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むきゅ むきゅ むきゅ

高校1年生の1月、福岡に雪が降った。
結構降った。
その日は午後の授業も部活もすべて中止になった。

だから、普段部活で忙しい友人も皆んなで雪合戦をした。
福岡には滅多に雪が降らない。
ただでさえ箸が転んでもおかしい年頃なのに、雪というレアアイテムが加わって、さらに狂ったように笑って騒いで、楽しんでいた。

次の日だったか、国語の課題としてその日を題材に詩でも短歌でも何でもいいから書けというものが出た。

私は短歌を選んだ。

雪の中
ハイヒールの跡
発見し
その娘の安全
勝手に願う

確かこんな感じだった。

普段はチャリ通学だったが、雪という事で違う道から歩いて登校した。
そしたら、ハイヒールの跡を見つけた。
こちらは運動靴でも滑らないかヒヤヒヤしているというのに、この足跡の持ち主はすごいなぁと感心した。
仕事場まで、もしくは学校まで、はたまたデートの待ち合わせ場所まで、
彼女が安全に到着できるよう、勝手ながら願った。

というのはどうでも良くて。

皆んなが詠んだ作品を、あろうことか国語の先生が一枚のプリントにして配った!
は、恥ずかしい!
しかし、セーフ。すべて匿名で記載されていた。

その中に可愛い詩があった。

むきゅ むきゅ むきゅ

このようなオノマトペが沢山使われていた。
本当は「むきゅ」ではなくて、もっと面白い音だったかも。
が、残念。忘れてしまった。

授業後、友達のみっつーが、真央ちゃんに
「これ、真央ちゃんが作ったやろ?」と聞いた。
案の定そうだった。

みっつーは、
「こんな可愛くて変な音を使うの、真央ちゃんしかおらんもん」と言って、
真央ちゃんも「へへっ」と笑っていた。

私はこの2人の感覚がすごくすごく好きだと思った。
変な音を変な音として、そのままに捉えられる真央ちゃんの感覚も、
変な音を面白いと思って、それを友達のものだと思えるみっつーの感覚も。

家に帰って、偶々そのプリントを見た母も、
真央ちゃんの詩を可愛いね〜と言っていた。
(一方で、私の作品に対しては、
「『勝手に』とか卑屈っぽい所が可愛くないね」と言っていた。分かる。)

それからというもの、雪の上を歩く度に真央ちゃんの詩が流れる。

むきゅ むきゅ むきゅ

むぎゅ むぎゅ むぎゅ

むきゅ むきゅ むきゅ



フィンランドは今、一面真っ白。
毎日雪の上を歩く。

いつも真央ちゃんの詩と共に、あの雪の日の思い出が、みっつーの言葉が、母との会話が、頭をよぎる。
少しだけ、温かくなる。

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