ショートショート:『浮気調査』

男は探偵事務所を営んでる。
と言っても、映画や漫画のように殺人事件をズバッと解決するみたいな探偵ではなかった。
主な依頼は浮気調査だった。

だが、男の浮気調査はとても良く、依頼主からも評判が高かった。

ある日、事務所に若い女性が入ってきた。
「あの、浮気調査をお願いしたいんですけど。」
その若い女性は真希といい、薄気味悪い笑顔を浮かべて不気味な雰囲気を漂わせていた。

「浮気調査ですね、ありがとうございます。ちなみに、お相手の特徴などを教えてください。」
「そうですね、特にこれといった特徴はありませんが、旅行が好きな方なんです。神社を巡るのが好きなようです。かくいう私も神社で彼と出会ったんですけどね。」
どうやら真希は巫女さんらしかった。
不気味な雰囲気はあるものの、受け答えはしっかりしており、男は浮気調査の依頼を受けることにした。
「では、また１週間後に結果を伺いにきます。よろしくお願いします。」
そう言うと、真希は事務所を去って行った。

翌日から伺った資料を基に男は浮気調査を開始した。
調査相手はいたって普通の青年で見た目で言うと20代後半のような風貌だった。
真希が言うように、彼は旅行が好きであり、全国の神社を巡っている様子だった。
だが、これと言っておかしなところはなかった。
他の女性と会ってる気配もなく、ただ旅行を楽しんでるだけのように見えたのだ。
それが１週間ほど続き、真希に調査結果を報告する日になった。

「真希様、この度はご依頼していただきありがとうございました。調査の結果ですが、先日お伺いしたとおり、神社巡りが趣味ではありますが、浮気等はされておりませんでした。」

男は念の為、撮影していた彼の写真をテーブルに並べて真希に見せた。

真希は写真をじっくりと眺めた後
「調査ありがとうございます。そうでしたか、完璧な調査をありがとうございました。あとは、こちらでどうにかします。」

最後の言葉が気になったものの、男は真希から依頼料を貰った。
真希は「それでは」と言いながら、また薄気味悪い笑顔を浮かべて事務所から出て行った。

「変な客だったなぁ」と男は思った。

次の日、ニュース速報が流れた。
「全国の神社に落雷が当たると言う現象が起きています！鳥居が損壊しているところもあるそうですので、神社に参拝に向かう方はくれぐれもご注意ください」

そんな内容だった。該当の調べてみると男は驚いた。
そのどれもが、真希が調査依頼した彼が通っていた場所であったからだ。

ピンポーン
事務所のチャイムがなった。
扉を開けると、そこには真希がいた。

「いやー、スッキリしましたよ。あんな数の神様と浮気するなんて。そう思いませんか探偵さん？」

真希は満面の笑みでこちらを眺めていた。
まるで恵比寿様のような顔だった。