Quality of Survival とは
QOL(Quality of Life)は患者さんたちにもずいぶん浸透されたと思います。
昔は、がん患者さんは、病気によって、抗がん剤によって、苦しむものだというものが一般常識で、ゆえに、がんになったら
絶望
が待ってたわけです。
今は、QOL、つまり生活の質を重視したがん治療が当たり前となっています。
生活の質とは
がんによる症状(癌性症状)の緩和
抗がん剤による副作用の低減(制吐剤などの支持薬の開発)
日常生活の維持(抗がん剤をしながらの労働)
など、
がんだからといって、普通に生きる、生きることができることが
求められます。
ですので、QOLを重視した治療は当たり前で、
昭和っぽく、苦しんだ分だけ効果がある、は大きな間違いです。
楽して、良い結果を得る、これが一番ですね。
ただ、現実問題として、QOLを損なっている患者さんは多い。
緩和治療は、生存延長よりもQOL改善に大きくシフトした考え方になります。
その背景には、標準治療をやり切ったことでこれ以上生存延長が期待できない、
だからせめて、QOLを改善しようという考え方と、
もうだいぶ前ですが、抗がん剤治療をしながらちゃんと緩和治療をやった方が、普通に抗がん剤治療だけした患者さんよりも、長く生きた、という科学的根拠があるわでです。
緩和治療は終末期治療ではありません。
死ぬ直前の治療ではありません。
ただ、ここでやっぱり欲張りたいですね。
生存延長も、QOLも。
どっちも満足したい。
基本的には、今のがん診療は両者を満足させる結果を求めています。
かなり昔は、がんを小さくすることが全てでした。
でも、いくらがんが小さくなっても、命の長さは延長せず、むしろ治療の副作用で早く死んでしまうことも度々経験されました。
そこで、がん治療の目標が、小さくすることから、長く生きることにシフトしました。当然です。人間の最終目標は、永遠に生きることですから(笑)
現在でも多くの臨床試験の正義は、生存延長です。
これで勝った試験が第一選択となります。
そんな中で、さらに現在は、QOLも求められます。
QOLの改善が試験の目標になっている試験もあるのですよ。
生きる長さではなく、患者さんの生活の質がどれだけ改善するかを調査する試験
僕のところで実施している、がんカテーテル治療は、
欲張りな治療かもしれませんね。
初診の患者さんに第一に聞く僕の質問は、
今、あなたが困っていることを教えてください
です。
昨日もお二人、かなり遠いとこからも初診の患者さんが来られましたが
どうようにまず、生活しているうえで困っていることをお聞きしました。
お一人は、性器出血で悩まれていました。
がんの症状がある部分は、絶対ではないのですが、
命に直結する臓器のことが多いですね。
小さな肺転移が100個あっても死なない。
これはかなり極端な表現で、一部の肺転移は確かに命に直結しますが、
数mmの肺転移が50個あってもなんも症状のない患者さんなんて
いっぱいいらっしゃいます。
逆に、肝転移は、その存在が命に直結します。
転移がある方は、ほとんどが複数の臓器、リンパ節に転移がありますが、
その中で肝臓、胸膜、腹膜に転移があるかたは、
肝不全、癌性胸膜炎、癌性腹膜炎でお亡くなりになることが多いですね。
肝転移は、予後規定因子といって、間違いなく命に直結します。
肝臓は、人間のいろんな代謝に関係しています。
肝転移の増悪は肝機能を悪化させ、全身に悪い作用をもたらします。
当院では、肝転移に対しての治療実績がダントツに多いのですが
これは肝臓が予後因子であり、例え肺転移があろうが、リンパ節転移があろうが
標準的治療で肝転移が制御できなければ、肺転移が小さくなっても
肝不全死するからです。
一般的には、全部の病変が均一に小さくなればいい、最初は、各転移の遺伝子は比較的似通っているはずです。だからこそ、一番最初の薬物療法は、その時代で一番強力で、かつ遺伝子的に効果が期待できるものを、マックスで投与するべきです。できるだけ、体の全ての病気に強い効果を出すべきです。
