片倉館のニルヴァーナ
私の家族は共通の趣味として、日帰り温泉に行く͡のを楽しみにしている。私にとって温泉は、リフレッシュできるし何よりドリフだからいい。
あれは、娘が2才の頃だった。この日は、諏訪方面を攻めようと諏訪湖畔にたたずむ『片倉館』を訪れた。この上諏訪温泉というのは、お湯が熱めなことに定評がある。駅のホームにまで足湯があることも有名で、高速のサービスエリアにあるハイウェイ温泉も気軽で景色も良い。
子供にはいくらか熱過ぎるし、ここは外湯もなければ大きな湯船一つしかない。ただ、数日前にロードショーでやっていて見せたテルマエロマエの撮影があったとかなかったとかで娘の興味を惹き、何とかなるか…と私は娘と、女湯に入りたい気持ちをグッと堪えて、男湯に入った。
大正ロマンチックな彫刻だったりステンドグラスが目に入るので。娘もなかなか興味津々で、千人風呂と謳われる大きな湯船の中は段差が3つあって、うちの子は1段目に立つとで半身浴のようになり、丁度いい。更に、この温泉の底には石が敷いてあり、足つぼをマッサージできるような仕様なので、2・3個拾ってやると眺めたり並べたりして遊んでいた。
私は、風呂の中でも眼鏡が欠かせない人間なのだが、眼鏡のくもりが慣れてくると、向かいの湯船を背にして入っている数人の強面の中高年の方々の肩から青を中心とした模様が入っているのに気がついた。慌てて高い天井なんかを観察している風を装い目を上にやった。
湯気の中、向こうの方が私の方を見てないか確認しようと目を落とした…その時!!ドボンという音と共に、娘が目の前から消えていた。
しまったと思いつつも愛娘を早く水の中から救出しなくては…と頭の中で試行しながらも目下の景色はスローモーションとなり、揺れる水面からは目を見開き手足をもがく姿は、かの有名なニルヴァーナのジャケット写真の様だったので、不謹慎ながらも噴き出してしまった。
ツルっと滑って溺れかけたパニックでわんわん泣き叫ぶ娘を抱きあげつつ、まだニヤついた顔が戻らない私を、向かい側からの痛い視線は、ニルヴァーナのそれではなく仁義なき戦いのテーマを奏でているようであった…
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