末期がん患者に対する全身療法は効果なし
センセーショナルなタイトルですね。
もうすぐカテの時間ですが、医療情報系サイトを見ていたら
海外の論文でこのようなものがクローズアップされていました。
この一文では多くの誤解があるので、簡単に解説。
ただ、これは僕が以前から書き続けていることと、全く同じことで、ようは
「効果のない抗がん剤治療を、後半戦で漫然とやってもだめ。
特に亡くなる1ヶ月以内に抗がん剤治療を投与していた医者は、それはがん治療に失敗したと思うべきである」
という僕の主張とほぼ同じです。
さて、この論文、まるまるコピペはダメなのでかいつまんで。
「JAMA Oncology」に5月16日掲載
末期がん患者に対する全身性抗がん療法(SACT)は、入院率や集中治療室の利用率の増加、ホスピスへの移行の遅れ、生活の質(QOL)の悪化、医療費の増加と関連することが示されている。
死亡前14日以内に末期がん患者に実施されたSACTと患者の全生存期間(OS)との関連を検討
米国でステージIVのがん(乳がん、大腸がん、非小細胞肺がん、膵臓がん、腎細胞がん、尿路上皮がん)の治療を受けた18歳以上の成人患者7万8,446人が対象
結論としては、亡くなるぎりぎりまで抗がん剤治療をしても、生存延長は期待できない。むしろ、抗がん剤の副作用など問題点が多い
「われわれは、末期がん患者に対する腫瘍学的治療が生存率の改善と関連しているのか、あるいは治療継続は無駄であり、緩和ケアや支持療法に重点を移すべき時期があるのかを調べたかった。死期が近い末期がん患者の約17%が、本研究で無駄な可能性が示唆された治療を今も受けている」と述べている。
とのことです。
終末期患者への積極的がん治療を一概に無駄というのは言い過ぎだと思います。
ただ、有効性がどの程度のものなのか、例え保険が通っていても、後半戦のがん治療で期待できる延命は数ヶ月、癌腫によっては1ヶ月程度で、もれなく副作用が出現し、通院の時間で大切な残りの時間を奪われます。
僕のところの患者さんたちは、後半戦の初めの頃がちょうどよいタイミングのことが多いのですが、中には本当にあと1〜2週間しかもたない、と感じる患者さんが車椅子で来られることがあります。このようなケースは、いくらカテが身体に負担が少なくてもしない場合がほとんどです。
うちの特徴としては、カテだけするのではなく、やはり後半戦の患者さんは癌性症状含め、全身的に、崩れています。これを内科的にサポートしつつ、見えている全てのがん病巣を対象とするのではなく、その方の目的を満たすよう、例えばがんの症状をとりたければその症状の原因病巣を、少しでも延命したければ、命に直結する部分に、集中的な抗がん剤治療として実施しています。
ですので、死ぬ直前まで漫然と保険で認可されている抗がん剤を投与する方向性には反対で、全身状態を良くするために、延命するためにカテを、重要臓器に実施し、その結果、延命することでその後新しく認可された治療や、以前の体調では不可能だった全身治療に戻ることができる場合も多く経験しています。
「医師は、追加治療がいつ無駄になるのかを見極め、終末期近くのケアの目標について患者と話し合うことで、患者により良いサポートを提供することができる」と結論付けている。
この論文ではこうまとめていますが、僕も結構、患者さんとは将来の緩和について話を早めからしていますし、実際にカテをしてる患者さんも、緩和科の先生に相談して麻薬を早期導入したりしています。
何かしていないと不安だから。
気持ちはわかります。だけど、この考え方が、後半戦では良くないのです。
目的をもって、後半戦しましょう。
当科では、初診の時から必ず、目的の設定、将来展望についてお話しさせていただいています。
さて、カテしてきます。