジョーに乗り移ったカッパであるが。
「お前、どうする?どこに網張る?」
「エライ難問やなぁ、それぇ~!」
と言いながらも、俺の口元は、だらしなく緩む。
「あぁ、どんだけ美味しい感情が食べられるか、頭、爆発しそうやわ~、ワシィィ~」
シンジョーの目は、ほとんどドラッグ中毒者のそれだ。俺は思わず目をそらす。
正気を保とう。
そう、俺らは、カッパだ。が、あの、川で魚を取ったり、人間に悪戯を繰り返していたカッパではない。俺らカッパは、昔は、人間に一番近いとこにいた八百万の神であるが、人間たちが、いつの間にか俺らの存在に気づかなくなって、俺らは、カッパ族として、人間との付き合い方を変えざるを得なくなった。
俺らは周波数の操り方を研究し、人間の感情で、この人間界に住む術を発明した。そのきっかけを作ってくれたのは、あの小説家で「河童」を書いた芥川龍之介であったが、奴が精神を病んでしまっていたおかげで、周波数の研究中の俺らの存在は、芥川の幻想ということになって、俺らは難を逃れたのである。
で、俺らカッパは、どう変わったか。
俺らは、人間の感情を喰って生きる神になった。そして、時には、その人間の内部に住むこともある。
人間の感情は、俺らにとってのご馳走であり、生きがいなのである。
「セカイの終わり~、どんなエモエモが待ち受けるのかぁ~、楽しみやなぁ~」
「エモエモゆうの、辞めてくれるか?想像するだけで喉が詰まりそうや」
シンジョーは、来た時よりも皿に、もとい更に興奮し始めている。元々は、カッパ族は、感情表現が下手であるが、人間の感情を食べるようになってから、その感情をアウトプットすることで、人格をクリエートするという技も使えるようになった。
「お前の好物、なんやったっけ?」
「やっぱ、浪花節やな。ドラマでも、あっさりした、泣き笑い満載の奴が好きやねん」
シンジョーは笑いが止まらないという風に、嘴を押さえて、上目使いに俺を見る。
「そっか。しかしなぁ、セカイの終わりやで。そんなあっさり味の感情なんて出るか?」
「関西やったら大丈夫やろ。味付け、薄味やし。」
そういう問題かよ。
「お!待った!待った、待った、待ったぁ~!」
シンジョーが急に顔色を緑に変える。人間の体を借りてても、だんだん同じカッパと話していると、元の色に戻る。
「それより、セカイが終わるっちゅうことは、人間がおらんなるいうことやないんけ?そりゃ、不味いやろ?」
「シンジョーよぉ、俺らは、カッパ。人間がこの世からいなくなったら、そのエネルギーはどっかに移る。それに乗じて移動すりゃええことや。周波数が操れるいうのはそういうことやんか」
「そっか、伊良部、やっぱ、お前はすごいなぁ。さすが、境界線を越えただけのことはある。」
俺も人間として生きている時に、この周波数のことを、もう少し勉強していたら、元の体を失うことはなかったのに、と今更ながら悔やまれる。
と、言いながら、ハッとする。
そうかぁ。セカイの終わり。そういうことか。
誰かが、俺らと同じことに気づいたってことだ。人間界を別次元に移動させる、もしくは、周波数によって消滅させる。
「シンジョー、状況はわかったで。こうなったら、祭りやな。エモエモなセレブレーションや!」
「ん?何がわかったんや?」
自信に満ちた俺の顔を見て、シンジョーの顔がパッと晴れる。顔色は、人間の色に戻っている。
「何でもええわ!セカイノオワリ!この祭り、もらったぁ!」
セカイ、あと8時間。
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