史上最高のゲーム音楽#2-フィールド曲編-【ブンガク×オンガクVol.5】
【前回】#1 通常戦闘曲
さて、ゲーム音楽特集第二弾といこう。
前回、通常戦闘曲というマニアックなテーマでゲーム音楽を紹介したが、今回は「フィールド曲」に絞って十曲ほど紹介していきたい。
プレイ中に耳にする時間が非常に長いため、飽きにくさが求められる一方、その作品のカラーを最も反映しているのがフィールド曲だ。
単に有名な曲を並べるだけでなく、コンセプトの面白さや作品への貢献度に着目して選曲したい。
クロノ・トリガー「時の回廊」(光田康典)1995年
有名な曲を紹介するだけでなくと言っておきながら、しかしこの曲を紹介しなければ、フィールド音楽編は始まらないだろう。
スクウェアとエニックスが合併する以前、ファイナルファンタジーとドラゴンクエストという、人気を二分するRPGタイトルの制作者が集まり、ドリームプロジェクトとして誕生したのが「クロノ・トリガー」だ。
崩壊した未来を救うため時空を旅する物語で、現代、中世、未来、原始と渡り歩いた後、ゲーム後半にたどりつくのが「古代」。
吹雪の吹き荒ぶ小さな島に到着した一行は、「生き物の気配を感じないが、不毛の時代なのだろうか?」と不安を抱きながら、BGMが流れずにただ吹雪の音だけが響く中、小さな祠の転送装置に乗る。
暗転後に立ち現れたのは、空に浮かぶ美しい島と、この幻想的な音楽だった。
正直、今まで色々ゲームをやってきた中で、一番感動したシーンだった。
ゲーム音楽ランキングでも度々上位にランキングされる人気曲で、どこかで耳にしたことのある方も多いだろう。
YouTubeには本曲をアレンジした作品も多数投稿されているが、非常にクオリティの高いものが多い。眠れぬ夜のお供にぜひ。
ペルソナ4「Your Affection」(目黒将司)2008年
音楽性の特殊さから、やはりペルソナ関連曲は外せない。
天候の概念が取り入れられた本作で、晴れの日に流れる楽曲。
ポップで爽やかながら、前奏や間奏で使われるエフェクトが、どこか不思議な空気を担保しており、怪異への助走としての機能も果たしている。
しかし、サビに差し掛かると、底抜けの爽やかさがこみ上げ、全体を通して崩れない軽快なビートも合わさって、高校生の放課後のキラキラした雰囲気を醸し出す。
実にテクい曲だ。
ゲームとしても、システムのバランスが良く(最新作のペルソナ5は戦闘面がやや冗長)、物語のダークさも控えめなので、ペルソナ入門としてオススメ。
天外魔境II 卍MARU「Lマップ(通常版)」(久石譲)1992年
「ん、オーケストラ版?」と思われた方もいるかもしれないが、上記音源はゲームにちゃんと収録されているものだ。
1992年当時、ゲームからこのクオリティの音楽が流れてきたら、そりゃたまげるだろう。
本作はPCエンジンで発売されたため、CD音源を採用。
作曲者は皆さんご存知、久石譲だ。
ジブリ作品で人気を集めていた彼を抜擢したこともそうだが、「天外魔境」シリーズはとにかくチャレンジ精神旺盛。
中世ファンタジーのイメージが強かったRPGで、和風をテーマにしたのも当時は画期的だったし、SFCで1995年に発売された「天外魔境ZERO」では、茶屋の女の子を攻略できるドリームクラブのようなシステムを導入したり、リアルタイム日時と連動させることにより、曜日イベントや時間帯指定イベントを作ったり、今思えば時代を先取りしていた。
今一つ知名度が上がらず、近年は続編も出ずに悲しいところだが、和風RPGシリーズの老舗として、ゲーム史に残るタイトルであろう。
