見出し画像

バレエ感想「踊れ、その身体がドラマになるまで 〜矢上恵子メモリアルガラ2025 in TOKYO〜」


福岡雄大さんや福田圭吾さんの育ての師として知られる矢上恵子さんの追悼ガラ公演を見に行きました。

今回は新国立劇場バレエ団のダンサーとセミプロが出演していましたが、体型が全然違って驚きました。手足の長さがとか体格がなどという話ではなく、両者は筋肉の付き方が全然違い、新国のダンサー達は筋が見えるというか標本みたいな体をしてて、踊ると筋肉の動きが見えるかのようで凄かったです。改めて新国のダンサーのレベルの高さを感じました。

客席について

客席がめっちゃ関西色が強くてとても面白かったです。
会場に入った瞬間に怒涛の関西弁(大阪弁?)が聞こえ「○○ちゃんこっちの方が見やすいから交換しよか」と言って若い子に良い席を譲ってあげたり、お菓子を知り合いに沢山あげてたり、世話焼きで人情味溢れる大阪のおばちゃん達が至る所にいて微笑ましかったです。

以前関西の拍手の凄さについて「緞帳をこじ開ける関西人の拍手」とどなたかが仰っていましたが、その通りでカーテンコールの手拍子はノリノリで関東のように手拍子の音やペースが落ちることは一切なく、終了のアナウンスが流れるまで全員爆竹拍手で大盛り上がりでした。

観客も舞台を一緒に盛り上げようという大阪の明るいパワーに元気をもらいました。関西はフェッテの手拍子も普通にあったりして盛り上がると聞いたことがありますが、これだけ毎回観客がノリノリで盛り上がってくれたらダンサー達も嬉しいだろうし、関西で公演したいダンサー達も多いんじゃないかなと思います。 独特の関西ノリというのか大阪ノリは大盛り上がりで、めっちゃ楽しかったです

感想

「Witz」は今回のガラの最初に上演されたのですが、福田圭吾さんが出てくる前にローザンヌの映像にある「Witz, Keiko Yagami」という音声もそのまま流れるなど、ローザンヌ時代から福田圭吾さんを知るファンにはたまらない構成でした。

体を分解するかのように動かすムーブメントは2003年ローザンヌの時より研ぎ澄まされており、22年という長い月日の中で福田圭吾というダンサーがどれだけ体を深く使うようになったか感じました。
しかし今回の「Witz」は振付が変更されており、ローザンヌの映像で見たような若々しさや機敏さは無かったです。体型も変わってしまい、彼の代名詞でもあった側宙もアチチュードターンに変更されており、時の流れは残酷だと思いました。

以前圭吾さんのインタビューで「Witz」は福岡雄大さんのために振付られた作品と知り驚いた記憶がありますが、第2部の最初に矢上さんの追悼映像が流れた際に雄大さんが踊る「Witz」が少しだけ流れました。体を内側から引き離してパーツごとに分解するような動きを見せていた圭吾さんと違い、雄大さんの動きはもっとメカニカルでロボット的で、2人の表現は全然違うながらも若い2人の良さをよく引き出していた振付だと思いました。

昨年圭吾さんは「アラジン」で新国立劇場バレエ団を退団し、キャリアの一つのフェーズに終止符を打ちました。しかし昨年の圭吾さんは体型も綺麗で、動きも機敏で少年アラジンそのもので、なんて凄いダンサーが引退してしまうのか、もう一度彼の踊りを見たいと強く願っていました。子どもの頃から応援していたダンサーのキャリアの終焉を見届けるのはとても寂しく名残惜しかったです。
彼が今後振付等に専念するのか、踊りも続けるのかはわかりませんが、私が彼の踊る姿を見るのはおそらく今回が最後になるでしょう。「Witz」で圭吾さんのことを知り、「Witz」で見納めをする。1人の素晴らしいダンサーをここまで長きに渡って見ることが出来てよかったです。

右側が雄大さん

さて今回のガラは新国立劇場バレエ団のダンサー達とセミプロ達が参加しており、第一部はセミプロの発表会のような空気になりかけていました。そんな中で唯一プロフェッショナルとして、表現者たる存在感を示したのは新国立劇場バレエ団プリンシパルの福岡雄大さんによる「Bourbier」でした。
このガラは昔の作品が多いので、追悼という名の通り昔を懐かしむかのような昭和感漂う作品が多かったです。しかし雄大さんが踊った「Bourbier」だけは今の世でも通用するような昭和感を感じさせない作品でした。この作品は福岡雄大さんがヴァルナ国際バレエコンクールで銅賞を受賞された時に振付され、矢上さんも振付賞を受賞されました。

