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カナダに住んで考えた、ラウンドアップ問題のこと

先日、ラウンドアップ(グリホサート)除草剤についての記事を書きました。

私はカナダの農村部に住んでおりますので、平均よりも高いレベルの残留農薬を体に取り込んでいるかもしれません。

農村部といっても都心まで40キロくらい。いわゆるベッドタウンの外縁を過ぎたところ、公共交通機関が通ってなくて、ウーバーイーツとか圏外なレベルの田舎。少々不便でも土地が広い一軒家に住みたい勤め人家庭が、お百姓さんたちと共存しているような地域です。

引っ越してきた当初、「都会から引っ越してきた皆さんへ:農家の人たちをリスペクトしましょう」というパンフレットを役場で見かけて驚きました。こんなパンフを作る必要に迫られる何かがあったんでしょうか?

ラウンドアップ除草剤についての賛否両論を読んでいて、以前ご近所の方から聞いた噂話を思い出しました。

この地域のある農家で、なぜか犬が長生きしない家があった。何度か犬を飼ったけど、すぐに死んでしまう。生活水は井戸水を使っていて、ある日、お風呂に入っていた子供が大声で泣き出だした。何事かと思ったら、子の身体中にものすごい湿疹ができていた。その家は、雨が降ると地形的に耕作地から大量の農薬が流れ込む場所に建っていたらしい。

うちも井戸水を使っているので、この話を聞いてすぐに水質検査しましたとも。このホラーな出来事は、噂話として存在しているだけで、ニュースにはなっていませんでした。都市伝説ならぬ農村伝説だったのかもしれませんが、住民の間では本当にあった怖い話として語られていました。

なぜ、そんな怖い話がニュースにならないのか。「農家の人たちをリスペクトしましょう」のパンフといい、もしかしたら農業にかかわるネガティブなことは伏せるという暗黙の掟でもあるのか?と疑ってしまいました。

ラウンドアップの安全性を力説している偉い先生の言い分を読んで、けして「大企業の利益」を優先しているわけではないことは理解しました。スーパーに行けば、いつでも都市人口のお腹を満たすに十分な食料品がストックしてある。そんな「あたりまえ」を支える上で、農薬も遺伝子組み換え作物も不可欠なのである、と。

だからといって、ラウンドアップのようなケミカルが「安全」だと宣伝するのはどうなのか?「規定量を守れば実害はない」というサイエンスはわかりますが、「犬が長生きしない家」の話は、たとえデマだったと仮定しても、「土や水や空気の循環を考慮した安全性は確立されていないのでは?」という合理的な疑問を提起するものです。

ニューヨーク・タイムズ記事のコメント欄では、がんになった人が医者に「農家で育ちましたか?」と聞かれる話がでてきます。医師らはエンピリカルな知識として農村にがんが多いことを知っていて、サイエンスを知らない一般の人たちも、なにか怖いことが起こり始めている、と肌で感じるようになり、ラウンドアップ反対運動が始まった。日本のラウンドアップ広報では、こうした動きを「間違った情報」に基づくものとしてバッサリ切り捨てています。

実際、ラウンドアップは他の農薬に比べて安全性が高い夢のような薬なのでしょう。しかし、便利だからと使い過ぎてしっぺ返しをくらう、という人類が何度もやってきた失敗を繰り返さないためには、安全性を強調するだけでは不十分です。

食糧保障に関するパニックを起こしてはならない、という立場はまっとうなものだと思いますが、それが環境と健康への悪影響に目を瞑る立場になってはならない。ではどうしたらよいか?メーカーは「安全です」を繰り返すよりも、人体と環境への影響を継続的に研究していきます、という姿勢を見せるのが得策かと。

「農家の人たちをリスペクトしましょう」に込められたメッセージは何だったのか、考えてしまいます。穿った見方をすれば、農業を知らない人間が農業に口を出すな、なのかもしれません。しかし「犬が長生きしない家」の話がもし本当ならば、そこに口出しをしないのは「リスペクト」とは違うと思います。農村にがんが多いという言説を「科学的に根拠がない」と否定するのも、農家の人たちをリスペクトすることにはならないでしょう。

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