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眠れる龍 〜ワニの祖先の恒温性について〜

恐竜が恒温動物であったかは今も様々な議論がされていて、『ジュラシックパーク』などの影響もあり、最近では、恐竜が哺乳類や鳥類のように活発な恒温性の生き物であったという説が一般人の共通認識となっています。

しかし、恐竜と同じ主竜類であるワニやその祖先については、そこまで人々の関心が無いのかあまり議論されていないように感じます。

もちろん、現在地球上に生息しているワニについては全てが変温動物である為、ワニの祖先も変温動物であると考えるのが普通なのかもしれません。

しかし、調べていくとワニの祖先は恒温性、もしくは中温性(変温動物と恒温動物の中間の体温維持機能のこと)であった可能性があるという説を紹介する海外の動画が見つかった為、それについて書いていきたいと思います。

※英文を自動翻訳を使用している為、細かいところで間違いがあるかもしれませんがご容赦ください。

※“恒温性”や“変温性”という言葉は現代は使われなくなっており、正確には“内温性”や“外温性”が使用されているそうですが、この記事では便宜上、恒温動物や変温動物という言葉を使用します。

※主竜類の二大グループの内の、ワニ類に近縁な全ての主竜類を正式には“偽鰐類”と呼びますが、この記事では分かりやすさを優先して“ワニ類”で統一します。


ワニと恐竜の共通祖先の時点である程度の恒温性を獲得していた可能性がある


上記の動画の要点をまとめると
・ワニと恐竜の共通祖先である基盤的な主竜類がある程度の恒温性を持っていた。
・つまり、恐竜と枝分かれした際の初期のワニの祖先も恒温性を持っていた可能性がある。
・ワニの心臓は哺乳類や鳥類と同じ構造で温性動物特有の活動的な動きに耐えるつくりになっている。
・ワニの祖先は手足が胴体の真下についており活発な活動をしやすい構造だった。
・気嚢自体はないものの、ワニの肺は空気が一方向に流れるつくりになっており、これは陸上での活発な動きに適したものである。

となります。さらに下記の動画ではなぜ現在のワニが完全な変温動物であるかを説明しています。

要約すると
・現在のワニのように水辺で待ち伏せ型の狩りをする動物にとって恒温性であることはエネルギーの無駄である。
・変温であれば生命維持に必要な餌の量も少なくて済む。
・半水性生活であれば空気よりも熱伝導率の高い水につかっていることはせっかく発生させた熱エネルギーをより早く奪われることになる。
・変温動物は恒温動物よりも酸素の消費率がはるかに低いため、潜水する際に有利である。

となります。

しかし、ワニがなぜ変温に進化したのか、その理由はまだはっきりとは分からないそうです。陸生のワニであるノトスクスの化石を調査した結果、変温性である可能性が高い為、ワニの低い代謝は陸にいた頃から始まった可能性があるそうです。

さらに下記のようにワニの祖先が恒温性であったとする論文も出ています。

https://doc.rero.ch/record/15303/files/PAL_E2602.pdf

一般的な爬虫類の心臓(2心房1心室)と違い、ワニは哺乳類や鳥類と同じ2心房2心室の心臓を持っています。これは変温動物にしては心臓の構造が複雑すぎるそうです。

この複雑な心臓は陸上で活発に活動してきた恒温性の祖先から受け継いだものである可能性があります。

さらにワニの心臓は右心室と左心室の両方から、体循環へつながる大動脈弓が出ており、その動脈がパニッツァ孔と呼ばれる部位で、バイパスされています。これにより、肺に循環する血流をなくし、酸素を節約することができます。これは水中で長時間潜水するための低代謝な生活特有の進化である可能性があるのです。

※ただし、こちらの論文には“内温性動物には必須である鼻甲介がワニには存在せず、また祖先のワニにあった証拠もない”という反論もあることも載っています。

二足歩行をしたワニの仲間もいた

三畳紀には二足歩行をするワニ類も現れました。

“カロライナの肉屋”と呼ばれるこのワニ類は二足歩行が可能な頂点捕食者であった可能性が高いそうです。

特筆すべきはその成長速度で、化石を調べた結果、わずか3年で体長3メートルまで成長することが分かりました。これは高い代謝があってこその成長速度であり、初期のワニ類が恒温性(か中温性)であったことを裏付けるものであるとのことです。

また、三畳紀を支配したワニ類の進化速度は恐竜と変わらず、恐竜の繁栄は運がよかったからだという説もあります。

下の記事内の“クルロタルシ類”が“偽鰐類”でありこの記事での“ワニ類”になります。

恐竜が生存競争に打ち勝って大量絶滅を生き延びた理由については、これまでその特性や性質に優れた点があったためだという説が提唱されていた。この説を検証するため、ブルサッテ氏らはおよそ60頭の恐竜とクルロタルシ類の解剖学的な特徴を比較し、進化の速度と体形の多様性について測定した。すると、この2種類の進化の速度にはまったく差がないという驚きの結果が得られたのだ。


