(もうすぐ)世界が終わる前に
.
『衆議院解散』
まただ。
遅ればせながら。4日ほど前の新聞の一面見出しを見てつぶやく。
ちょうど2年前の今ごろもそうだった。
2年前の今ごろは、長らく暮らした都会をなくなく離れ、
最終手段としておいた「帰郷」を選択し、
仕切り直しとしようと決めたころだった。
引っ越ししてすぐで新住居の地方では投票ができず、
生まれて初めて、旧居を管轄する選挙管理委員会に問い合わせしたのだった。
郵送で不在者投票の書類を請求。
人生それなりの年月を生きていると、いろんな種類の機会に出逢うものだ。
やれやれ。今回は、その逆か。いなかから書類を送ってもらわねば。
よりによって、わたしの身辺が騒々しいときに選挙ばかりやりやがる。
ボソボソこころの奥でつぶやきながら、この2年間を軽く振り返る。
なんやかんやとキツイ日々で。
日を重ねるごとにキッツイ日々で。
もう未来を描くことも忘れかけてたこともあったり。
そんな状況から一転、
不思議な縁に導かれ、みごとに脱出する流れができた。
この歳にして再々上京。もはや第5幕くらいの人生仕切り直しである。
アホの極みとしか言いようが無いが、一度きりの人生。
既にわたしは、ひとつふたつ諦めを強いられている。
女として生まれて、これを体験できずして死ねるかと、
つい数ヶ月前まで断固受け入れることができず気が狂いそうになったものだ。
そんなことはもうよろしい。次のステージは始まった。
あとは、いつ死んでも後悔しないように。
ひとつひとつ、自分がまだ成し得てないことを
できるかぎり実現しようじゃないか。
せめて、そんな人生を、自分に与えてあげようじゃないか。
とかなんとか。
『衆院解散』など堅い言葉の羅列を珍しく流し見つつ
次の1ページをめくる。
と、そこに新聞らしからぬ書体で印字された一文が眼に入った。
『 明 日 で 世 界 が 終 わ り ま す の だ 〜。』
ん? なにやら新しいテレビ番組でも?
あ、映画かしら? 最近すっかりロードショウもご無沙汰ね。
右横に添えてある言葉がわたしをくぎ付けにした。
『11月27日0時に世界が終わります!!』
ぇええ?! テレビじゃなくて? 映画じゃなくて?
急に心臓がドキドキしてきた。
あろうことか、わたしは新しい生活へ移る準備をするために、
一時、荒れ散らかった実家に帰ってきていた。
ちょうどその日の日づけ変わりで「世界が終わる」というのだ。
なんてこったい!! こんなところで終わりたくないわい!
これから新しい生活を始めようと、
15年来の「夢」を「現実」に移そうと、
ようやっと動き始めたところだのに!!
神も仏もキリストも、なぜわたしにこんなに試練を与えるのだ!!
キーーーーーーーーィ!!
今度は身体中が熱くなり、頭に血が上ってきた。
なんだって、こんなタイミングで選挙とか世界が終わるとか。
やってらんねえーーーーー!!
ちきしょう。こうなったら、生き延びてやる。
鼻息荒くしたところに、ポロリン♪と一通のメール着信。
「かおちゃ〜ん。メール見たよー。
いいじゃん、再出発。祝おうや。
来月、そっちに行くから。ひさしぶりに。
あ、ついでに泊めてくれ。雑魚寝でいいし♡」
ぇえええ?! ジョークじゃなくて? ふざけてる訳でもなくて?
絶妙なタイミング。11月26日の時刻は23:23。なんとも語呂合わせもよく。
おっと。喜んでいる場合ではない!
あと30分ちょっとで「世界が終わる」んだ。
さっそく彼に連絡しなくちゃだ!
一気にいろんなことが頭を駆け巡り、
震える手が、まともに活字を打ち込めない。
そんなこんなで十数分。
新聞に記載されていた『世界の終わり』によれば、
あと数分ですべてが終わる。らしい。
なんてこったい!!
いったいなにを信じればいいのだ!
「もうなんだか嬉しいやら悲しいやら訳が分からなくて
でも嬉しすぎて死にそうだよ! 死なないけど!」
送信したメールは、こんな風になっていた。
11月26日の時刻は23:45。これまた数並びが良すぎて。
「うん。久しぶりに。やっと会えるね。」
彼は、『27時0時に世界が終わる』ことを知らないのだろうか。
とかなんとか余計な思考がよぎるスキマは、既に私の中にはなかった。
「そうだね。楽しみ☆
では、明日も佳き いちにちで〜( ´ ▽ ` )ノ」
時刻は23:59。送信完了。
超短期企画『明日、世界が終わる前に』に参加しました。
(企画:ならざきむつろ氏)
https://note.mu/muturonarasaki/n/n65545a110553
*あとがきはコメント欄へ。
Copyright© 2014 canokomonou, All rights reserved.