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完成された主人公としての格闘漫画『サツドウ』

※この記事には漫画『サツドウ』のネタバレが含まれます。

最強の格闘技は......何か?

さっぱり再開する気配のない『喧嘩稼業』への当てつけとも受け取れる描写から始まったのが、今回紹介するヤングマガジンにて連載中の漫画『サツドウ』です。


ネットでは、最強の殺し屋が人を殺さずに日常生活を送ろうとする『ファブル』との共通点を挙げている感想が多かったですね。

しかしこの記事では、往年の格闘漫画と比較しつつ『サツドウ』をあくまでも「格闘漫画」として紹介したいと思います。

(『喧嘩稼業』のパロをするくらいなので作者も格闘漫画を意識はしているでしょうし)

あらすじ

主人公は、天然なところがあるがそれ以外は真面目で平凡な会社員・赤森六男。
しかし...それは表の顔に過ぎず、真の姿は代々続く古流殺法術の家に生まれた天才武術家だった。人を殺すことに嫌気がさした六男は過去を封印し平凡なサラリーマンライフを送ろうとするが、ひょんな事から半グレに襲われ、彼らを撃退した場面を動画に撮られてSNSで拡散されてしまう。
それをきっかけにして、彼を狙う殺し屋、格闘家、武術家たちが六男のもとに集うのであった...。

あらすじはこのような感じでしょうか。

完成された主人公

赤森六男(あかもりりくお)

この漫画の主人公にして代々赤森家に伝わる「背神活殺流拳法」の使い手であります。

父親からは「一族でもっとも殺しの才に恵まれた男」と言われ、僅か9歳にしてMMA(総合格闘技)のトップ選手を苦もなく瞬殺(比喩ではなく本当に殺しています)した実力をもっています。

しかし16歳の時に、人を殺すたびに「自分が消えていく」虚しい感覚を覚えていた彼は、武術家であることを辞め、家をでます。

父親はあっさりと俗世で生きることを許可します。「どうせ闘争、そして殺しの宿命からは逃れられないのだから...」と。

24歳まで平凡なサラリーマンとして生活していましたが、戦う姿を撮影されてSNSで拡散されてしまった事により、父親の言う通り背神活殺流拳法に恨みを持つ格闘家や武術家、そして暗殺者から付け狙われることなります。

性格はいたって真面目で、平凡なサラリーマンであり続ける為に日々努力をしています。が、生まれてから16になるまで、社会から隔絶された環境で殺人マシンとして育てられていたためか、一般常識に非常に疎く、色々とズレた行動をしてしまうことがあります。それがギャグとして描かれることにより、殺伐とした雰囲気に程よい清涼感を与えてくれます。

さて、その六男の強さですがストーリー開始時から既に作中トップクラスです。作中世界内の最強の暗殺者相手でも苦戦する様子すら見せず倒してしまいます。

赤森六男は既に「完成している主人公」なのです。

個人的には、似たようなタイプの格闘漫画の主人公として『修羅の門』の陸奥九十九を思い起こさせます。さらに、歴史の影で暗躍していた最強の武術が表に出てくることにより、武術・格闘技界に渦を巻き起こす...というストーリーの流れも『修羅の門』に似ています。

『修羅の門』の九十九は自分が背負う流派である陸奥圓明流が最強である事を証明する為に、また強者と戦うことが大好きなバトルジャンキーでもある為、自分から積極的に戦いの場に足を踏み入れていました。

しかし『サツドウ』の六男は戦うことに全く興味がなく、むしろ戦いの場からいかに彼が逃避するかが描かれています。

彼にとっての一番の願いは「平凡に生きる事」なのですから。

「既に完成された最強の主人公」を中心にして戦いの物語が回るのは『修羅の門』も『サツドウ』も同じですが、陸奥九十九がその中心に自ら身を投じて積極的に戦いを楽しむのに対して、赤森六男は中心から逃げ出そうとするのが対象的です。

最強でありながら戦いを好まず平凡な暮らしに憧れる。今は、このようなキャラクター造形の方が好まれるのかもしれませんね。

しかし見方を変えると、戦いによって実の兄、不破、レオンを殺害し、なお強者との闘争に身を投じる九十九がちょっと狂っているのであって、幼少期の殺人経験から戦いを避けようとする六男の生き方のほうが一般的価値観に沿っているのかもしれません。

“師”としての主人公

上で書いたように主人公の強さは既に完成されています。つまり彼が修行を経て「新しい技を習得する」などのエピソードなどは今のところありませんし、これからも描かれないのではないでしょうか。

なにしろ、六男が今一番苦戦していることは一番の望みである「平凡な暮らしをする」なのです。

「戦いに巻き込まれる事」そのものが現時点で最強の敵、と言ったところです。

そのかわりに活躍しそうなキャラクターがいます。

青田健春(あおたけんしゅう)

六男が第一話で返り討ちにした半グレ集団のリーダーでありキック・ボクシングの元ジュニアチャンピオンという経歴をもっています。

当初は六男にあっさりと倒されてしまう、噛ませポジションのキャラクターでしたが話が進むうちに、なぜキックの道を捨て半グレに堕ちたのかなど過去が掘り下げられ、最終的に身辺をマークされて身動きが取れなくなった六男を、自分のマンションに匿うという行動をとります。

その時だした交換条件が「六男に自分を鍛えてもらう」でした。

青田の望み。それは自分の過去を清算し、大切な人を救うために有名な格闘技大会に出場して優勝する、というものでした。

その条件をのんだ六男は、青田との奇妙な師弟関係を結び、共同生活を送ることになるのです...。

主人公が割と序盤から師匠ポジションにつく格闘漫画は個人的には初めての展開ですので非常に興味深く感じられます。

また、警察の秘密部署に所属するカパプ(イスラエル特殊部隊の格闘術)の使い手や、ハニートラップを駆使する国連暗部の女始末屋など、マニアックな格闘術を駆使する敵などが次々登場して、飽きさせない展開となっています。

さらに赤森“六男”から分かるように、主人公には上にまだ5人の兄がいます。まだシルエットでしか登場していない彼らが物語にどのように絡んでくるのかもワクワクしますね。

この記事を読み、興味を持たれた方は是非、『サツドウ』も手にとっていただけたらと思います。







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