クララの言葉から想像が広がった『子供の情景』とクララへの想いが込められた『クライスレリアーナ』
前回の続きです。
その後、当初の計画とは違って、シューマンは直接ヴィークあてに、クララとの結婚を申し込む手紙を送りましたが、シューマンが思っていた反応ではなく、無視された上に、話し合いの機会をもったものの拒絶されてしまいました。そればかりか、またもやクララはヴィークによって7ヶ月にも及ぶ長い演奏旅行へと連れ出されることになったのです。
再び離れ離れとなってしまった二人ですが、頻繁に手紙が交わされ、お互いの感情も深まり、シューマンはピアノ曲に名品が生まれ、クララもウィーンで開く演奏会がどれも成功をおさめました。このことに気を良くしたのか、クララの父ヴィークは、度重なるクララからの懇願に、シューマンがヴィーク家に出入りすることと、ライプチヒ以外の土地でなら結婚を黙認すると約束しました。
喜んだクララは、シューマンにそのことを知らせ、二人でウィーンに住むことを提案します。シューマンは敬愛するベートーヴェンとシューベルトが住んだウィーンに、いつか自分も住んでみたいと願っていたこともあり、その提案に喜び、ウィーン行きを決意したのでした。
その決意を告げる手紙の中で、シューマンはその頃作曲していたピアノ曲《子供の情景》についてクララに報告しています。
有名な『トロイメライ』を含むこの曲集の第1曲目『見知らぬ国から』は子供が抱く、見知らぬ遠い国への憧れを感じさせる美しい曲です。
ウィーンでの結婚生活を計画し始めた二人でしたが、そのことに父ヴィークは驚きます。クララは演奏会のマネジメントや財産管理など全てをヴィークに頼っていたので、まさか自分のもとを離れる決意をするとは思っていなかったからです。
ヴィークは再び、二人の交際を妨害し始めました。しかし、そのような状況にあっても二人の絆は固く、ゆるぎませんでした。それどころか、この頃のシューマンは作曲に対する意欲が極めて旺盛で、溢れ出る楽想を次から次へと書き綴っていました。
『心をこめて』と指示が書かれている第2曲は、第1曲の激しさとは対照的で、静かに幸せへの憧れを感じさせるようなメロディーが流れます。