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【サンフレ流】地方Jクラブの生き抜き方

スポーツでもビジネスでも言えることだが、地方に拠点を持つ者・企業が全国の猛者達を相手に戦い勝ち抜くのは簡単ではない。
地方というだけでディスアドバンテージが発生するケースは多々見られる。

これはサッカーの世界にも当てはまる。やはり強豪チームは首都圏や大都市を本拠地としているケースが圧倒的に多く、予算規模や選手層で優位に立っている事が多い。
例えば海外サッカー5大リーグの2024-25シーズンを参考にすると、、、


イングランドプレミアリーグでは20クラブ中なんと7クラブ首都ロンドンを本拠地にしているという集中ぶり。その他、第二の都市バーミンガムを本拠地とするアストン・ビラや、第三の都市マンチェスターを本拠地とするマンチェスターユナイテッドとマンチェスターシティなど、主要3都市のクラブがリーグの大半を占めている。

プレミアリーグ本拠地一覧



スペインラ・リーガでは20クラブ5クラブマドリード州(首都州)で、3クラブカタルーニャ州(2番手州)を本拠地にしている。
一方でラス・パルマスやマジョルカのように離島を本拠地とするクラブや、ビルバオのように地元のバスク人しか契約しないクラブもあるのがラ・リーガの面白さでもある。

ラ・リーガ本拠地一覧
ラス・パルマスは枠外。



ドイツブンデスリーガでは18クラブ中RBライプツィヒとウニオンベルリンを除く16クラブが旧連合軍側の西ドイツを本拠地にしている(東西格差)。
もともとブンデスリーガ西ドイツ側(ドイツ連邦共和国)のリーグであり、東ドイツ(ドイツ民主共和国)はオーバーリーガというリーグを開催していた。東西ドイツ統一後も1部リーグは旧西ドイツ勢が優勢で、旧東ドイツ勢はレッドブルに翼を授けられたRBライプツィヒが上位に割り込んでくるのみである。
※ちなみにウニオンベルリンは東ドイツ地区だが、2部のヘルタベルリンは西ドイツ地区のクラブである。

ブンデスリーガ本拠地一覧


イタリアセリエAでは20クラブ13クラブ経済的に恵まれている北イタリアを本拠地にしており、中央イタリアは4クラブ、南イタリア2クラブ、島嶼部が1クラブである(南北格差)
イタリアでは19世紀より南北での工業化に差があり、工業化に遅れた南イタリア側は経済的発展が遅れてしまったのだ。
イタリアでは地方クラブを意味する「プロビンチャ」という言葉があるくらい、都市クラブと地方クラブの間に差があるのもセリエAの特徴である。
※マラドーナが在籍したナポリが南イタリア勢の中で最も成功したクラブとして知られる。

セリエA本拠地一覧


フランスリーグアンは中部や南西部を除いた地域にチームが点在している印象であり、地理的な偏りは見られない。
フランスは地域格差貧困移民などの社会問題を抱える国であるが、フランス代表の移民割合を見て分かる通り経済的に恵まれていない移民や移民の子孫がフランスサッカーを支えている点が影響しているかもしれない。
歴史的に見てもジダンやアンリ、カンテ、エムバペなども海外移民であったりその移民の子であったりする。

リーグアン本拠地一覧
2023年のフランス代表



☆Jリーグの地域格差は?

ここで話を日本のJ1リーグに移す。
J1のクラブ本拠地はどうなっているだろうか?なんとJ1では20クラブ中10クラブが関東圏を、4チームが関西圏を本拠地にしている。
残りは中部地方に3クラブ、中国地方に2クラブ、九州に1クラブである。

そして殆どのチームが太平洋ベルト沿い、もしくは新幹線のぞみのルート沿いに位置している点も見逃せない。アルビレックス新潟のDF千葉和彦が、「今年も太平洋側のクラブに選手を抜かれた」と冗談で言っていたのは半分マジな話である。(※やべっちスタジアム2/10放送回のデジっち新潟編)


ちなみに、ファジアーノ岡山が初昇格を果たしたことで、中国地方勢で2チーム目のJ1クラブとなったことは今シーズンの目玉の一つでもある。

J1リーグ本拠地一覧

また、J1⇛J2⇛J3と順にディビジョンを下げると地方クラブの数が増え、東北北陸中国四国九州の割合が高くなる。
J2リーグでは東北・四国・九州クラブの割合が高く、何と合わせて20クラブ中11クラブを占めている。


しかしなぜこのようなアンバランスが生まれてしまうのか。その理由を推測するに、

①チームを支える企業の規模や数の差

⇛やはり地方に行けば行くほど大企業の数は少なくなるし、その規模も小さい。Jリーグクラブは親会社や地元企業からのスポンサードによって成り立っているため、そのあたりがクラブ経営にダイレクトに直結している。

②人材の差(量)

⇛地方はそもそも人口が少ないので、有望な人材が湧いてきにくい。サッカーの場合は下部組織が整備されており、
ジュニア(小学生)
 ⇛ジュニアユース(中学生)
  ⇛ユース(高校生)
   ⇛トップチーム
    ⇛成功を収めさらに人材が集まる
と地元の有望株を囲って育成ができるが、地方クラブはそのサイクルを回すのが難しい。

