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15秒の出来事(15秒で読める小説)

甘酸っぱい息苦しさに顔を上げるとカーテンに蝉が留まっている。
「あ、蝉」
すると彼は嬉しそうな顔をして立ち上がり、
「ああ、これね」
そう言ってカーテンを閉めた。蝉は飛ばない。
「?」
「ブローチなんだよ」
青緑のカーテンをバックに影絵となった彼。それでも得意気な表情はちゃんと伝わってくる。へぇ、かわいいところがあるんだ。

緊張がほぐれた空中、無邪気な視線と視線がキスをした。その無防備な合図に驚いて戸外の蝉は息を飲み、二人の距離を保つ空気は一気に圧力を弱める。

肋骨の間、胃の辺りからバスドラムのような鼓動が響いてくる。耳の奥からはストリングスのような音が次第に大きくなる。ああ、振りきれる、振りきれる、もう少しで振り切れる…

その時、慌てた彼がカーテンを開いた。シャキッ! 眩しすぎる光が二人を分かつ。戸外の蝉は安堵してけたたましく鳴き始め、蒸し暑い空気は再び毛穴に入り込んでくる。

ゆらゆらと揺れるカーテン。留められた蝉は飛ばない。

(了)

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今年初のアブラゼミの声を聴きましたので♪ ちなみにトップの写真は、2年前に描いた絵を加工したものです。