木の取説(1)
< 木には表と裏があります >
ここでいう「木」とは山に生えている樹木のことではなく、その樹木を伐採して製材した木材、建築その他の材料にするための
材木のことを呼びます。
ですから山に生えている木には表も裏もありません。
強いて言うならば、「表だけ」ということになります。
一番手前の原木を、
黒線の図形のような、縦長の平たい材木に製材するとします。
黄色矢印の切り口から見てみると、下の写真のようになります。
黒線状に材木を製材すると、青色矢印側の材面は「木の外側」、黄色矢印側の材面は「木の内側」に、別れることがお判りでしょうか?
この「木の外側」の材面のことを 木表(きおもて)
「木の内側」の材面のことを 木裏(きうら) と、呼びます。
木の表と裏とは、
材木として使用する木の材面が、地面から生えている木の外側(樹皮側)か、内側(木の芯側)かを区別する為の呼称なのです。
< なぜ表と裏を使い分けるの? >
建築の世界では呼称を変えて、「木」の状態を使い分けています。
・地面から生えている木を伐採し、枝葉を取り去った状態を「 原木 」(げんぼく)
・「原木」を必要な大きさに製材したものを「材木」または「木材」あるいは「用材」
・地面から生えて、枝葉の付いている普通に立っている状態の「木」を 「立木」(たちぎ)
と、呼んでいます。
上の写真は、その「立木」の写真です。
これらの写真や、身近な「木」で思い出してみて下さい。
風が吹いたり、生長するとき以外の「木」は静止しています。
地球の重力やなにやらに逆らって静止できているということは、
その体型で「バランスが保たれている」ということです。
↓
その「バランスが保たれている」「立木」を伐採し、根っこと切り離し
材木にするために枝葉を取り去り製材することで
「木」の体型の「バランスが崩れる」ことになります。
↓
材木にすると、「木の体型のバランスが崩れた」状態になるので必然的に、材木の体型には「ゆがみ」が生じてきます。
↓
それと同時に、伐採時に根っこから切り離しているので
材木の体内に水分を補給することができません。
伐採した時から「木」は周りの湿度と同じになるまで、乾燥し始めます。
↓
この乾燥段階で生じる材木の「ゆがみ」のことを建築の世界では
「木の狂い」(くるい)と呼びます。
< 「木の狂い」方には法則があります >
「木の狂い」の一つに、「反り」(そり)があります。
文字通り材木が反ることです。「反り」はどんな材木にも生じる狂いです。
この「反り」方には、法則があります。
「木表側に反る」という法則です。
< 木の使い方 >
実際の仕事では、材木を周りの湿度と同じになるまで乾燥させて、「狂い」を出し切ってから、「狂い」を修正して必要な大きさに加工して建築部材として使用します。
この「狂い」の修正と必要な大きさに加工する作業のことを、
「木拵え」(きごしらえ)あるいは単に加工と呼びます。
しかし、乾燥させて「狂い」を出し切った材木を使って建てた建築物といえども、湿度や気温に影響されてわずかに延び縮みしています。
雨の日には「木」に水分が吸収されて膨らみ、カラッと晴れた日には水分が放出されて「木」は縮みます。
なので、上に「狂いを出し切ってから使用する」と書きましたが、実際には建物になった後にも「体型のバランスが崩れた木」は動こうとします。
これが、「木は生きている」ということなのです。
お年を召された方は覚えがあると思いますが、昔の木造家屋で寝ていると、夜中に「ギシギシ」と足音のような気味の悪い、木のきしむ音を聴いたことがあると思います。
私もこの音で、お化けか妖怪が出たと思い、怖くなって布団を頭からかぶって寝たことが何度もあります。
これは湿気や気温に影響されて木が動く音なんです。
大工という職種の人たちはそのことを良く知っています。
「宮大工」となると建物が大きくなるので、一つの部材の影響は一般住宅よりも大ききなるので、木の使い方に一方ならぬ神経を使います。
「木表」や「木裏」を外部に向けるのか、内部に向けるのか?
あるいは上に向けるのか、下に向けるのか?
だから、木の表と裏は重要になってくるのです。
このことを「木取り」(きどり)と呼びます。 (「木取り」という呼称は、広義に使用するため、この作業だけの呼称ではありません。)
この「木取り」という作業は、後々の建物に影響するため重要な作業になります。
つまり、建物を長持ちさせるために重要な作業といううことです。
この作業は建築工事を統括する「棟梁」や「親方」と呼ばれる職人の技量によるところが大きくなります。
その建物を建てた「棟梁」や「親方」の技量は、100年後の建物が証明してくれます。
そういう長いスパンで建築を見れる人が、「棟梁」や「親方」に相応しいのです。
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