③人材獲得難易度

地方クラブは戦力の獲得レースの中でもハンデを背負っている。選手側も首都圏や大都市でプレーしたいと考えており、関東クラブの中で人材がグルグル回っているなんてこともある。関東のJ1上位から出場機会を求めて関東のJ1下位、もしくは関東のJ2J3クラブへ移籍というケースはかなり多い。
また地方では力のある大学サッカー部も少なく、近年Jリーグや日本代表を盛り上げている大卒選手の多くは関東か関西の大学リーグ出身である。地方クラブが関東の大学生を特指としても、なかなか試合に呼ぶことが難しいなんて話もあるし、そもそも在学中の練習参加も呼びにくい。

④移動距離

地方クラブはそもそもアウェイの移動距離がハンパない。日本列島は南北に縦長であるため、Jリーグの試合であっても欧州CL並みの移動距離となることもある。
広島から一番近いアウェイの岡山が約160キロの距離だが、直径160キロの中に関東J1の10クラブがすっぽり収まるくらいである。
以前、鹿島の岩政監督が関東内移動の疲労を敗因として語り話題となったことがあるが、それくらい意識の違いがある。

日本広すぎな

⑤集客数

これを言っては元も子もないが、地方は人口が少ないのでそもそも観客が入らない。反面、関東クラブが国立開催で4〜5万人集めました!となるとナンジャソレと羨ましくなってしまう。




★地方クラブが生き残るには

とはいえである。
サッカーなんてものは不平等が当たり前で、「関東イイナー」とか「大企業のバックアップイイナー」なんて言ってたらダサいのだ。

そもそも日本列島だって、イギリスの横くらいに浮かぶヨーロッパの国であれば、Jリーグも欧州の5大リーグに勝るとも劣らないリーグになれていたかもしれない。しかしそんなこと嘆いたって仕方ないのだ。

アジアの極東の島国リーグのさらに地方のクラブであっても、生き抜いていかねばならんのだ。

ここからが本題だが、地方クラブの中では成功を収めている方であるサンフレッチェ広島について話していこう。

①広島の立地・人口について

広島は関東から新幹線で四時間、隣県に大都市は無い。Jリーグ開幕時のオリジナル10なのかでも一番西端のクラブであったこともあり、有力新人の獲得は困難であった。そのためサンフレ以前のマツダサッカー部時代より、選手育成による強化に力を注いできたクラブである。
ただ中国地方の中では中心都市で広島市人口が120万人というのを考えると、立地は悪いが街にはそれなりに経済力がある中の上くらいの条件だったのではないかと思う。

②企業のバックアップについて

サンフレはもともとマツダのサッカー部発祥なので、少なからず企業のサポートが得られたクラブである。Jリーグにオリジナル10で参入できたのも、マツダサッカー部に歴史があり強かったゆえである。
しかしながら90年代後半以降はJリーグバブル崩壊やマツダの経営不振もあり、森保・高木と言った主力を放出せざるを得ない状況に陥った。
なんとか、家電量販店エディオン(当時はデオデオ)のバックアップによりクラブは存続することができたが、しばらくは苦しい経営が続いた。

③選手育成

立地も悪い、金もないという状況から生き残るべく必要不可欠だったのは自前での選手育成であった。そこで整備したのがJリーグ初のユース寮である。なんとJリーグ開幕してすぐの1994年のことである。
全国に独自のスカウト網を張り巡らせ、光る原石を発掘し、高校生1年生から広島に連れてきちゃおう作戦だ。広島ユース出身の選手で中国地方外から来た代表的な選手は下記の通り。

・駒野友一(和歌山県)
・高萩洋次郎(福島県)
・前田俊介(奈良県)
・柏木陽介(兵庫県)
・荒木隼人(大阪府)
・加藤陸次樹(埼玉県)
・長沼洋一(山梨県)
・イヨハ理ヘンリー(愛知県)
・大迫敬介(鹿児島県)
・満田誠(熊本県)
・東俊希(愛媛県)
・松本大弥(東京都)
・井上愛簾(神奈川県)
・木吹翔太(石川県)

かなりの数のユース選手を遠方から獲得し主力選手に育てている。ちなみに現在のサンフレのメンバーのうちなんと14名が広島ユース出身。そして8名が中国地方外から広島ユースに来た選手たちである。

一方で高体連出身の選手で一番直近の高卒入団は2017年入団の松本泰志である。なんと8シーズンも高体連卒の選手を獲っていないのだ。近年の新卒の獲得傾向は、広島ユース出身者or大卒選手の2択である。

④スタジアム整備

自前でユース選手を育ててチームの強化は進んだが、経済的な問題は長らく解決しなかった。最大の要因はスタジアムであった。

広島はエディオンスタジアム(旧ビッグアーチ)を長く本拠地としていたが、ここが「デカすぎ、立地悪すぎ、アクセス悪すぎ、ほぼ屋根なし、陸トラつき」のJ1最恐レベルのスタジアムであった。

エディオンスタジアム(ビッグアーチ)


最恐スタジアムゆえ、なかなか十分な集客が見込めない状況にあり経営を苦しくさせていた要因でもあったが、2024年に新スタジアムのEDIONピースウイングが開業して状況は一変

EDIONピースウイング

ほぼ毎試合完売となりクラブ経営は大幅に改善。年間売上が前年の1.8倍近い数値となった。今まで40億に達するかどうかのクラブ売上だったが、70億を超える大成長を見せた。

新スタ建設協議に10数年を要したが、新スタ完成がすべての経済問題を解決してしまったのだ。

「新スタのおかげ」という結論になってしまうと元も子もないが、新スタができるまで何とかクラブを維持してきたユース出身選手、育成部門、フロント、そういう環境の中でも広島を選んでくれたユース外の選手たち、その頑張りに尽きるのではないでしょうか。


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