やっかいなのは、がんは、縮小後に再燃した時に、遺伝子レベルで顔つきが変わる。さらに他の臓器に転移した際にも変化する。変化したら、以前に効いていた抗がん剤が効かなくなる、これが耐性化。
がんカテは、一度効きにくくなった病巣に対して、カテーテルをがんのすぐそばまで挿入し、抗がん剤を限界まで高濃度にして病巣を暴露させることで、一度効かないと判断された病気に対してもう一度効果をだす治療法です。またがんは、血液が栄養です。この栄養は動脈から供血されますので、この動脈血流を低下遮断することが塞栓術で、当院ではこれを100um程度の小さな粒子を用いて行なっています。ただし、この塞栓術だけでは再発がんは制御できません。絶対に。
基本は抗がん剤の高濃度動注、これに、状況を見ながら塞栓術を追加。
これが当院が実施している考え方であり、実際の治療体系です。
さらに、必要であれば、全身の抗がん剤治療や放射線治療も並行して行うこともあります。
さて、話が脱線しましたが、今回のタイトル、
Quality of Survival
これは、QOLの維持と予後の延長の両者が大切ですよ、という
よく考えれば当たり前の概念で、ASCOという海外の学会でもよく取り上げられるテーマです。
特に、10年前と比べてがん患者さんの余命は(膵癌など一部のがんを除いて)著しく延長しました。でも、いくら長くなっても、人間として楽しい人生を送りたいですね。
みなさんも、予後だけで頭がいっぱいになることなく
どうせならQOLも大切にしましょう。
肝転移は、倦怠感、食思不振、腫瘍熱、腹水など
多くの癌性症状をもたらします。
肝臓は沈黙の臓器で、これら症状が出てきたときは肝転移はかなり進行しています。
ただ、肝転移に動注しうまく反応すると、翌日にはこれら症状が軽快します。
当院では、抗がん剤を入れているのに、逆に元気に退院していく患者さんが多く、今ではもう当たり前の光景ですが、普通の癌治療しかしらない医療者にとっては違和感ありありでしょうね。
当科は、Quality of Survival を目標に
まず、どの臓器を治療したらこれが満足できるか
そこから相談を始めます。
皆さんは、申し訳ないが医療の素人です。
小さな肺転移1個に固執し、これを治療してくれと言われたこともありますが
その病気は、悪い言い方をすれば、天国に行くまであなたになにも影響しません。
そして、どの臓器を制御すればQuality of Survivalにつながるかは
全身治療しかしたことのない先生方では判断できないと思います。
実際に動注は、臓器単位のピンポイント治療です。
そして、どの臓器を、どのような病気を制御することが大切か
これは実際にどれくらい患者さんを大切に数多く治療してきたに依存します。
最近、経過の良い患者さんたちのグループ?がいて、
10回以上カテをしている常連さんたちが
カテの回数を競い合う変な会話が多くなりました(笑)
これはずばり、治療が成功していること、他に有効な治療が乏しいこと
これを意味しています。
この前も23回目のカテをした患者さんがいましたが、
狙った血管に瞬殺です、もうどうカテを入れたら入るか
僕の指先が覚えています。
あっという間に治療が終わりました。
がんもかなり小さく柔らかくなって、主治医として嬉しい限りです。
今日はこのくらいで。それではまた。
なお、昨日の初診のお二人の患者さん
久しぶりに僕のブログ活動をご存知ではありませんでした。
他の大学からの紹介でしたが、ここの治療もだいぶ認知されたなあと思いました。
当院は、日本で一番大きな医療グループの中の総合病院です。
当科の治療に興味のある方は、
病状が進行して治療適応を逸する前に
まずは一度ご相談にお越しください。
病診連携通じて初診外来、セカンドオピニオンの予約をおねがいします。
専門の事務担当者(女性)がいるので、電話で相談するとよろしいかと思いますよ。