技術革新から捉えた日本の野球アナリティクス史 〜序論〜 (球辞苑のPR付き)
はじめに
毎年久永さんが企画しているスポーツアナリティクス Advent Calendar 2022の最終日。今日は球辞苑のPRと「技術革新視点で捉える野球のアナリティクスの歴史」をこれから書きます。という宣言の記事です。
年末恒例の「球辞苑、改訂版」
先日、「球辞苑2022 改訂版〜バッテリー編〜」の収録がありました。見出し画像にあるように、毎年恒例の改訂版に今年も出演させていただきました。NHKの公式サイトではまだ間に合っていませんが、告知OKとのことでしたので、こちらにも記載します。1/8(日)にNHKBS1で放送予定です。
今年は12/31(土)に3本連続で再放送、1/1(日)に「球辞苑2022 改訂版〜野手編〜」の初回放送があるなど、年末年始に球辞苑の放送が目白押しです。ぜひご覧ください。
個人的にも今夏に会社を立ち上げ、9月には4年間務めていた企業の社員を卒業、10月にはアルバイト、社員時代含めると17年間在籍したデータスタジアムのフェローからも退いて独立したタイミングで、新たな一歩を思い入れの深い球辞苑からスタートできたことは感慨深かったです。
言葉の整理はアナリティクスを機能させる近道
球辞苑は改訂版などの総集編的な回を除くと、毎回1つの野球にまつわる単語をマニアックに掘り下げます。作数はすでに80を超えているにも関わらず、テーマが出尽くされることはありません。初期の「SFF」「流し打ち」「ファースト」「アンダースロー」「ホーム・スチール」から最新の「完全試合」まで、様々な事象が言語化されています。
これらの言葉には、試合の内容を記録するためだけでなく、選手の役割や技術を表すもの、試合に勝つための「分析術(=アナリティクス)」が深まり、一般化される過程で生まれ、重要視されたものもあります。例えば、過去に球辞苑でも取り上げられた「インハイ」はアナリティクスの観点で重要視された言葉と言えるでしょう。
インハイ、すなわちインコース(内角)のハイボール(高めの球)という言葉は公式記録としてスコアブックに残るものではありません。「死球のリスクが高く投げづらい、でも打たれづらい。インハイに投げることができないと打者に知られたら踏み込まれるからある程度はインハイを突ける技術が必要だ」というように、あくまでも投手と打者の対決局面における戦術の観点で投球されるコース、高さを分類した言葉です。
科学的な知見やアナリティクスを機能させ、選手やチームのパフォーマンスを向上させるためには、言葉の持つ意味の認識を合わせることが大切です。歴史の中で生まれた様々な言葉への理解は、野球に対する解像度を上げ、パフォーマンス向上のための主体的な情報の取捨選択に役立ちます。
「スポーツアナリスト」が「スポーツアナリティクス」という言葉の整理を放置していた話
ここで、ひとつ大きな自己矛盾にぶち当たります。言葉の整理が大切と言いながら、アナリストはスポーツアナリティクスという言葉の整理を疎かにしているのではないか?ということです。
今回のスポーツアナリティクスアドベントカレンダーにも、様々な内容の記事がエントリーがされていますが、これらがどうスポーツアナリティクスなのか、スポーツアナリティクスのどの側面を捉えた何の話なのか?とても分かりづらい状態になっていると思います。
スポーツアナリティクスジャパン(SAJ)というカンファレンスに長年携わり、SAJ2022にはプロジェクトマネージャーという形で携わった身からすると、この問いは自戒の念を込めての話でもあります。ただ、スポーツアナリティクスとはなにか?をPRしないと理解されなかった2010年代はあえて明確に定義せずに、先進性のある話を全部盛り込んで「かっこよく」見せることが必要だった、という背景もありました。
言葉の示す対象領域が広いということは共通認識を阻害する要因になり、コミュニケーション時の混乱や軋轢を生む原因にもなります。
実際、10年ほど前に日本スポーツアナリスト協会が立ち上がった頃のアナリスト勉強会では参加しているアナリストがお互い「分かる分かる!なるほど!」と、会話した瞬間から同志に会った感動が強かったのですが、当時と比べて、最近のアナリスト志望の学生や若手アナリスト、アナリティクス導入を希望する選手と話す場合、そもそも何の話をしようとしているのか、したいのかという前提整理の時間が増えています。
NPBの各球団でもアナリストの肩書きのあるスタッフが配置されるようになりましたが、自分が知る限り、アナリストの肩書きがついている人の専門性と能力は所属球団によって大きく異なります。
個人的にも、本格的にリーグやチーム、選手へのアナリティクス導入、改善のための戦略作りの活動を行い始めてみると、コミュニケーションを深める過程で構造的な整理、歴史認識の共有が必要な場面に遭遇しています。また、他競技のアナリストからも野球のアナリティクス史を知りたいという話をちらほら聞いており、今回、まずは自分がこれまで携わってきた「日本の野球アナリティクス」の歴史について、整理を試みることにしました。
課題解決ではなく、技術革新の視点で日本野球のアナリティクス史を捉える
ビジネスでのアナリティクスは通常、経営課題の解決のために行います。最重要のKGI、下位概念のKPIという重視すべき指標を設定し、モニタリングを行い、予実差を分析する。そして新たな課題を見つけ、指標を設定し…というプロセスを繰り返します。
野球も基本的には課題の解決、チーム内部であれば勝利を得るためにアナリティクスが行われるのですが、日本の野球のアナリティクス史は技術革新の視点から捉えた方がわかりやすいと考えています。
アメリカ、メジャーリーグのアナリティクス史であれば「セイバーメトリクス」を生んだ「ビル・ジェームズ」を中心に「何が勝利を増やす要素なのか?を紐解く活動が起こり、野球の得点構造などマクロな視点が徐々に整理され、21世紀になって選手の能力開発というミクロな領域に拡大してきた」という流れで整理できるのですが、日本の場合は様相が違います。
日本ではむしろ、技術革新によって各年代ごとに「現場でできることが増えた」ため、パフォーマンスの一部を解決するためのソリューションが生まれ続けたという整理がしっくりきます。
そのため、今回は技術革新を捉えて年代分けています。次回以降、それぞれの年代でどのようなアナリティクスが行われ、今に至るのかをまとめます。書いていくうちに多少変わるかもしれませんが、いまメモとして手元で整理している時代区分、タイトル、キーワードは下記です。
年末年始でどこまで書ききれるか。ここで宣言してしまい、やってみる。という精神でチャレンジしようと思います。
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