腫瘍マーカーのもつ意味合い
腫瘍が再発したり、悪化したりすると、
腫瘍マーカーが上昇します。
これは治療方針の参考になりますし、皆さんも毎月測定されていると思います
(保険適応上、基本、月1回以上の測定はできません)
術後の再発を見つけるために、非常に有用です。
ただ、薬物治療の時には、マーカーの考え方は、総合的に行う必要があります。
効果判定の基準は、画像です。マーカーではありません。
がんは、顔つきを時々変えます。
変えたらどうなるか? 今まで素直に動いていたマーカーが
動かなくなることがありえます。
腫瘍マーカーは、簡単に言えば、がんが血液の中に作り出す成分のひとつ。
例えば腺癌ならCEA、とがんの種類、がんの原発の場所によって
上がりやすいマーカーが決まっていて、
僕らも皆さんのがんの種類に応じて測定するマーカーを決めますが
時に、がんが顔つきを変えると、今まで作っていたもの以外をつくることもありえます。
だから、臨床試験も治験も、基本的に効果判定にはマーカーは使いません。
効果判定の原則は、画像です。
大きくなったか、小さくなったか。消えたか、増えたか。
これが効果判定の全てです。
さて、がんのサイズや数は、このように効果判定に大切ですが、
じゃあ、がんの数が多ければそれだけ早く死んじゃうの?
大きければ早く死んじゃうの?
そう単純なことではありません。
上記のごとく、効果判定には画像をつかいますが、
がん治療の1番の目的は、長く生きることです。
がんが、小さくなっても、必ずしも長生きできるわけではありません。
抗がん剤によって体調を崩して、合併症をおこせば
がんが小さくなっても早く亡くなってしまうこともありえます。
だから、最終的な正義は、命の長さです。
さて、うちのがんカテセンターでは
がんの後半戦で皆さんに貢献していますが、
もちろん、一般的な腫瘍内科同様
定期的なマーカー測定、造影CTをしています。
ただね、マーカーの上下、がんのサイズだけみてたら、
命の長さに直結しません。
ここに、予後に直結する病気かどうか、
そして、ベースのあなたの体の健康度、
僕らはよく、全身状態、と言いますけど、
後半戦は、マーカーもがんの病勢と一致しないこともありますし、
そもそも全身にがんがあって、そしてこれが問題ですが
後半戦で著効する薬は基本的にはありません。
新しい薬が開発された!と喜ばれる気持ちはよくわかりますが
後半戦で承認された薬の効能は、
全く薬を飲まない人より、その薬を飲んだほうが
統計的に2−3ヶ月長くなる可能性がある
あくまで統計の話で、100人いたら、もっと短い人も、もっともっと長い人もいる。
簡単な話ではないんです。
うちは、後半戦をやり切って、結構ボロボロの方がこられるケースも多いんですが、さすがにもう緩和しかないと思う方は、がんカテでさらに余命を短くする可能性を説明し、治療を受けません。
逆に、がんの種類、場所、特にそれが肝臓などの予後に直結する臓器が主の多発状態であれば、肺転移など予後に直結しない病気を一時的に無視してでも
肝臓を救いにいきます。
目的は、単純です。
健康的な生存の延長
よく、何十回カテをしたと書いてますけど、
その前提は、カテをする前は他に有望な治療はなく
全身状態も悪く、
正直余命3ヶ月程度の方も多く含まれています。
そこから3−4週間隔のカテを2桁やったって、
それって、命の長さを引き延ばした、これが事実です。
さすがにいつまでも、何年も、がんカテを継続することはできず
いつかは、効かなくなったり、栄養動脈が潰れて、がんカテを修了しなければならない時がきます。
それでも、もう何もないと言われてから、治療を頑張ってきた時間
これは命の延長であって
さらにがんカテで元気になった
これはQOLの改善です。
そこから後に、運良く新しい治療が開発されて、そこに移行できればもっと良いのですが、それがなくても、立派に緩和治療に移行できたわけです。
全ての患者さんで成功しているわけではありません。
ただ、5年前、10年前と比べて、カテの回数が多い患者さんがかなり増えたのは、うちの治療が確立してきて、適応もはっきりしてきて
スタッフもよく育って、病棟の看護師もカテの前後をしっかりと看護してくださって。
こうやって、長いお付き合いになる患者さんが増えたのは
僕の経験、知識だけでなく、スタッフの成長と向上心のおかげでもあると思ってます。
うちのチームも何世代か変わってきました。
立ち上げの時は大変でしたが、看護師も技師もよくやってくれたと感謝してます。
途中経過の若い子らも、せっかく上達したのにやめなければならなくなりかわいそうでしたが、少なくとも技師として成長してもらえたと思ってます。
今の看護師、技師たちは、超バランス型で、抜けがなく、
本当に安定して、完全に僕の背中を預けています。
そして、今の彼ら彼女らの礎を作ってくれた
3月に退職された看護師さんには心の底から感謝しています。
ただ、まだまだ一緒に働きたかった。それだけ、このチームは、僕が中心ではなく、スタッフが僕を中心に持ち上げてくれる、最高のメンバーです。
マーカーと関係のない話も書きましたね。
僕は、自分の仲間を大切にします。
それは、カテ室でも、病棟でも、外来でもです。
それが自分の医師としてのスタイルです。
そして、彼ら彼女らを大切にする理由は、うちの病院、うちのカテを選んでくれた
患者さんたちへと、スタッフの気持ちと技術が向いているからです。
良い人材を育て、守る。
それがこの10年の自分のポリシーでした。
一度、全てをめちゃくちゃに壊されましたが、
その後も、壊されても誰一人、僕を見捨てず、今でもチームは維持されています。
僕の作ったチームです。
これが全ての結果です。