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自分の足を測って靴を作ったら

小さいサイズの靴が売ってないわけではなかった。でも、21㎝と表示されている靴を履いてもかかとは脱げるし、あしのゆびは痛かった。こんな靴で歩けるわけがないと思った。

「ハイヒールは痛くて当然でしょ!」
「おしゃれは我慢でしょ!」
「パンプスはそもそも歩く用の靴じゃない!」
「足を壊すような靴をわざわざ履くな!」

よく聞く言葉。いや、わかるけど。
そういう次元じゃない、ちょっと合わないとかじゃない。


ゆびが詰まらないサイズで選ぼうとすれば、かかとに指1本分のスキマができて、パカパカのズルズル。かかとが脱げないサイズを履こうとすれば、ゆびはギチギチで拷問具。

ヒールが高いから痛いとか、前に滑ってるとか、先が細いから痛いとかそんな話じゃない。
こちとらラウンドトウのぺたんこバレエシューズで2回死にかけている(道路で脱げて轢かれかけた)。

「ゆびが少し楽になって、かかとの指1本分の隙間を縮めて作ってくれるだけでいいのに!」

靴作りを学ぶ前のド素人のときは、こんな風に思っていた。でもどうやって縮めるんだ?
そして、靴作りを学んで序盤に気づいたことは

「木型か!」

靴を作るベースになる木型。足を一部模して、足より細く、つまさきを長く作る。
木型の形で、靴と足の運命はあらかた決まる。(※木型がよくても作りが悪いといい靴になるのは難しい)

靴作りビギナー(入学2日目)の私は、

「この木型の、かかとのほうが指1本分縮まれば?かかとが脱げないパンプスになるんじゃないの?よっしゃ私がやるのは木型作りにこだわった靴作り!」

今振り返ると、一部しか見えてない発想なのだが、とりあえずやった。

足を採寸して、数値に合わせて丁寧に木型を作った。
それを使って、完全オリジナルパンプスを作った。3か月くらいかかった。お金もまあまあかかった。

合わない

かかとが指2本分余る。何度木型の寸法を測っても、私の足の採寸結果と違わない。いわゆる「幅」と呼ばれる部分は実寸から15㎜ほど細く作っているが、それどころじゃない。一歩も歩けない。階段の上り下りなんて無理。

でもこの、ゆび周りはキツいのに、果てしなくかかとが脱げる感覚。
今までと同じ。
もしかして…市販の靴って…

新たな出会い

なんでこんなに合わないんだ…と考えていたら靴学校は卒業してしまったが、同期が銀座の靴職人さんを紹介してくれた。靴の量産も経験されていて、イタリアで修業を積み、木型から作るフルオーダー靴作りを長くされている方。

お話を聞かせてもらったら、5分で木型の疑問が確信に変わった。あんなに悶々と考え込んでいたし、他の人には「そんなバカなことある?」とさえ言われた私の疑いは、5分で。

「やっぱそうですよね!?」

市販の靴は、ゆびが窮屈。特に婦人靴は、足の前半分が小さく見えた方がいいという考えが根強い。そして土踏まずが長く、かかとが脱げる。

ただでさえ、そういうふうに作っているのだった。そこに足の特徴も合わさると、私はパンプスがとっても脱げやすい条件が揃っていた。私の足がたとえ23㎝(婦人靴のサンプルサイズ)だったとしても、悩みは絶えなかっただろう。

足の負担を減らす木型作りにはもっといろいろな要素がある。銀座の職人さんはそれも惜しみなく教えてくれた。同時に、膝から崩れ落ちそうだった。
私が、多くの人が悩んでいた靴の問題は、こんな初歩的なところから始まっていたのか。

そして思い出すのは、靴教室のときのこと。初めてのパンプスを作った時の先生は、足の変化を木型のどこに反映させるのか、そのポイントがよかった。だからあのパンプスは、私のお守りになってくれたのだ。

いい木型にしよう

そういうことで、
私の靴ブランドは、このモヤモヤをできるだけ解消するように木型を設計しようと決めた。
靴を作るだけでも果てしないんだから、いい木型で作りたい。

しっかりと靴木型沼にハマったのであった。


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