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とあるカフェBARで 〜 琳さんの場合
「ようやく、うちの店に来たねぇ」
「もっと早く来たかったけど、休みが月曜だけやから何かと家に用事もあるねん。」
「なに飲む?」
「ビールもらおうかな?」
店では目配り気配りに抜かりなく、琳さんが気を抜いている姿を見ることがないのでカウンターの椅子にリラックスして座っている様子を見て不思議な安堵感を抱いた。
「ホンマに、あの店のホールをよぉ一人で回してると思うわ!」
「新しいバイトちゃんが入っても、すぐ辞めるからなぁ。」
琳さんは、帰化した北京出身の社長が経営する中華料理店で10年以上も働いている。中国北部の出身で旦那さんは日本人で年齢は50歳くらいだったと記憶している、子供はいない。彼女の同僚の多くはかなり日本語が怪しいが、琳さんはネイティブさながらの大阪弁を喋る。
「そんなにバイトの子はすぐ辞めてしまうん?」
「気に入らんことがあったら、すぐ辞めるで。こっちも気を遣ってキツイことは言わんようにしてるんやけどなぁ。」
「バイトの子は、ほとんど中国からの留学生なんやろ?」
「うん、そうやで。でも、中国人のバイトちゃんはホンマにあかんわ。おんなじ失敗を繰り返した時にちょっと注意したらすぐ辞めんねん。ホンマにもぉー。」
「アハハハハ〜、中国人って…。琳さんが言うな!知り合いの経営者と話してたら、日本人のバイトもぜんぜん続かへんって言うてたで。」
「そうなんかなぁ、みんな親に甘やかされてんねん。」
琳さんはビールを一口飲んで、ため息をついた。
「私な、社長にもしょっちゅう言うねんで。私の体力も落ちてくるし、今から私の代わりになる人を見つけんと、なにがあるか分からんからなぁ。うちの親も歳やし、急に中国に帰らなあかんようなことがあるかも知れんし…。」
「高齢化社会はどこの国も一緒なんやな、ホンマに働き盛りの人が親の介護で身動きが取れんようになるような話は、日本でも深刻な社会問題になってくると思うわ。」
「そうなんよ、厨房の料理人も1ヶ月くらい親の病気で中国に帰ってたもん。」
「琳さんみたいに、店思いの従業員がおってくれて、社長も心強いと思うで。」
琳さんは休みの月曜日も、時々姉妹店を手伝いに行ったりしながら、10時から22時くらいまで働き詰めなのだ。そんな店思いの彼女の気分転換になることを願うばかりだ。