ゼノブレイド「燐光の地ザトール / 夜」(清田愛未)2010年
Wiiで発売されたRPGの中では、ゼルダシリーズを除けば、間違いなく最も評価された作品が「ゼノブレイド」だ。
オープンワールド型のオンラインゲームっぽい要素を、JRPGに落とし込み、一般化させた功績は計り知れない。
「FF12」と「テイルズシリーズ」が奇跡のバランスで合体したかのような出来栄え。
フィールドマップの造形も秀逸で、これほど高低差を上手く活かしたオープンワールドマップは他に類を見ないし、各エリアの楽曲は昼夜でアレンジの違うものが用意され、クオリティが高い。
今回取り上げた「燐光の地ザトール」では、昼には沼地と枯れた木々の荒涼感を連想させるアレンジだが、夜になると枯れた木々が幻想的に光を放ち、美しいコーラスの本アレンジが流れる。
昼夜で全く違う顔を見せるマップを音楽で支えるという、役割面からも秀逸なBGMだ。
ワイルドアームズ アドヴァンスドサード「渡り鳥無頼」(なるけみちこ)2002年
SF風味のマカロニウェスタンRPGという、独特なジャンルを開拓し続けるワイルドアームズシリーズより第三作のフィールド曲をご紹介。
西部劇系のゲームと言えば、他には「Red Dead Redemption」くらいしか有名所がなく、まさにフロンティアだ。
ちなみに「渡り鳥」というのは、本シリーズにおいて、いわゆる冒険者たちの総称で重要なワード。
その名を冠した本曲は、まさにシリーズの顔と言っても過言でない出来栄えだ。
「世界観を体現する」というフィールド音楽の本領がいかんなく発揮されている。
なお、本作より馬に乗ってフィールド移動ができるようになったのだが、荒野を駆けながら聴くと臨場感抜群。まさにマカロニウェスタン。
ニーア ゲシュタルト/レプリカント「光ノ風吹ク丘」(岡部啓一)2010年
楽曲が極めて高く評価され、数々のコンピレーションアルバムも発売されるなど、音楽面から旋風を巻き起こした「ニーア ゲシュタルト/レプリカント」。
ちなみに、日本向けに発売されたPS3版が「レプリカント」、海外向けに発売されたXbox版が「ゲシュタルト」だ。
前者は兄と妹の物語、後者は父と娘の物語。
「ドラッグオンドラグーンシリーズ」やスマホゲーム「シノアリス」をディレクションした横尾太郎氏の作品だ。
本作も横尾節炸裂の、ダークでエゲつない物語となっているが、ゴシックでエモエモな楽曲に彩られて、荘厳ですらある。
僕はプレイする前に、音楽の良さにあてられてサントラを即買いしてしまった。本当に全曲素晴らしい。
ゲーム自体は少々癖があるので人を選ぶが、サントラだけでも購入の価値ありと主張したい。
イースVIII -Lacrimosa of DANA-「SUNSHINE COASTLINE」(宇仁菅孝宏)2016年
老舗ゲームメーカー・日本ファルコムのアクションRPG「イースシリーズ」の八作目より。
昭和のアニメ感漂う世界観と、熱い展開がウリの長年続くシリーズで(第一作は1987年)、根強いファンも多い。
本曲もエレキギターがゴリゴリで、熱く疾走感あふれエモさ抜群だが、初期マップで流れるところが作品の体を現している。
とにかく徹頭徹尾アツい作品なのだ。
ファンの年齢層高めであるからか、2ちゃんねるのゲーム音楽板で人気の企画「みんなで決めるゲーム音楽ベスト100」でも、高ランクに度々顔を出す。
一般的な知名度がそこまで高いとは思わないが、これを機に手を付けてみるのもアリ?