「Bourbier」は雄大さんのことを考え、雄大さんの良さを引き出す振付がふんだんに込められていると感じました。雄大さんの踊りからはダンサーとして踊りを愛する気持ちや苦悩する気持ちが伝わってきました。雄大さんの表現力の高さもあると思いますが、それだけでなく彼に合った振付だからこそ雄大さんの魅力が伝わったのだと思います。
雄大さんは矢上さんの愛弟子だったと聞きます。私の想像ですが、これだけ雄大さんの良さを引き出せる振付を考えられた矢上さんは雄大さんにとって師でもあり、彼の芸術性を理解してくれる最大の理解者だったのではないでしょうか。彼から感じた苦悩はプリンシパルとして常に己と戦い続けないといけない苦悩だけでなく、最大の理解者である師匠を失ったことも含まれるのかもしれないと感じました。

ちなみに私が福岡雄大さんに注目したのは舞踊評論家の桜井多佳子さんがインタビュー雄大さんのことをとても評価していたことがきっかけです。正直に言うとこのインタビューを初めて読んだとき「確かに雄大さんはとても上手なダンサーだけど、他にも上手な人はいる。ロシアバレエにも造詣が深い桜井さんがなぜ雄大さんをここまで評価するのだろうか。」と謎でした。
ですが今回の「Bourbier」を見て、おそらく桜井さんは私が知り得なかった表現者としての福岡雄大さんの踊りを見たことがあり、彼の表現の豊かさを知っていたからこそ評価されていたのかなと思いました。

表現者としての幅広さを持つ雄大さんに合う作品、矢上さんのように彼の良さや表現力を引き出せる振付家が今後出てくることを心から願います。

赤い衣装が橋本真央さん

「Cheminer」は最近注目している橋本真央さんが出演されるので楽しみにしていました。橋本さんの踊りをじっくり見るのは初めてなのですが、美しい見た目に加え、手足が長く、胸椎も柔らかいなどバレリーナとしての身体条件が優れている方だなと思いました。ただ要所要所でラインの美しさを見せきれておらず(振付だったのかもしれませんが)、これだけの素質を持っているのに惜しいなあと。周りの新国ダンサーと比べて決してレベルが劣るわけではなく、むしろ美しいラインや上半身の柔らかさなど鍛錬すればソリストになれそうな素質がある方のように見えます。おそらく私の予想ですが、いくら彼女が素晴らしい素質を持っていても入団3年経ってもそれを伸ばしきれていないとしたら、今の新国には彼女の素質を伸ばしてあげる目と実力を持つ先生がいないのでしょう。本当にもったいないです。

ところで橋本真央さんといえば新国立劇場バレエ団「DANCE to the Future 2024」で唯一見応えのある作品を振り付けられていた方で、彼女の作品を見た時に「相当色々な舞台を見て勉強しているだろうな」という印象を持ちました。実は先日東京バレエ団のベジャール版「くるみ割り人形」の会場で橋本さんと服部由依さんをお見かけし、やはり橋本さんは色々な公演を見てよく勉強されているんだなとしみじみ。今回のガラに出演し、矢上恵子のスタイルも学んだ彼女が今後どうそれを振付作品に活かしていくのか、とても楽しみです。

そういえば、新国のプロダンサー達とセミプロ達の違いは割と歴然としていましたが、男性陣は結構レベルが高くてちょっと調べてみたら出演者の大森一樹さんはなんとヴァルナ国際バレエコンクール銅賞!ひょえーーーーー!
そりゃ上手くて当然ですね😂

上演演目と出演者

『Witz』
  福田圭吾
『Multiplex Personality(多重人格)』
  井本星那、石川 真理子、井後 麻友美、佐々木 夢奈、杉前 玲美
『FROZEN EYES 〜凍りついた目〜』 
  米沢唯、木下嘉人
『Butterfly』
  福田圭吾
『Bourbier』(ブルビエール)
  福岡雄大
『Cheminer』(シュミネ)
  小野絢子、柴山紗帆、池田理沙子、五月女遥、
  川口藍、金城帆香、橋本真央
『Toi Toi』
  石川真理子、福岡雄大
  福田 圭吾、木下 嘉人、宇賀 大将
  井本 星那、井後 麻友美、佐々木 夢奈、杉前 玲美
  齋藤 伊世、酒井 美穂、梶原 麗菜、菊川 萌香、大森 一樹
  平井 美季、冨田 柊、土屋 華穂、城戸 彩、井上 あるも、中井 怜、前田 美優里、三木 志月


いいなと思ったら応援しよう!