
犬よ5
この度2月3日節分の日、めでたく実家の犬が17才のお誕生日を迎えた。めでたい。めちゃくちゃめでたい。えらい。
犬はお腹を壊して絶食中で犬用ケーキを一生懸命嗅いでいる動画が母から送られて来た。犬の17才って人間のいくつなんだろう。相当なおばあちゃんであることには違いない。なんとなく、いつからか『人間でいうといくつ』換算をするのが嫌になった。だって人間の1年と犬の1年全然、全然違う。私なんか2022年何をしただろう。
17才になったばかりのぴかぴかとはちょっと言えない犬はお腹の調子が悪くて、以前に増してずっと寝ていて、ご飯は2、3日にいっぺんしか食べなくて、それだって下痢で出てしまうからマックス9キロあった体重は4.8キロに落ちてしまったらしい。いや9キロはデブが過ぎて動物病院の先生にしこたま怒られた。7キロくらいがベスト体重なのに。じいちゃんとばあちゃんが衣はいだ肉とかあげちゃっていたものだから。
ばあちゃんは動物が嫌い。犬も猫も鳥も見かけると「おっかない、おっかない」と言ってそそくさ遠ざかるのが常。元気な暴れ毛玉だった若い時分の犬が大好きなじいちゃんが訪れる度にお尻ごと尻尾振って歓迎するのを、後ろでひゃあひゃあと悲鳴をあげて腰が引けていた。犬はちやほやしてくれる人間以外に眼中にないからばあちゃんには寄って行かない。第一、ちやほやしてくれる人間にだって10分もしないうちに飽きてそっぽ向いて寝る。
私達子供達が家を出て、母もフルタイムで働くようになって犬の分離不安が強くなった頃、老いたじいちゃんばあちゃんと母の同居が始まった。お留守番が嫌いで、人間の出かける気配を過敏に察知しては玄関のドアからすり抜けたり、襖を食い破り戸板を食い破り、勝手口の網戸やら鉄格子も噛み広げて脱走してはご近所さんに保護されていた犬は途端に落ち着いた。というかその頃だって10才で犬界ではシニア層で、とにかく家を破壊しまくっていた犬はともにおうちでまったりするじいちゃんばあちゃんで落ち良かったのである。知っていたからショックはまるでなく、犬の破壊行動と分離不安が落ち着いて良かったという安心しかなかった。
大好きなじいちゃんも毎日毎日一緒にいれば慣れる。嬉ションするくらい来訪を喜んだ犬はご飯の時にしかじいちゃんに寄って行かなくなった。犬寄ればじいちゃんはヨシヨシと肉だの手ずから炒った落花生だの犬にやって母に怒られていた。どれもこれも犬にやってはいけないやつ。
犬嫌いのばあちゃんも毎日毎日一緒にいれば慣れる。最近ばあちゃんは犬を抱っこする。4.8キロのおばあわんをばあちゃんが抱っこしている。あんなに抱っことか人間に触られるのが好きでなくてビチビチに暴れていた犬がばあちゃんに抱っこされて寝ている。なんか不思議な光景を実家で垣間見る度にあの犬が…あのばあちゃんが…と戸惑ってしまう。写真はさっきばあちゃんに抱っこされて寝ていた犬。犬用牛乳かけカリカリを食べて寝た犬。
抱っこしても犬が暴れない。というか犬の重みで下ろしたくならない。そう思えば軽く、軽くなっちゃったのだ。元の7キロや9キロの重みを覚えていないのも今気付いた。『人間でいうといくつ』換算はしないけど『犬なんにんぶん』キロ換算はする。この換算は相場が行ったり来たりするのだけど、そうかとうとうお米と同じくらいか。この前お米が切れて買い出しに行きリュックに背負って帰った、あの重みよりちょっと軽いのか。
犬よ、17才になった犬よ、ここまで来てこんなに穏やかに抱っこができる日が来るなんて思ってもなかったよ。犬は抱っこできないものだと思っていたよ。嬉しいような、ちょっと寂しいのほうが比重が重いか。
ちなみに我が家は、とくに母は犬に対して何頭とか何匹とかでなく、何にんを使う。ご飯も餌も言うけど、人じゃないけど何にん。道行く猫にもついでに適応される、人じゃないけど愛しき命だからなんとなく何にん。