ファイナルファンタジーX「ビサイド島」(浜渦正志)2001年
通常戦闘曲編に続き、またしても登場の浜渦正志楽曲。
ゲーム音楽というジャンルを飛び越え、エレクトロニカとしてめちゃめちゃレベルが高く、個人的には無限に聴いていられる。
FFシリーズの中でも評価の高い10だが、PS2ハードになり、楽曲面の進化も著しい。
シンセサイザーとオーケストレーションだけでなく、音楽のジャンル的にも幅広くなったなという印象を当時は持った。
FF10で浜渦氏は他にも、評価の高い「雷平原」「ガガゼド山」や、何と言ってもラスボス戦曲を担当しており、サガフロ2などで見せていた彼らしいピアノの旋律を聴くことができる。
サントラとしても相当にレベルの高い作品だ。
アナザーエデン 時空を超える猫「海をなくした貝殻」(マリアム・アボンナサー)2017年
「クロノ・トリガー」の加藤正人がシナリオを担当し、未来を救うために時空を超えて旅をするという、同コンセプトのスマホRPG。
テーマ曲は光田康典が担当し、クロノを彷彿とさせるキャラやシーンも登場するなど、何とも懐かしい思いにさせてくれる作品だ。
作曲のマリアム・アボンナサーはロンドン生まれの音楽家で、「風のクロノア2」でゲーム音楽に興味を持ち、この世界に飛び込んだ人物。
最近、アニメやゲームの楽曲提供で、ちょくちょく外国の方のお名前を見るようになってきたが、随分とワールドワイドになってきたもんだ。
本曲も、思わず聞き惚れる透明感と、抜群のオーケストレーションで、シンプルながら音楽的な工夫が随所にみられる。
スマホゲームも随分とレベルが上がったなと痛感させられた。
もちろん「クロノ・トリガー」を越えたとは思わないし、ところどころテキストの甘さもあるが、物語全体を通しての大きな仕掛けは秀逸だし、無料ゲームでここまできちんとした作品をプレイできるのはありがたい。
二ノ国 漆黒の魔導士「フィールド」(久石譲)2010年
さてさて、あっという間に十曲目。
最後は何を紹介しようか悩んだが、やはり本曲は外せないだろうと、レベルファイブの渾身作「二ノ国」よりフィールド曲を紹介。
ゲーム音楽を作っているイメージはあまりないが、久石譲、今回二度目の登場だ。
「ドラクエ9」「イナズマイレブン」「レイトン教授シリーズ」と飛ぶ鳥を落とす勢いだったレベルファイブが、スタジオジブリと手を組み、予算をかけて制作したのが本作。
同梱の魔法指南書を見ながら、DSタッチペンで魔法陣を書くという、大変意欲的なシステムだった。
しかし、その面倒さが敬遠されたのか、売上は当初伸びず、大々的なプロモーションと裏腹な結果に。
しかししかし、リマスター版の販売や、続編制作、映画化など、長期的なてこ入れの効果もあったのか、じわじわと売れ続ける息の長いシリーズへと成長した。
我慢が実を結んだ、稀有なシリーズである。
本曲を聴いていただいても分かる通り、エモさで押し通すでなく、正統派のオーケストラをしっかりと紡ぎあげており、全体を通してとにかく丁寧な作品だ。
普段、ゲームをやらないという方にもお勧めしたい。
ということで、今回「フィールド曲」を特集してみた。
やはり各作品を代表する楽曲も多く、何を紹介するかけっこう悩んだ。
(あまり冗長になりすぎてもあれなので、十曲という枠内には収めたかったので)
アトリエシリーズやゼルダシリーズ、最近のスマホゲーム曲など、レベルの高い楽曲はいくらでもある。
今回は、ゲーム音楽好きには耳タコだろうが、一般の知名度はそこまででないだろうところから、なるべく広いジャンルをピックアップしたつもりだ。
さて、次回、ゲーム音楽特集するなら、ボス戦曲やテーマ曲でまとめるのもいいし、スマホゲーム特集も面白そうだ。
今後ものんびり記事を更新していきたい。
(筆者)キャンディ江口
キャンディプロジェクト主宰。作家、演出、俳優。
近年は「ブンガク×オンガク」をテーマに舞台作品を発表している。
映像出演時は「江口信」名義。(株)リスター所属
Twitter:@canpro88
HP:http://candyproject.sakura.ne.jp/