「恐竜にクルロタルシ類より優れた点があったのなら、より速く進化していたはずで、逆にクルロタルシ類の進化が長期的にみて遅くなることもあったはずだ。さらに驚くことに、当時は恐竜よりもクルロタルシ類の方が体形に多様性があり、より多くの生態的地位を占有していたのだ」と同氏は説明する。


 当時のクルロタルシ類はそのほとんどがワニとは似ても似つかない姿で、4本足の巨大な肉食獣、敏捷に2足歩行する優美な動物、戦車のようなよろいをまとった草食動物など、後の恐竜を思わせる体形をした生物も存在したという。


「2億1000万年ほど前の三畳紀後期の様子を見て、どちらが生態系の支配者になるかを賭けるとしたら、分別のある参加者は皆、クルロタルシ類に賭けるだろう」と同氏は話している。

三畳紀末の大絶滅がなければ地球はワニの惑星になっていたかもしれません。

ワニは“変温へ進化”した

恐竜(とその姉妹群である翼竜)は進化していく中で、ワニとの最後の共通祖先と別れた後に、独自に恒温性を一から身につけたと今までは考えられてきたそうです。しかし上記のように、恐竜とワニの共通祖先がすでにある程度の恒温性(中温性)を獲得しており、恐竜はそれをさらに進化させ、最終的にその一部が鳥に進化した、という説が最近の研究により唱えられるようになりました。

この説が正しければ、ワニは三畳紀において、後の恐竜がそうであるように多様化し、完全な直立二足歩行を獲得する種も現れました。しかしその後、理由は不明ながら再び代謝を落とし、変温動物として現在の姿に進化してきたのがワニという生き物なのです。

新生代にも活動的なワニがいた

恐竜が鳥を除いて絶滅し、哺乳類の王国となった新生代ですが、そこでも活動的なワニは現れました。

有蹄ワニと呼ばれる、この蹄を持つ陸生のワニ、Boverisuchusは、限定的に二足歩行も可能だった可能性があるそうです。

まだ仮説にすぎないものの、哺乳類を追いかけて狩りをしたのであれば、高い代謝が必要であり、内温性か中温性を再び獲得していた可能性があると上記の動画では述べています。

終わりに

さて、少し話は変わりますが…。

ワニ研究の第一人者である青木良輔氏は著書である『ワニと龍: 恐竜になれなかった動物の話』において、「ワニが“恐竜”になれなかったのは絶滅していないからだ(要約)」というような趣旨のことを書いています。

上記の文章で使用される“恐竜”というのは、分類学・形態学的な意味ではなく、あくまでも、一般大衆が想像するであろう「太古に存在した巨大で恐ろしい爬虫類」の総称です。

恐竜は鳥へと進化した獣脚類の一種を除いて全てが絶滅してしまいました。その対価として付与された“太古に存在した巨大生物”というプレミアが、恐竜を恐竜足らしめているのではないか?と青木氏は言いたいのだと思います。

現在も恐竜が生き残っていたら、ほとんどの人は、迷惑なデカいトカゲくらいの意識しか持ちえなかったに違いない。

『ワニと龍: 恐竜になれなかった動物の話』 p.7

仮にワニ類が、白亜紀末に恐竜と共に全て絶滅してしまったとしたら、我々一般人はその化石を見てワニを“水陸両用の恐竜”だと認識したのではないでしょうか?   

…もっとも青木氏は本書において「ワニが生き残ったが為に、その姿を見た古代人が“龍”の文字を生み出した。つまり、ワニが絶滅していたら“恐竜”という熟語も存在しなかっただろう」とも主張しています。

ワニの祖先が恒温であったのであれば、変温へと進化し代謝を落としたワニはまさに“眠れる龍”といったところでしょうか。

閑話休題。

私個人としても、子供の頃に図鑑などでワニの身体を調べる中で“彼らの祖先は恒温だったのではないか?”と思うことが多々あったため、今になってそれを裏付ける論文がでてくることは嬉しい限りです。

そして最後に…。

「ワニの祖先が恒温動物であり進化により変温動物になった」

…正しいかどうかはさておき、「“進化”とは、生物が世代を経て必ずしも複雑な形態へと一方方向に変化することではない(そもそも変温=単純という考え自体が間違っているのかもしれませんが)。そして、その道筋は人間が思っている以上にダイナミックである」ということを、この説は雄弁に物語ってくれているような気がします。


最後まで読んでいただきありがとうございます。




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