自分をぶっ壊せ!|赤丸天の「My Canada」
カナダのトロントにあるアートカレッジOCA(現在OCAD University)に通ったことが人生を360度変えてくれた。日本の美大を卒業してデザイナーとしてアルバイトしていたが、正式な就職はせず、海外で生活することを夢見てそのステップとして入った学校だった。
当時27歳。まわりの生徒は18歳前後だが16歳の若い生徒もいて、今までに素描をしたこともない人達がほとんどだったので、自分の作品が模範作品として褒められても格別自慢する気持ちにもなれなかった。
一方で、当然ながらトップの成績を残せると思っていたところ、最初の年の成績はほとんどのクラスがBでAは一つもない!!
「なぜなんだ!」
「カナダの学校は全く見る目がない?」
「意図的に差別されているのではないか?」
不満をぶつけたい気持ちで毎日を続けていたが、一年の終わりに学校で行われるオープンハウスで、一瞬にしてBしか取れなかった理由がわかった。
オープンハウスでは、全員の生徒の作品が廊下の壁に張り出される。
自分の作品がある位置は予め知っていたので、そこを目指して歩いていったのだが自分の作品が目に飛び込んでこない。代わりに、自分の作品のとなりにある幼い作品が目立っていた。
納得がいかない気持ちで、よくよく両方の作品を比べてみて、ようやくわかったのだ。
自分の作品は技術的には勝っているが、技術を誇示することに留まり、まとまりすぎている。一方、となりの作品は技術的には劣っていてもエネルギーに満ち、何よりも息吹が感じられて魅力的だ。
「この学校は、完成度が高い作品を評価する学校ではなく、可能性を模索する態度を評価する学校なのだ」
そして学校とは、
「自分の枠を超えてチャレンジする人を育成するのがあるべき姿なのではないか?」
それからのOCSでの2年間は自分の枠を壊すことに熱中した。
壊そうとしても壊せない自分に限界を感じながらも、今まで知らなかった価値観の存在を感じ出したことが勇気になった。
専攻だったグラフィックデザインを離れ、機能を目的としない実験アートに没頭するうちに、単一文化のなかで受けてきた教育の枠が少しづつ崩れ、雲が晴れるように世界が見えてきた。
「枠にはめる教育」と、「枠を壊す教育」
OCAに行ったことでカナダにはまり、カナダから教えてもらったことが自分をプッシュする動機になった。そしてそれが小さな会社を自分で始めることにつながった。
その動機は今も続いている。
著者:Ten Akamaru(赤丸天)
1970年代にカナダはトロントの現OCAD Universityに留学し、1980年代にカナダで起業。その後カナダ市民権を取得しバンクーバーに生活拠点を置く赤丸が、枠にとらわれずに現在と過去の出来事や日常を綴るコラム。カナダと日本の比較、カナダの特色および文化、社会や考え方など、長年暮らす❝My Canada❞を描写します。