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靴作りを学ぶと決めたら
私に人生を取り戻させてくれた、手作りのパンプス。
ぴったりだったのは、単に手作りだったからではない。お金と時間をかけたからでもない。
教えてくれた先生と、靴の「木型」の設計がよかったから。(無論、木型がよくても靴そのものの作りがよくないと、いい靴にはならないけれど)
足の採寸値をそのまま追って作るのでもない。足のどこに注目しているのか、歩き方の癖の影響は、など、いろいろ教えてくれた。
靴職人としても、大人の女性としても、尊敬する人だった。
教室に通っているとき、私が
「靴作りを学びに、上京しようかなって思ったりして…」
ともごもご呟いたら、
「あなたはちゃんと、学校で勉強したほうがいい」
と優しく背中を押してくれた。
そして、西の田舎から、東京の靴学校に行くと決めた。
募集が始まったその日に願書を送ったからか、返送されてきた受験票の番号は「1」だった。
学力試験があり、落ちる可能性だってあったのだけど。合否が出てから家を探しても遅いので、受験の前に引っ越し先は決めた。夫は東京の会社に転職を決めた。
泣きながら勉強した。この試験に落ちるということは、私の人生も夫の人生も振り回すことになるから。
受験前日に、一人で東京に来てホテルに泊まった。
会場の先頭の席で受験した。
面接では、夢も目標も計画も洗いざらい話した。何を隠すことも取り繕うこともできない。もう引っ越す家も決めたし、夫も転職先が決まってるんだ。試験官の先生は二人、顔を見合わせていた。
そのときも、黒いパンプスは一緒だった。
無事に合格の連絡がきたので、靴教室の先生とは泣いてお別れした。会えてよかった、背中を押してくれてありがとう、尊敬している、という趣旨のことを、たくさんの便せんにしたためて渡した。
発つ日、母と食事をしてから新幹線に乗った。もう涙は出なかった。
徒然なるままに書きすぎて無茶苦茶!
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